第107話_2週間をのりこえる
デートが終わり、俺は葵のことを家まで送った。
葵の家の周辺は、大きな屋敷が建ち並ぶ高級住宅街だった。
シンと静まり返り、車の音さえ聞こえない。
細かい彫刻のほどこされた桜沢家の門の前で葵と向き合う。
「今日は楽しかった。光一、あたしは達治に会えて嬉しかったよ。
別人だけど、それでもこの世界の達治が幸せそうなのが分かって嬉しいんだ」
「よかった。葵が嬉しいと俺も嬉しい」
葵の手を離したくなかった。
ずっと一緒にいたかった。
「葵!毎晩、電話するから!」
「あっ、そうだ。研修中は電話ができない」
「はぁっ!?えっ?なに?どういうこと」
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「仕方がないだろう。研修会は山奥で行われるんだ。
ケータイの電波が届かない場所なんだよ」
葵が言う。
「そう言う話はもっと早めに言って欲しかった!
俺がいま、電話のこと言わなかったら音信不通になるとこじゃないか」
「ごめん、忘れてた」
葵があやまる。
「じゃあ、2週間も葵と会えないうえに声も聞けないのか。
俺は頭がおかしくなる」
「2週間なんてあっという間だ。
帰ってきたら、山口先輩や豆次郎くんも誘って、軽井沢の別荘に行こう?」
「......えっ?ほんとに?ほんとに?」
俺は葵の目をじっとみた。
「約束だよ。楽しみにしてるから」
俺から離れようとする葵の手をひっぱると、自分の方にひきよせた。
葵をぎゅっとだきしめる。
「待ってるから」
「光一、おおげさだよ。たった2週間なのに」
「だって」
葵は背伸びして俺の頭をワシャワシャとなでると俺から離れ、屋敷に入っていった。
葵と旅行だ!
豆次郎と優香も来るっていうのは余計だけど。
旅行ということは、朝から晩まで、晩から朝まで、葵と一緒に過ごせる。
自然と顔がニヤニヤしてしまう。
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「檜山礼子から電話があったんだよ」
葵が研修会に旅立った翌日のことだった。
檜山礼子は葵の留守を狙ったように、俺に電話してきた。
「話がある。今日の午後、ジムに行くから待ってて」
彼女はそう言うと電話を切った。
「......はぁ......それで、なんで俺に電話を?」
寝ていたんだろうか。
豆治郎の寝ぼけ声がスマホ越しに聞こえた。
「だって、葵も優香もいないし電話も通じない。
豆次郎に相談しようって思ったんだよ」
「うーん。俺にどうしろと?」
豆次郎は少し迷惑そうだ。
「今からジムに来て欲しい。
檜山礼子の話を一緒に聞いてほしいんだよ。
豆治郎がいてくれたほうが安心する」
豆次郎にそう頼んだ。
俺一人だと、判断をミスって刑務所に送られるようなことになったら困るからだ。
「ふー」
豆治郎がスマホのむこうでため息を付く。
「なんだよ。豆次郎だって、優香が留守で寂しいだろ?
ヒマだろ?なら、ジムへ来いよ」
「わかったよ。行くって」
豆次郎はようやくOKしてくれた。




