第105話_【葵】光一の考え
「葵、怒ってる?
これからはポータルを開いたら、すぐに別の部屋に引っ込むことにする。
俺がバカだった。ごめん」
「......」
あたしは黙り込んだ。
駅で光一をナンパしていた二人組の女は、スタイルも良くって可愛かったな。
あたしはガサツだし、可愛くもない。
そのうえ、光一にこんなふうに意地悪をしてる。
彼は蛭間透子に利用されているだけなのに。
蛭間透子は、欲求不満の女たちに光一を見せて、女たちを喜ばせているんだろう。
イケメンの光一が出迎えれば、女たちは大喜びする。
女たちが喜べば、蛭間透子の商売は、うまくいく。
「ポータル管理者は、通過者の顔をしっかりみなければならない」
そんなウソを言って、光一をダマして利用するなんて。
......蛭間透子は、結構ひどい女じゃないか。
あたしは隣で歩いている光一の顔を見上げた。
彼は暗い顔をして、うつむいている。
言い過ぎた......あたしのほうが悪かった......ごめんね、光一。
彼にそう言えば良いのに。
言葉にできなかった。
素直になれない......。
本当は好きでたまらないのに。
素直になるのが何故かものすごく怖かった。
しばらく無言で山道を歩く。
駅前の商店がある賑やかな通りから外れ、だんだん周囲は山深くなっていった。
「どこへ向かってるの?」
光一に聞く。
「葵を喜ばせたいと思ってる」
光一はそればっかり言って、目的を明かそうとしない。
「この辺なんだけど」
車が行き交うことが出来ないような細い道の両側には畑があり、わずかに民家もみえる。
「あっ。あの公園......。子どもたちが遊んでる」
光一はまたあたしの手を引っ張った。
小さなブランコが2つと、グラウンドのような広場があるだけの公園だった。
田舎だから、広い面積が取れるのだろう。
ここなら思い切りサッカーや野球ができそうな広さだった。
実際、子どもたちがサッカーをして遊んでいる。
「田舎の子どもはいいよね。
都会だと、公園に球技禁止......なんて書いてあるもんな」
光一が目を細めて子どもたちの様子を見る。
「葵、ブランコ乗ろう?」
「えっ、ブランコ?」
二人で並んでブランコに座る。
久しぶりにのったブランコは、ふわふわしていて不思議な感覚がした。
「もう日が暮れるね」
「電車の本数少ないし......そろそろ駅に向かったほうが良いかな」
光一が腕時計を見る。
そのときだった。
「おーい!!達治!!おそいじゃねーか」
サッカーをしていた子どもの一人が、そう叫んだのだ。
(達治?)
あたしはパッと顔を上げた。
「ごめん!宿題終わんなくってさ」
達治と呼ばれた子どもは、サッカーをしている子どもたちの輪に加わった。
あたしは思わずブランコから立ち上がった。
「達治......この世界の達治だ」
「よかった。やっぱりこの辺に住んでたんだ。
般若が言ってたんだ。別の世界線でもだいたい同じ場所に住んでることが多いって。
だけど確証がなくって、不安だったんだ」
光一もブランコから立ち上がると、あたしの方を見てニッコリと笑った。
達治は元気にサッカーボールを追いかけている。
友だちと楽しそうにはしゃいでいた。
達治。
この世界線の達治は元気で、幸せそうだった。
その笑顔を見るとあたしの胸は一杯になった。
きっと氷河期の世界の達治だって元気にしてる。
あの子は強い子だもの。
「光一......達治に会わせたくてここにつれてきてくれたの?」
「勝手なことしてごめん。だけど葵は達治にすごく会いたがってたから。
氷河期の世界に飛ばされた葵の話を聞いて、場所を調べたんだ。
あの世界の達治とは別人だけど......それでも会わせたかった」
光一があたしの顔をじっと見る。
あたしのために、あたしのよろこぶ顔が見たくて。
「光一」
あたしは思わず光一に抱きついた。
「あたしのために考えてくれたんだね。ありがとう」
「葵......」
光一がぎゅっとあたしを抱きしめた。
「ポータルのバイトのこと。悪かったって思ってる。
だけど葵以外の女に触られるの......俺は嫌だよ。
嫌に決まってる。触ってほしいのは葵だけだ」
光一があたしの耳元でささやいた。
「光一。ごめんなさい......。あたし、言い過ぎた」
彼の顔を見上げる。
そのとき、ふと視線を感じた。
子どもたちが、あたしと光一のほうをじっと見ていた。
あたしは恥ずかしくなって光一からパッと離れた。
「葵、帰ろう!駅前の足湯にもう一回挑戦したい」
「今度こそ、はいれると良いな」
達治の姿をみたくて、もう一度ふりかえる。
明るい笑顔で、彼はボールを追いかけていた。
この世界の達治は、十分に食べものを食べて明るい太陽の下、思い切り遊んでる。
ここは本当に恵まれている世界なんだ。
この世界を守らないといけない......。なにがあっても。
あたしは光一の手をぎゅっと握った。




