第104話_【葵】意地悪
「ここで降りるよ」
光一に手を引っ張られて、見知らぬ駅で降りた。
「三崎町駅......?はじめてきた」
三崎町。
どこかで聞いたことがあるような気がしたけど、あたしは思い出せなかった。
温泉が湧き出る街らしく、駅前には無料の足湯が設置されていた。
「葵!」
光一が目をキラキラさせて足湯を指さしている。
「分かってる。足湯に入りたいんだな?」
光一が散歩中の犬みたいに、あたしの手をグイグイと引っ張った。
「そんなに急がなくても足湯は逃げないぞ」
木の板の上に座布団が敷かれ、足元に湯が張られている。
50円でタオルも売られていた。
光一はズボンを膝までまくりあげて、さっそくお湯に足をつけようとしている。
「あっっつ!!あっちぃ!!!」
「えっ!?そんなに熱いの?」
湯の熱さに飛び上がる光一を横目に、おそるおそる足をつけた。
「ちょうどいいじゃないか」
足の疲れがほぐされていくようで気持ちいい。
駅前なのに、まったく騒がしさはない。
遠くで鳥の鳴き声が聞こえた。
「嘘だ。熱いよ」
見ると光一はまだ、親指の先までしか、湯につかれていなかった。
「光一は、銭湯の湯にぜったいつかれないと思うよ?
都内の銭湯は、温度が高いところが多い」
「あぁ~。たしかに。何度か行ったことあるんだけど、熱くて入れなくって。
湯船の周りをウロウロ歩き回っていたら、おじいさんに笑われた」
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50円で買ったタオルで足を拭くと、駅前のメイン通りを歩く。
土産物を売る店がいくつかあった。
「観光地なんだな」
「いい雰囲気だよね。あっ!温泉まんじゅう......買おうかな」
温泉まんじゅうのバラ売りを一個ずつ買った。
二人で食べながら歩く。
光一はスマホの地図を見ている。
釣り堀の場所でも探してるんだろうか。
「こっちだよ」
と言って、あたしの手を引っ張る。
「アルバイトは忙しいの?」
「忙しいよ。大学の授業の無いうちに、できるだけ稼ぎたいし。
蛭間さんのポータルのアルバイトもしてる」
「蛭間透子のバイトか......。
あの欲求不満の女たちが定期的にこの世界にやってきてるんだな」
「来てるよ。見ていてちょっと可哀想になるときもある。
ほんとに欲求が抑えられない感じみたいなんだよなぁ」
「見ていて可哀想になる?光一は、ポータルの開け閉めをしてるだけじゃないの?」
あたしは驚いて光一の顔を見上げだ。
「うん。開いたり閉じたりするアルバイトだよ?
だけど、開いたあと女たちがポータルを通過するから......」
「ポータルを開いたら、すぐに光一は別の部屋に引っ込んでればいいじゃないか!」
あたしは、ちょっとイラッとしてしまった。
「光一は、ポータルを開いたあともその場にいて、通過してきた裸の女たちを毎回、眺めてるの?」
「えっ。だって、蛭間さんが、ポータル管理者は通過者の顔をしっかりみなければならないって言うから」
「バカな。そんな決まりはない。おかしいよ!そんなの」
ますますイライラしてきて、あたしはそっぽを向いた。
「葵。......怒ってるの?」
光一が低い声であたしに聞く。
「だって、光一はおかしいよ。裸の女たちは欲求不満だ。
光一にベタベタと触ってるんじゃないのか?
光一はもしかしてそれが嬉しいの?」
「そんなこと......。葵、そんなの誤解だよ?」
「毎回、ベタベタと触られてるのか?」
あたしは震える声で光一に聞いた。
「触られてる......。だけどそれが仕事だと思ってた」
「そんなのおかしいって普通は分かるよ!」
「......」
「なんだかんだ言って、ちやほやされるのが嬉しいんじゃないのか?」
「そんなこと無い」
あたしは光一に対して、どんどん、意地悪になる自分に気づいた。
光一は下を向いていた。




