第103話_【葵】不安になる
待ち合わせの駅に着く。
(あっ、光一だ!)
光一は改札前の太い柱に寄りかかって、ぼんやりしてる。
あたしが誕生日のプレゼントに渡した水色のシャツを着ていた。
(やっぱり似合う。光一に似合うんじゃないかなって思ったんだ)
あたしは彼のほうへと駆け寄ろうとした。
すると、あいつのほうに二人組の女が近寄るのが見えた。
光一と、その二人組の女はなにか話してる。
(誰なんだ......?)
光一が首を横に振ってる。
ふと、光一の視線があたしの方に向く。
「葵!」
はじけるような笑顔をあたしに向けて、光一は、大きく手を振った。
二人組の女は、あたしの顔をちらっと見たあと、光一のそばから立ち去っていった。
「待たせた?」
「ううん。俺が早く来すぎた」
光一はそういうと、あたしの手を握った。
「いまの女は?誰?」
あたしは気になって光一に聞いた。
「えっ?知らない人だよ」
光一は首をかしげる。
「なんか話してたじゃないか。
何話してたんだ?」
あたしは食い下がった。
「時間ありますかって。
彼女を待ってるって言えば普通すぐに、いなくなるんだけど。
ちょっとしつこかった」
あたしはびっくりした。
もしかして、光一はナンパされてたのか?
男が女にナンパされるなんて、あまりないと思うんだけど。
光一は「よくあること」みたいに涼しい顔で言ってる。
確かに光一はカッコいい。
人でごった返した駅でも、光一の容姿はパッと人目を引く。
ふと不安になる。
あたしみたいな、ガサツで地味な女......どうして光一は好きでいてくれるんだろう。
光一はいつも優しい。
それに氷河期の世界で、あたしのために指を失う危険までおかした。
だけど......。
そんなに光一に思ってもらうほど、あたしには価値があるのかな。
光一は一体あたしのどこが好きなんだろう。
色んな思いが胸の中をうずまく。
あたしの不安をよそに、光一は呑気にニコニコと笑っている。
「ここから、さらに1時間、電車に乗るんだ。行こう!」
光一があたしの手を引っ張った。
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ターミナル駅で大勢の人が降りると、電車の中はガラガラになった。
光一と二人、座席に並んで座る。
車窓から見える景色は、しだいに緑が濃くなっていく。
「どんどん都会から離れていく。
一体どこへ向かってるんだ?」
「自然豊かな場所」
光一はそう言うと、あたしをじっと見た。
そう言えば光一は、大学の試験期間が終わったら、あたしと旅行に行きたいって言っていた。
二人でハイキングでもしようってことなんだろうか。
「たまたま行ったことあるんだ。
子どものころ、親父と釣りをした。
森の奥ふかくに地元の人しか来ないような小さな釣り堀があって」
「光一は、その釣り堀に行きたいの?」
「行ってもいいけど......。目的はそこじゃなくって。
こうするのが正しいことなのか、実はよく分かんないんだけど。
でも葵のよろこぶ顔が見たい」




