第102話_葵との会話
春休みが始まった。
大学は休みになったけど、アルバイトのシフトはみっちり入っていた。
相変わらず、忙しい日々がつづく。
カフェや居酒屋のバイトのほかに、蛭間さんに頼まれてポータルを開くバイトもした。
蛭間さんのバイトは報酬が良い。
やることと言えば、壁に輪っかを投げつけたり、引き剥がしたりするだけ。
おいしいバイトだ。
ただし素っ裸の女たちに囲まれてベタベタと触られる時間を我慢しなければならない。
その日もポータルを開くアルバイトをした。
素っ裸のトラベラー軍団がポータルを通過する。
最初に女たち。
つぎに男たちも通過した。
女は街で男遊びをして、男は街でグルメを楽しむらしい。
トラベラーたちが街で遊んでいる間、俺はジムで筋トレして時間をつぶした。
「そんなに筋肉鍛えてどうすんの?
鍛えれば鍛えるほど女たちにベタベタと触られるわよ。
さぁ、休憩しましょ」
蛭間さんは、たい焼きの匂いのする紙袋を俺に見せた。
蛭間さんと二人、ジムの休憩所でたい焼きをパクつく。
「光一、すっかり元気になったわね。
一時期、生きる屍みたいになっていたから心配したのよ」
「もうすっかり元気です!」
俺は上腕二頭筋の筋肉を蛭間さんに見せつけた。
「やめて。誘惑しないでちょうだい」
蛭間さんは慌てて俺から目をそらした。
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居酒屋バイトの休憩時間。
どうしても葵の声が聞きたくて、電話をした。
休憩室で電話をすると、寝転んで仮眠を取っているヤツもいるので、うるさがられる。
俺は裏口から外に出て道路に突っ立ったまま、葵に電話した。
脇には、生ゴミの入った大きなバケツが置かれていて異臭を放っている。
「えぇえ!ちょっと待って。2週間も会えないってどういうことだよ?」
葵から衝撃の事実を伝えられ、俺は動揺しまくっていた。
「鍵と鍵の守り手は、毎年春にはマンダラの研修会に参加しなければならない。
それがもうすぐ開催されるんだ。2週間は俗世へもどれない」
「あの女刑事、檜山礼子も属する、マンダラか」
俺はスマホを握りしめた。
「そう言えば檜山礼子からは何も言ってこない?」
「うん。このまま俺のことなんか、忘れてくれると良いんだけど」
「なにか言ってきたら、教えてよね」
葵は真剣な声でそう言った。
「いつから研修会に行っちゃうんだよ」
葵に聞いてみた。
「......明後日からだ」
葵が暗い声で言う。
「えぇっ。もうすぐじゃんか。......じゃあ、明日あえる?」
ドキドキしながら葵に聞く。
「......会ってやってもいい」
葵がぼそっとつぶやいた。
「やった!!約束だよ?朝から晩まで、ずっと一緒に過ごそう。
2週間も会えないなんて、つらすぎる」
「明日は、うちの道場で訓練するか?」
「え~っ。う~ん。
葵に痛めつけられるのは好きだけど......訓練かぁ~。
デートっぽくないよなぁ」
葵とのデート。
どこに行こうかと俺は無い脳みそをフル回転させた。




