第100話_【葵】ずっとこのままで
「ふ......ははは!やめろ......葵」
松井とべったりくっついて眠っていた光一が、急に笑い出した。
「やっと抜け出せた」
やつれた顔の松井が、光一の腕から抜け出してため息を付いている。
「松井。どうやって光一の抱擁から逃れたんだ?」
「くすぐったところ、力がゆるんだんです。
樫谷さんの弱点は、わきの下です」
「へえ」
「お嬢さま、わたくし、そろそろ自室へ引き上げさせていただきます」
松井は、光一にふんわりと毛布をかけると、逃げるように部屋から出ていった。
時刻はもう12時を回っていた。
山口先輩と豆治郎くんは少し前に、二人仲良く帰っていった。
シーンと静まり返った和室に、光一の寝息だけが聞こえる。
幸せそうな寝顔だ。
光一はまつ毛が長くて......それに色が白い。
(かわいい顔してるんだよなぁ)
あたしは光一の前髪にそっと触れた。
光一は薄く目を開けると、前髪に触れたあたしの手首を素早くつかんだ。
(しまった!)
光一につかまってしまった。
「葵~。離さないぞぅ」
光一はそういうと、パッと起き上がってあたしに抱きついた。
「やわらかい......。さっきはゴツゴツだったのに」
「みんなもう、帰ったぞ。
今日は泊まっていけ。あたしは、自分の部屋で寝るし」
「好きだ~」
光一はあたしをぎゅっと抱きしめると、畳に押し倒した。
(山口先輩も、こんな感じで光一に抱きしめられて一晩過ごしたのか)
(けっきょく、何もなかったって言ってたけど)
光一の熱い息が首筋にかかってくすぐったい。
わきの下をくすぐれば、逃げ出せるかも知れない。
だけど、光一に抱きしめられると妙に安心する。
安心して幸せな気分になる。
「あおい~。すきだ~」
あたしが抹消のトリガーで消えた夜。
あの夜も光一はずっとあたしを抱きしめてくれたんだよね。
やさしく頭をなでてくれて「大丈夫だよ」って言ってくれた。
あのとき、どんなに安心したか。
このまま、光一に抱きしめられたままでいたい。
ずっと......。
だってとても幸せな気分だから。
あたしはいつの間にか眠っていた。
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「お嬢さま、起きてください。客人がお見えです」
「ん......。なに?松井?」
松井に肩をゆすられる。
目をうっすら開けると、あたしはまだ、光一に抱きしめられて横になっていた。
「あたし、このまま寝ちゃってたんだ。歯も磨いてない」
目をこすりながら松井の顔を見上げる。
光一がぎゅっと抱きついているのであたしは身体を動かせない。
「樫谷さんのことも、くすぐることで起こしましょう。
客人が来てるんです。向こうに敵意はないようですが、
我々にとっては非常に危険な客人です」
「えっ?......客人って、一体誰なの」




