THE LAST STORY>RELOAD< ⑪ 前編
第11話 栄州の奇跡
書いてる内に長くなってしまい
前、中、後編の3部編成でお送り致します。
申し訳ありませんが予め御了承くださいますようお願い申し上げます。
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THE LAST STORY>RELOAD<
第11話 栄州の奇跡 前編
ーー大邱慰問団ーー
九州奪還から6ヶ月、半島の情勢は 膠着状態に入っていた
『弾をくれ!!』と榊淳也が叫ぶ
『ほらよ!!』と水澤が榊に予備の弾薬を投げる。
榊は弾を受け取り『リロード』と言い
水澤は『カバーリングファイヤー!! 』と周りに号令する
斜面を登り逃げようとする敵を見つけて
水澤は『川中! 狙撃しろ』 その声に応じて川中は走りながら狙撃する。
バキュンバキュン!ダンダン!カンカカンカン!ドッカーン!!
『榊!右の敵を薙ぎ倒せ!!』
バンバンバン!!
『黒木!沢田!左から回り込んで敵の足を止めろ!』
『杉本!三上!リカバー』
『リロード!!』
『カバーリングファイヤー!』
バンバンバン!!タンタンタン!!
敵味方双方近距離で撃ち合い
押しては引いての綱引きが続く
乱戦になれば水澤達の主戦術の高機動戦闘で敵を振り回し追い散らすことで勝ちを得て来ている
高機動力と小規模、必要最低限の武力行使で戦いの主導権を敵に渡さないのが榊分隊のやり方であり水澤が推奨する戦い方だ。
キュルキュルキュル...ドッカーン!!ドカーン!!ドカーン!!と砲弾が炸裂する
『またかよ!ヤンジヌの野郎!!ヤバくなってきたら砲弾振り撒いて逃げるぐらいなら、はなから喧嘩売ってくんじゃねぇ!!』
ガウン!ガウン!ガウン!ガウン!
ここ数日、堤川で激しい攻防戦が行われている。
15中隊はヤンジヌ隊と幾度も激突を繰り返しチェチョンでの戦いは 一進一退の攻防戦が続く
15中隊も半島派遣軍もチェチョンを抜きソウルへと手をかけられない状況が続いている。
そんな戦いが幾度も繰り返され月日は過ぎてゆく
ある日のこと、かの男は悪事を企み
戦闘が膠着状態に入っている半島にて芸能人による慰問隊という名の訪問を始めようとしていた。
半島派遣軍総司令長官の中川夏巳は作戦部長の岡村田が作戦部から送り込んだ人物だ
中川総司令は岡村田の意を受けて慰問隊の受け入れを即座に行い
参謀部、統合部は慰問隊の行動地域は大邱のみを許可し他の地域への慰問隊の派遣は強く反対し禁止を派遣軍に徹底させていた。
本来なら、まだまだ十分安全の確保が出来ていない半島に芸能人とはいっても民間人
その民間人を派遣軍の慰問の為に必要とは考えられないことだったが
岡村田は政治屋の力を背景に強引とも言える形で慰問隊の半島への派遣を取り付けた。
チェチョン戦を終え栄州を経由し15中隊は大邱へと戻った。
15中隊の営舎のグラウンドに集合し梶原隊長の訓示と休暇時の注意事項が各隊員に伝達される。
その様子を遠巻きに見ていたナユン、ツユ、サヤそして奈月ありすと西野詩音は梶原の訓示が終わり解散の命が出たのを見計らい
水澤ら第5分隊の方へと歩いてくる
大邱や大田でナユン、ツユ、サヤは15中隊に来ては水澤らと交流し
大邱では西野と奈月と共に出迎えることが通例となっていた。
『オッパ(兄さん)!今回も出撃お疲れ様!』
『無事な帰還うれしい!』
『うれしい!うれしい!』
ナユンとツユはしっかりとした日本語で言えるようになっていた
サヤや詩音、奈月に習ってよどみない日本語を習得していた。
『またヤンジヌにストーカーされ続けたがな全員無事に帰還して来たゼ。』
『清州からチェチョンまで、ずっとヤンジヌ隊と戦い続けた報告は受けてるわ。』
『ヨンジュじゃパクムランとにらめっこで終わったけどさ。』
『パクムランは梶原中隊を恐れてるから。』
『怖いんやったら降伏して投降したらええのに。』
『投降の2文字を知らないのよ。』
『反日教育の賜物よ。』
『昔の日本人が反米教育で投降しなかった過去を考えれば北韓がこの半島で投降する可能性は低いでしょうね。』
『戦争いけない。平和大事!』とツユが言う
九州奪還が失敗に終わっていた場合、ツユの出身地の台湾は戦火に包まれていたかも知れないことをツユは詩音から聞かされていた。
水澤らが成した事が日本だけじゃなく台湾まで救っていたこと、そしてこの半島での戦いはナユンの祖国を守る戦いでもあることが彼女らが水澤らを信頼する一因にもなっている。
『そうそう、今月から日本の芸能人が半島に慰問に来るわよ。』
『悪いけど芸能人とやらに興味ねぇわ。それにサヤ、ナユン、ツユという世界的ビックスターが居るし。』
『慰問と聞いて驚かないわけね。』
『どうせ、どこぞのバカ村田の企てだろ?』
『ご名答!さすがは15の金獅子!察しが早い!』
『なっちゃん?褒めてる場合じゃないでしょう。』
『どのみち大邱の劇場で、つまらない演劇やミュージカルを反戦を匂わせてやるだけじゃん。』
奈月ありすは、芸能人らのリハーサルをこっそり覗き見していた。
『まあ、大邱だけと限定されてるとはいっても、公演以外で大邱の街を観光することは許されてるわ
警備隊の護衛付きという条件はあるけれど。』
『要するに、護衛してなきゃ派遣軍のバカ兵士が芸能人にちょっかい出し兼ねないってことだろ。』
命のやり取りをする過酷な状況下にある派遣軍兵士達
その中には不埒な者も一定数いる。
芸能人の慰問より先に飲食店関係者が大邱にて派遣軍相手の商売を始めている。
時折、酔った兵士同士の喧嘩や、店の従業員に乱暴を働こうとする者も出ており大邱警備隊は大忙しな状態だった。
『まあ、俺達ってか、俺はサヤ、ナユン、ツユで満足してるから...ねぇ?陽二君、淳也君。』
実のところ、榊と川中は喧嘩騒ぎを起こしたことがあり
その連帯責任で水澤も連座し営庭で正座を長時間させられたことがある
水澤の問いに二人は『あん時はすんません!』と謝る
『不祥事を起こすな、間違いを犯すな、喧嘩する時は正当防衛、そして店の外で喧嘩すること、物を壊したら苦情は隊長に行くんだからな。』
『喧嘩は許されてるんだ。』
『喧嘩をすんなって方が難しいけど。』
半島派遣軍で勇名を馳せる15中隊を不快に思う者も居る
ことに水澤という特異な存在と金獅子の異名は半島派遣軍内部にも広がっており
15の黒装部隊の榊分隊の名もまた鳴り響いている
やっかみをかい、酔った他隊の兵士と喧嘩口論は自然と起きてしまう。
水澤自身はナユンらと営舎で休暇を過ごすため、外出はしない
外出するとしても、日の明るい内に出かけ日暮には戻っている。
『オッパ、私達が何かしら披露したらいい?そしたら喧嘩なくなる?』
『それは、淳也達に聞いてくれ』
『ナインスが居るにも関わらず...』
『サヤ達は客ッスからもてなしを受けるわけには...』
『そのわりには、ナユン、ツユ、サヤが作った飯を喰ってんじゃねぇかよ。』
『それはそれで...』
『まあ、外出禁止されてるわけじゃねぇし、自己責任で行動、ただし隊の名前で喧嘩するならやめとけ、てめえの名前で喧嘩するならかまわないけど。』
『何、喧嘩を肯定してんのよ。』
『正当防衛で。』
『正座する。』
『正座する。』
『正座する。』
ナユン、サヤ、ツユの順番でそう言って、ちょこんと座る
それを見て水澤は『やめとけ!』と言って真似して座る
『もう。何やってんのよ。』と呆れ気味に詩音が言って
『ちょこん。』と言いながら奈月ありすも水澤達と同じように座る。
『バカなことやってないで、視察に行くわよ。』と詩音は言い立つように言う
『視察?』
『劇場の』
『いかなアカンの?』と水澤はサヤの口真似をする
『アカンの?』
『アカンの?』
『アカンの?』
とサヤ、ナユン、ツユの順番で同じように聞く
詩音は『アカンで!』と言って、さっさと車に乗るように言い
奈月ありすが胴長のリムジンをグラウンド内に乗り入れて来る
ナユン、ツユ、サヤと共に車に乗り劇場に向かう。
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大邱演劇場の周りを警備隊が警備にあたり
順を追って各部隊が劇場へ入る
演目は奈月ありすが言っていたように反戦に含みを持たせた内容になっている
生で芸能人を見れた興奮と内容への不満が兵士達の間に広がって行く
詩音と奈月そして、ナユン、ツユ、サヤと共に劇場の最後尾の席に居た水澤は
ひときわ大きな拍手を送る
大きな拍手の方に兵士らは振り返る
金糸髪に黒装の水澤を見てどよめきが起きる
会場内に緊張感が張り詰め
演技を終えた演者達も雰囲気が変わったことに気づき始める
自分達が居る壇上を最後尾から見下ろす金髪に黒い軍服の男
その隣に自分達も知る、あのナインスが居る
水澤の拍手に合わせてナユン、ツユ、サヤも拍手を送り
『そんなん..してるからアカンねん。』サヤは小さく呟き水澤の腕を引っ張り外へ行こうと促す
『遠路遥々ご苦労!!』と大声で水澤は言い
サヤに腕を引かれ外へ出て行く
『たいそうな嫌みやんな。』
『そういうつもりでご苦労と言ったわけじゃ』
『そやなくて!あの劇がや!』
『捉え方しだいだろ?俺には早く戦争を終わらせて帰ってこいと言ってるように見えたが。』
『そんなん、何処にもなかったやん。』
『二度と還らぬ覚悟の特攻隊員のくだりで〝何処に居ても私の元に風となり帰って来て〟という台詞があっただろ?』
『でも、あれ死んでから帰って来てって言っているように思ったねんけど。』
『死んでからじゃねぇよ、死しても想いは変わらない。私は貴方を待ち続ける
例えどんなに離れてていても。だと思うぞ。』
『赤坂さんが、もしそう言ったなら、貴方はどう思うの?』
『ふっ。』
『鼻で笑ってるし』
『どう思うの?』
『そんなこと言わねぇし、言わせねぇよ。』
『貴方らしいわね。』
演目は太平洋戦争末期に兵士となって同調圧力に逆らえず特攻に志願した若者と、その恋人の物語だった。
この日本国の民は愚か者だ、みんなが同じだったらその方向に流される
時流に逆らえずに戦禍に消えて行った先人達の想いを履き違えている。
命を賭けて守り抜いたのは祖国日本ではなく
命を捧げても惜しくない相手の為に望む望まないに関わらず命を散らして往った
歴史上、これ程の精神性、精神力を発揮した民族、国家は日本だけだ。
死んで来いというのは命令の限界を超えている
狂気染みた作戦、作戦と呼ぶことさえ出来ない兵器もろとも体当たりする過酷な状況
それを乗り越えて〝親しき人、愛しき人の名〟を叫び突入していった彼らの遺伝子は反戦教育と共に忘れ去られ
歪曲した形で伝えられて今を迎えている。
確かに戦争自体、やるべき事じゃない
だけど、その戦争の中に戦争という時代に生まれ生きることになった時
綺麗事じゃ片付けられない不条理を押し付けられる
戦わなければ守れない人が居る
第二次半島統一戦争が九州に日本国に飛び火した瞬間から不条理の真っ只中に投げ込まれた日本人と北韓が南侵を開始した瞬間から不条理な状況に巻き込まれたナユン、サヤ、ツユ達
彼ら彼女らのリハーサルのきかない人生は、いつだってぶっつけ本番の真剣勝負で在り続ける。
人は抗えない運命の中に居て時を巻き戻すことも出来ず死という終わりに向かって歩み続ける。
終わりの時、何を想い感じるのか?誰しも知ることなどない。
今自身の傍に居るナユン、サヤ、ツユそして九州にいる安莉やまりあ
それぞれの始まりから交差した運命線が重なり遠くても近くても同じ時代を生きる者同士となり
やがて、運命は彼女ら結びつけるのかも知れない。
ーー大邱空襲ーー
翌日深夜「北韓のトンチャンリミサイル発射場に動きあり」と警告アラームが大邱市内に響き渡る
ジリリリリーっと営舎ないに非常ベルが鳴り
各隊員は飛び起き部屋の外へ出て整列し点呼を開始
点呼後、隊員はグラウンドに集合し梶原隊長の訓示を受けて居る最中に大邱司令部のスピーカーから空襲警報が鳴り
間を置かずに大邱市内に無数の北韓のスカッドミサイルΧが飛来
PAC3JRS迎撃ミサイルと大邱航空隊の迎撃機がスカッドΧを撃ち落としにかかる
半島派遣軍の迎撃を掻い潜ったスカッドΧが市内に落下爆発する
司令部への直撃弾はなかったものの無差別攻撃とも言えるスカッドΧミサイルは市内各所に落下炎上
梶原隊長はすぐさま消火と救助の為に部隊を動かし
水澤達も大邱市内へ装甲車で向かう
15営舎内に泊まっていたナユン、サヤ、ツユは営舎の地下壕へ里山星看護官に伴われ避難する
水澤達が市内に着いた時
既にゴーゴーと炎を上げて燃えさかり瓦礫が道をふさいでいた。
瓦礫と炎の光景に榊は、あの日のことを思い出し『北韓野郎が!まとめてぶっ殺してやる!!』そう言って炎の中へ飛び込もうとする
榊の過去を水澤も知っている榊の言葉、行動が過去の記憶と重なったことに気付き
『榊!!落ち着け!!』と水澤は榊の腕を掴み引き止める
『こんなん人のすることじゃねぇだろうが!!北韓野郎はぜってぇ許さねぇ!!』
『今は消火と民間人の救助が最優先だ!』
『わかっるすよ!そんぐらい、でも、こんなん許されることじゃねぇッスよね!』
『その怒りは弾に込めて北韓軍にぶつけりゃいい、今はやるべき事をする。』
榊は黙って頷き消火栓を探す
大邱市に派遣軍が駐留を開始してから消火栓や地下道の整備を続けて来ていた
街の各所に空襲に備えた消火栓や瓦礫撤去用の重機等が配置され
橋が壊れた場合に備えタンクブリッチ(架橋戦車)も配備されている
PAC3JRS迎撃ミサイルの迎撃音が消え迎撃機は大邱上空を飛び被害地域を司令部に伝達
その情報を元に各部隊へ情報が送られる
水澤達が乗って来た装甲車の無線から被害箇所の情報が伝達される
目の前の瓦礫を森村が重機を使い撤去し道を開ける
森村は工業高校出身で重機の運転経験があり免許も在学中に取得している
瓦礫撤去した道を通り被害が最も大きい場所に着く
そこはかつての大邱の歓楽街的な場所で今は派遣軍兵士の憩いの場として提供されている飲食店が立ち並ぶ箇所だ。
大邱滞在中の部隊だけでなく大邱警備隊も消火救助活動をしている
ビルの最上階部分に取り残された人が居ると警備隊から聞き水澤らはそのビルに駆けつけ上を見上げる
10階建てのビル1、2、3階は飲食店が入居していて4階から上は従業員や派遣軍関係者が入居している
その最上階から聞き覚えのある声がする
水澤らと同じように黒装で水澤を真似て金糸髪にした永嶺優華の声と姿が水澤達の目に映る
永嶺は自身の胸に赤ちゃんを片手で抱いて、その母親らしき人物の肩を抱きしめ
下を見る
永嶺は水澤を見つけて『水澤君!この子をお願い!!』そう言って赤ちゃんを見せる
入り口は炎が吹き出し段々と永嶺の居る階に燃え移る勢いで煙りに時折永嶺は咳をし何とか赤ちゃんだけでもと水澤に訴える
『エアーを持ってこい!』
装甲車に乗せてきたエアーマットを下に広げエンジンを吹かしてエアーを送り膨らます
『優華!飛べるか?』
『私は飛べるけど、この子と母親は...』
『わかった!今すぐ行くから待ってろ!!』
『来るって?無理よ!炎がもう...』
永嶺達の背中側も炎に包まれ飛び降りる以外に逃げようがない。
ガツンガツンと音がして水が一気に吹き出す
水澤は足で消火栓を蹴り倒していた
吹き出す水を永嶺の居るビルに向けようと消火栓の根元をねじ曲げ角度をつける
それでも届かないのはわかっている
水澤は自身が水をかぶりビル内へ飛び込む
『水澤君!』
『水澤さん!!』
いつぞやみたいに手榴弾で炎を弱めりゃ入れるのに
ここで手榴弾爆発させたらビルの方がもたねぇと榊や川中は思っていた。
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ーーつづく。ーー
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