THE LAST STORY>RELOAD< ⑨ 後編
水澤は榊分隊を遊撃隊とし堤川に先行潜伏しユシン隊の先遣隊と交戦し勝利を収める
そして露軍が北韓軍に寄与した高性能通信機の奪取に成功する。
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第9話 黒き疾風、金糸髪の迅雷 後編
「こちら榊分隊、敵の砲撃点の空爆を要請する」
「こちら15中隊桜井です。全員無事ですか?」
「こちら榊、分隊は無事だ!早いとこ空爆要請をしてくれ!」
「了解いたしました。しばらくお待ちください。」
「ああ、早めに宜しく。」
偵察飛行中の大邱航空隊に砲撃発射地点の空爆要請を出し待機中に水澤達はつかの間の休息を取る
さっきの戦いは、川中の狙撃に動揺し混乱したところを襲撃し成功を収めワンサイドゲーム状態で進み
敵の砲撃の邪魔にあいハーフタイムに入った。
川中以外は返り血に濡れ、その返り血を無香料のボディーペーパーで拭き
軍服を新しいモノに着替え次の作戦行動に入る準備をする
砲撃が次第に止み、あたりに静寂が訪れる
『さて、次を始めるか。』
『了解ッス』
『敵は先程の俺達の攻撃に怯み、砲撃の支援下で逃げたが、その砲撃は大邱航空隊に叩かれ沈黙した
たぶん、だいぶ離れた位置に敵は移動したと思う。』
『追いかけますか?』
『いや、本隊に戻る。』
『敵の撃滅は?』
『敵が砲撃隊を使ったなら、こっちも報復砲撃をすりゃ良い
それに初期目標は達成したしな。』
そう言って水澤は敵兵から奪ったバックパックを見せる
『それ、例のヤツッスか?』
『ああ、露軍製の暗号通信機だ。』
『敵の大将を殺るのは?』
『追撃すんの面倒くせぇたたろ?適当に空襲砲撃なりなんなりぶちこんでおしまいだよ。』
『久々に熱くなったってのに残念スわ。』
『まだまだ終わらねぇんだから次の機会まで我慢しとけ!つか、三上が熱くなるなんざ珍しいな!』
三上和寿
榊達と同じ志願兵、志願理由については、未だに不明
ただわかっていることはクールで基本無口、だが、ソンジェをバキュームカーに仕立て上げた張本人で意外と煽り属性を持つ
『そう言えば、三上って何で志願したんだっけ?』
『あ?そんなモン決まってんだろ?面白ろそうな時代になったからに決まってんだろ?』
面白そう?と全員が聞き返す
『面白い時代になって、なんもせず一生を終えるより
言葉悪いかも知れねぇが、生き死にのやり取りをする場所に居たら〝生きてるって実感〟がわくだろ』
この男は、一体どんな人生を戦争になる前は送って来たのだろう
『まあ、確かに生きてるって実感わくわな。』
『そうっしょ?面白い時代を面白く生きて、果ては歴史に名を刻めりゃ儲けモンすよ。』
『歴史に名を刻むか...悪くねぇかもな、そゆうの。』
『おっしゃ!ここは俺達が刈り上げ頭の糞野郎を捕まえるなり、殺すなりして名を残してやろうゼ!!』
『一応言っておくってか、聞くが、先のイラク戦争でフラインを捕まえた野郎の名前を知ってんのか?』
『さあ?知らねぇすわ。』
『あ、、、』
『短い夢だったな三上!!』
『糞!何てこった!』
『まあ、少なくとも九州では名を上げ、名を残しただろ』
『九州の戦い。』
『俺達は先陣を切り、そして敵を追い落とした。そのおかげで、あの連中は命を繋いだだろ?
俺達が誇るべきことは、自分以外の誰かを生かしたことだと思うぞ。』
『違いねぇわ。』
『生きて帰れば少なくとも奴らにとって、そして...』
『赤坂さんや森下さんにとって俺達は名を残したってことっすね。』
『ああ、そうだ!そして戦争を終わらせたらナユン、サヤ、ツユの中にも俺達の名は刻まれるだろう。』
『うし!とことん行くとこまで行ってやろうゼ!みんな!!』
『おう!あったりめぇよ!』
『なら、一体戻るぞ。』
『了解ッス!』
ーー15中隊戦闘指揮所ーー
榊分隊より入電「例のブツの確保を完了、これより本隊に合流する」とのこと
梶原亮太郎15中隊長は『よくやってくれた。』と褒め
西野忠道副長は『我が隊の誇りですね。』と梶原隊長に言い
『最初は飛んだ厄介者を押し付けられたと思ったがね。』と言って笑い
『その割りは、彼らが15に入隊したことを喜んでいたと思いますが』
『西野君には冗談は言えんな。』
『はっ。堅物で申し訳ありません。』
『かまわんよ、その素直さと明晰さは我が隊に必要不可欠であるからな。』
『ありがとうございます隊長殿。』
『作戦の第二段階を始める準備を頼む。』
『了解いたしました。』
ーー退却戦ーー
水澤ら遊撃隊が15本隊と合流とほぼ同時に桜井満里奈のDシスに敵の交信傍受とその距離が伝えられる
先遣隊を水澤達の待ち伏せで、ほぼ壊滅させられたユシン隊は一直線に15中隊本隊を目指し進軍
そのユシン隊と15中隊は一旦は戦火を交えたが
『撤退だ!一旦態勢を整えるぞ!』と梶原隊長の命令が出される
支援していた砲兵隊が後退していく。
15中隊は精鋭中の精鋭。今作戦の主力を担う部隊
その部隊が少し戦火を交えた後、一瞬のうちに撤退した。
勇猛というより、獰猛という表現が当てはまるユシン隊は
...あの攻撃はやはり。
先の先遣隊が壊滅に近い打撃を受けたことを考える。
ーーデンジャラスクロスーー
「ユシン隊長!敵が攻勢を仕掛けてきました!」
「なに?敵とは何処のだ!」
「黒い軍装で長い金髪が..」
金髪の男。情報にあった男かも知れない。
「全面に防御線を七重に構え迎え撃て!」
黒い一団が突入してくる。
そして20式戦車と250ミリ砲による砲撃
その支援下のもと、水澤達15中隊榊分隊はユシン隊に攻撃を仕掛ける
ユシン隊は防御線から応戦を開始
その様子をユシンは双眼鏡で前線の方を見る。
金糸髪の黒服を中心に黒衣の軍装の兵士達が前線のユシン隊と激突し七重構えの内5段目まで斬り結び突進して来る
ユシンはこれまで自身の七重構えを一度たりとも抜かれたことがなかった
だが、黒い軍装に統一された日本兵はまるで壁などないように肉薄して来る
ユシンは予備の部隊を黒服の後ろへ回し押し潰して仕舞おうと包囲させる
水澤はユシンが目の前とわかっていながら『応戦しつつ後退!戦車部隊も後退を開始させろ!』
『梶原隊長!敵の追撃をかわすため空襲砲撃の要請をお願いします!』
『至近弾になるぞ!!』
『構ういません!デンジャラスクロスを!!』
ここで出来るだけユシンの部隊の数を減らしておきたい
敵の数が減れば減るほど後々の戦局が大きく変わる。
ヒューッと空を切り裂き250ミリ砲の空襲砲撃が開始される
かなり近い位置で炸裂し水澤達も巻き添えになりかける
『プラス修正!!ふたふたまる(220m)!!』
砲撃隊に修正射を求め着弾座標が変わる
その様子を見て梶原隊長は『全部隊!全速力で後退せよ!』
『俺達もだ!全員全速退避!!』
『了解!!』
その数秒後、敵部隊に対し、修正射の無数の砲弾が降り注いだ。
『桜井のDシスの観測は?』
『現在モニタリング及びデータ集積中!』
『よし!空襲砲撃の有効射だ!敵も追撃は断念するはず!』
『榊遊撃隊の退却完了しました!ユシンは追撃を断念したようです!』
水澤達のやり方をみて佐脇和馬隊長補佐は
『ふぅ。まったく、毎回、危ない橋を渡りやがる。』
『仕方ないだろ佐脇、この作戦が完全失敗することだけは避けなければならんのだから。』と副長補佐の藤井一弥が佐脇に言う
『まあ、少なくとも失敗じゃなく成功とも言えるだろうがな。』
『空襲砲撃をデンジャラスクロスするってのは、はじめてだゼ。』
『それを言うなら、砲撃隊だって初めてだろうさ。』
一歩間違えれば、散らばっる破片で味方に死傷者が出かねない危険な賭けを水澤は選んだ
そうすることで、ユシン隊の数を減らし、自分たちの存在を植え付け
今後の戦いの主導権を派遣軍が握り続ける足掛かりを作りたかったのだ。
この第二次堤川戦役は作戦上は半島派遣軍が勝ち
一応、堤川を守り抜いた北韓軍が戦略の要所を渡さなかったことで戦略では北韓の勝ちとなった。
だが、双方ともに勝利を主張し、検証は戦後をまつことになる。
確保した露軍製の通信機は桜井の手により分析が始まる
これを解析出来れば敵の動きは手に取るようにわかることになる
そして、水澤は第二次堤川戦役の第一功と大殊勲章を西野詩音より与えられ
階級がまた伍長に戻ることになる
水澤と共に遊撃隊として戦った榊達はそれぞれ階級がひとつ上がり、参謀総長の名の下、感謝状と勲二功銀星章を与えられた。
第二次堤川戦役は派遣軍の動きと陣容が敵に知られていたことが岡村田への疑念が更に強まり
目に見える確たる証拠はないものの、敵軍と岡村田の繋がりを示す事案として
参謀部、統合部は岡村田への警戒を一層強めて行く。
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第10話 Re start へと
ーーつづくーー
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