THE LAST STORY>RELOAD< ⑨ 前編
サヤ、ナユン、ツユ、そして岡村田の悪辣な企みにより奈月ありすは水澤の命を狙う
だが、参謀部の情報網により奈月ありすの事情は暴かれ
山口喜久参謀総長、西野詩音、永嶺優華らは、奈月ありすを参謀部付け秘書官として登用する。
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第9話 黒き疾風、金糸髪の迅雷 前編
ーー第二次堤川戦役
第15中隊は再び堤川へと出撃する
水澤が所蔵する榊淳也が率いる第5分隊は15本体から離れ遊撃隊として先行する
何故、水澤達は遊撃隊となったのかは、話は出撃前に遡る
15中隊営舎の営庭に部隊員は集合し梶原亮太郎隊長の出撃前の訓示が部隊員全員に向かって行われている最中に西野秘書官は桜井満里奈司令部付け将校を伴い15中隊営舎に来て桜井を15中隊の通信隊員として15に入隊させる
何故、桜井を入隊させたのかは、先日の通信機の件と桜井が新たに試作開発したDSS通称Dシスを15中隊にて実証試験とデータの集積、そしてDシスの本格的な実用化と半島派遣軍全軍に配備する為の試験運用を兼ねて開発者の桜井を15に送り込み少しでも水澤らの助けになるようにという西野の心情から桜井入隊につながった。
DSSは電子戦仕様の敵のサイバー攻撃を攻性防壁を使い逆に敵軍の電装品をウィルスで無力化するように出来ている
そして、敵軍が発信する微弱な電波(敵軍が双方向に隊や隊員に伝達する無線の電波)をキャッチし場所を特定する機能を備え、味方が行方不明になった場合、電波を送信し味方の装備するインカムの場所を特定することも可能な米軍さえ持たない画期的システムである。
出撃前に桜井の加入と水澤らに実用化に向けた試験運用を頼み
水澤は榊分隊を、今次作戦に於いて遊撃隊として先行することを梶原隊長に申し入れ
梶原隊長は水澤らを15の遊撃隊としての役割を下令と桜井の加入を受け入れ
水澤らは桜井のDシスと連携する新しいインカムを装備し隊に先行して出撃
このような経緯を経て榊遊撃隊は堤川に先行潜伏を開始
遊撃隊が配置についてから、15中隊本体も堤川に着陣
そして菅野康貴が率いる第3中隊、池内中隊、片桐中隊、影平大隊から石動功が率いる打撃軍、七瀬睦機動砲撃隊
大邱航空隊が支援にあたる。
小規模かつ高機動力戦闘を旨と考える水澤は必要最低限の装備のみで身軽になり
配置位置から、更に奥へと進軍し、先日に奈月ありすが岡村田に伝えた作戦が岡村田から敵軍に伝わっているなら、堤川の奥まった場所に着陣し
こちらの後ろに回り込む為に別動隊を出発させているはず
敢えて後ろが無防備になる先鋭的な陣立てと攻撃重視の配置を派遣軍は敷いている
作戦要項に基づく配置とは真逆の配置だった、岡村田が敵と通じているなら作戦要項通りの配置は危険である
その備えとして水澤らの遊撃隊は敵の動きを偵察しながら高機動戦闘を展開する必要がある
ーー高起動戦闘ーー
榊遊撃隊は味方の後方に回り込む敵を索敵中だった
榊の無線に桜井より通信
「榊軍曹、敵は軍曹達から見て北西2㎞の場所を南下移動中です。」桜井は自身の目の前のDシスのモニターを見ながら報告する
「北西、2㎞..その数はわかるか?」
「数を割り出すには、敵部隊が双方向に通信伝達を行わないと...」
「要するに数は不明だが、北西方向から南下中なのは間違いねぇんだな?」
「間違いありません。」
「了解。」
榊は無線を切り『敵は北西から南下中らしいッス』と水澤に言う
『北西から南下か、思ったとおりに動いてるな。』
『やっぱ、情報漏れてんすね?』
『まあ、あの作戦を知るなら、最薄の防御点を叩いて後ろに回り挟み撃ちにするのが一番早いからな。』
『さて、敵を追尾捕捉し撃滅するぞ!』
『了解!!』
『淳也、桜井通信士に敵の動きをモニタリングし続け、新たな動きがあれば逐次伝えるように言っておいてくれ。』
『了解ッス』
『あと、こちらの合図があるまで、15本隊に各部隊、砲撃隊は待機を、そして航空隊は空から偵察しているように見せかけ続け、対地攻撃は控えるように伝えてくれ。』
『了解ッス』
榊は桜井に水澤からの伝言を伝える、そして桜井は15本隊、各部隊、砲撃隊、航空隊に伝達する
『航空、砲撃支援を受けながら榊分隊だけで決着つけるつもりでいらっしゃるようで。』
『いくら航空、砲撃支援があるとはいえ、実質分隊戦力だけでは無理でしょう。』
『その無理という不可能を可能にするかも知れませんよ?』
『いやいや、さすがにそれは..』
『北見くんは、わかってませんねぇ..水澤さんの本当の狙いは敵の撃滅より〝この作戦〟が敵の知るところなのか?どうか?です。』
『今のところ情報漏洩を指し示す行動を敵はやっていますが、わかった上で敵を追尾捕捉しようとしております』
『この作戦には、新しいシステムが導入されていますから、桜井さんへの土産ぐらいは持って来て上げたいんでしょう』
『土産?』
『敵が露から供与されている高度暗号システム付き通信機を』
『別動隊なら、位置を悟らせないように、その装備を』
『ええ、そうだと思います。』
逐次伝えられる桜井からの情報を受けながら敵別動隊を待ち伏せられる位置に水澤達は来ていた。
『俺達の陣立ては、いつも通り扇返し型だが、いつもと違う点もある
川中は後方1.5㎞地点から狙撃しやすい場所を選び配置に、俺の後ろは今回は三上に預ける』
『了解!!』
『いいか、この戦いの火蓋を切るのは、川中お前だ俺が合図したら俺達に一番近いヤツを片付けろ。、この山間部なら遠距離から狙撃したら音があちこちに響いて聞こえ、お前の位置は見つけられない狙撃で敵を撹乱し援護しろ。』
『了解ッス』
待ち伏せしながら水澤は右手をあげ川中へ合図をする準備をする
山あいの木立ちから数人の北韓軍が姿を現す
水澤は『まだだ、もっと集まって引き寄せてから始める。』と言って、じっと前方を見つめる
川中のM16SARIカスタムのスコープにも敵軍の姿が見える
川中は水澤の右手が降りるのを、じっと待つ
数人から数十人程になった瞬間
水澤の右手が勢いよく前方へと振り下ろされる
音もなく敵兵が頭部を撃たれ倒れる
倒れてから数秒後にパァーンと銃声が鳴り響く
その銃声は山々に反響し全方角から聞こえる
更に敵兵が撃たれ、先ほどと同じように数秒後に銃声が鳴り響く
敵兵は地に伏せる
水澤は『今だ!かかれ!』と号令を出す
榊、森村、沢田、黒木、杉本の順に発砲を開始
水澤の後ろに居る三上は水澤が動き出すのを待つ
右から榊、森村、沢田
左から黒木、杉本
そして真ん中から金糸髪の水澤が飛び込む
三上は水澤が動いた瞬間に自分も飛び出し
榊分隊は討伐戦を開始
ガウンガウンガウンと水澤の突撃制圧銃の銃声
バンバンバンバンと榊らの新採用の20式歩兵銃
その遥か後方から川中のM16SARI 強化改修型スナイプ仕様の銃声がこだまする
『うら!おら!うら!糞北韓野郎!!』と言いながら榊は銃を円を描くように発砲しながら敵兵に体当たりしふっ飛ばす
負けじと黒木が敵兵士を蹴り上げ撃ち殺し『言うの忘れたけど俺、空手の達人なんだよな、俺の蹴りをかわせたヤツは今まで誰も居ねぇんだよ!』さらに敵兵を前方に蹴り飛ばし銃で仕留める
『お前が空手の達人なら、俺は日本チャンプだけどなボクサーのよ!』と沢田は言い
ガツンと銃床で敵兵のこめかみを殴りホルダーから拳銃を抜きバン!と敵兵の頭部を撃ち抜く
『久々に滾って来たゼ!俺を本気にさせるなんざ運ねぇヤツらだな!』
バンバンバンと三上が発砲し水澤の左右に居た敵兵を撃ち殺す
『あんまり熱くなんなよ?ただでさえ暑苦しいんだからよ!』バンバンバンバンと杉本は正確かつ的確に敵を撃ち
川中は谷側に水澤達が移動した為、スコープをオートスキャンに切り替え山あいから下へ向かう敵兵を撃ち抜く
『楽な仕事じゃねぇかよ!俺から逃げられると思うんじゃねぇ糞北韓野郎!!』バン!正確無比の狙撃が敵の頭部を撃ち抜く
水澤は腰から刀を抜き放ち宙を舞い落下速度を生かし敵兵の鉄ヘルをものともせず頭から股下へと真っ二つに斬り落とす
その光景を見て『ヒューッ』と榊は言い『ウチの大将を舐めてっと死ぬゾ!糞北韓野郎!!』敵兵の首を片手で掴み持ち上げ顎先に銃口を突き付け撃ち抜き、その亡骸を片手で敵兵士に投げつけ、さらに敵兵を掴み上げ『俺らに殺されたくなけりゃ、さっさと家に帰ってママの胸でも吸ってろ!』と先ほどと同じように顎先から撃ち抜き投げつける
『慈悲って言葉を知らねぇのかよ?』と黒木は榊に言いながらもジャンプし敵兵士顔面に蹴りを入れた瞬間に別の敵兵に発砲
『てめえ!俺の獲物だろうが!!』と沢田は黒木に文句言いつつ走り目の前の敵兵にアッパーを入れ敵兵の体が浮き上がったところを銃で心臓部を撃ち抜く
『獲物なら、まだまだ!いるぞ!』と杉本が叫び
着剣した20式を頭上でぐるぐる回し片手平突きの要領で敵を刺し殺す
目の前で味方がバタバタと倒されて行く光景に敵兵士は恐怖し始める
軍服を黒に統一した榊分隊の姿が黒い悪魔に見えたらしく
特に銃を放つ以上に刀をきらびかせて金色の航跡を引く金糸髪の水澤の姿は雷の如く迅い
黒い疾風、金糸髪の迅雷の存在を嫌という程に味わった上に周りの榊らの人並み外れた戦い方、そして、どこからともなく正確にとんでくる見えぬ悪魔の存在に敵軍は震えあがり統制不能状態に陥る
『まだまだ終わらねぇんだよ!こんな糞北韓野郎に香桜里が殺されたなんざ許せるわけねぇだろ!!』バンバンバン!ガツンゴツンと撃っては殴り撃っては殴り榊は遮るモノがないかのように突進して行く
後ろを水澤は振り返り榊らの戦いを見る
よくもここまで成長したモノだと水澤は思った
最初はただぶっぱなすしか知らなかった彼らが今は口で文句つけながら戦場で敵を薙ぎ払い続け
自分に遅れを取ることなくついて来ている
ならばと水澤は更にスピードを上げ
金糸髪の航跡を引きながら敵中に舞う
後に15の金獅子という異名が派遣軍内に鳴り響くことなる、その戦いは今の戦いであった。
川中はオートスキャンに敵の反応がなくなったので前進をして敵の見える位置
元々、潜伏し待ち伏せしていた場所まで来た時、自身の目の前に広がる光景に息を飲む
撃ち抜かれ切り裂かれた敵軍の亡骸ばかりが転がっている
俺、やべえ奴らとつるんでんじゃね?と思ったら笑いがこみ上げてきて笑ってしました。
つか、笑ってん場合じゃねぇわ、早く追いつかなけりゃなんねぇ
そう思い直し川中は谷に降り、そして敵の亡骸を目印に水澤達の後を追う
川中が水澤達に追い付いた時、やっぱ、やべえ奴らとつるんでたわと目の前の光景を見て思った。
水澤は敵の返り血を滴らせながら敵を斬り倒し続け
榊は銃をこん棒代わりにして振り回し敵の頭を叩き割り
黒木は空手技で敵を次から次へと蹴り飛ばしは拳銃で撃ち抜き
沢田は華麗にステップを踏みながら強烈なパンチを放ち、吹っ飛んだ敵を追いかけては首元を踏みつけ銃で撃ち殺し
森村と杉本は二人で敵を挟み撃ちにしながら敵を薙ぎ払い続けている
ビシッと川中の近くに敵兵が放った狼狽え弾が着弾する
とっさに木の陰に身を隠し銃を構え狙撃を再開する
ヒューと音を立て敵兵がロケット弾を水澤にめがけ発射する
水澤は身動ぎせず自身に飛んでくるロケット弾を刀を握った片手を高く上げ力一杯に振り下ろす
ロケット弾は2つにわかれ水澤の左右で爆発する
川中のスコープにその瞬間が映るとロケット弾を放った敵兵を川中は撃ち抜き
目の前で起きたことが夢なのか?それとも...ル○ン三世の五右衛門が居るのか?と少し混乱した
普通に考えたら飛んで来るロケット弾を避けもせずに斬り落とすなんて考えられない
だが、水澤はそれをやってのけた。
川中の脳裏に稲葉華凜軍医の言葉が浮かぶ
〝水澤は人としてのリミッターが外れた状態〟
目の前の光景を理解するには、その言葉以外は当てはまらない
凄いを通り越した表現があるなら、その表現こそが水澤に当てはまるのかも知れない
川中はそう思った。
ヒューン!ドカン!ドカン!と敵からの砲撃が水澤達の居る場所に降り注ぐ
水澤はチッと舌打ちし『またかよ!ユシンの野郎!!』
刀の峰の部分で敵兵の横顔を力一杯叩き、吹っ飛んだ敵に向かい飛び上がり宙に浮かんだ状態のままの敵兵にスケボーに乗るかのように乗り蹴りを数発入れながら敵兵の上に乗ったまま地面に着地し
『全員!退避!!』と水澤は号令を出し敵兵士のバックパックを取り担いで行く
水澤の号令を受け、榊達も退避行動をとる
川中は『こっちに早く!!』と手をぐるぐる回して合図する
『よう!陽二!相変わらずイケメンだな!』
『相変わらずじゃなく生まれつきだ!』
『はいはい!』
『ふっ。』
『水澤さんまでなんすか?』
『いや、俺らに比べて綺麗なモンだからなイケメン過ぎだろ?』
川中以外は皆一様に返し血を浴びていた。
超接近戦をやり続けたから仕方ないが、この日の榊分隊の戦いぶりは半島派遣軍内では語り種になったのだった。
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ーーつづくーー
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