THE LAST STORY>RELOAD< ⑧ 後編
サヤ、ナユン、ツユはソンジェの元を離れ、水澤達を訪ね15中隊営舎に向かう
サヤ達の申し出を水澤達は快く受け入れサヤ、ナユン、ツユと水澤達は同盟を結んだ。
そして、奈月ありすという岡村田が送り込んで来た刺客の奈月ありすの秘密を西野詩音は参謀部独自の情報網を使い調べたことを告げる。
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第8話 哀しき刺客。後編
ーー日本国 久留米ーー
anri_daily...
水澤さん達の動向は依然として教えてもらえない
ただ聞いたのは、半島の情勢が膠着状態になっていると言うことと、帰国事業が開始されたことぐらい
私達は依然としてホテルから出ることは許されることなく悶々とした日々を送っていました。
半島の情勢が膠着状態になって2ヶ月ぐらい経ったある日、月島次官の名前で『皆さまの帰宅の時期が来た』という知らせが届き
ようやくホテルでの軟禁生活から解放されました。
私達は自身の借りていたマンションに戻る為、かつて暮らした街へと帰路についたのです。
この街は私の夢を形に出来た第二の故郷
その第二の故郷の破壊された姿に言葉にならない想いが胸にこみ上げて
戦争というのは、国力と工業力の潰し合いで、その潰し合いの中に尊い命が失われて行く
壊れた街は復興することが出来るけれど
どんなに叫んでも泣いても元に戻すことが出来ないのは人の命。
命の奪い合いの果てに、水澤さんが渡そうとしている未来がある
今、私やまりあちゃんの手のひらに在る水澤さんからもらった希望の灯火
その灯火が、いつか光り輝き人々を照らす日が来ると私は思うのです。
この九州で激戦を繰り広げ、半島へ敵を押し返した彼らの足跡が私の中に息づいている。
いつか、この戦争が終わった時、彼らの功績は歴史に刻まれる
歴史に名を馳せる勇士として人々の記憶に刻まれる為には、私は私の役割と使命を全うすることが必要だと思いました。
ーー大邱半島派遣軍司令部ーー
奈月ありすを伴い西野詩音は参謀総長の執務室に来ていた。
『その者が岡村田の?』と山口参謀総長が詩音に尋ねる
『はい閣下、この子が奈月ありすです。』
『奈月ありす、キミは岡村田に捨て駒にされるだけじゃないのかね?あの男は約束を守るような律儀者じゃない。』
『.....。』
『奈月ありす!参謀総長閣下の言葉を無視しない!』と永嶺優華第2秘書官が奈月ありすに怒鳴る
『そんなことより、証拠は?』
『西野君、例のモノを。』
詩音はポケットから鍵を取り出し参謀総長のアタッシュケースを開ける
そして、冊子状に束ねられた紙を奈月ありすに渡す
奈月ありすは、それを食い入るように読み
『参謀部は、内偵や密偵、そして情報屋とか居るの。』
『あなたバカ?内部監査は参謀部の十八番だし、情報収集なんてお手のものよ。』
『この戦争が始まる以前から北の動向もキャッチしてたわ。まあ、予想以上のスピードで侵攻して来たのは計算外だったけど。』
『...わかったわ。しばらく、あの男を始末するのは辞めとく、だけど、万が一危険が大きくなったら容赦なく始末するから。』
『あなたごときに殺されるほど、水澤君は弱くないわよ!』
『だから何?あの男が自分自ら首を差し出すって言ったけど。』
『え?水澤君に会ったの?』
『ここに来る前にね、水澤君と逢ってる。』
『水澤君は男気が服を着て歩いているような人物だからな、約束とあらば...』
『水澤君を始末しようとしたら、参謀部は全力で貴女を潰すわよ!』
『水澤君が約束しちゃった以上は、余計な真似は水澤君自身がさせないでしょう。まあ、そうならないように全力で奈月ありすの家族を発見、保護するのが私達と統合部の役割よ。』
『さっきも言ったけど、もしもの時は...』
『無論。手出しはせぬ。』
『ちょっと閣下!やめてください!』
『それだけ自信があるって認識でよろしいでしょうか?参謀総長閣下殿。』
『岡村田の好きには絶対にさせんよ。安心したまえ。』
『とにかく、あんたはじっとしてて、参謀部、統合部の実力でも観察してなさい。』
『赤城主席も動いてるし、岡村田の好きにさせないでしょう。安心して本日から参謀部付けの秘書官として働きなさい。』
『私に作戦部を裏切れってこと?そんなこと...』
『違うわよ、参謀部に潜り込んで調べてると岡村田に言っておきなさい。貴女が岡村田を裏切るのは、家族の身の安全が保障された時だけよ。』
『その通り。ここに居れば岡村田の欲する情報も手に出来るだろう。』
この人達、わざわざ自分たちの秘密を岡村田に渡すつもり?
『閣下のおっしゃる通り、岡村田の欲しがりそうな情報を知ることが出来るかも知れませんが、閣下や秘書官殿は、本当によろしいので?』
『構わん、人命と比べることは野暮と言うモノ。』
山口参謀総長の言葉に奈月ありすは感銘を受け
『本日より、この奈月ありすは参謀部付け秘書官として働かせていただきます。
必要とあれば、岡村田の...』
山口参謀総長は奈月ありすの方に手をかざし、それ以上は言うなと言った感じで首を振り
『まずは家族の安全を第一に考えたまえ。』
私が本当に始末しなければいけないのは、岡村田の方だ、堤川のこと...失言した可能性がある
あの男は〝それを見抜いてた〟たぶん、参謀総長も西野秘書官も...
その上で、敢えて私を参謀部に...
山口喜久参謀総長は噂以上の人物
その秘書官の西野詩音、永嶺優華
特に西野秘書官は噂通りの切れ者、そして第2秘書官の永嶺優華、この人も、さっきの私への言葉は、ここまで筋書きされた脚本を演じてただけ
参謀部は、本当に恐るべき人物の集まり
その上の統合部も...私1人の力でどうにか出来る組織じゃない。
『奈月ありす!おーい!奈月!!』
『え?はい?』
『何をぼーとしてんのよ?さっき参謀部付け秘書官になるって言ったわよね?』片足の爪先を上下に動かしながら永嶺は苛立った様子で奈月に言い
永嶺の言葉に、ハッとなりつつ『あ、はい。』と奈月は答え
『ほら、さっさと岡村田に連絡したら?参謀総長に取り入って潜り込んだって』
『自身の身の安全と家族安全保障の為にそうなさい。』と詩音は穏やかに言う
『キミにひとつ手土産をやろう。』と山口参謀総長は言って奈月にノートパソコンを開き少し操作したあと奈月に見せる
『これは?』
『次期作戦の要網よ。』と詩音は堂々と言って微笑む
『さっさと手土産込みで、連絡したら?』永嶺は奈月を急かす
『ですが、これを岡村田に話たら...』
詩音は何も言わず奈月ありすにウィンクして見せる
そう言うこと?
『でしたら、遠慮なく伝えさせていただきます。』
参謀部は先の堤川の一件の確証を得ようとしてる
あの水澤という男の推測の確信
それは、私の手元の作戦
これを岡村田に伝えることは...岡村田が敵国と通じてることを確かめる手段
私をただ参謀部に引き入れた訳じゃない
私の選択肢は...これを岡村田に伝え、岡村田の本質的な部分を探ること
『有り難く頂戴し、利用させていただきます。』
奈月ありすは参謀部に潜り込んだこと、そして次期作戦の要項を入手したことと内容を参謀総長らが見守る中、岡村田に伝える。
岡村田は奈月に指示した以上の働きご苦労と言って、水澤の暗殺を速やかに行い
参謀部の動きを今後も伝えるよう指示する
奈月は了解したことと、全てを片付ける前に家族に手を出さないよう念を押し
せめて居場所だけでも教えて欲しいと岡村田に言う
だが、岡村田は奈月に全ての仕事を終えたら引き合わせると言って無線を切る
この男こそが私の敵、水澤というヤツじゃない
奈月ありすは心に岡村田への不信感と憤りを感じていた。
ーー大邱市公園ーー
西野詩音と奈月ありすが司令部に向かったのを見送り
サヤは『ほんまなんなん?』と愚痴に近い感じで言いながら水澤を見る
『なんなんやろな?』と水澤はサヤの口調を真似る
『なんなんなんなんなんなんなぁん』と相変わらずの愛嬌というか天然というか天真爛漫という表現が当てはまるだろうと思うが、ツユはおどけて見せる
『ツユはほんま緊張感ないなあ、まあ、そこがツユの良いとこやけど』
『さっきの人、ちょっと可哀想てしたねオッパ』と相変わらず濁点の抜けた日本語でナユンが言う
『本人が可哀想だと思ってない内は大丈夫だろ?』
『たいしょうふならいいてすけ...け...け?』
『けれどやで。』
『それ!けれとけれ!』
やっぱ何故か濁点が抜けるナユン
水澤はナユンを見ながら『15の営舎でも言ったけれど!一応言いたいことは伝わってるから心配すんな。』
『ありかとオッパ!あそうたオッパ?おなかすいたね。』
『そうだな、そろそろ帰るか?』
『あの女の子が現れたせいであんまり遊ばれへんかったなぁ。』
『基地まで鬼こっこしよ!』
『ツユも濁点...』
『もうしゃあないて』
『そやな。』と水澤
『そやで。』とサヤ
『そやて。』とナユン
『そやぁてぇ~っ?』とツユが続けて言う
そして互いに顔を見合せ笑い
15営舎へと鬼ごっこならぬかけっこが始まる。
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サヤ、ナユン、ツユ、そして水澤達半島派遣軍
奈月ありすを使い次期作戦要項の表部分は岡村田に伝わった。
その裏の真意に奈月ありすは気付いていながら参謀部の誘いに乗って行動した。
岡村田の本質的な部分を暴く第一歩目の賽は投げられたのだった。
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第9話 黒き疾風、金糸髪の迅雷 へと
ーーつづくーー
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