THE LAST STORY>RELOAD< ⑥ 前編
大田でのユ・ソンジェとの会談、そこに居たサヤ、ナユン、ツユ
水澤の中に新たな戦いの焔が立つ
未だ開けぬ夜の終わりを描くことが彼ら彼女らに出来るだろうか?
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第6話 切り札を切るなら、もう1つ奥の手を持て。
ソウル攻略が失敗に終わった半島派遣軍は大邱の防衛を最優先に考え
残存戦力を大邱近郊に集め、北韓軍の襲来に備えていた。
一方、北韓軍は日本の即戦即決の打撃戦にチョソンミンをはじめハンガイン、ヤンドングンら主だった部隊が壊滅的打撃を受け
大幅な戦略の転換を強いられ、北韓軍はその陣容を整える為
大邱には進軍しては来なかった。
北韓の動きを察知した半島派遣軍は大邱へと退却
一時的に半島に平穏が訪れる。
ーー大邱15中隊営舎ーー
整然と隊列を組み15中隊は営舎へと戻る
元々は警察学校だった場所を15中隊は営舎として割り当てられている
グランドの片隅に兵員輸送装甲車を止め各隊員が続々と降り行く
グランド中央に整列し隊長の梶原亮太朗が隊員達の前に置いてある階段のような形をしたお立ち台に立ち
その台の右に副長の西野忠道が立つ
『隊長殿に敬礼!!』
ザッと足を揃える音がして、各隊員は隊長に敬礼をする
梶原隊長は返礼をする、それを見て
『なおれ!』と西野副長が号令する
梶原隊長は隊員に『霧島から大邱と遠く離れた場所に来たが、知ってるとは思うが、この地は先の参謀総長閣下が目指し、そして、たどり着くことなく志し半ばで散られた因縁の地でもある
今、我々がこの地に立ち、そして、此処から今一度ソウルを目指し、その先の平壌へと向かう
我々の新たな根拠地である!総員、そのことを忘れぬように。』
『そして、此処に辿り着くことなく散って行った戦友に今一度、敬礼!!』
隊長を含め全隊員が頭を垂れ最敬礼をする
『なおれ!』
『これまでの連戦に疲れているだろうから、本日は以上で休暇とする
別命あるまで、官舎にて待機!以上解散!!』
『了解!隊長!!』と隊員が返事をし整列状態から各々荷物を持って官舎内へ動き出す
『水澤君!!』と聞き覚えのある声
声の方向に水澤は振り返ると、三崎希望軍医、稲葉華凜軍医、そして里山星看護官が後方から営舎のグランドへと走ってくる
『転ぶぞ!』と水澤は悪戯っぽく言うと『前フリ?』と稲葉軍医が悪戯っぽく返す
『はははっ、相変わらずだな!』
『そっちこそ相変わらずね』
そう言って水澤の前を通りすぎ
『梶原隊長殿、三崎、稲葉、里山、本日から15中隊に復隊致します!』と梶原隊長に敬礼しながら言い
『最初に水澤君の名前を呼ばなかったか?』と梶原隊長は言いながら返礼し
『悪戯っ子には、悪戯をと思いまして』ちょこっ舌をだして悪戯っぽい表情で稲葉軍医は言い
『キミも変わらんな』と梶原隊長は言い『本日、只今をもってキミらの復隊を認める!遠路遥々(えんろはるばる)ご苦労!』と言い
三崎軍医らの復隊に許可を出し
15中隊に再び華が咲く
野郎所帯の軍隊に三人の女性の軍人が再び加入
三崎軍医は『水澤君、これを貴方に。』と言いながら白衣のポケットから、一通の手紙を出す
それを見た隊長補佐の佐脇和馬は『軍医からのラブレターか?』と茶化す
『私からじゃなくて、赤坂さんと森下さんから水澤君に渡して欲しいと頼まれたのよ!』
『安莉さんとまりあさんが俺に?』
『そう、どうしてもって言って聞かないから仕方なく。』
本来なら、親族以外の者が軍人に手紙は出せない決まりがある
とはいえ、水澤の場合は未だに階級も持たない軍属状態
仕方なくという言葉は便宜上の言い回しで、安莉とまりあが三崎に手紙を託した時、三崎は快く引き受けている
水澤が三崎軍医から手紙を受けとると
『ちゃんと渡したからね。』
と三崎軍医は言うと左右のポケットに手を入れ、官舎内へ歩き出す
水澤は手紙をその場で開封し中身を読み
読み終えたと同時に『気付いてたか...』と呟いた。
そして、手紙を荷物の中に入れて自身も官舎内に入る
ーー大邱会議前夜ーー
埃まみれで汚い部屋、二段ベッドが左右に一台づつ
四人一組の狭い部屋を各隊員は散らかっていた部屋を掃除し荷物の整理をする
言わずもがなに水澤達の部屋も汚い
5分隊は水澤、榊、川中、黒木、と、その隣の部屋を森村、沢田、三上、杉本の四人づつに別れて部屋を片付ける
片付けが、ひと段落した頃に水澤は隊長に呼ばれ隊長執務室に居た。
『あら、伊藤ちゃんも呼び出しかい?』
『ええ、そうです。』
『明日、司令部にて作戦会議が行われる、伊藤君、水澤君、キミ達も同行するようにと参謀総長からの命令だ。』
『作戦会議?』
『たぶん、あの作戦の説明をしないと...』
『その通りだ、二人には作戦会議にて、あの作戦の説明を各隊の隊長らにしてもらいたい。』
『いちいち行かなくても、15の意見として出したらよくね?』
『参謀総長閣下は、キミ達の口からを望んでおられる。』
『望んでるのは総長閣下じゃなく詩音さんに決まってる。』
『どちらにせよ、参謀総長閣下からの命令には逆らえん、伊藤、水澤両名は明日、私と西野副長と共に同行を命ずる。』
『はっ!』
『仕方ないなぁ..了解しました。』
『面倒くさそうに言うでない。』
『了解致しました!』
ーー大邱会議ーー
翌日、半島派遣軍司令部になっている旧大邱市役所に15中隊長、副長、そして、水澤と伊藤が向かう
入り口で誰かが警備兵と揉めている
『なんで俺だけ入れてくれねぇんだよ!』
『許可証を持ってない者は中には入れられんと何度も言っているだろう!』
『ウチの隊だけ許可証出さない方がおかしいだろうが!』
『朝から元気なヤツだなぁ?』
『あ!』
『どうした伊藤ちゃん?』
『たぶん、あの方は中村さんですね。』
『中村?誰それ?』
『自分と同期入隊の中村さんです、確か今は21中隊に配属になってるはず』
『そう言えば、川中だか黒木だかが言ってたっけ?伊藤ちゃんを筆頭に四天王だかなんだか』
『四天王とか言ってたのは自分じゃなく、あの中村さんです。』
『志願1期生、四天王の1人か?』
『いや、だから自分は』
『とにかく、あんなうるさいのはちょっと苦手だ。隊長殿から、ビシッと言って差し上げてください。』
『気乗りせんな。』
『西野副長、あの小うるさい小僧を黙らせてくれ。』
『はっ!』
『キミ!いい加減にしたまえ!!許可証のない者は誰であろうと司令部には入れん!!』
『誰だてめえは...』
『15中隊副長の西野だ!命令である!早々に立ち去れ!』
『同じ派遣軍の仲間なのにウチは仲間外れって、おかしいと思いませんか?15の副長殿』
『許可証を与えられてない部隊は他にもあるキミに限ったことではない早々に立ち去れ!』
『九州じゃ出遅れ、半島では後方支援、21は、あのアホ隊長のせいで..』
『そんなに中に入りたいんですか?』
『伊藤!!』
『お久しぶりです。』
『頼む、お前なら上にも顔が利くだろ?何とか入れてくれ。頼む!』
『そう言われても..』
『なら、こうすりゃ良い。そこのキミ、今から俺になりすまして、すました顔して中に入..』
『バカを言うな!幕僚長閣下と参謀総長閣下の指名ということを忘れたのか?』
『閣下の指名?』
『あ、言い忘れてました。こちらの水澤さんがオペレー..』
『余計なこと言ったら、ころす。』
『失礼..』
『何を失礼したの?』
『あ、永嶺秘書官殿じゃん』
『名前、覚えてくれてたんだ。』
『総長閣下に困った時は詩音さん、永嶺さんにも頼れと言われたしね。』
『困ったことがあったら、いつでもどうぞ。』
『なら、そこのヤツも中に入れてやって欲しいんだけど?』
『許可証がない者は中には入れませんよ?』
『キミ、許可証はないの?』
『ウチは許可証どころか、どの戦場でも除け者さ、アホが隊長のせいで..』
『許可証がないんじゃ..』と警備兵
『でも、水澤君は中に入れて欲しいんだ?』
『入れて欲しいって言うか、ソイツの必死さに...ワロタ』
『てめっ!笑ってんじゃねぇよ!』
『あんまり強い言葉使わないことね、余計に弱く見えるわよ。』
『俺は志願1期で伊藤達と肩並べる実力あんだよ...なのに配属された部隊が..』
『永嶺秘書官、この哀れな青年に慈悲を。』
『仕方ない、水澤君に御礼しなさいね警備兵、道を開けなさい!』
『ですが、許可証が..』
『私が許可したの!私が許可証よ!どきなさい!!』
『はっ!』
『永嶺秘書官、ありがとうねぇ。』
『これ位のこと、楽勝楽勝!』
ーー作戦会議ーー
名のある部隊の隊長と副長が居並ぶ
中央に居る幕僚長と参謀総長に敬礼したあと
梶原隊長と西野副長か椅子に座り
水澤と伊藤は、その後ろに立ち伊藤の横に中村も立つ
『見たことない顔だな』と山口喜久参謀総長が中村を見て言う
水澤は『コレはついでのツマミです!』と笑いながら答え
『誰がツマミだコラ!!』
『幕僚閣下と総長閣下の御前である!静かに!!』と主席秘書官の赤城彩花が言う。
『とりあえず事情は後程。』と水澤は答え
赤城秘書官は『では、本題に入ります、先のソウル攻略に於いて、ソンジェの約定違反により
ソウル攻略は中断され、本日を迎えました。
今後について各隊の考えを聞かせてください。』
『第1中隊、池内です、まずは北の栄州を抑え、その後、大田の北の清州を抑え
栄州、清州の東西の防衛線を築くことが第一と考えております!』
『第1大隊、影平、池内君と同じ意見である。』
『第2大隊、森岡、右に同じ』
ぞくぞくと池内中隊長の意見に賛同が出る
『15中隊、梶原、意見は池内君と同じであります。ですが、その先について、後ろに居る伊藤、水澤両名より話がありますが、よろしいでしょうか?』
『構わん。その先について伺おう。』と大田原幕僚長が言う
『伊藤、水澤両名に発言を許可します。』
『伊藤ちゃん出番だぜ!』
『水澤さんも一緒ですけどねぇ?』
『二人で同じこと説明しても仕方ねぇだろ?伊藤ちゃんに任す!ということで、詩音さん、伊藤ちゃんに発言させてあげて。』
『あなたは言わなくても?』と西野詩音秘書官が水澤に聞く
『二人で考えたことだからね!』
『なら、伊藤君、説明を』
『では、発言させていただきます。
まず、先に触れた栄州、清州の横の防衛線と、その中央に位置する堤川に注目していただきたく思います。』
中央のテーブルの上のモニターに韓半島の南半分が映し出される
『見ての通り山岳地帯で、小さな川とその川上に大きなダム、その地形とダムを利用し、敵を一網打尽にしたいと考えております。』
『どのようにして敵を一網打尽にするのか?』と山口参謀総長は伊藤に聞く
続けて伊藤が発言しようとした時
『伊藤ちゃん!ちょっとストップ!!』
と水澤は言って、ぴょ~んと飛び跳ね天井を蹴り、宙返りしたあと扉の前に降り立ち
シーッと指を立てジェスチャーし、扉を勢いよく開ける
サッとなびく黒髪
水澤は『逃がすか!』と言い追いかける
ーー謎の女ーー
廊下を勢いよく走り階段の所で、ようやく捕まえる
『何者だ!てめえ...って女?』
『あの、腕痛いんですけど?』
『悪いが離すわけにはいかないんだよ』
『なら、力緩めて。』
『緩めた瞬間に逃げるだろ?』
『別に。』
『お前?何者だ?参謀部の人間じゃねぇだろ?』
『無礼な!私は大佐よ(ウソだけど)命令します!手を離せ!』
『あいにく俺も大佐なんだわ(大嘘だけど)命令、何者か名乗れ!』
飛び出して行った水澤を追いかけ『水澤君!』と詩音が声をかける
水澤が詩音の声に反応し、詩音の方を見る一瞬の隙を狙い
ガツンと水澤の横顔を蹴り
女は再び逃走する
『くそ逃がすか!』と言い窓を開け身を乗り出し飛び降りる
『ちょっと!水澤君、ここ三階!!』と詩音は飛び出した水澤に言い自身も身を乗り出して水澤を見る
水澤は、ひらりと着地し、一階の階段へ先回りする
『逃がさねぇっての』
コイツまさか飛び降りて先回りして来たのと女は思い
『もう、しつこいなぁ』
『狙った獲物は逃がさねえ主義なんでな!』
三角飛びして逃れようとするが、水澤は動きを先読みし女を再び捕まえる
『もう逃げらんねぇよ!諦めな!!』
『私、諦め悪いの!!』
ガツンと、また水澤を蹴り
走り出す
くそ女じゃなきゃ手加減せず、ぶん殴って取り押さえてやるのにと思いながら水澤は黒髪の女を追いかける
長い黒髪をなびかせながら、廊下を走り抜けて行く
水澤も全力で追いかけ
再度、捕まえようと手を伸ばした瞬間、女は回し蹴りを放つ
水澤は、それを避けて『いい加減、諦めろ!俺から逃げれるわけねぇだろ!』と言いながら女の手首を掴み
女は手首を掴む水澤の手を自身の方へ引き寄せたあと、手首を返し掴む手を振りほどこうとする
『無駄な抵抗すん..』
水澤は言い終わる前に、スルりと手を抜き再び逃走する
くそ面倒な女が!と水澤は思いつつも追いすがる
ちょうど良いタイミングで桜井満理奈が通りがかる
水澤は『桜井さん!その女黒髪の女を捕まえてくれ!』
水澤の言葉に反応し状況はよくわからないけど、とにかく言われた通りに
女の通り道を塞ぐように立ち捕まえようとする
だが、女は桜井の頭上を飛び越えて行く
『えぃっ!』と桜井は手錠付きの鎖の投げ縄を女の足を目掛けて投げる
カシャッと音がして女の足首に手錠が掛かる
逃がさないように桜井はしっかり押さえながら『私のお手製だから、もう逃げらんないわよ!』
『うざっ』そう言うと女は手錠のかかってない方の足で鎖を踏み、鎖を両手で引っ張る
ずるずるガシャンと音がし、女は鎖を引きちぎり、また逃走する
『嘘でしょ?』鎖を引きちぎるとは思っていなかった桜井は驚く
桜井の所に来て『糞、逃げられたか..』と水澤は言い
水澤は、これ以上の追跡は困難だと水澤は思い捕まえるのを止めた。
こうして、謎の女は逃げ去った。
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ーーつづくーー
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