THE LAST STORY>RELOAD< ⑤
ソンジェの裏切りという形でソウル攻略は頓挫し、作戦全体の変更を余儀なくされた半島派遣軍
虎視眈々(こしたんたん)と半島全域の再占領を目論む北韓軍
そして、両陣営の動向を静観している南韓軍
その南韓軍司令官、ユ・ソンジェに会う為に水澤達は大田へ向かう。
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第5話 新たな出逢い。
>>>大田に向かう装甲車内にて
『あーそーだ、詩音さん、これ』
と言って水澤は刀身が歪み刃こぼれした刀を詩音に見せる
『敵を斬り過ぎて、こうなった..せっかく貰ったのに...ごめん』
『刀の一本や二本、どうってことないわよ、ちゃんと守り刀の役割は果たしたみたいだし、また新しいのあげるわ』
話しは遡るが、霧島陣地から岡村田の所へ向かい、その帰りに詩音は水澤に守り刀として、自身の刀を水澤に授け
『先任の閣下から頂いた刀を貴方にあげるわ
貴方が誰かを、そして自身を守らなきゃいけない時に使いなさい』
『先任の総長から貰った大事なモンを貰うわけにはいかねぇよ』
『〝貴方に〟だからこそ授けるの。聞き分けなさい。』
当時、霧島陣地から端を発する反攻作戦を控えた時期
水澤は、安莉とまりあという守るべき人物に仲間が居た
今もその思いは変わってはいない
安莉、まりあ、そして自分に付いて来てくれる仲間
その大切な人達を守る為という前提と詩音の水澤への想いが刀に込められている
『大邱に戻ったら新しいのを授けるから、待ってなさい。』
『新しいのより、これなんとかなんねぇの?』
『そこまで曲がって刃こぼれしてたら、修復より新しいのを持った方が早いわよ』
『でもなぁ..』
『気持ちは嬉しいけど、刀なら色々コレクションしてるから大丈夫、コレクションの中でも上等なモノを貴方に再び授けましょう。』
『刀剣マニアか?』
『抜刀術の使い手の私が刀を1、2本しか持ってない方がおかしいでしょ!』
『抜刀術じゃなく、激剣使いの間違いだろ?』
『どっちもってことで』
『まあ、詩音さん仕込みに、のんちゃん(三崎希望軍医のこと)はなちゃん(稲葉軍医のこと)にも習った実戦向きの刀剣術だからなぁ』
『寒空の下で必死だった貴方が、ここまで強くなるなんて』
『笑うなよ』
『嬉しいだけよ、あの子達の為にも、此処に居る仲間の為にも、強くありなさい。』
そうこうしている内に大田に入る手前で、南韓軍の検問に止められる
南韓軍の兵士に詩音は自身の身分証明書を見せソンジェに会いに来たことを告げる
日本の参謀総長の秘書官みずから、大田に現れたことに南韓軍兵士は驚き
直ぐにソンジェに連絡を取ると言って無線を使う
連絡を終えて、検問を通してもらい
南韓軍の護衛付きでソンジェの居る幕舎に着く
南韓軍兵士が幕舎に入り
詩音を先頭に水澤達も中へ入る
中央奥に太極旗、その前に大将の階級らしきモノを着け胸元に勲章と、その略章をずらりとつけた人物が座っていて左に1人右に2人女性が立っている
たぶん、この真ん中の男がソンジェとやらで、左右の女性は軍服は着てないが秘書官的な人物だろうと水澤は思った。
その男は、流暢な日本語で『西野秘書官が、わざわざ何用で来た?』
『私が来た理由すらわからない程に貴方はバカだったかしら?』
『ふふっ、相変わらずの物言いだな。』
『相変わらずバカそうね貴方』
『くだらん話は、これぐららいにして...』
『おい!コラ!ソンジェ!!』と言って水澤はソンジェに向かって刀身の曲がった刀を投げつける
ソンジェは自身を庇うように頭に腕を伸ばして当たらないように防御する
刀はソンジェの机の前に当たりガシャと音を立て落ちる
『こんぐらいで、ビビってからユシンごときにビビって軍服脱いで逃げ回るはめになんだよ!この糞虫野郎!!』
かつて、自身が晒した醜態を大声で言われて『無礼者!!私を誰だと思っている!』
『今、言ったろ?もう忘れたのか?糞虫野郎!!俺は、俺達は、お前が糞漏らして大田に逃げやがったおかげさんで、ユシンとヤンジヌに包囲された挙げ句
航空隊の犠牲を払ってまで
その包囲をぶち抜いて此処に来たんだよ!』
『貴様のようなモノがユシンやヤンジヌの包囲を抜けられるはずはないだろう嘘をつくな』
『彼らは本当にユシンとヤンジヌの包囲網を突破して帰還して来たわよ
ごらんなさいな、その曲がって刃こぼれした刀を』
ソンジェは少し身を乗りだし刀を見る
『ふん、刀ぐらいで包囲を抜けられるならソウルどころかピョンヤンも落とせるだろう、イルボン(日本人)の戯言に付き合ってられん
さっさと用件を言え!』
『約定違反をしておきながら何て言い方をするの?』
『そのことなら、ユシンが来た時点で敗北は見えていた為、兵を引いただけだ。』
『ユシンが怖くて逃げたの間違いだろ?』と川中が言い
『お前?一回さ死んでみるか?俺が殺してやんよ』と指をボキッボキッと鳴らし榊が言う
『待て待て!ソンジェとか言う糞はバキュームカーの出番だろ?』
黒木の洒落の効いた嫌みに水澤達は大笑いし
ソンジェは顔を真っ赤にして『この※チョッパリ共が!!』
【※日本人に対する侮辱の言葉】
『ちょっぱる?何を?ちょっぱるんだよ?ソウルをか?』
【※ちょっぱる 九州の方言で盗む、または、かっぱらうの意】
三上が黒木に続きソンジェを、とことんソンジェを煽る
これにはたまらず詩音も吹き出してしまい
皆でゲラゲラ笑っていると
『日本の皆さん、ソンジェさんをバカにする為だけにここに来たんやったら、直ぐに帰ってください。』
とソンジェの左に居た女性が関西訛りの日本語で言う
水澤は訝しげにしてたら
川中が『なんか見たことあると思ったら、ナインスのサヤじゃん、それにツユとナユン』
『ナインス?』と水澤が川中に聞き返す
『知らないんすか?日本でも有名だった韓流アイドルっすよ?』
『すまんが知らん。』と、きっぱり水澤は言う
『ナインスのナインの由来は9人組のユニットだからよ』と詩音が説明し『確か、戦争開始時の北韓のソウル攻撃でメンバーが何人か亡くなったとか言う話だったかしら?』
サヤは『私とナユンオンニ、そしてツユだけが何とか生き残りました。』
『そうか、それは失礼した。』まあ知らんけどと思いつつもサヤの姿が意識の中に居る安莉に重なる
水澤は頭をブンブンと振り雑念を払いのけ
『バカにしに来たわけじゃねぇよ!けどな、戦わずして逃げるなんざ男のすることじゃねぇだろ?しかも軍人なら尚更じゃねぇのか?
ソウルはお前らの首都だろ?それを取り戻すチャンスをユシンが来た時点で敗北が決まってただと?
糞みたいな言い訳してんじゃねぇよ!ソンジェ!!』
『そこのキミは言葉使いがなっておらんな、西野秘書官、しっかり教育しておりいてくれ!』
『は?誰に物を言ってるか、わかってるの?私は山口参謀総長の名代として此処に来ています!ソンジェあなたこそ無礼です!』
『おい!ソンジェ!!』
バキッゴツッバキッと水澤はソンジェを殴り『約定違反して、ユシンごときにビビって逃げて
そして、そこの、ナインなんちゃらの生き残りに申し訳ないと思わねぇのか!
本来ならお前らがソウルを奪還して見せて、そして、その子達の代わりに仇を討つのが筋だろうが!』
更にもう一発殴って『榊!旗を』と言い
榊は懐から旗を出して水澤に渡す
『ソンジェ、この旗が何か解るか?』
『チョッパリの旗なぞ知らん!』
『ソンジェ!!』
水澤はソンジェの体を持ち上げ思い切り太極旗がある方へ投げ飛ばす
ドンッと太極旗が置かれている壁にぶつかり床に落ちる
そのソンジェに水澤は怒りの眼差しのまま、近づいて行く
水澤からソンジェを守ろうと南韓軍兵が近づき止めようとしたが、水澤はノールックでバックブローの裏拳を飛ばし南韓軍兵士を殴り飛ばす
顔を抑えているソンジェの目の前に来た水澤の前にナインスの生き残りのナユンが両手をひろげ道をふさぐ
『どけ!』
『とかない!』濁音の抜けた日本語
ナヨンは生まれも育ちも南韓、日本語はメンバーのサヤや、他に居た日本人メンバーに習ったモノだ
『どかないなら、お前にやるよ。』
旗をばっと広げる
韓半島のマークが印刷されている半島統一旗
『日本の日の丸じゃなくて残念だったなソンジェ、お前が俺達日本人を下に見てんのは、チョッパリの一言で良くわかった。
だがな、忘れんなよ、俺達は同じ敵に立ち向かわなけりゃならない
例え、お前が逃げても、逃げた先にまで戦争が追いかけてくるぞ
その追いかけてくる戦争を逆に追い散らして叩き潰した時に戦争は終わる
お前達の同胞が南北に分断されている悲劇も同じように終わる』
『あなたは日本人なのになんてたたかいに来たの?』
『日本は核の攻撃にあい、そして、一時的とはいえ滅亡しかけた。
つか、んなことより、日本人だの、北だの南だの、そんなモンにこだわって何になる?
互いにいがみ合い争う為か?』
『....。』
『人なんざな、何処で生まれようが同じ人間だろうが!北だの南だの、民族だの宗教だのなんだの
ぐちゃぐちゃ抜かして争ってバカらしいと思わねぇのか?』
『同じ人間やからってゆーても相容れへんこともあるやん』
『相容れないのは同じと思ってねぇ証だ!
さっき、ソンジェが俺達にチョッパリって言ったように相容れないモンを大事に持って争う理由を作り続けてんだけだろ?』
『水澤くんの言葉は、本当にいちいち的を射るから、感心するわ』
『まあ、俺らの兄貴っすからね!他とは訳が違うっすよ!』と榊が言う
『ソンジェさん、日本の...ううん、同じ人間として、手を取り戦いませんか?』
それまで、ずっと黙っていたツユがソンジェに問いかける
『わたし台湾出身だから、よそ者の言葉はきけませんか?ソンジェさん?』
『ツユは、決してよそ者ちゃうやん、ナインスの仲間やろ?家族やろ?』とサヤが言い
『ツユ、同じ人間、仲間よ』とナユンがツイを抱きしめる
『ユ・ソンジェ!お前がもし、俺達と相容れないのならお前を叩き潰し抵抗する奴は北だろうが南だろうが俺が掃除するゴミとして、この半島から一掃させてもらう。』
水澤の言葉に続いて
『日韓相互協力協定の名の下に日本国と南韓民国は協力関係を保持し双方ともに約定の履行をしなければなりません。
今回のソウル攻略において貴官の判断は誤りであったことを認め
今後二度と約定違反を犯さないことを強く要求します。』と詩音が言い
サヤ、ナユン、ツユはソンジェを見る
ソンジェはムッとした顔で立ち上がり【この屈辱忘れぬ】とハングル語で言い
ナヨンの手から統一旗を取り上げ
『大元を辿れば日帝が我々民族の悲願を生んだ犯人だ
今更の約定など守る価値もない、そこのお前が我々を一掃する前に我々がチョッパリ共を一掃する』
『なら、直ぐにやり合うか?てめぇらごとき此処に居る俺達だけで全滅させてやるぞ!』
水澤は高く飛び上がり天幕の支柱を蹴り一直線にソンジェの方へ飛び
『やめてーーー!!』
水澤とソンジェの間にツユが飛び出し
水澤は空中で体を捻り、ツユにぶつからないようにした為、少し空中でバランスを崩しながらツユを避けて横に転がり片膝を付いて着地しツユの前に立ち
『いきなり飛び出すなよ、危ないだろ』
そして、ソンジェに向かって
『お前、本当にバカだろ?南北分断は当時の米国とソ連が分割占領したことが、きっかけだろうが!歴史もわからんアホが偉そうにしてんじゃねぇよ!』
ツユの方を見て水澤は『ツユにサヤ、ナユンだったか?お前達に免じて今日は引き上げておくが、過去を引き摺る大将は大将にあらず
凡人には非才非凡なる知勇兼備の西野詩音様にはかなわないだろう
そして、その上にいる参謀総長閣下にもな。』
そう言って水澤は『なら、引き上げるぞ野郎共!!』
『私は野郎じゃないわよ』
水澤は『言うと思った。』と笑い
『本当に引いて良いんすか?』と黒木が聞く
『ツユ、サヤ、ナユンの勝ちだ。』
『はぃ?どう言う意味っすか?』
『そんなこともわからないで水澤くんに付いて来てるのあなた達は?』
『良いんだよ、それでも榊達は俺の仲間だからな!』
ソンジェを殴られた上に水澤という男の並み外れた身体能力を見せつけられ
南韓兵士は後退り道をあける
金髪に黒い服の水澤という存在は金糸髪の黒い悪魔のように見えたらしく
ソンジェら南韓軍に強烈な印象を残した。
そして、水澤達は大田から大邱方面へと向かう。
大邱の手前で15中隊本隊と合流し、詩音を大邱に送り届けた後、北韓軍の来襲が予想される為、一時駐屯し臨戦態勢に入る。
THE LAST STORY>RELOAD<
第6話 切り札を切るなら、もう1つ奥の手を持て。
へと
ーーつづくーー
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