THE LAST STORY>DOUBLE00< 安莉とまりあと...。
それは4年前のこと
『まりあちゃん!行くよ!』
キラキラと輝くような弾ける笑顔で同僚の赤坂安莉が呼ぶ
『うん。』そう静かに答え
森下まりあはスタジオに向かう
いつもの光景、いつも通りのこと
それが私の日常だった...
あの日までは
ねぇ!って感じに安莉はまりあの肩をツンっと押し
一枚の紙をまりあに差し出す
その紙にはスケジュールが書き込まれている 上から順番に目を通す
え?嘘...? まりあは自身の口を手で抑え驚く
良かったねっと安莉はまりあに言う
(水) 森下まりあ 【ロケ】
念願の外ロケ..
いつもスタジオからしか仕事をしたことがなかったというより予報士だからスタジオからが当たり前なことだけれど
ずっと憧れててやってみたいと思っていたロケが思わぬ形で叶うことになった
スタッフや共演者、そして安莉からのサプライズ
頑張ってね。安莉は優しく まりあの肩越しにスケジュールのロケの部分を指差しながら微笑んだ
念願のロケ当日
ロケが決まった日から実は まりあは緊張していた
ロケが出来ることが嬉しくてツイピク(Twitterのようなモノ)にツイしていた
自身のロケ先やロケに関する想いなどを
スタジオとは違う緊張感
スタジオとは違う空気感
初めてだらけで極度に緊張もしたけれど 安莉や共演者のアドバイスをロケが決まった日から当日まで色々聞き
自身の中でシュミュレートもして来た
ロケは順調に進み
少し休憩時間を取ることになり
まりあは日陰に入りロケスタッフ達に『初めてにしては良い感じだね』等と褒められたり、自身の出演している番組を『いつも見てます、頑張って下さい』等の声に嬉しさが溢れ
スタジオからじゃなく外に出て人々と触れ合うことも大切なことなんだなぁと思った
森下まりあ気象予報士さんですよね?
その声の主の方に まりあは振り返る
前身黒い服に身を包み春だというのにハイネックを着て帽子を深くかぶり、少し怪しげな雰囲気を感じた
目の前に居るその人はテレビで見るより綺麗な人ってベタなこと言うのも何なんで『お会い出来て嬉しいです』って感じなんですけれど...
私もお会い出来て嬉しいです
あの...っと言いながら携帯の画面をまりあちゃんの方に見せる
____"緋音"____
まりあちゃんは そのアカウント名に見覚えがあった
今、自身の目の前に居る人間が誰なのかがアカウント名とは言うものの
わかった まりあは『いつもありがとうございます!』と言い頭を下げる
緋音というアカウント名を持つ者は『こちらこそ』と答える
森下さん、スタンバイお願いしますとスタッフに呼ばれる
ごめんなさい。時間が...と 言いかけた時
『お仕事頑張ってくださいね。』と緋音は答え
まりあとは反対の方角へと歩き出す
再度、スタンバイをとスタッフに呼ばれ
まりあは『すぐ行きます!』と言いロケチームに合流する
ほんの数分..いや数十秒のことだったかも知れない
"緋音"というアカウント名を持つ者
自身が九州に来て出演し始めた頃からコメントやリプ等を続けてくれていた数多くいるフォロワーの中に居る1人に過ぎないけれど
自身を見て"嬉しい"と言っていた言葉に比して
その瞳は『笑うことなく どこか寂しげ』に感じた
ロケ自体は成功といえる程に感触も良かったしロケしたコーナーも反響は良かった...けれど..緋音というアカウント名を持つ者から
そのことについても、それ以外のことについても何もアクションはなかった
ロケ日を境に緋音は1度、姿を消した
私達の手元に一枚の手紙が届いた
封書に差出人の記入のない手紙
内容は『ファンレター』という形を成さないモノで
今後に起こること、注意すること、そして..."そうなったら逃げろ"と...
文末の一番下に小さく【緋音】と記名されていた。
そして緋音からの手紙は
戦争勃発の3年も前のことだった。
ーーAfter 3 yearsーー
休日のカフェ
平和な週末、いつもと変わらない日常
『ねぇ!まりあちゃん』
『ん?なーに?安莉ちゃん』
『あの手紙、もう一度見せてくれない?』
『手紙?』
『そう手紙、緋音って人からの』
なんで今頃とまりあちゃんは思ったみたいだけど私は確認したいことがあった
まりあちゃんは自身が貰った手紙をいつも鞄に入れ持ち歩いている
鞄から緋音からの手紙を取り出そうとした時
けたたましく、物騒なアラーム音とサイレンが鳴る
ちょっと何?
私もまりあちゃんも辺りをキョロキョロと見回す
市の防災無線放送から信じれない言葉を聞く
"北韓より飛来した飛翔体のひとつ名古屋市に落着し同市にて核爆発を確認"
という耳を疑いたくなるような内容に二人は携帯の画面の防災メールの画面をスライドさせ内容を再度確認し
まりあはスタグラのDMを開く
『ちょっ信じらんない..』
まりあは自分の口を押さえる
まりあの様子に安莉は、どうしたの?と聞く
まりあは携帯の画面を安莉に見せる
安莉は目を見開き口元に手をあてる
アカウント名 緋音
そして、短い文面の中に
"近日中に戦争が再び始まる" という文言
今、二人が耳にしたサイレンと無線の内容
まりあと安莉は互いに顔を見つめ互いに少し頷いた後
カフェの支払いを済ませ
まりあの部屋へ行く
すぐさまテレビをつけ各放送局の臨時放送を見る
安莉は自分の鞄からメモを取り出し各放送局の情報を自分なりにまとめ始める
キャスターとして報道に携わる自身の使命とは?正確な情報を視聴者に届けること
安莉はチャネルをザッピングしながら情報を集めゆく
まりあも、少しでも安莉や番組の役に立つ情報をと思い懸命に調べる
『まりあちゃん、手紙貸して』
『うん。わかった。』
緋音が、まりあに送った手紙
序の部分は飛ばし重要な部分に目を止める
【"北韓侵攻と同時に日本のいずれかの都市に核による攻撃がある"
そして
"南韓と日本は半島において敗北し、この九州へ北韓は侵攻すると思います
なので、北韓が南韓にある日本軍の一大根拠地 大邱市を制圧した場合...戦禍を避ける為に大邱陥落以後は
"早く日本国より脱出"してください。"】
目を通し終わった安莉が
『大邱...ね』と呟く
『大邱?』
『そう大邱』
私も、まりあちゃんも大邱という地名ぐらいは知っていた
私は、まりあちゃんが
この手紙をもらった日から大邱だけじゃなく【第一次半島統一戦争】について少しは調べていた
韓半島で起きた多大な犠牲をだした同じ民族同士の悲劇的戦争
南韓軍と国連軍は北韓との停戦協議のテーブルに付き北韓、国連軍との間で停戦合意し第一次半島統一戦争は終わった
それから70余年の歳月を経て再び韓半島で戦争が再勃発した
アカウント名 緋音
ただ緋音という名で私の前に手紙という形で現れて"もしもの場合は国から脱出" して欲しいと伝えてきた
例えそれでも...
まだ...私達は自身に忍び寄る戦争の惨禍に気づけてなかった。
『お疲れ様でした』
番組生放送を終えデスクへと私は戻る
『まさかまさかのまさかよね...北韓に良いようにやられすぎでしょ!』
バンッと放送で使った原稿を机に叩きつける
『ちょっと安莉ちゃん』
その様子をなだめようと、まりあは近づく
『まりあちゃん..。』
『仕方ないよ安莉ちゃん』
北韓軍の侵攻の速さに日本側は大邱を目の前にして敗退し釜山近郊での防衛戦を余儀なくされていて
戦局はお世辞にも日本側に優位とは言い難い状況下でした。
ブーブーッと机の上の携帯が震える
まりあは携帯を持ち上げ画面をみる
『緋音サン...』
まりあの言葉に安莉は肩越しに画面を見る
まりあちゃんが番組前にアップしていた天気予報のツイに緋音からの2年越しぶりのリプ
【毎日、気象情報ありがとうございます。お天気と関係なくて申し訳ないのですが、大邱失陥から現行は釜山防衛戦の様子
以前、お手紙にて申し上げましたことを実行してください。】
『手紙に書いたことを実行...って..簡単に言うけどさ...こっちは仕事もあるってこと忘れてない?』
私が不機嫌そうに言うと
『それはそうなんだけど...緋音サンは緋音サンなりに心配してくれてるんだよ。』
『心配してるのは、有難いけど仕事が』
『え??』
まりあはクスクスと笑う
『それ以外、何があるって言うのよ?』と言いながら私も笑う
『安莉ちゃん笑ってるし』
『だって可笑しいんだもん仕方ないでしょ!』と言って再び笑い出す
『だけど、本当にさ、北韓軍が九州に侵略しに来たら..』
『その時はその時で事前に軍なり国からなり情報ぐらい出るでしょ!そして私たち報道に携わる人間のやることは、ひとつ!』
『より正確に分かりやすく情報を伝えること!』と二人は声を合わせて言い
お互いの顔を見つめ笑いあう
いつの日にか、あなたが言う
その時を迎えた時、私たちは自分の使命を
まず、全うしなきゃいけないのです
ごめんなさい 緋音サン
そして私達のこと心配してくれて、ありがとう。
ーーAfter 3 monthsーー
緋音という名のアカウントが水澤さんだと言うことを私達は気づいてました。
でも、キャンプ場で貴方は何も言わず
私達も、あえて何も聞かないでいました。
時の流れの中で消えて行った緋音
時の流れと共に姿を見せてくれた水澤さん
貴方が最後に緋音として残してくれた手紙
緋音 message
___Maria and Anri___
序 :釜山陥落の報に際し
お二人の人生史上最大の悲劇が今
お二人の世界を包み壊して仕舞おうとしています
やがて来るであろう悲劇の犠牲に、お二人がならぬことを無力な私は切に願うのみです
ご聡明なお二人のこと、賢明な判断をされることと思います
重ね重ね、申し置きますことは真実も事実も権力側の勝手な都合で歪められてしまうことがあります
報道に携わる身であるから政府発表の全てが正しいことと妄信されずに逃げてください。
そして戦禍を逃れました時には、どうか、お二人の幸せの中から私の名前を抜いて忘れてください。
どうか福岡での幸せな思い出だけが、お二人の中に残りますように。
赤坂安莉様 森下まりあ様へ
202×年×月×日 緋 音
釜山陥落の2日前に届いた 私とまりあちゃんへのメッセージを最後に緋音サンからのアクセスはなくなりました。
ーーday after tomorrowーー
Maria & An_ri Letter
人は一生の内に、どれだけの方と出会うのでしょう
この緋音さんからのメッセージの数ヶ月後に緋音さんは水澤さんとして私達を助けてくれましたね。
そして、あの時メッセージは私とまりあちゃんの気持ちを貴方は察してくれたんじゃないかと思います
自身の職業を全うしなきゃいけないこと=自身を危険に晒さなければならない
使命感と義務感
だけど、命の方が大切なんだよって、そんな当たり前なことを私達は自身の使命感を優勢して、ご存知のようになってしまって
本当にごめんなさい。
202×年 5月初旬
赤坂 安莉より 緋音様こと水澤さんへ
続きは、まりあちゃんに託します。
まずは、あの日に伝えられなかったことだけお伝えしますね
私は大切にしてた小鳥達を広い世界へ旅立たせました
何処までも広がる青空に、あの子達は嬉しそうに羽を広げ飛び立ちました
飛ぶことも出来ない私と安莉ちゃんは一生涯かけても他の人が手に出来ない想いという名の宝を貴方から頂き手にすると思いもせず、想像すら出来ずに今日まで過ごして来ました。
初めてお会いした日にあなた方はとても寂しげな瞳をされてましたね
いつか貴方が本当の笑顔を取り戻し笑ってくれる日が来るように祈っています。
202×年 5月初旬
森下 まりあ
ーー久留米ーー
桜が舞う季節に半島へ戦いに行った水澤さん
健気に咲く、あの桜のように強く生きて。
そして、必ず帰って来てください!
この手紙を三崎軍医に渡してあります。
水澤さん、命をかけて希望という名の未来を〝私達と共に〟迎えれることを心から願っています。
そして、水澤さんが何故?3年も前に戦争を予見していたのか?も次に逢った時に教えてくださいね。
赤坂安莉、森下まりあ。
私達は3年越しの返事を書き水澤さん達の無事を祈り願い
葉桜の季節に半島にいる貴方を想う
黒き疾風、金糸髪の迅雷、水澤さんと怒涛の日々を送った九州から半島へ
言の葉に乗せて、願いが叶いますように。
THE LAST STORY>DOUBLE00<
ーーおわりーー
ーーーーー
THE LAST STORY>RELOAD<
ソウルにて危機に瀕している伊藤達は危機を脱することが出来るのか?
そして、いまだ戻らない水澤は?
次回、決死の脱出。
今週中には更新したいと思っています。
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