THE LAST STORY>Four-leaf clover< ⑪―1
THE LAST STORY>Four-leaf clover<
第11話 Death match
――怒りの矛先――
ジョンデとの戦いの翌日
霧島へ戻る身仕度を終えたあと、西野詩音は、独り校舎裏の墓地に来ていた。
〝貴方達の罪なき命が天国にて安らかに過ごせることを、そして、その死を無駄にはしないことを誓います〟 そう祈りながら、詩音は静かに手を合わせ戦死者の冥福を祈る
〝罪なき命が失われないよう全力を尽くす〟と言う
水澤の言葉が頭をよぎると詩音は自然と涙が溢れ頬を伝う
全力を尽くし、彼は水澤くんは確かに約束を果たしてくれた
ジョンデとの戦いで戦死者を出さず、此処にも敵を寄せつけずに守り通した。
詩音の脳裏に、大邱にたどり着けずに散っていった将兵達の姿
そして、前任の佐藤優季参謀総長の姿
これまでの戦いの記憶が駆け巡る
これまでせき止めて来た想いが、ダムが決壊したかのように溢れ出し
詩音は膝をつき嗚咽し哭いた。
そんな姿を見ていた誰かが叫ぶ
『この人殺し!私の家族を返せ!』と
詩音は声のした方向に涙を拭いながら振り返る
そこには、若い女性が立っていた
たぶん、お墓参りに来た時に私が居たので、そう言ったんだと詩音は思った
多分、此処で臨時に軍属として徴用した人で、あのジョンデの悪しき企みで命を落とした方の家族
詩音は『取り返しのつかないことになってしまって、本当に申し訳ありません。』と深々と頭を下げた
『謝って済むと思ってんの?この人を沢山殺した人殺し!あんたさえいなければ...』
『嬢ちゃん!そのへんにしときな!』
聞きなれた水澤の声
『水澤くん、良いのよ、私は責められても仕方ないでしょう。』
『良いわけねぇだろ!』
『あんたも同じ人殺しのくせに!あんたも死ねば良いのに!』
『悪いが、今はまだ死ぬわけにはいかねぇんだよ。だいたい、責める相手を間違えてんだよ
責めを負うのは、勝手に先に往ったヤツの方だろ?』
『はあ?あんたと、そこの女が無理やり兵隊にしたせいで..』
『勘違いしてんじゃねぇーよ!』
『水澤くん!やめなさい!本当に私が悪いんだから。』
『悪いと思ってるなら...』
『いい加減にしやがれ!前に俺が言ったことを忘れたのか?
恨むなら、時代を恨め、憎むなら自分をと言っといたはずだ!』
『あんたの勝手な言い分なんて関係ない!あんた何様のつもり!』
『関係ねぇなら黙ってろ!ギャーギャー喚いてんじゃねぇよ!』
『水澤くん!言って良いことと悪いことがあるでしょう!私を庇ってくれてるつもりかも知れないけど、その言い方は無いわよ!』
『関係ねぇことに、いちいち噛みついてる時点で矛盾してるだろうが!
関係ねぇなら失せろ!面倒くせぇ!』
『もう、いい加減になさい!』
バシッと乾いた音
水澤の言葉に堪り兼ねた詩音は水澤の頬を叩いた
『水澤くん!命令よ!黙ってなさい!良いわね?』
『んな命令は聞かねぇよ、だいたいモノをわかってねぇガキの能書きに付き合ってる場合じゃねぇだろうが!
さっき、15中隊の隊長さんから緊急の無線が来てたぞ
リョ・ミンスとか言うヤツが、こっちに向かってるってな』
『リョ・ミンスが此処に?』
『ああ、無線を受けた伊藤が言ってた』
リョ・ミンス、チョ・ソンミンの懐刀的存在
ジョンデ以上の強敵が此処に向かっている
詩音は『そこの貴女には申し訳ないことをしたという想いは本当です
ですが、そうせざるを得ない事情があったことを、どうか御理解ください。』と言い詩音は深々と頭を下げる
『謝って済む問題じゃないって言ったでしょ!』
『軍として、国家として出来うる限りの補償は致します!今はそれしか言えませんが約束致します!どうか、ご容赦ください!』
『はあ?補償するって何さ?どう責任...』
『あんたバカ?私、言ったよね?水澤さん達を責めるのは私が許さないって忘れたの?』
水澤の叫ぶような怒鳴り声が聞こえた赤坂安莉と森下まりあが校舎裏に来ていた
『もう一度、確認するけど、私がこの前に言ったことを聞いてました?それとも忘れたの?』
『うるさい!あんたに私の気持ちがわかる?大事な家族を殺された気持ちがわかんの?』
『あなたの家族を殺したのは水澤さんでも西野さんでもないでしょう?敵に殺されたんじゃない?
文句を言う相手間違ってるわよ』
安莉は今の内にと水澤に目配せする
安莉の意図を理解し、水澤は詩音の腕を引き
その場を離れようとする
『待ちなさいよ!話はまだ終わって..』
『話なら、私たちが聞くから、言ってごらんなさい!』
安莉はまりあと共に間に割って入り
緊急の無線が告げたミンス来襲に備える策を話し合う為『赤坂さん、ありがとう。』そう詩音は御礼を言い校舎内へと急ぐ
二人の後を追おうとする女性を引き止め
『私たちが相手するって言ったでしょ?』
女性の前に立ちはだかる
『なんなのよ!あんたら!ムカつく!』
『気が済むまでやり合います?』
『気が済むことなんてあるわけないでしょ!家族殺されたんだよ!わかってんの?』
『だから、それは敵が悪いのであって、水澤さん達が悪いわけじゃないって言ったよね?人の話を聞いてた?』
『まあ、家族を殺されて辛いのも悲しいのも、誰かに怒りたいのもわかるよ
わかるけど、安莉ちゃんが言うように、怒りをぶつける相手は水澤さん達じゃないよ?』
『本当、それ、相手間違って言いがかりつけてるから私は違うって言ってんの!』
『でも、あの女と水澤ってヤツが...』
『水澤さんでしょ!あんたね?水澤さんの何を見て来たの?命を賭けて私たちを守ってくれたこと忘れたの
?』
『水澤さんは、キャンプ場で敵に襲われた時に敵に殺されたかけて、酷い傷を負ってまで私達のために戦い抜いてくれたことを忘れないでください!』
『昨日だって、あなたの家族を殺したジョンデって人を倒して、私達を守ってくれたんだよ!』
『だからってわけじゃないけど、もう水澤さん達のことを悪く言ったり恨んだりしないでください。』
『なら、なんで..あの日に私の兄を助けてくれなかったの...両親を早くに亡くして、唯一の家族だったのに守ってくれなかったじゃない...』
安莉もまりあも、この女性の気持ちは痛い程にわかる
もし、自身の家族を殺されたなら、やり場のない怒りや悲しみのぶつける場所が
自然と近い人物に向いてしまう
しかも、水澤は臨時の徴用の決定に絡み、あの日、壇上で発言した人物
その決定を下した詩音
矛先は、そこに嫌でも向く
だけど、矛先を本当に向けなければならない相手を安莉とまりあは知っている
『水澤さんだって守りたかったはず、だけど、守れなかったのは、あの事件には敵の思惑があって
それの思惑は水澤さんが未然に防いでくれた
貴女の気持ちの本当のぶつける相手は敵の北韓軍
北韓軍が戦争を起こさなかったら、貴女のお兄さんは死なずに済んだはず』
安莉は女性の目をしっかりと見つめ
『水澤さんは言ってたよ?この戦争という時代に生まれさえしなかったなら輝かしい未来を送っただろう大切な命が失われずに済んだはず
そして、自分が戦い抜いて希望という輝かしい未来を皆さんに渡したいって。』
『そんなの綺麗事じゃない...』
『違うわ、その言葉を現実にする為に、水澤さんは戦ってるじゃない』
『水澤さん自身の命を賭けて危険をかえりみずに、私達を守る為に戦場に行き戦ってくれてるじゃないですか』
『....。』
女性は無言で、自身の兄の眠る墓の前に行き
ぺたんと座り、涙を流しながら『お兄ちゃん』と言って泣き続ける
安莉とまりあは傍に行き女性の両側に座り女性の肩を抱き『お兄さんの無念は水澤さんが必ず晴らしてくれるから信じてあげて、今までの水澤さんも、これからの水澤さんを』
女性は泣いていたが、少し頷いたように見えた。
時の流れは残酷で、巻き戻してやり直しが出来ない
もしもなんて、考えても仕方がないこと
だけど、人はもしもを考えてしまう
もしも戦争にならなかったら、もしも、あの日に戻れたならと...。
悲しみに震える肩を二人は優しく包み
その震えが収まるまで寄り添い続けていた。
――互いに思いやること――
『水澤くんは、もう少し人に対する思いやりの言葉を口に出来ないの?
家族を殺された人に言って良い言葉じゃなかったわよ』
『別に良いじゃん、それで詩音さんから俺に恨みの矛先が向くならさ』
『私は自分の責任を貴方に押し付けるつもりはないわよ』
『そんなんわかりきったこと今さら言われてもなぁ
つか、安莉ちゃんはいったい何を言ったんだろ?』
ふふっと詩音は笑い
『そんなのわかりきったことでしょう
貴方が私を庇うように、あの子達は、貴方を庇おうとしてるだけよ』
『俺は別に庇われる必要ねぇよ』
『おかしな話ね、互いに意図しないところでつながってて、庇い合うなんて』
『だから、庇われる必要ねぇ~っての』
『それでも、あの子達は貴方を庇い守りたいのよ
貴方が命に代えても守りたい相手でしょう
そんな相手に庇ってもらえて嬉しくないの?』
『だから、別に必要ねぇし
俺には俺の考えがあって悪態ついてん..いや、今のは忘れろ』
『何を企んでるのかしら?』
『だから、忘れろ』
『言いなさいよ』
『そんなことより、今はミンスとやらの対策を考える時だろ』
『はいはい。まあ、そのうち教えてくれたら良いわ
力になるから』
『だから忘れろって』
『それは無理かなぁ、私、記憶には自信あるから』
『くそ、女の子じゃなかったら記憶飛ぶほど殴るのに』
『女の子って、私のこと?』
『女だろ詩音さん』
『でも、女の子って歳じゃないわよ』
『年齢なんざ、ただの数字だろ?気にするだけ無駄無駄』
『話そらしたつもりかも知れないけど、忘れないからね』
『もう!勝手にしやがれ!』
水澤、詩音、そして、安莉とまりあ
それぞれに互いを思いやり
言葉や態度で示すことで真実味を帯びる
人として大切な心の美しさこそが唯一無二の正しさと信じて
自身の信念という名の正義を貫いて行く。
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――つづく――
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