THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story ⑩―4
THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story
第10話 Moonlight その④
イ・ジョンデを撃ち破った水澤さん達は、誰ひとり欠けることなく帰還し、負傷したのは水澤さんだけという結果に終わったわけですけれど
負傷の理由が、ジョンデを殴り過ぎちゃって手に打撲傷という、ちょっと可笑しな話で
だけど、この勝利は私が思うには、水澤さんの作戦勝ちという部分もあるんじゃないかなぁと私は思う
明らかな戦力の差を覆して壊滅的打撃を与え、ジョンデを討ち
この戦争の最初期に西野さん達を敗走に追い込み
当時の参謀総長さんの敵討ちにもなってるように私は感じてました。
水澤さん自身は、たぶん自身達に降りかかる火の粉を払ったに過ぎないのかも知れないし、相手がジョンデだったこと念頭に西野さんに代わり自身が前任の参謀総長さん敵討ちの戦いだったのかも知れない
もしくは、その両方を兼ねた戦いだったのかも
自身に降りかかる火の粉を払うことは要するに私達を守ることにも繋がってる
出撃前に水澤さんの心の内は私は聞いてたし
守る戦いの結果に敵討ちが付いたとも言えるのかも知れない
結局のところ、真実は水澤さんの中に在るんですけどね
私は三崎軍医の処置を受けてる水澤さんを見ながら、そんな風に思っていました。
一通りの処置を終えた水澤さんは、三崎軍医にお礼を言って医務室の窓から外を眺めていました。
何を見てるのだろうと思って私は水澤さんの隣に立ち
同じように窓の外を眺めていました
水澤さんは『本当に、つくづく厄介な連中だ。』と独り言を言い
私は『厄介な連中?』と聞いてみると『未だに、自分達には関係無いと思ってるんだろ連中は』そう答えて『あ、今回の戦いに参加しないでいた人達のこと?』
『参加しなかったんじゃなく、邪魔だから参加させなかっただけ
伊藤には悪いが、あの失敗の二の舞は踏むわけにはいかなかったからね』
あの失敗..此処で起きた脱走者を捜索に出た伊藤さん達が敵と遭遇し戦闘した時のことを言ってると私は、すぐに理解して
『初めて此処で死傷者が出てしまった時のことですよね...』
『まあ、過ぎたことを今さら言う気はないよ、あの一件以来、伊藤も反省して俺らと歩調をあわせてくれてるしね』
『伊藤勇二さんは良い人そう』
『ああいうのは、お人好しって言うか、頭でっかちなヤツじゃない
たぶん、アイツは俺を立てて裏方になろうとしてる』
『裏方に?』
『伊藤勇二、あの男気と頭の回転の早さに理解力の高さ、そして動きも俊敏で無駄がない
今回の戦いで、それを目の当たりにした
あの詩音さんが、自分の傍に置いておきたい人物と見込んだことはある』
『なにを話してるのかなぁ~?』と私達の話しに里山星看護官が割り込んで来て
『大した話じゃない、伊藤が凄いって話と...あとなんだったっけ?』と私に水澤さんは話をふる
『厄介な人達の話』と私は即答しました
『それそれ!』と水澤さんは答え
『厄介な人達って?』と里山看護官は聞く
『今回の戦いで俺達は勝利し帰還したけど、連中は、その勝利を聞いても
次は自分達もと言う気概も意欲も感じないって話』
『口先だけ勇ましい事を言う人は必ず責任を取らずに逃げる。此処に居る大半の人達、特に無理やり兵隊にされたと思ってる人達なら尚更そう』と里山看護官は腕組みして言い
『まあ、わかりきった答えだけど』と付け加える。
私は『それに比べたら、水澤さんは言葉に行動も態度も、しっかり伴ってますよね!』
私が今まで感じてたことを言葉にした。
すると、私達の会話を聞いていたのか、稲葉華凜軍医が
『誰かの正解は、他の誰かの正解じゃない場合もあるし、だけど、彼らは
自分がそうだから他の誰かも同じと思っていると思い込んでしまってるから
自分には関係ないと思うんじゃない?』
その言葉をきいて私は
常識なんて脆いモノで、ひとたび誰かがそれは違うと言い出し、それに同調する誰かが増えいくと
それまでの常識は常識でなくなる
そんな世の中だから、何が正しくて間違いなのかを自分で見て感じる必要があるんじゃないかと私は思った。
これまで当たり前だと思っていた日常が戦争という想像だにしなかった状況に今
私達は居るから尚更にそう感じる。
水澤さんは『まあ、誰それが、どうとか、何とか、関係無い
最終的には自分が〝どうしたいか?〟だけだろう
逃げ打つなら、一生逃げりゃ良い
それでも臆面もなく胸張って生きれるならな』
『でも、人は変化を恐れる生きモノよ、変わろう、変わりたいと思っても本能的に変化を恐れてしまうから
なかなか踏み出せないの』と稲葉軍医さんは言い、更に言葉を連ねる
『だけど、本気で変わろうとして変わった人も知ってるわ』と言って水澤さんを見る
『水澤くん、あなたの事よ、出逢った当初はバンガローに引きこもりさんだったけど、だけど、私が思うには、あなたは山の中で戦ってる時から変わろうとしてなんじゃないかしら?』
と言って
『でも、キャンプ場じゃ、恥ずかしいって言って、言う事を聞かない子供みたいな理屈ごねてたけど』と言い笑う
私は『それ!西野さんが言ってました。水澤さんは私やまりあちゃんに会うのが恥ずかしいって』
水澤さんは少し照れた表情とは裏腹に『詩音のアホが、いらんこと言ってたのかよ!本当、あん時は余計なお世話だったゼ』と語気を強めて怒った声になり
稲葉軍医は『詩音に見込まれたのが運の尽きよ』と言うと、その話に三崎軍医も加わり『何せ詩音は人使い荒いから』
フッと吹き出し気味に水澤さんは『天下の参謀総長の第一秘書官様だからな!そりゃ、人使いも荒いだろうさ』と言うとゲラゲラとみんなで笑った
どれくらいぶりかしら、こんな風に笑ったの
ずいぶん久しぶりに笑った気がしました。
ずっと張り詰めた空気の中に居たし、不安も沢山あった
笑うって、こんなに大切なことなんだって思った
そっと目蓋を閉じる
そして、自分の心の中で
大丈夫、大丈夫、そう言って目をあけ口角を上げ笑顔を作る
そんな風にしてた頃を思い出した
そう、大丈夫、大丈夫
この日の水澤さんや皆さんの笑顔を忘れないようにしようと私は思いました。
『とこで、森下さんは?』と水澤さんが私に聞く
私は『あっ!』と思い出したような感じで言って
『水澤さん達が戦いに行く前に、まりあちゃんに待っててって言って出て来てたの忘れてた!』と私が言うと『仲間外れにしちゃ可哀想よ』と里山看護官が少し笑い気味に言う
『何処に行くかを言わず置き去りにしたのか』と水澤さん
『今頃、泣いてるかもよ』と三崎軍医さんが続け様に言う
私は慌てて『今すぐ呼んで来ます!』と言うと『呼んで来なくても良いよ、早く戻って安心させてやんな』と水澤さんが言う
『と、とにかく、待たせっぱなしだし...行って来ます!』
水澤さん達の笑い声を背に受けながら、私は慌てながら医務室を出て、まりあちゃんの元へ戻りました。
まりあちゃんに、安莉ちゃん何してたの?と言われて
経緯を説明したら、まりあちゃんに、ずるいと言われて怒られたのは言うまでもないことだと思います。
はぁ...つい夢中になりすぎてって言うか?戦いに向かう水澤さん達の心配してたんだから仕方ないじゃないなんて言えるわけもなく
まりあちゃんだって心配していたんだし
だから、私は、まりあちゃんに謝るしか出来ませんでした。
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――つづく――