THE LAST STORY>Four-leaf clover< ⑩ー4
THE LAST STORY>Four-leaf clover<
第10話 Reload ④
ーー撃滅作戦ーー
戦闘前夜のこと
イ・ジョンデとの戦いに際し水澤は伊藤勇二と作戦をどうするかを話し合っていた
『頭数じゃこっちが劣勢ですねぇ』
『かの織田信長は言ってたゼ、臆病者には敵は常に大軍に見えるとな
だが、俺達は臆病者じゃねぇだろ?』
『戦国期ならともかく現代戦においては、数の優劣は戦局を左右しますよ』
『なら数の劣勢を優位に働かせれば良い』
『劣勢を優位にですか?』
『多勢に無勢なら、少数でコンパクトな俺達に優位に働くモノがある
先ず、敵中に一点集中の迫撃砲を徹底的に振り込んで
敵の目を中央部分的に引き付ける』
『誰が迫撃砲を使い撃つので?』
『誰も撃たない』
『それじゃ集中砲火を..』
『コイツを使う』と水澤は言い煙草に火をつける
『煙草に糸を結わい付けて火が燃え糸を切ると同士に迫撃砲弾が砲身に落ちる仕掛けを作るだけさ』
『迫撃弾は、ある程度の衝撃がないと点火しませんよ?』
『高さぐらいはちゃんと調整して落ちるようにすりゃ良いだけの話しだろ』
『まあ、そうですが、上手く行きますかねぇ?』
『上手く行きますか?じゃなく上手くいかせるんだよ!』
『まあ、ある程度の高さと、ちゃんと中央部に弾が落ちるようにすれば良いんですが、問題は他にもありますよ』
『わかってる、敵をどう着弾地点に誘き寄せるか?だろ?』
『ええ、そうです。何か良い案でもあるので?』
『飯ごう地雷のことは知ってるよな?』
『中にガソリン詰めてるアレのことですか?』
『アレを使い、敵を嫌でも着弾地点へ誘導する』
『でも、あれは..』と伊藤は言いかけ水澤が吸っている煙草を見る
その視線に気付いた水澤は『てぐすの糸もコレで切る』
『いやはや、本当、参りましたねぇ』と言い伊藤は笑う
『最初期の戦闘は飯ごう地雷と迫撃砲で行い、敵が集まり行き詰まった所をロケット砲で叩いて』
『混乱した所を叩き潰すってことですか?』
『叩き潰すというより、その先に居るだろうジョンデを狙いに行く』
『ジョンデを?』
『頭をもがれた胴体が、どうなるか?解るだろ?』
『ジョンデの部隊は精鋭とはいえ、ジョンデあっての精鋭とも言えます..』
そう言いながら、伊藤は西野秘書官が一目置くだけはある人物だと水澤のことを思っていた。
『頭をなくし、統制が効かなくなった部隊は脆い
かつて、佐藤参謀総長を失った日本軍のようにな』
『確かにそうですね、そうなれば、こちらに勝ち目が生まれます。』
『勝ち目というより、是が非でも勝たなけりゃならない戦いだ』
『負けることは許されない状態ですからね』
『そう言うことだ』
『少数が大軍に打ち勝つのを想像すると心が踊ります』
『その想像を現実のモノにする為に、俺達は勝たなけりゃならないし
誰ひとり死なせずに帰還しなけりゃならない
その為に、もう1つ策を施す』
『もう1つとは?』伊藤は水澤の話す作戦に興味深ければワクワクしていた
『人ってのは、目の前で動くモノを無意識に見てしまう生き物だろ?』
『ええ、そうですね』
『高低差を利用して敵の眼前を横切る人形を作るというか?ここは学校だからな
人体模型だけでなく、丸めたマットを紐で固定して、滑車代わりにパイプ椅子のパイプ部分を壊して紐に渡し斜めに滑り落ちるように仕掛けを作る』
『敵の目が、その仕掛けに向いてる隙を狙うということでよろしいでしょうか?』
『そう言うことさ、伊藤くんは話しが早くて良い』
『そんなことはないですよ、説明の良さが上ですよ』
『謙遜すんなって』
『別にそんなつもりはないですよ』
その後、二人は入念にシミュレーションを繰り返し、仮眠をとり
そして、早朝に榊達を起こし策を二人で披露した後、その作戦の手分けして準備に取りかかる
ーー硝煙の中でーー
糞熱ちぃなぁと榊は思う
自分たちが仕掛けた飯ごう地雷の爆発の炎が周りの建物に燃え移り
炎の防御円陣が形成され学校へ敵を近づけない体制が構築されてゆく
自分達が仕掛けたこととはいえ前後左右に炎が上がり
季節が夏のように暑くてしかたない
左右にある建物を隠れ蓑に静かに前進し続ける
水澤の背中を追うのも苦労すると榊は感じていた
一片の曇りも迷いもない水澤の姿に自身の心を奮い立たせる
水澤は三人一組のチームを作り
水澤を中心に、右翼に榊、左翼に川中のチーム
伊藤を中心に、右翼に北見、左翼に三上
黒木を中心に、右翼に森村、左翼に沢田(伊藤と同じく15中隊が残した兵士)
3チームを編成し戦いに望む
予備兵力(これも15中隊が伊藤達と共に学校に残した兵力)を後方に配置し水澤ら3チームが撃ち漏らした場合の敵を掃討する部隊として置いている
実質9人で、ジョンデ隊との戦闘に臨む形だった
水澤には、それでも充分に戦いを進めれる自信があった
川中の心に15の援軍もあるという期待心があったが、それをあてにしてる自分を心の中で叱責していた。
今、戦ってるのは "俺ら" だけだろ?
何かを期待している自分がハイパーダサイってんだよ!
水澤ほどに戦のセンスも度胸もあるわけじゃないことぐらいはわかっている
だけど、今 この場には自分と水澤を中心の3チームだけが撃ち倒しても撃ち倒しても湧いてくる敵軍の只中に居る
脊振山の戦いとキャンプ場の戦いで、なんとか生き残って来れたから、今、戦場に居る
水澤は臨時の応集という名の召集に自身の意思で立ち上がり戦場に在り続けている
水澤さん、あとどれくらい叩けば終わる?等と考えてる場合じゃない
黒木も森村も榊も、今まで見せたことのない気迫で戦っている
俺も負けてられねぇと川中は思った。
一撃目の最初のトラップから、どれ程の時間が経ったのかなどわかりもしない
煙草の火で切れた糸が迫撃弾を敵の中に飛び込み続ける
ジリジリと敵は作戦通りに中央に寄り込んで行く
ガウン ガウン ガウン ガウン
銃声と爆発音の下に在る水澤達の近くで聞きなれた銃声がする
『やっと来たか..』
川中は少し安堵した声で言う
『のようだな』と水澤は言い
『北韓軍と間違えて撃つなよ』と水澤は言い了解と皆は答える
ーージョンデ強襲ーー
タタタタタタタタッと連続的で機械的な銃声
ガウン ガウンと深く重く響く銃声とが交差する
混沌の中で、ただ冷静に目の前の敵を撃ち払い続ける水澤の視界に佐脇と藤井の姿が入る
ふじかずさん!足元の糸を引いてください!
伊藤が藤井に叫ぶ
藤井は自身の足元に土色の凧糸を見つけ力強く引っ張る
ドッゴォーンとひときわ大きな爆発音
水澤と伊藤とで仕掛けた飯ごう地雷を数珠繋ぎにした手作りの爆導策が爆発し
藤井の数メートル先に土煙りと炎が上がり、その炎の中から悲鳴を上げながら敵兵が炎にまかれて、のたうち倒れる
凄いモノだな..藤井は小さく呟き皆達の方を見る
榊は親指を立てグッとと言った様子で笑顔を見せる
水澤は少し藤井の方を見て薄く笑みを浮かべている
目の前の炎の壁と数を減らして行く敵の銃声
戦いの出口が近づいていることを水澤は感じとる
"見つけたぞジョンデ" 水川の視界に少佐の階級章を付けた北韓軍将校の姿が見える
ジリジリと距離を詰めてゆく
少佐の階級を付けた、その軍人は周りに居る少数の兵士に何かを言っている様子に見える
榊と川中に目配せして左右に別れるように指示する
中央正面に水澤、左から回り川中が身を潜め
榊は右から機会を伺う
スーッと刀を腰から抜き放ち
水澤がジョンデに斬りかかる
水澤に気づいたジョンデは自身のライフルで水澤の剣擊を受け止めた瞬間
『川中!狙撃しろ!』と水澤は叫ぶ
川中は戸惑った、今、狙撃したら確実に水澤の体ごと撃ち抜くことなるからだ
『川中!かまうことはない!俺ごと撃ち抜け!』
斬りかかり敵の注意を引き付ける囮りになった水澤の左右から佐脇と藤井が銃撃しジョンデを守る周りの兵士が倒れ
狙撃しない川中に業を煮やした水澤はジョンデを蹴り飛ばしジョンデが乗っていたであろう軍用ジープの座席にジョンデが倒れた所を上から飛びかかり刀を返し峰打ちにしジョンデの銃を叩き落とす
そして、刀を返したままジョンデの横っ面を叩く
ジョンデは口から血と折れた歯を吐き口元を抑えながら腰の拳銃を抜こうとする
その腕を水澤は刀の刃で切り落とす
ジョンデは悲鳴を上げ切られた腕を抑える
『イ・ジョンデ!』と水澤は叫び切っ先をジョンデの顎に向け上に切り裂く
ジョンデは痛みに耐え兼ね逃げようとするが、水澤はそのジョンデを掴み上げボンネットに叩き落とし馬乗りになり殴り続ける
『貴様が、貴様みたいなゴミ野郎に、ボロ布のように切り裂かれた連中の痛みがわかるか!イ・ジョンデ!』
顔の原型がわからない程にボコボコに殴られ
ジョンデの意識が遠退いて行く
ジョンデが狙われたことに気づいた別な敵兵が右側に居る佐脇の背後を襲う
佐脇!後ろだ!水澤が叫ぶ
声に反応し叫ぶは振り返り銃撃する構えを取る
敵兵は頭部を銃撃され倒れた
佐脇は銃弾が飛んで来た方を見ると、片手で拳銃を撃った水澤の姿が目に映る
佐脇に危機を知らせたと同時に水澤はほぼノールックで正確に敵の頭部を撃ち抜いていた。
意識的がなくなりかけているジョンデに『誰が寝て良いって言った!目を開けやがれ!勝手にくたばりやがんじゃねぇーよ!聞いてんのか!起きろ!ジョンデ!!』
そう怒鳴り何度もジョンデを殴り続ける
『水澤、やめろ!』
佐脇は水澤の肩を掴む
『もうソイツ意識ねぇよ!』
水澤の傍に来た伊藤は『あらかた終わったようですね』と言い『ソレ何ですか?』と原型をとどめていない顔のジョンデを差す
『ジョンデの糞野郎だよ!』
プックククっと伊藤は笑い出し『そんなになったら誰だかわからないじゃないですか?しかも、事切れてらっしゃるようですし』と言うと再び笑う
藤井は『まさか、こんな死に方をするとは、ジョンデも思わなかっただろうな』と言って伊藤と一緒になって笑う
『腕を切り落とされたことにより大量に出血したことで死んだのか?相当殴られたせいで死んだのか?わかんねぇなぁ?』と佐脇は言って、ジョンデを見下ろし『にしても、汚ねぇ死に様だな』と言い笑う
『ジョンデは始末したけど、まだ終わりじゃねぇよ!"むしろ、これは始りに過ぎねぇ" 』と水澤は言う
その瞳は真っ直ぐに確かな何かを見据えていた。
血生臭い匂いに硝煙の残り香が辺りに漂う
ジョンデを失った敵兵は霧島方面へと逃走を開始していた
その敗残兵に対し佐脇達と共同で激しい追撃を加えジョンデ隊を、ほぼ壊滅させ
僅かばかりの兵士が霧島方面へと逃げ去った。
ジョンデ戦死という情報は、霧島に居るチョ・ソンミンに伝わり
ソンミンは、初めは信じなかったが、水澤達の追撃を逃れた兵士は僅かばかりで
その様子から、本当にジョンデが戦死したことを悟ったのだった。
このことが、きっかけになりソンミンは自身のもうひとりの腹心のリョ・ミンスに直ちに出撃を命じる
このことがきっかけになり戦線全体の戦局が日本側に風向きが変わりはじめることになる
それほどの影響と意味をもつ水澤達の完全勝利だった。
THE LAST STORY>Four-leaf clover<
第10話 Reload ⑤ へ
ーつづくー




