THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story ⑩
THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story
もし、この体が氷で出来てたら"溶けて消えて行くだけ"
だけど、氷にも水にもなれない私達は
"有限の時を生きて、死という爆弾を抱えた人形劇"という人生..そして抗えない運命を演じて行くのでしょう。
第10話 Moonlight
校舎裏で水澤さんと話を終えたあと私はまりあちゃんと医務室に向かった。
髪を掻き上げ稲葉華凜軍医さんは、私の話を静かに聞く
三崎希望軍医と里山星看護官もベッドの端に腰かけ話を聞いている
『とうとう言っちゃったわけね、がんばったわね』と
と言いながら稲葉軍医は私の肩に手を置き微笑んでくれた。
まりあちゃんは『私はびっくりしちゃった』と言いながらも笑っていた。
一通りの話を終え、私は窓の外を眺めて
『この空の下で同じように思う人は他にだって居るはず』と言うと
まりあちゃんや稲葉、三崎両軍医と里山看護官は静かに頷き笑顔を見せる
ーー存在証明書ーー
夕闇が迫り辺りが静けさに包まれた医務室で私は今日の水澤とのやり取りを思い返していた
私は生きること生かされたことで彼の存在証明書になるしか出来ない...
彼は今も戦っているというのに..だからこそ、私は私の戦いをしなきゃいけない
私の心を照らしも曇らせもする存在
いつだったか、西野詩音秘書官が言っていた。
私と水澤さんは太陽と月のようだと
人は皆、自身の太陽を抱いて生きている。
私は太陽のように水澤さんを照らしているのでしょうか?
今の私には、その答えは出せないけれど、少しでも彼の水澤さんの助けになるなら
どんな時でも、矢面に立って戦う覚悟は出来てる
私に内包された意思は何物よりも強いってことを自分で言うのもなんだけれど
誰にも負けない自信がある
私がこの戦いの物語を後世に残さなければ、戦禍の流れに掻き消されて後世の人々の記憶にも記録にも残らないモノになってしまう
ーー信じることーー
最初に北韓軍に無惨な殺され方をした人の亡骸が校舎前に置き去りにされてから
同じようなことが、2日、3日、4日と連続して繰り返された
水澤さん達は、それでも、見張りの人を替えることをしないで同じ人に連日、見張りを続けさせていた。
その意図するところを、私にはわからなかったけれど
水澤さんなりの考えがあって、そうしてることぐらいは、なんとなくだけどわかっていた。
真実の裏側に本当の真実は在って
裏側に覆い被さる虚構と幻想に囚われて見えるはずのモノすら見えなくなっても
人々は在るモノも自己都合で見えるモノを見えなくしてしまう
此処に居ると叫ぶ誰かの声も存在も自己都合で掻き消して..見えざるモノにしてしまう
沈黙の刃が正義を〝心の所在〟さえ〝消して逝く〟
あの日、水澤さんが兵士となり、壇上で放った言葉を聞いた時
そして私が感じた違和感、彼の姿をした別な怖い何かだったけれども
だからと言って嫌いにはなれなかったのは
彼の中の人間としての姿、以前の優しい彼が
まだ息づいて私の中で鼓動し続けていることを感じたから
あの頃のままの優しい彼
あの頃のままの無口で恥ずかしがりな彼
憂いを帯びた眼差しも金糸の髪が風になびき太陽の光り照らされに輝く閃光も
私の中で生きづき輝き続けてるから
私は私の戦いをしなきゃいけないという一心で言葉を声にした
そして、水澤さんは言葉ではなく態度で示して行動しいる
戦い方の違いはあっても、私は水澤さんと共に戦ってると思いたい。
人々の悪意、憎悪を跳ね退けて進む水澤さん
全てを背負って戦いに臨む水澤さん
どんな彼でも、私は私の知る本当の水澤さんであることに変わりないんです
この戦いの果てに、そして終わりの日に、共に笑いあえることを信じて。
そして、無惨に殺された方の亡骸が校舎前に置き去りにされた五回目の昼頃に、水澤さんは、ある行動に出たのです。
それは、水澤さん達の新たな戦いへのプロローグになる出来事でした。
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ーつづくー
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