THE LAST STORY>Four-leaf clover< ⑩
THE LAST STORY>Four-leaf clover<
第10話 Reload
ー【第15中隊】ー
水澤らの居る前哨基地(小学校)で失踪騒ぎや戦闘騒ぎが起きて、水澤からの報告が届いていた頃
霧島防御陣地に在る15中隊では、要衝地の313高地をめぐり
高地を奪還しては奪いかえされるという
血で血を洗う激戦が繰り広げられていた。
そんな最中に、再び水澤から報告の通信が入る
【交信内容】
「先日の交戦以降、こちらでは失踪者の亡骸が校庭入り口に敵軍に放置される事件が2日に渡り続いている」
隊長補佐の佐脇は眉間にシワを作り怒りを露にしながら
水澤からの通信を聞く
「こちらには、敵に通じている者がおり
自分は、ソイツを排除するつもりだが、タイミングについては、全ての失踪者の亡骸を回収した以降に実行するつもりだ。」
佐脇は言う「敵に通じている奴のめぼしはついていると言うことか?」
「勿論、その内通者を特定している」
「直ぐに排除しない理由は全ての亡骸を回収することだと言うことは、わかるが
ソイツを泳がせておいて危険はないのか?」
「その危惧なら心配無用です、亡骸を転がすことで、こちらの恐怖心を煽っているつもりだろうが、ご存知の通り
こちらは、八割以上は素人の集団
危険を侵してまで、校内から脱走する勇気のあるモノは皆無に近い。」
「だが、その内通者が手引きして脱走を促す危険はあるんじゃねぇのか?」
「それについても心配無用、ソイツの行動を俺達は見張り、妙な動きをする場合は止める算段はつけてある」
「そうか、お前がそう言うなら信用できるな」
「そちらも大変な状況とは思いますが、内通者を排除した後、そちらの力を貸していただけると助かります。」
「力を貸しようてやりたいが、こっちも手詰まりで余剰戦力は無いぞ、それにバカ村田の目付が張り付いてやがって援軍を出せたとしても邪魔にあう
不用意に兵力を割いたら、責任が隊長に及び、隊が分離、もしくは解散に追い込まれる」
「それは充分承知しております。ですが、こちらに死傷者が出ている以上
せめて〝怪我人の救護〟にあたる人員をお送りいただけると助かります。」
「怪我人の救護なら、そっちには三崎軍医や稲葉軍医達が居るだろう」
「今一度、申し上げます〝怪我人の救護にあたる人員の派遣〟をお願い申し上げます」
佐脇は少し考えた後
「お前の言いたいことがわかったよ!了解した!そちらの排除報告を受け次第になるが〝救護班を編成〟して、そちらに送る」
「さすがは、あの15の隊長補佐殿、話が早くて助かります!」
「おだてんなよ!お前の策士ぶりには、かなわねぇわ!」
「では、後日また報告させていただきます。」
「そちらのこと、任せたぞ水澤!」
「了解しております。」
佐脇は通信を終え、梶原隊長、西野副長、副長補佐の藤井一弥に水澤の話しを伝える
『なるほどねぇ』と藤井は言い
『うちに欲しい人材だな』と梶原隊長は言う
『頭の回転が早いヤツだ』と西野副長は言って
その通信内容を西野秘書官に伝える為に幕舎から伝令を出す
司令部に直接通信をせずに伝令を使うのは、岡村田にバレずに秘匿する必要があるからだ
岡村田が15中隊に軍監として派遣して来ている人物には前線に使いを出しているように見せかける手段でもある。
ー霧島防御陣地司令部ー
313高地をめぐる戦い、戦線全体の指揮をとる
参謀総長の第一秘書官、西野詩音特務少佐と月島零参謀次官の元にも前哨戦基地に居る
水澤達の状況報告は15中隊が出した伝令を通して伝わっている
詩音は自身の全てを水澤に賭けて、今、ここに居る
『思っていた以上に、事態は深刻かも知れないわね』
詩音は机に広げた地図に目を落とし前哨戦基地を見つめる
詩音の片腕とも言える月島次官が口を開く
『正規の軍人は伊藤勇二上等軍曹の他に十数人程度で
軍属とした民間人が約800名前後
数で言えば大隊規模ですが、実際は小隊規模より少ない戦力でしかないと思われます』
『そんなことは最初から充分承知よ。ただ、水澤くんや伊藤くん、そして彼らと意を同じくする者達は少なからず居る』
『それはわかりますが、果たして彼らはこの難局を乗り越えられるでしょうか?』
『私は私の全てを彼に水澤くんに懸けてることぐらい月島君だって知っているでしょう!』
『それは存じ上げております。ですが、実際問題、数だけの部隊は必ず崩壊し壊滅の...』
ダンッと詩音は机を叩き月島を睨み付ける
『もし、私に見る目がなかったなら、そうなるでしょう!
だけど、私は、そうならないと思ってるわ!』
『そこまで、水澤くんを買ってらっしゃるので?』
『ええ、そうよ!だから私は私の全てを懸けてる
水澤くんには、佐藤閣下以上の才覚と英雄の鋭気がある時代が必要とする英雄のね!』
英雄というのは、後世の歴史学の学者等が定義する文言かも知れない
だけれど、詩音は水澤の中に確かなモノを見いだしている
『水澤くんは、ただの民間人でなかったわ、最初の頃は自分を婢下して腐りかけてたけれど
私や華(稲葉軍医のこと)、希望を相手に実戦向きの剣術を習う内に彼は変わって行った
そして、キャンプ場の戦いで死の淵を、さ迷い目覚めた彼は誰にも負けない強さを手にしてた
華が言うには、瀕死の重傷にも関わらず戦い続けられた理由が2つあるそうよ。』
『その2つとは?』
『まず、1つめは、彼には命に代えても守りたい人が居ること
そして、もう1つは、にわかには信じられないことかも知れないけど
人としてのリミッターが外れて、常人なら死んでてもおかしくない状況下でも最後まで戦い、目を覚ました後も、その状態を維持し続けていること
普通じゃ有り得ないことが彼の身体の中で起きているのよ』
『人としてリミッター...』
『解りやすく言うなら、火事場のなんとやらが続いている状態ってことよ』
普段、人は自身の生命を維持する為に必要最低限の力しか発揮していない
でも、水澤は戦いの中で人知の及ばない力を内包し、状況に応じて無意識に解き放つことが出来る身体能力を手に入れてしまっていた。
月島は、そんなことはあるはずはないのでは?とは思いつつも
真剣な西野秘書官の眼差しに、有り得ないことが起こることも在るだろうと思い直した
『では、前哨戦基地の戦闘は全て水澤くんに任せると言うことでしょうか?』
『水澤くんは、例え並外れた身体能力を手にしてても本人に自覚がないの
でもね、前哨戦基地で、この後に起こる北韓軍との戦いに備え
15中隊に援軍要請は出しているわ』
『15中隊には余剰戦力は無いに等しく、岡村田の目付としてヤツの息のかかった軍監が居る状況で援軍を出せば..隊に危険が..』
『その辺は水澤くんもわかっているわよ
だから、こう15中隊には伝えてる
〝救護班の派遣を求める〟ってね』
『まあ、救護班ぐらいなら岡村田も文句は言えんでしょう
ですが、非戦闘員の救護班では戦力にならないのでは?』
『月島君、言葉の表面だけを鵜呑みにしちゃダメよ
水澤くんは〝救護班〟という隠れ蓑に潜ませて兵力を少しでも送って欲しいと言ってるのよ』
『ですが、実際問題、15中隊に余剰戦力は皆無な状況で兵力を割くのは危険ではないのでしょうか?』
『その危険を侵してまで、援軍を送る覚悟が15中隊長には在るし
15中隊は池内くんの第1中隊隣り合わせでの布陣を敷いてる
多少、15中隊の戦力が下がっても池内隊の援護でなんとかなる、だからこそ、水澤くんの策に乗ってるのよ』
ー再び舞台は水澤達の所へ戻るー
最初の亡骸が転がされてから4日が経っていた
ヤツに煽られて、更なる脱走を出さない為に目をひからせながら
水澤達は日夜交代でヤツの動向を見張り続けている
水澤は思う
そろそろ、明日、明後日で失踪者の全てが無惨な姿で此所に帰ってくる
決行は明後日と水澤は思っている
思い知らせてやる
ヤツにも、イ・ジョンデとやらにも
ヤツらの命脈は、直に尽きる
野郎は、俺の手で始末し
イ・ジョンデは、俺達が始末してやる
戦闘の狼煙があがる日が近づいて来ている
打てる手は全て打つ
あとは、勝つだけだ。
この戦いに勝利しジョンデが戦死したら、霧島に居るチョ・ソンミンは怒り狂い
こちらに戦力を回してくるだろう
そうなれば、霧島の情勢は変わる
霧島を包囲している、チョ・ソンミン、パク・ムラン、ヤン・ドングン、キム・ゲテら名のある北韓軍の目はこちらにも向く
その時、隙が生まれ連中を叩きのめす機を得れるはず
ジョンデの野郎は、こっちが民間人を徴兵した、にわか兵隊なのを知り
恐怖心を煽り、戦意喪失を狙い遊んでやがる
こちらを侮り堕気が蔓延し油断したヤツを叩き
必ずオペレーションレッドストームは完遂をみることになるだろう
戦いの幕を上げ、幕を引くのは俺達だ。
決して楽な道のりじゃないが、必ず俺達は勝利する
この九州から反撃へのプロローグが、刻一刻と近づいて来ていた。
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ーつづくー
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