THE LAST STORY>Four-leaf clover< ⑨ー3
THE LAST STORY>Four-leaf clover<
第9話 It all for you その③
何人殺して来たかなんざ
いちいち覚えちゃいねぇ
むしろ生きる為に殺して来たのか?それとも〝生かす〟為に殺して来たのか?さえわかっちゃいねぇが
確かなモノは自分という人間が別な何かに変わったのかも知れないという違和感だけ心に刺さっている
だいたい誰々の為になんざ綺麗事だ
人は誰の為にという偽善を纏い生きて行く
――贖罪――
今さら後付けの理屈が心を締め上げる
『この人殺しが!』とそう罵られても
人を救いたいって?逃げようと必死になる
本当に救われたいのは自分の心だった
出逢ってしまった誰かへの贖罪のつもりかも知れない
人を守り人を救い
そして...それに殉じて死にたいのかもしれない
だからいつも俺は俺自身を死に追い込むことで貴女に何かを残したいのかもしれない
悔いているのか、貴女達を巻き込んだことを...自身を歪に変えてまで修羅の道を行くことを...いいや違うな
生かすことも生きることも貴女達自身が選択し続けて行くモノだ
誰の人生でもない自分自身の人生を。
――慟哭――
俺は、眠りながら目覚め、目覚めながら眠っている。
過去は事実か?記憶は真実か?夢はどこから夢なのか?
寝ながら見る夢、起きていて見る夢、どちらも同じだ。
夢を見ないという奴は憶えていないだけ。
夢がないという奴も気付いていないだけ。
見たいくせに見ないようにしてるだけの臆病なのだ。
逃げても逃げても追いかけてくる戦争という狂気から抜け出すには逆に戦争を追いかけ叩き潰すしかない
でなけりゃ潰されるのは俺の方になる
潰されそうな心と身体を支えてくれる人がいる
あの日の悔しさを忘れてはいない
負けたら終わりなんだからな...全て
そう全てを失うことに怯えた時に慟哭と共に新たに産まれた痛みがゲノムを変化させた
それは闘争本能の解放された戦う魂の塊
例え誰かに嫌われても罵り嘲られても自身の中に存在する全てを弾丸に込めた魂で粉砕するのみだ。
――交戦――
15中隊が此処を去って霧島戦線に投入されてから幾日経ったかなんざ覚えていない
だが確実に季節は進み続けている
校庭の桜に小さな蕾が芽吹いている頃に事件が起きた
その日は新月で辺りは静けさに包まれていた
校門を中心に三ヵ所に防御用の機関銃座が二ヶ所に二人づつ配置に付き
中央は不寝番が三名が小銃を手に土嚢の防御の後ろで見張りについている
その中央から左の機関銃座の兵士と言っても臨時応集で兵となった人間だか
その兵士が息を切らせて伊藤勇二上等軍曹が寝ている教員室だった場所に走る
その兵士が入ってくるやいなや伊藤は飛び起き
兵士の話を聞くと自身の率いる第一小隊を校庭全面の壁裏に配置させ息を潜める
ザッザッと足音と共に日本語じゃない言語を話す者が近づいて来る
伊藤は自分が指示をするまで発砲しないように小隊員に命令し待機している
足音と話し声がだんだんと近づいて来て近接するぐらいの頃
伊藤の命令を待たずに誰かが発砲し、それに呼応するように、ほぼ全員が発砲を開始
不意打ちに近い形で発砲を受けた足音と日本語じゃない言語を話す者はバタバタと倒れてゆく
『撃ち方止め!撃ち方止め!』と伊藤が叫ぶ
銃声に驚いた校舎内に居た者達も何事かと校庭に出てくる
伊藤は自身の副官代わりの北見一等軍曹に他の隊員を待機させるように指示するが発砲するだけで身動ぎしない隊員を北見は怒鳴り付ける
榊淳也伍長率いる第二小隊も水澤と共に校庭に出てきていた
校舎の壁から二メートル以内に北韓軍の兵士とおぼしき遺体が転がっている
校舎の壁側に引っ付いて震えている奴を水澤は踏んで飛び越え
北韓軍兵士が確実に死んで居るかを確かめるように1人1人蹴り飛ばし確認し
『相当なオーバーキルだな?こりゃ』
北韓軍兵士は数十箇所も撃ち抜かれて蜂の巣状態の者が殆どだった
『目暗撃ち(敵を見ず撃つこと)とは言え..笑かす』と言うと笑い出す
『壁越しに銃だけを出し銃爪を引く技を教えたのか?伊藤勇二?』
『不意なことだったので仕方ないのでは?』
『臆病者のする卑怯な行為だと思わないのか?』
そう言い壁裏に隠れたままの連中に向かって『この卑怯な臆病者共!隠れてねぇで出てこい!』と怒鳴り壁側に走り壁をガッガッと蹴る
『止めてください彼らは戦いに慣れていません
それくらい水澤さんも解ってらっしゃいますよね?』
『だからといって、てめえの仕出かしたことを見ずに隠れてんのが気に入らねぇんだよ!
良く見やがれド阿保ども!これが自分のしたことだろうが!
ただでさえ貴重な実弾を無駄撃ちしやがって!
今度、無駄撃ちしたら!その頭を俺が撃ち抜いてやる!』
『水澤さんよぉ?俺はちゃんと相手見て確実に三人は撃ち殺しましたぜ!』
誰だ?お前?と水澤は思った
『だから?いちいち威張ることじゃねぇぞ?
敵を撃つことは当たり前なことだからな』
『あんたばかりに良い格好はさせねぇよ』
『誰様に向かって口聞いてるか?わかってんのかコラー!』
『喧嘩は辞めとけ榊!そいつの勝手な戯言に付きあう暇はねぇよ』
『けど、水澤さんに向かってそう言う言い方も態度もなくないですか?』
『俺はいちいちそんなモン気にしちゃいねぇよ
そいつの勝手だからな、ほっとけ』
『俺なんざ眼中にねぇって感じっすね』
その言葉を無視し
『さて、他のは..まあ良い。』
そう言うと水澤は、ひらりと壁を飛び越え校庭へ戻って行った
『まあ、そう言うこった!次から気をつけろよな?第一小隊長と副官さん、それに、そこのお前も』
ゲラゲラ笑いながら榊も戻って行く
『たかが、訓練生程度が生意気な口を聞きやがって!調子に乗ってっと撃ち殺...』と北見一等軍曹が言おうとしたとき北見の口をアヒルのようになる形に頬を掴み
『誰が誰を撃ち殺すって?もう一度言って見ろ!この野郎!』と川中陽二伍長が言う
『陽二!弱い者いじめは止めとけ!』
いつの間にか戻って来ていた水澤が川中陽二を諭す
『けど、こいつ何時も俺達を見下してんっすよね』
『見下しようがねぇだろ?陽二の方が背が高いんだからよ』
『いや、そう言う意味じゃ..』
『わかってんよ陽二!けどな?喧嘩は北韓軍だけにしとけ!時間と体力の無駄だ』
『水澤さんがそう言うなら...了解っす...』
ペッと北見の足元に唾を吐き水澤と共に校舎に戻って行く
二人のやりとりを黙って聞いていた
その時、北見の脚は震えていた
水澤の眼光に言い知れぬ恐怖を感じていたのだ
『北見くん、僕らも戻りますよ』
『了解です!伊藤さん』
『北韓軍兵士五~六人に何十発撃ち込んだだか?バカばかりだな?全く..だいたい新月になりかけで真っ暗な状態で確実に撃ち殺しただって?笑わす
明日の朝、現場を見たら北韓野郎に当たらずに逸れた銃弾の跡が無数に散らばってんだろうさ』そう言い水澤は煙草に火をつけ笑う
所詮、素人の集まりでしかない集団
現状は厳しいことを表している夜だった。
翌朝、水澤の言った通り北韓軍兵士に当たらずに逸れた銃弾の跡が無数に空いていた。
その日の昼下がりに、また事件が起きた
昨夜のことを聞いた者と現場に居合わせた者が校舎から姿を消した
これを知った伊藤は自身の率いる第一小隊を捜索に出したが逃走した者を見つけるどころか、少数の北韓軍と遭遇し戦闘状態になってしまい
その戦闘で死傷者と更なる逃走者を出すという失態をおかしてしまう
これを受けて水澤は15中隊に連絡をとる
【水澤と15中隊の交信内容】
〝こちら前哨基地(水澤達の居る場所)水澤より霧島陣地15中隊へ
昨夜と本日午後、我々は北韓軍と交戦し死傷者及び逃走者を出すに至れり〟
〝こちら15中隊副長補佐藤井一弥より前哨基地の水澤くんへ先程の報告は本当であるか?〟
〝こちら水澤、真実である〟
〝了解した!そのこと西野秘書官に通告しておく〟
〝秘書官殿には『これ以上、罪なき命が失われぬように全力を尽くす』とお伝え願う〟
〝了解!キミらの健闘を心より祈る〟
〝貴官ら15中隊の御武運を祈り申し上げます〟以上
これを聞いた西野秘書官は机を強く叩き
なんて失態を...私があれ程
困った時は水澤くんに相談しなさいと言い聞かせておいたのにと憤ったという
――違和感――
伊藤勇二と北見大地
そして水澤の関係は良好な状態ではなかった
水澤を中心に榊、川中、黒木、森村達、志願兵を基幹とする第二小隊
伊藤と北見が率いる第一小隊
その他はどっちつかずと言うより
どちらかの小隊に名を連ねていてもあくまでも民間人という立場を貫く者
嫌々訓練に参加する者等がいる
軍隊とは程遠い状態と状況の中で難しい舵取りを水澤は西野秘書官と交わした約束の為に自身は自身のスタンスを保持していた
が、しかしである
北韓軍との交戦は想定はしていたが意外な形に変化したため対応を思慮していた
伊藤らの行動は想定外ではなかったが、一言ぐらい自身にというより第二小隊長を務める榊に相談するべきだったのではないかと?伊藤に詰め寄る
伊藤勇二は下を向き唇を噛む
伊藤にしても、想定外のことだと言うのは水澤も解っている
黙ったままの伊藤に榊が声を荒げ罵る
それでも、伊藤は何も言わず黙っている
それに業を煮やして榊が掴みかかろうとしたとき
『喧嘩は北韓軍とだ!』と言って水澤は榊を制する
『今は仲間内で揉めている場合じゃない
この事態にどう対処するべきかを考える時だ
もちろん〝第一小隊長を含め〟てな』
〝第一小隊長を含めて〟この言葉に伊藤は自身の独断専行を榊に詫びた
『次はねぇからな!覚悟しろよ!』と吐き捨てるように榊は言って水澤の方を見る
水澤は静かに頷き『これ以上、死傷者も脱走者も出さないことが重要だ』と言って伊藤の肩をポンと叩き部屋を後にする
部屋を出て廊下を歩きながら水澤は考えていた
いくら北韓軍と夜間交戦したからと言って自身の身近な人間を連れずに脱走するだろうか?
逃げるのなら家族等の身近な人間も連れて逃げるはず
だが、奴らはそれをしないで脱走した
何かが引っかかる...言い知れない違和感を感じる
まさか...だが、しかし..でも...と自問自答が続く
やがて答えが見えてくる
もしそうなら〝排除〟せねばならないと水澤は思った。
そして、その違和感と答えの答え合わせが翌朝に起きたのだった。
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――つづく――
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