THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story ⑨ ― 2
THE LAST STORY >Moon crisis<
赤坂 安莉 Anri Akasaka Story
第九話 Reload 其の②
私達の未来って?なんだろう?
今までの過去って?なんだったのだろう?
何故?出逢ったのだろう?
こんなにも胸を締め付けられる感情の出どころが涙に変わる瞬間に温かい感謝に変わる
いつ頃からだろう?私が貴方を...ううん、違う
たぶん、ずっと以前からこの気持ちはあったはず
だけど忙しさに忙殺され続けた日々の中で忘れていた感情なのかも...
〝ありがとう〟も〝ごめんなさい〟も〝全てを込めて話さなかった〟ことが後悔になることを知った
この戦争で、人は気付いたんだと思う
本当に大切で大事なモノに。
―― 葛藤 ――
西野秘書官らの行動の裏に水澤さんの行動があって
その水澤さんの行動が人々の嫌悪の対象となってしまってる
だけど私は知ってる
水澤は自己犠牲の上に立って私達の盾になろうとしてること
本当は人の何倍も優しくて人の何倍も痛みを背負ってることも
先日の行動だって決して無理強いしてたんじゃないし
強く生きろと諭してただけ
なのに、人々は水澤のせいでと責めてる
違うわって思ったことを声にして言えない私も...卑怯なのかも知れないし
自分は他とは違うと自分で自分を諭し身を守ろうとしてるのかも知れない
どちらにしても、水澤から見れば同じなのかも知れない
だから、私達と言葉を交わすことすらしてくれないのかも知れない
私もまりあちゃんも、あの日、助けられたのに...
それを解っていながら、同調圧力に負けてる
人として、まっとうに立って同じ場所に居れない
水澤さんは雑言罵声も、あらゆる忌み言葉も意に介さず言葉を態度で跳ね退ける
先日の決意した心が痛い
水澤の行動言動を残して行くと決めたのに
私は無力...
これまでを振り返ったら泣けてきちゃった
そんな時に西野秘書官に言われた言葉が胸を刺す
応援してくれる人と【応援し続けてくれる人】は違う。
ただ応援の仕方が変わっただけよ大事になさい。
私達を守り戦い傷つきながらも尚も戦い続ける
それが水澤さんの人生なの?運命なの?
もしそうなら、哀し過ぎる
水澤さんだって、この戦争に巻き込まれた犠牲者のはずなのに
尚も犠牲になり続けることが応援なら
私は、そんなこと望んでいない
むしろ、共に生きて行くこと、そこには笑顔の貴方が良い
もうこれ以上、犠牲になって欲しくない
そんな感情を言葉にして伝えられたなら良いのに
今の私は無力で何も言わず黙って背中を見つめることしか出来ない
ごめんね。
憎悪の矛先にされてる貴方を守らなかったこと
守れなかったこと
庇うことも出来なかったこと
全部全部、ごめんなさい。
ほんとのとこ私は嫌なんです!あなたが居ない世界なんて..絶対に
だから、出逢えたことに出逢ったことに後悔なんてしないでください
〝私はあなたに出逢えて"幸せでした〟
そう伝えたい。
―― 涙の言い訳 ――
私が私としてどう考えて行動したとして時代に流されて行くだけ
これも皆、同じなのかなぁって思う
昨夜、此処に来て初めて敵軍と交戦になってと言うか
一方的に発砲して此方には犠牲者は出なかったけれど
銃声は嫌い
あの日を思い出してしまうから
キャンプ場で敵に襲われて..そして...傷ついた水澤さんを置き去りにして...色々な思いが私の頭の中を駆け巡るから
唯一の救いは水澤さんが今も無事に生きていることだけ
人の生き死には紙一重の気紛れなのかも知れない
一歩間違えれば自分が...ということもあり得るから
今を生きる彼等は紙一重の綱渡りをしてる
踏み間違えたり、踏み外したら...奈落の底へ落ちてしまう
交戦があった夜が明け
今度は紙一重の綱を踏み外してしまい奈落に落ちた人々が出てしまった
判断ミスを責めても犠牲者は帰って来ない
水澤さんは言う『喧嘩は北韓軍とだ』
そして『罪なき犠牲者が、これ以上、出ないように全力を尽くす』
とはいえ、犠牲者が出てしまった以上
校内は蜂の巣を突っついたような騒ぎになって
口々に憎悪の言葉を吐き続ける
その矛先は水澤さんに向いていた
軍とぐるになって無理やり兵隊にしたから死人が出る
全て水澤さんが悪いと言う
時代、運命、そして自分を恨めという水澤さんの言葉がそうさせているのかも知れない
今という時こそ私は私の意見を言葉に声にしなきゃいけない
だけど仮に言葉に声にしたとして果たして皆さんに届くのだろうか?
むしろ、私自身にも矛先が向く
私はそれが怖かった...先日の決意がガラガラと音を立ててぐしゃぐしゃになり
涙が止めどなく流れ落ちる
そんな私を見て、まりあちゃんは『安莉ちゃん、大丈夫?』と心配してくれる
私は大丈夫じゃないけど『大丈夫』って答えるのが精一杯で泣き崩れてしまった
『安莉ちゃん..医務室に行こう。』そう言って私の手を引き寄せ肩を抱いてくれた
まりあちゃんの優しさに無言の優しさを貫く彼の姿が重なる
医務室についた時には涙は止まってたけれど
私の瞳に水澤さんの姿が映った瞬間
また泣いてしまった
そんな私の手を引き、まりあちゃんは
怪我人の処置を終えた稲葉華凛軍医の所へ私を連れて行く
水澤さんは私の姿を一瞥しただけで医務室を出て行った
『どうかした?』稲葉軍医が問う
『校内の騒ぎのせいか安莉ちゃんが』
泣いてる私の姿を見て
『大丈夫じゃなさそうな感じね』と言い
ベッドに座らせるように言う
『怖かった?』
まるで見透かしたような問いに私はビクッとしてしまった
『誰かの言葉に負けた自分が悔しいんじゃない?』
さらに見透かした言葉が稲葉軍医から出る
私はびっくりしつつも小さく頷き
『言いたい人には言わせて置けば良いの
貴女が気にする必要はないし、気に病む必要もないわ
むしろ、誰かさんのように意に介さないようにしたら良いんじゃない?』
その誰かさんのことが水澤さんのことだと私は理解した
『誰がどうとか関係ないわよ?要は自分がどうしたいか?だけで
もし、出来なかったとしても誰も責めたり出来ないことだもの
自分のことは自分で責任を持つ
大人なんだから当たり前なことじゃない?』
だけど、私は...
『今は出来なくても、出来る自分は常に共に在り続けるって誰かさんの受け売りだけど
人なんて、そんなもんよ?出来ないって自分で決めつけたり限界を決め込んだりしなかったら貫くことが出来る
まあ、これも誰かさんの受け売りだけどね』と言うと笑う
『出来る自分は常に傍に居る』
私が噛み締める言葉で、その言葉をくれた人は水澤さん
私は私で在り続けるしか出来ないんだから
私は私を貫くことを止めちゃダメなんだと思った
例え誰かが何を言っても自分を曲げたり、圧力に屈したら私は私でありながら私じゃない誰かになってしまう
『まあ、とにかく昨夜と言い、今日と言い
騒がしいこと騒がしいこと
まあ、その代わり久々に仕事したけどね』と言いまた笑う
後になって知ったことだけど稲葉軍医は心理学を専門としていた時期があったそう
だから、私の心を手に取るように見透かしたのかも知れない
―― 私として ――
いつの間にか涙は止まり気持ちが晴れた後
医務室で、まりあちゃんと稲葉軍医と他愛ない話に興じて
気付けば夕方近くになっていた
『とりあえず私、頑張るね』
『無理しちゃダメよ』
『はい、ありがとうございます!』
『まりあちゃんも、ありがとうね』
『ううん、安莉ちゃんが元気になって良かった』
『二人とも良い?自分は自分、他の誰かにはなれようがないんだから
唯一無二の大切な自分自身を大事にしなさい
そして、自身を大事に大切に想ってくれる人を大事するのよ』
私とまりあちゃんは笑顔で返事をして医務室を後にしようとした時、水澤さんとすれ違った
水澤は私達を見て見ぬふりのように医務室に入って行く
私は何か言いたかったけど稲葉軍医の【今は忙しい時】と言う言葉を思い出し言葉を飲み込んだ。
私は思う
私が私として在る為に必要なのは、私じゃない誰かになんてならないし
私は負けない絶対に負けない
この次は絶対に耳障りな言葉を吐く人々を黙らせてやる
と密かに誓った
私が私として在る為に、私は負けない自分と負けそうな私と戦い
この旅路を行くけれど
水澤さんをはじめとして彼等の旅路は険しいモノだと思う
だけど彼等は〝それでも行くんです!約束もない、保証すらない、其処に在るのは自分と言う名のプライド〟
自分を懸けて命懸けで駆けて行く
迫り来る狂気と対峙する彼等は〝勇者〟
どんなに彼が、優しくしてくれたか、何も、知らないから!だから皆、好き勝手に言う!
私の気持ちは全部、ほんのちょっと前の私の気持ちで・・・その気持ちの上に、今、私が立ってる。
共に進みます。
私は、貴方と共に...。
ありがとうもごめんなさいも全て包み込んでくれる
そんな人だから
今は話しすらしてくれなくても私は私として〝どう在りたいか?〟を常に考えて行動して
今以上に誰にも劣らない人間になります。
ーー 祈り ーー
水澤さんの行く道の先が幸福でありますように
そして、そこには私とまりあちゃんの笑顔が在りますように
今まで見て来た景色、出逢って来た人々
それが思い出に変わる時貴方は何を覚えていたいですか?
いつか、この戦争が終わった時に...
私は貴方を覚えていたいんじゃない共に在りたいんです。
覚えていたいことは貴方が教えてくれた全て
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つづく。
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