THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story ⑨ ― 1
THE LAST STORY >Moon crisis<
赤坂 安莉 Anri Akasaka Story
国を支える国民を守らずに何故?無理やり兵士にするの?
私にはわからないし理解しようもない
それに彼らは...兵隊と呼べるほどの力量を備えていない
「祖国の為に」って言ってた人がいるけれど
市民も守らずに安全な後方から何を言っているの?
人が集まり国家を形成するという前提がなくなっている
多大な犠牲を払った果てに何が残るの?
第九話 Reload 其の①
『幸せを過大評価しないこと!あらゆる幸せは、皆さんにとって丁度良い形を与えてくれる
だからそんな風に、世界を嫌わないで、何もかもを嫌わないで弱い自分を嫌わないで
弱くたって良い、だけど、何もかもから目を反らすのはダメ!逃げてもダメ!生きるのよ!自分の為に、大切な誰かの為に守らずに〝死んじゃダメ〟』
参謀総長 第1秘書官
西野 詩音
その言葉を残して霧島陣地へと旅立った。
ーーこの時代に生まれてーー
あの日から水澤さんは変わってしまった
水澤さんは、まるで人が変わってしまったようになってしまった
水澤さんの姿をした別な怖い何か..
言葉を交わすことさえも少なくなって..水澤さんの眼光は常に獲物を狙う獣のよう
私はその目が嫌いで仕方なかった
だけれど、ある日のこと
校舎の片隅でうずくまり涙する誰かに水澤さんは言い方はきついけれど話しかけていた
うずくまり涙する彼は
『僕はこんなことの為に生まれて来たんじゃない..死にたくない..』
泣き震える背中に向けて水澤さんは言い放つ
『人は生まれ、いずれ死ぬ 死なないヤツなんざ居やしない!だから死を恐れるな!どうせ恐れるなら別な何かにしろ!』
『人を殺すことを何とも思わない あんたみたいなヤツに何がわかる..』
『確かに俺にお前のことなんざ解るわけねぇだろ?
お前は俺じゃなねぇし、俺はお前じゃねぇからな解りっこねぇよ
だけどな一つだけ言えることがある』
『・・・』
『死は誰の元にも平等だと言うことだけだ』
確かに人の最大のデメリットは死
人が生まれ逃げようのない宿命
『自身の生まれて来た時代を恨め...他の誰かを怨み憎むなよ..怨みは怨みとなり跳ね返り 憎しみも同じだ』
『だからって、何で兵隊になんてされなければならない!』
『さっき言ったろ?生まれて来た時代が戦争という時代だったからだ
だから時代を恨めといったんだよ聞いてなかったのか?』
『時代の責いにしても..兵士にされる理由がないじゃないか!』
『理由なら在る』
『何だよ?』
『お前も俺も同じ時代を生きている
この糞戦争という時代をな だからどうせ恨むなら自身の宿命とこの時代を恨め
もう後戻りなんざ出来ねぇんだからよ』
『だからって僕は人を殺しなんか出来ない...』
『そうかなら、潔く敵に撃たれて死ね!それも出来ないんだろ結局』
『当たり前だ!』
『当たり前か..その当たり前ってヤツは誰が決めたんだ?』
『みんなそう思っているに決まってんだろ』
『お前以外のその他多数が、お前の言う当たり前とやらに賛同したとして
俺はお前や他の連中とは違うからな』
『あんたは人を殺すことに何の躊躇もない殺人鬼だからわからないだけだ』
殺人鬼という言葉に私は一瞬飛び出しかけたけれど...躊躇してしまった
水澤さんは言葉を連ねる
『俺は殺らなければ殺られるところだったから殺したまでだが
お前は殺されそうになっても何の抵抗もせず〝死〟ぬことを選ぶわけだな?
矛盾してねぇか?お前?』
『....』
『フンッだらしないヤツだ..死ぬことも生きることも出来ず
口先だけは元気なヤツだな まあ別に良いけどよ
よく覚えておくんだな
死=負けなんだぞ、そして...〝生きる力=希望〟だ
死にたくねぇなら
その手に希望という未来を掴んで生き抜け!ただそんだけだ!』
水澤さんは彼に死を強要しているわけでもなく戦うことを強要しているわけでもない
ただ〝生きろ〟と言っているんだと私は解釈した
『人の生死は紙一重だ
俺は負けて学んだことがある
負け=死だと言うこと
あの山の中で負けて自身の弱さも力のなさも情けない醜態を晒した
相手が何者であったとしても負けてはならないことも
わかっていながら負けてしまった
その苦しみと傷と痛みがゲロ吐くように溢れて涙と嗚咽になり壊れた
だけどな?それでも
あの後...キャンプ場で優しき2つの星が見守ってくれてた..そのことは忘れてねぇよ』
『2つの星?』
2つの星...私は唇を少し噛みしめ【2つの星】の意味を悟った
私とまりあちゃんのことだと...そう思った時
頬を生暖かい感情が流れ落ちてしまっていた
水澤さんは背中を向けうずくまる男を無理やり立たせ
胸ぐらを掴み校舎の壁に背中を叩きつける
『だからこそ殺らなければ殺られるのは明白な事実
戸惑うことも躊躇することもなく銃爪を引き続けて撃ち続けた夜も..
だけどな?俺だって誰かの為に死んでたまるか
〝遺された誰かの痛みが解る〟から尚更だろうが!!
だから俺は〝その誰か〟を自身の中から本当は消してしまいたかった
だけれど、その誰かは〝此処に存在〟している』
『・・・』
『自身の為に、その誰かを守らずにはいられなかったのは、俺がそうしたいから〝そうした〟だけのことだ』
変わったのは水澤さんの中の意志
それが最初に出会った山中での負けの記憶と傷
それを覆い被そうともがいてるのかもしれないし
最初から水澤さんの〝心〟に抱かれていた【優しさと思いやりの心を内包した】水澤さんだけの真実なのかも知れないと私は思った。
彼は..水澤さんは決して〝化け物〟でも〝怪物〟でもなく
自己犠牲で自身を貫いていることを私は..この日のやり取りで知り
私の心の中に強く深く刻んだ。
ーー私の使命ーー
此処に800余名の無理やり兵士にされた名も無き人々の記憶を私は残さなきゃならないと思った
アナウンサーとしてジャーナリストとして、1人の人間として...彼こと水澤さんの辿った軌跡を後世に伝え残し
この戦争とは何だったのか?
人として在ることの様々な葛藤と心とは何か?を後世に問わなければ、いつの日か同じ過ちを犯すかも知れないと思った。
――2つの物語――
共にありたいと望んで、相手がそれに応えてくれた時 それが心からの返事だと
逆らえないから出た答えではないと信じられないのかも知れない
相手が自分を必要としてくれていると信じてしまえる程の相手に出会えた時
それは、いわば相手と自分との物語に変わる。
願うなら、この出会いの道の先
物語の頁をめくるその音が重なる足音のように響くようにと私は願わずにはいられなかった。
震え泣く背中に言い放った言葉も水澤さん自身に言い聞かせているようにも聞こえる
きっと水澤さんの中に答えは存在するけれど..未だに全容を掴めない答えがあって
それを掴んでしまった瞬間に人ならざる何かに変わる恐怖心が去来し続けているのかも知れない。
水澤さんを通して透過した光りも影も飲み込んだ後
吐き出すのは死の漆黒影なのか?それとも希望の煌めきなのか?
今、ここに光りと影の天秤のせめぎあいの中で時は刻々と進み続け
明日という希望または絶望を待ち受ける夜が明けて行く
私やまりあちゃん、そして水澤さん等を取り巻く状況は決して楽観の出来る状態ではなかった
むしろ、ひたひたと忍びよる悪しき狂気と敵軍に私達は未だ気付いていなかった。
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つづく。
※この物語はフィクションです。登場する人物、団体は実際の人物、団体とは何ら関係ありません。
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