THE LAST STORY>Four-leaf clover< ⑨―1
THE LAST STORY>Four-leaf clover<
第9話 It all for you その①
イッチ!ニィ!サン!シ !イッチ!ニィ!サン!シ!
と掛け声を出しながらザッザッザッザッと地を踏み締め行進する
お世辞にも綺麗に揃った行進ではないが少しは様になって来たと川中陽二は思っていた
いつ敵に襲撃されるか?わからない山中よりマシとはいえ
ここ数日の平穏さで気が緩んでいる者も居る
まだ全て終わったわけではない"むしろ始まりだ"と川中は思っている
もし敵の襲撃を受けた場合に敵を撃退する自信は正直ない
自分は同期の榊 淳也のように勇気も強さも持ち合わせてはいなかったし
今は伍長とはいえ最下級下士官だ
これまでの訓練兵として地獄の脊振山戦や水澤らを含め民間人を守って来た恩賜で伍長の階級を得ただけで士官クラスに相当する小隊をまとめる立場になどなったこともない
だが、今は臨時とはいえ二個小隊の一隊をまとめる立場にある榊に継ぐ副隊長である
責任の重さに押し潰されぬように気を張り続けている
もう一方の小隊は伊藤勇二という人物と北見大地という人物がまとめている
何故?こうなったのかというと話せば長くなるが、霧島陣地を指揮する岡村田中将の命令という名の参謀部への嫌がらせのようなモノだった
参謀部第一秘書官の西野詩音特佐、参謀次官の月島零次官、そしてこの地を防衛拠点としていた第十五中隊隊長、梶原大尉らは岡村田の命令を幾度か断り続けている
民間人を残して離れることも、その民間人を軍に臨時の徴兵を行い兵士にすることも決して出来ないことだったが...
十五中隊隊長補佐 佐脇和馬中尉と先ほど触れた伊藤勇二は岡村田の命令を履行し霧島陣地へ行くことを主張していた
その裏にある真意は岡村田の嫌がらせ的命令を逆手にとることにあった
その案には水澤も絡んでいた
ーー決断ーー
キャンプ場での戦いの傷が癒えぬままでも水澤は誰ともなく周りの気配や環境を感じとり
ある日、榊に尋ねた時のこと
作戦部の偉いさんと西野秘書官がどうも揉めてるみたいなんすよ
水澤は眉間に皺を寄せ「揉めてる?」
立ち聞きしただけなんで詳しいことはわからんですが..十五中隊を霧島陣地に移動させるみたいっすよ
それに何の問題があるんだ?
移動したら此処を守る部隊がいなくなるんで..
なるほどな、そりゃあの秘書官も怒るだろうさ 代案はないのか?
ないみたいっすねぇ..なんせどこも手詰まりで抽出できる戦力がないみたいなんすわ
そのやり取りの後、水澤は少し思案した後
西野詩音の居る部屋を訪ね
事の子細は聞かせもらった
と一言言い
詩音の表情を見る
凛として見惚れる者も居るだろう詩音の表情が少し怒りの色味がさす
その表情を見て
「綺麗事ばかり並べ立ててどうする!綺麗事じゃ計れない事の方が世の中多いだろ?」
「何の話しかしら?誰に何を吹き込まれたのか知らないけれど貴方が気にすることじゃないわよ」
「何を気にするなと?」
カマをかけられたと詩音は感じ水澤から目をそらす
「詩音さんが気にするだろうことを明らかにしようってわけじゃない
俺が言いたいのは、どこかの誰かの言葉に負けんなってこと」
「どこかの誰か?」
「作戦部長、岡村田ってヤツに」
「何処でそんなことを聞いて来たのかしら?」
水澤は詩音の座る椅子に近づき詩音の膝の上に座り首に腕を回し抱くような格好になり
静かに耳打ちしたあと詩音の瞳を見つめる
詩音も水澤を見つめ沈黙と静寂が部屋を包み
詩音は口を開く
岡村田は「祖国の為、我々は軍、国民共々に最後の一人になろうとも戦い続けるのが責務である!生きて故郷の地を踏むことなきものと覚悟せよ!
そして指揮権は我々に在るということを、今一度申しておく以上。」
そのやり取りが幾度か繰り返されたわ
その度に私は断り続けて来たし、その気持ちは変わらないわ
「それで良いんじゃね?
自分の生き様は自分で決める!誰かの為にではなく自分自身の為に!」
自分自身の為...ね
佐藤閣下も同じようなことをおっしゃってたわね
大邱に辿り着けぬまま戦場に消えた先任の参謀総長
詩音が全てを投げ売ってでも守りたかった尊敬する上官
その人物と自身の目の前に居る水澤が重なる
「自分の手を汚してまでも守らなきゃならねぇモンがある」
「その血で汚れた両手を愛しく包んでくれる誰かの為に?貴方は戦う道を行くと言うの?」
詩音は自身の膝の上に座る水澤の腕に自身の腕を重ねる
「1度でも守ると決めたなら死んでも守り通す!それが男ってモンだろ?」
「あの子達が羨ましいわね」
「あの子達?なんのことか知らんが俺は、ただ戦い生き抜くだけさ、この糞戦争をな」
「生きなさい自分自身の為に、貴方にはその資格があるわ」
「詩音さんもね」
「ありがとう」
西野詩音は不本意ながら伊藤や佐脇の意見と
水澤の意見、意志を信用し本心を曲げる決断を下した
この時、詩音は決断を下し
翌日、月島次官以下、十五中隊に霧島陣地への移動を命令
そして
満20歳~満40歳の健康な男性を臨時徴兵の対象とし、兵役ではなく軍属と言う形で対処すること決定する
兵役につけば少なくとも三年5ヶ月間は兵士でなければならない
軍属という待遇なら臨時の期間を終えればまた元に戻ることができる
詩音の苦肉の策でもあったけれど
必要最低限の事項を満たせば充分だろうと耳うちした水澤の言葉が開いた道でもあった
講堂に集められた民間人の男達は明らかに拒絶を示す
まあ当たり前だろうが口々に軍を罵倒し徴兵拒否の声があちこちからあがる
水澤は壇上に上がり詩音の隣に立つ
「祖国の為、我々は軍、国民共々に最後の一人になろうとも戦い続けるのが責務である!生きて故郷の地を踏むことなきものと覚悟せよ!
男に生まれながら、いざと言う時に尻込みし、果ては他責の感情しか持てないとは情けない
今、戦争中だぞ!誰か何だと罵りあってどうする!
もし、恨むのなら自身を恨め!それが出来ないのなら今という時代に生まれたことを恨め!決して誰かのせいでもない!
もちろん、西野詩音さんのせいでもない!
お前ら自身のせいだろ?国から逃げ遅れた自身のせいだ!それが、今この時に繋がっている
そんなこともわからねぇのか!」
大きく響いた声に気圧されてボソボソと文句を言う者も居る
水澤の言葉に
例えそれでも納得できない者も自身に関係のないと言う者も居ても時の流れは彼らを否応なしに兵士の道へと押し流して行った。
「さっきは庇ってくれてありがとう」
「庇ったつもりはないけど、俺はただ事実をありのままに言ったまでさ」
「素直じゃないのね」そういうと詩音は水澤の腕を自身に引き寄せ「必ず迎えに来るからそれまで待ってて、だから、無茶しちゃダメよ!何があっても " 生きなさい "」
「こんな糞戦争で死なねぇよ...ただ、人は生まれりゃ遅かれ早かれ死ぬけれどな...
人は誰かの為にと言いながら自分の為だけに生きて..死ぬんだよ。」
「貴方が死んだら困る子達が此処にいることを忘れないでね..私もその1人だから。」
ーーしばしの別れーー
モテるからって手当たり次第、口説いてんじゃねぇよ!と榊の怒鳴る声
なにやら川中と榊が言いあいをしている
ばーか、俺がモテてるんじゃねえ、女の方から俺に寄って来るだけさ
だからモテてるように見えるだけ
俺を本気にさせる女なんざ、なかなか居ねぇよ?
自慢気に川中はこたえる
川中と榊のやり取りを聞いていた稲葉華凛軍医は川中に言う
「あなたにとっての冗談は女性にとってはナイフなのに気付いてる?」
「華の言葉が1番鋭いナイフでしょう」
「詩音に言われたくないけど..」
「言われたくないけど何?」
「怖っ..」
水澤も川中も榊も肩をすくめる
「水澤くん貴方まで..もう..」
「あ、そうだ!詩音さん!」
「ん?なーに?」
「川中達を卒業させてあげてくれない?いつまでも訓練兵のままじゃ格好つかないやろ」
「そうね、明日にでも立派な兵士になってもらいましょう」
翌日、川中や榊、そしてキャンプ場で合流した黒木達は訓練兵を卒業し下士官の階級と共に日本陸軍兵士となった。
この辺の情勢は霧島陣地に比べたら幾分安全というか安定している
それも第十五中隊が尽力してきた結果でもある
第十五中隊から伊藤勇二や北見大地ら十数人が残り
編成は二個小隊となった
第一小隊
伊藤勇二と北見大地
第二小隊
榊淳也と川中陽二
水澤は第二小隊に所属する
ー医務室にてー
榊と川中は窓の向こうにみえる建物を指さし何やら困った顔をしている
榊達が言わんとする意図を理解した水澤は『潰しとけ後々面倒だ』
やっぱりかぁという表情をして『あんなとこに陣取られたらヤバいすよね..』
『見張りも効けば其所から狙撃すらできる好立地だ潰しとけよ』
と水澤は言って榊に現状の装備品について聞く
人数分のライフルと手榴弾が400にRPG(ロケット弾)200のみと答える
ガソリンと飯ごうは?と聞く水澤にガソリンはともかく飯ごうなんざ何に使うんだと川中も少し不思議そうに聞く
飯ごうの中にガソリン入れてそれに手榴弾くくり付けたらどうなるか?ぐらいわかるだろ?
なるほどなぁと川中は言って『色々世話かけて すんません 後は俺らに任せて ゆっくり休んどいて下さい』と言い握りこぶしを水澤の前に突き出す
同じように水澤も川中に向かって拳を突き出し
『ああ、任せるが手を借りたい時はいつでも言えよ』というと
傍に居た赤坂安莉は
『なるべく水澤さんの手を煩わせないようにするようにお願いします』
と語気を強めに言う
川中達は水澤の手を
なるべく煩わしたくはないが手を借りる時が来るかも知れないと変わらない達は思いつつ三崎軍医と稲葉軍医に水澤の治療をしっかり頼んだと言って部屋を後にしようとする川中の背中に向かって水澤は『飯ごうのヤツ、構造物をぶっ飛ばすのにも使えるが埋めてテグスでピンひけば地雷代わりにも使えるぞ』
『さすがっすね!了解っす
!』
そう言って榊達は部屋を出て行く
彼らの前途は決して明るいモノじゃあない
むしろ暗雲立ち込める暗闇の中で手探りしながら戦争という狂気の出口を探し求め続ける。
始まりには終わりが必ずある
その終わりを求め彼らは戦い続けて行く。
第9話 It all for you その② へ
つづく。
※この物語はフィクションです。登場する人物、団体は実際の人物、団体とは何ら関係ありません。
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