THE LAST STORY>Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story
翼の折れた紙飛行機は旅立った場所へは還ることはなかった。
幾度も幾度も読み返しました。
全文を暗記してしまえる程に
そして、読み返す度に貴女の優しい声が再生される
脳裏に何度も何度も...
僕は貴女の姿も声も知ってるけれど
貴女は僕の姿も声も知らない...。
その優しい微笑みと声で "僕の名を... "
二度と還らぬと知りながら、貴女の場所へ飛ばした紙飛行機は....
その所在は...
貴女の脳裏に、その瞳に映っていますか?
THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story
あの頃の私は生まれて初めて真剣に祈りました。
「神様、どうか彼に慈悲を...」と
私は自身の身に起きた出来事を生涯忘れることはないでしょう。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
202×祭典の後。
______
<瓦礫の街で>
その日は良く晴れていました。
自由と人の尊敬と多種多様な文化の祭典が終わり
地獄の入り口の地...
半島での出来事は対岸の火事のようで実感すらなかった
そう、遠い空の下の出来事...
それが自身の身に降りかかって来るなんて想像さえしていなかった。
何故こうなったのでしょう..その問いかけを...幾度となく繰り返して来た
けれども、答えなんてなかった
それは定められた運命を歩む人間の抗えぬ宿命
地上に産まれた瞬間から、もしくは母体に居た頃には既に決まっていたのかも知れない
高く伸びた積雲の季節
私はいつものように自身の職責を全うする
私は福岡の地方局に勤務し自身の担当する番組のニュースキャスター
此処に来て今年で3年目、この地での日々は私の夢を形にし、そして、同期入社の気象キャスターの森下さんと地域の皆さまと
これからも...そう思っていた
蝉時雨が少し落ち着いて木々が色づく頃
「10月某日、名古屋市上空にて核と思われる爆発を確認」
その日から遡ること半月前
半島には真紅の旗が全域に翻っていた
在半島駐留邦人の救出作戦さえままならないまま
私たちの国家は...その機能を失った
霞ヶ関に居る政治屋は誰に責任があるかを問責し合うしか出来ない有り様で
首都核攻撃危機を煽る様々な憶測が飛び交い
そして...
その緊張のピーク時に首都ではなく、名古屋に核が炸裂した。
イージス、対空火砲はドローンのカミカゼアタックによりその機能を失い
首都核攻撃危機の為、主要な火砲は関東圏に集中配備されていた
空白地域になった中京地方は無防備なまま
何ら抵抗も出来ずに核の炎に包まれたのです。
通常弾頭のミサイルによる飽和攻撃も核の行方を見事に隠した
二次、三次、四次と幾重にも波状攻撃を加え
私たちの国の指導層も私たち国民も敵は欺いて見せたのです。
私の住む街にも三次にわたる攻撃にさらされました。
瓦礫の街で...見上げた月は静かに地上を見下ろして
地上を這う蟻のような人間達の行く末をただ黙って見守っていた。
私たちの国家は軍を持たない代わりに自衛隊という便宜上 軍隊ではない集団を持っていた
半島での出来事、そして名古屋の出来事は便宜的な部分を失くすには充分すぎる理由と意味を与えた
そして今、私はその国軍の一員として半島に居ます
何故そうなったのか、それは彼や彼らに出会ったから
その出会いは私の生き様さえ変えてしまったのです。
「今日、出来なかったことは、 いつか出来るようになる為の通過点」と教えてくれた " アナタ " へ
「今日、起きた出来事(始まった事)は、いつか終わる為の通過点」ですよね。
私はそう信じて軍服を着る道を選んだのですから
THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story
次話 目蓋の憂鬱 へ
ーつづくー
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