THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story ⑧
THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story
ねぇ教えて..あの日..私達は、どう判断をし選択をしたら良かったのかを...
暗く閉ざされた扉の向こうに手を合わせ祈った
誰かの幸せではなく...
自分の幸せを...
神は救いも守りもしない
ただ見護ることだけしかしない
人を救えるのは同じ人であること
例え遠く離れ触れられなくても...
その存在があるからこそ人は...優しくも強くもなれるし
形のない優しさをくれた貴方へ
私達も同じように上手に返せてたなら...
例え、どんなに離れていたとしても姿を認識できなかったとしても...その想いと...この想いは伝わると信じて...
第八話 What does it mean to love a dirty world ?
いつ敵に襲撃されるか?わからない山中よりマシとはいえ
ここ数日の平穏さで気が緩んでいる者も居る中で私も森下さんも未だ目を覚まさぬまま眠っている水澤さんのことを心配していました。
一方で、参謀総長の第一秘書官、西野詩音さんは何だか揉めている様子で苛立っているようにも見えました
私達は " 自分の出来ること " は、ただ見守ることと祈り続けることしか出来ず
苦々しい思いというか、もどかしさを感じながら水澤さんの意識の回復を待ち続け
それは、あの日、あの場所で共に戦った彼らも同じように思っているように見えました
毎日毎日、飽きもせず来るのね そんなに心配?と水澤さんの主治医の三崎希望軍医が私達に聞くと
まあ、良いじゃない?彼はこの子達にとって命の恩人のようなものでしょう。と稲葉華凛軍医が答える
このやり取りも光景も日々同じように繰り返されて来た慣れた場景
私もまりあちゃんも少し照れ笑いしながら『私達に出来ることはこれくらいしかないので..』そう答えるのが三崎、稲葉両軍医との挨拶のようになっていました
手が足りてないわけじゃないけれど助かってますよ!っと、里山 星看護官が言うのも
いつもと変わらない日常だった。
少し痛そうというか、くるしそうに眉間にシワを作る水澤さんの寝顔も..
自分に出来ることが、あまりにも少な過ぎて申し訳ない気持ちと、早く目を覚まして欲しい気持ちが入り交じりながら此処での生活を送っていました。
軍医さんが言うには「本来なら、とっくに目を覚ましていてもおかしくはないけれど..点滴に混ぜてある痛み止めは麻酔薬に近い性質のモノだから、その影響もあって眠っているのかも知れない」と言って
大丈夫よ、ちゃんと目を覚ましてくれる日は来るからと言って私達に微笑みかけてくださっていた
そんな最中に、ある問題が持ち上がり
私達のと言うより、水澤さんを含め此処にいる彼らの運命を狂わせてゆくことになるのです
霧島防御陣地に在る軍部隊を事実上指揮をとる
作戦部部長、岡村田道大 中将
この人の存在が西野さんの苛立ちの原因でもあり
この人のせいで、あまりにも残酷な運命をたどらないといけなくなってしまうのですが
それは、もう少し先の話
水澤さんのとこに通う内に
私達と三崎軍医さん稲葉軍医さんと里山看護官さん
仲良しにもなっていました。
そして、あの日の戦いを生き抜いた
榊さん、川中さんと二人の同期生黒木さん、森村さん
そして伊藤勇二という人と第15中隊の隊長補佐を務める佐脇和馬少尉
この彼らの存在が水澤さんとの結びつきを強めもしたし、逆から見れば私の主観だけど "この二人のせいで " とも言えることが後々起きてしまう
ただ、この時の私達は水澤さんの回復を待ち続けることしか出来なかった....
西野さんは言う
私は軍法と国法に背くことは不本意で、国家を司る政府が空洞化し機能していない現状だからこそ
私は国を国民を守ることが私達の軍の役割であると考えている!
誰が好き好んで軍人でない彼らに戦いを奨励したり強要をすると思うの?
例え政府が空洞化していても私は私の信念に背いてまで彼らを軍に徴用は出来ない
だいたい、貴方はいつから私に命令出来る立場になったわけなの?
その問いに岡村田はこう返答したそうです
「大邱での失態と佐藤閣下の死、そして脊振山でキミは何をしていた?
参謀部の秘書官風情が、私のすることに口を出すことも烏滸がましいと思いたまえ
今の現状を省みれば、わかるだろう?
国家、国民の為というのであるのなら尚更に
今、我が国は危機ある!祖国の為、我々は最後の1人になろうとも踏みとどまることが責務である!
生きて故郷の土を踏むことはなきものと覚悟せよ!
国が滅ぶかどうかの瀬戸際にキミを含め参謀部は何をやっている?
早々に我が命令を遂行し、15中隊を霧島陣地に送れ!以上。」
西野さん岡村田に恫喝にも似た屈辱を受け
それをその場で共に聞いていた月島零参謀次官に伊藤勇二さん
月島次官は「西野秘書官が望んでないのなら無視しても構わない」と意見を述べ
伊藤勇二さんは少し思案した後
「ここは一旦、要求を受け入れてみては?死傷者が出た場合どのみち命令者である岡村田さんに責任追及が及ぶことですし」
そんなの私達からしたら
信じられないことを伊藤さんは口にしてる
西野秘書官は、双方の意見を聞くのみで決断を先送りにしたのでした。
そののちも、再三に渡り岡村田の命令を受けながらも西野さんは沈黙を続けました
そんなやり取りが幾度か繰り返されて
そして....
私達の待ち望んでいた日を迎えたのです。
ようやく水澤さんは目を覚ましてくださいました。
私もまりあちゃんも涙で滲んだ視界の先で水澤さんの顔が薄く微笑みかけてくれたように見えました
良かった。。。
本当に、良かった。。。
とりとめなく流れ落ちる涙が水澤さんの頬に落ち
私の頬を伝う涙をそっと優しく拭ってくれた水澤さんの手のひらの温もりを私は今でも はっきりと覚えています。
あの日、目を覚まし私達の涙を拭い
『いらない心配をかけて、ごめんね。』
そう言ってくれた
私達のせいで傷つき怪我を負ったのに...
水澤さんは誰や何かを責めることはせずに
ただ私達には謝罪を、そして軍医さんや里山看護官にはお礼を言って
そんなこと気にしなくて良いのはお互い様ですよ
そう稲葉軍医は言って自身のポケットの中から水澤さんの愛飲している煙草を取り出すと自身の口に咥え火を付けたあと
水澤さんの口元へと運ぶ
此処は禁煙なんですが?と悪戯っぽい口調で里山看護官が言うと
今日ぐらいは勘弁してくださ~いっと稲葉軍医も悪戯っぽく言い三崎軍医の顔を見る
三崎軍医は何も言わず静かに頷いて
よく頑張ってくれたわね!ありがとう。
そう水澤さんに言って私達に背を向けた
その背中は少し震えていたようにも見えました
きっと三崎軍医は泣いていたのだと思います
あの日のキャンプ場で状況が、それを許さない状態だったからと、一度は諦めた救うべき命の灯りが
今、再び灯り輝きはじめたから...
それは、校庭の桜の蕾がポツポツと小さく膨らみはじめた頃でした。
消えることのない灯りが在るとするなら
きっとそれは太陽のように永遠に輝き続け足元を照らし続ける
こんな戦争という汚れた世界に愛のように降り注ぐ光り
この汚れた世界で愛を注いで、思いやりの灯りを覆い被さる戦禍を切り裂く哀しくも儚いけれど力強い閃光を放ち
私達の行方を示す道標になるのでしょう
例えるなら「曇り空の雲の上は、いつも青空」
当たり前が当たり前でなくなって
だけど、そんな当たり前な優しさや思いやりに溢れた世界を世の中を今一度と願い祈り
そして、戦禍の中へと身を投じて逝くこととなる彼らに「どうか神様、慈悲を。」と願わずには居られませんでした。
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赤坂 安莉 Anri Akasaka Story
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━ つづく ━
※この物語はフィクションです。登場する人物団体は実際の人物団体とは一切関係ありません。
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