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THE LAST STORY>Four-leaf clover< ⑧

挿絵(By みてみん)



キミに棲む黄金色 いつか希望の大輪の華を咲かせて


【お前は誰かの太陽で居られるか?】



THE LAST STORY>Four-leaf clover<


第八話 An excuse for tears



川中を一旦戻らせた榊は暗く沈む山道を独り 一心不乱に駆ける

それはまるで脊振山陣地攻防戦の頃のよう

あの頃と違うのは敵から逃げて駆けていることではなく 敵に立ち向かう為に駆けていることと

同じ同期の戦友達がひとりまたひとりと倒れていった悲壮感ではなく友を助ける為に必死に駆け続けていること...


雲に隠れていた月が再び顔を出し辺りを照らし始め


より一層に銃声の音が激しく大きく聞こえてくる


あの人が居る..まだ生きて..戦っている






――這ってでも生きろ――



数時間前 キャンプ場 管理棟にて...



ガウン !!



鳴り響いたライフの音に置き去りの者達は驚き 一瞬静寂が辺りを包む


「死ねとは言わんが、そんなに生きたけりゃな 這ってでも生きやがれ!

みっともなかろうが情けなかろうが生きたいなら生きて良いんだよ!」


こんな状態で這ってでも生きろだの何だの勝手を抜かすなと辺りがまたざわめき始める


ガウン!!


もう一度ライフルの音が鳴る


「だったら自身の運命と受け入れて静かに黙ってろ!それが出来ねぇからぐちゃぐちゃ抜かしてんだろ?

まだ生きれるし、何がなんでも生きろ!」


ガウン!!ガウン!!


また敵が来たら殺されるから銃声を立てることをやめるように言う者

傷に響くからやめろと言う者 銃声に反応して震える者


その光景を見つめ水澤は更に強い口調で「今感じてる痛みも恐怖も悲しみも生きてるからこそのモンだろ!四の五の文句言う暇があるなら這ってでも行きやがれ!」


ベッドらしいベッドではない粗末な寝床から半身を起こし管理棟の外を指差す


「今..諦めたら本当に終わっちまうぞ...生きろ!糞野郎共、それとも此処で俺と一緒に敵と心中するか?」

胸糞悪いが自身の身を考えるに敵と心中する意外に方法はないと水澤は思っていたし

あくまでも、安莉達の無事と安全の担保の為に再び此の場で敵と交戦する必要があった


自身の命の続く限り1分でも1秒でも長く戦い

敵の目を自身に向けさせ、安莉達から敵の目を遠ざける為に

今ここに在る置き去られた者達をその道連れにすることに受け入れ得ぬ何かを感じたことが【這ってでも生きろ】の発言に繋がっていた


正直これまで戦って来たのは【赤坂安莉と森下まりあ】を守りらなければならない想いのみが先にあり

他の人間が生きようが死のうが知ったことじゃないぐらいの気持ちだったからだ





ーー存在の肯定ーー



キャンプ場での水澤の話を聞き榊は思った


人は変われば変わるモノ


出逢った時はボコボコにされ倒れていた

なんて情けない奴だと思ったりもした


だけれど、水澤は自身の弱さを悔い、強くあろうとし

まるで別人のようになっていた。


俺達という志願兵の存在を菅野教官のように【今という時代にあってとても勇敢で尊敬できる存在】だと思ってくれていた


俺と川中を認めてくれていた存在だった





ーー眼下の炎ーー



銃声の音が大きくなり眼下に炎が見え敵の姿を榊はその目に捉える


炎の内側に敵の影と低く唸るライフルの音の方角を探る独特な音で聞き慣れた音

そこに水澤は居る


立ち上る炎を抜ける場を榊は探すが鮮やかに包囲するように燃え盛る炎の防御に隙が見当たらない


この炎は水澤が仕掛けたんだろう敵を自分に引き付ける為に

そして這ってでも生きる者達を逃がし 先に出発した 俺達や赤坂安莉達を守る為に


せめてその想いに報い更には叶うなら水澤を救い出したいが【この炎の向こうへは抜けられない】榊は悟った


まるでこの炎は水澤の命の炎だ...焼け落ちた時..それはすなわち【死】を意味する


俺は何もしてやれねぇのかよ...膝立ちになり眼下の炎を見つめる



畜生...そう呟いた瞬間




ーーまさかの援軍ーー








『手榴弾 投擲開始!目標 炎の手前1メートル以内

爆発で炎が弱まり次第突入します!』


了解!!手榴弾投擲開始!



榊は自身の目を一瞬疑った








近くに現れた一団に榊は見覚えのある人物が居た


志願第1期教導隊で同じだった森村賢次と黒木正人

更には、志願第1期生でトップの成績を持つ伊藤勇二までもが居た



その一団を率いて居たのは陸軍では有名な第15中隊隊長補佐の佐脇和馬


佐脇和馬を中心に十数名の兵士が佐脇の号令で手榴弾を投げ込み爆風と土煙りで炎を弱め突破口を開く









阿鼻叫喚の中でバンガローの壁に持たれかかりながらトリガーを引き続ける

視界は血に染まり感覚だけが頼りの状態で周りの異変を察知する



"何故戻って来た..."



水澤は新たに現れた佐脇達を菅野達が戻って来たと勘違いしていた



炎の明かりの中で敵軍と交戦する佐脇達を菅野達ではないとまだ気づいていない


『何故、戻って来た!バカか?お前らは!!』


自身は声を上げたつもりだが声にならない声

もう声すら発する力すら尽きようとしていた






炎が弱まった突入口から佐脇達が飛び込んだあと榊も水澤を探して突入しようとした時


自身の頭の上を誰かが飛び越えたと同時に前方で爆発が起き炎が弱まり道が開けキャンプ場敷地内へ突入して行く



ーー軍医三崎希望出陣ーー



突入して行ったのは川中の話を聞き駆け下って来た三崎軍医だった




倒壊したバンガローの残骸を乗り越え管理棟へ向かおうと思ったが管理棟からの抵抗の銃声はない

むしろ管理棟より もっと離れた場所から独特な銃声はしている


"そこに水澤が居る" 三崎軍医はそう思った


事実、水澤は管理棟から離れたキャンプ場の中央を横切る川の向こう岸に居た


駆け込んで来た三崎の後を追うように川中も戻って来た

榊を見つけ何か言いたげな表情をしたが

今は水澤を助けることが優先だと思って

榊の肩に手を置いたあと側に来て銃を構え

三崎軍医らと同じように二人もキャンプ場敷地内へ突入して行く





三崎を見つけた佐脇は自身の側に来るように言うが三崎は事の詳細は後回しにして

この場に水澤や取り残された負傷した兵士と民間人が居ることを告げる

すると佐脇は肩口の無線を使って伊藤達にそのことを伝える




"負傷して動けない兵員と民間人が居る"

その事実に彼らの表情が引き締まる


『全員に通達!お聞きになったように民間人がいます

敵の駆逐と同時に負傷兵及び民間人の救出もしますよ!』


伊藤の号令に了解したと兵士は答え敵兵と交戦しながら慎重に銃撃を続ける


三崎の側に行き佐脇はバンガローの残骸の影に隠れてじっとしているように言うが三崎は水澤を探して助けなければならないと突っぱねる


民間人ひとりに何が出来る!


その民間人が戦っているんだ!


我々に任せておけと佐脇は怒鳴り付ける

三崎は佐脇を突飛ばし走り出そうとする佐脇はすぐさま捕まえ言う


『軍医!その民間人も必ず助ける!だから待っていてくれ

火の灯りがあるとはいえナイトゴーグルも持たないままではキミの命の方が危ない』

だから、じっと待っていろと言う


ならば、ゴーグルを寄越せと三崎は言うが数に限りがある上に自身の率いている兵の分しか持って来ていない

すまないがゴーグルも与えれないと佐脇が言う前に

自分は軍医だが、レンジャーでの訓練の経験も脊振山陣地でも戦っている


〝あの作戦の生き残りだ〟

経験もあるし脊振山作戦にも従軍したから大丈夫だと言う


"脊振山作戦の生き残り"という言葉に佐脇は驚きはしたが今は自分たちに任せて欲しいと言う


三崎はこれ以上ここで揉めてたら水澤が本当にヤバいと我に返り

佐脇の言うことを聞いたふりして物陰に身を隠し耳を澄ます




水澤の突撃銃の音がしない...




三崎は拳を地面に叩きつける


バンガローの側を離れ敵兵士の姿がないことを確認し慎重に音がしていた方へ移動して行く





ーー緋色の暁ーー





その頃 菅野達は敵軍の銃声に新たな銃声が聞こえ

友軍が現れたことを察知して見張りの兵士と稲葉軍医や安莉達民間人の護衛に数名を残しキャンプ場の方へ向かっていた途中で川中の話にあった負傷兵に出会い事の詳細を知る


菅野は兵士のひとりに稲葉軍医をここへ連れてくるよう言い自身ひとりでキャンプ場に向かうことにした






佐脇達は敵軍を駆逐し管理棟近くに兵士と民間人数名の亡骸を見つけて片膝を着き手を合わせ

周囲に動ける者または亡骸がないか捜索をはじめる

管理棟内に自死したと思われる遺体と動けぬままだが生き残っている兵を発見し伊藤に伝える


伊藤は中に入り状態を確認

兵士を見て動かしたらヤバいことをすぐに看破した伊藤は本隊へ医療班の派遣を要求する


外では黒木と森村を中心に数名の兵士が捜索活動をしている



三崎は正直焦っていた


水澤の姿が何処にも見当たらない

あるのは瓦礫と敵兵の亡骸ばかりだ


敵軍との交戦が終了しては居るがまた新たな敵が現れる可能性もある為に大声で名前を呼ぶわけにもいかず

とにかく、音がしていた方角を中心に探し回っていた

すると

三崎の姿を見つけた榊と川中が声をかける


眉間にシワを作り三崎は無言で首を振る



ーー第15中隊ーー




キャンプ場内に友軍の姿を見た菅野はその兵士の肩口の紋章に安堵した金縁に鷲と15の数字


"あの第15中隊が居る"


菅野の胸に希望という感情が溢れ出す

これで我々は助かると思い

兵士の方へ駆け寄り 事の詳細と現状を話す

話しを聞いた

佐脇が菅野の所に行き自身の胸を叩き"任せろ"という表情をし頷く



佐脇隊数名と三崎達はまだ水澤を探していた


川中の胸に

"せめて亡骸だけでも"そんな思いが心を支配し始めていたが

安莉達の顔が浮かんで思い直す

"どんな状態でも良い生きていてくれ!"と...



ーー絶句ーー






管理棟内の遺体を運び出し埋葬する兵士達

菅野はいったん稲葉軍医達の所に戻り15中隊の1個小隊規模の兵士がキャンプ場に居ることを西野詩音参謀総長第1秘書官に伝え

西野と共に再びキャンプ場の方へ向かって下りて行った。













その頃 榊達は



"うそだろ..."



自身の目に映る光景を信じれずにいた


差し込む朝日に照らされた水澤の姿を見つけた


水澤は木の根本に持たれかかるように倒れ大量の血に染まり横たわっていた




THE LAST STORY>Four-leaf clover<



第9話 It's all for you へ


 ̄ ̄つづく__



ーーーー

いかにして死を選ぶか?じゃなく

いかにして生きて来たかに価値がある


愛しきキミの笑顔が僕の生きて来た価値。




※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空のモノです。

実在する人物、団体とは何ら関係ありません。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 仲間を見捨てるかどうかというのは、極限の選択ですね。 こういった生死を左右する運命の分かれ道というのは、好きな展開です。 安莉とまりあへの執着は、水澤の最優先理念であるようですね。 最後…
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