THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story ⑥
もう何度目だろう...夢の中で私は " アナタ " が....亡くなって..雪景色の向こうへと消えて逝く
これまで別々のベクトルを歩み続けて来た私達
歩み寄った途端に弾けて離れてゆく
まるで同極の磁石のように...
THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story
第六話 Snow drop
言葉少なに語る彼の心の中には何があるのでしょう
俺は「あまり おしゃべりが得意じゃない」と言葉少なに語る
そんな彼に私達は少しずつでも良いからと「無理なさらずに自身のペースで」と声をかける
あまり笑わない彼
手紙の文面上でしか知らなかったせいか
なんだか、別人のようにも感じるし、あの人のようにも感じる。
窓越しに低い雲間から雪が舞う
また積もりそうだね
まりあちゃんは空を見上げて言う
寒いの苦手なんだよね
私はそっと身震いしながら言うと、柔らかな何かが私の肩から背中に触れる
茶色いブランケットを彼は私にかけてくれた
言葉なき優しさと、声にならない思いやりが白い吐息に変わる
ありがとうございます。
彼は何を言うわけでもなく小さく首を横にふる
そして、同じように、まりあちゃんにもかけてあげた後
煙草を吸って来ると言って外へ出て行った
水澤さんとの暮らしの中で、幾度か繰り返された光景でもある
彼は外へ出て煙草に火を付けたら必ず行く場所がある
怪我の治療を受けていた頃に仲良くなったらしい
陸軍訓練生の、榊淳也さんと川中陽二さんの所だった
榊さんと川中さんは学生時代からの仲らしく
戦争になってから、二人して志願し軍に入隊したそうです
榊さんは学生時代には悪さした方が多いらしく
いわゆる暴走族の総長をやったりしてたみたいだと水澤さんは言っていた
川中さんは、榊さんと仲良いとはいえ、ファッションヤンキー的に悪ぶっていただけで、在学中にホストクラブで働いていたらしく
そこでナンバー1ホストだったそうです
確かに人目をひく格好の良い方でイケメンタイプの人
榊さんは、どちらかというとヤンキー漫画に出て来そうな感じの鋭い目付きと
がっしりとした体格の男前タイプ
そんな彼らと水澤さん
水澤さんは、二人に比べたら小柄な方だけど、三崎軍医いわく
小柄な割には筋肉質な体躯であると言っていた
あの日、何度も叩きのめされても幾度となく立ち上がり続けたのも、多少なり体躯が有利に働いたのかも知れない
私達を必死で守ろうと助けようとしてた姿に榊さんや川中さんは西野秘書官同様に「よく頑張った」と言って褒めていた。
稲葉軍医は水澤さんの体躯より体調面についての心配をしていた
そう、私も同じように彼の体調が心配だった。
それは、この戦争が始まる以前のこと
私の元に初めて彼から手紙が届いた頃
アナウンサーになって三年目の頃だった
幾度かの手紙の中に、彼は病を得て療養中であることを明かしてくれていた
 ̄【太陽と月】_
こんな命がなければ、痛みも苦しみもなかったんだろう
叫びも届かぬ深い闇の底から手を伸ばした先
煌めく太陽と闇に迷わぬように照らす月光
どんなに傷つき、その傷を笑う者がいるならば
私はその笑う人達を許しはしないでしょう
なりたくてなったわけでもなく、ならずに済むのならば、それに越したことはない
私自身、大病を煩ったこともあるし
形は違っても、多少なり本人の苦しみを理解することも出来るから
病魔の他に巣食う何かを彼から感じとることが稲葉軍医や西野秘書官はあるのだと言う
見た目は普通の人と変わらないけれど、その身体に内包された何かは
きっと彼自身しか知りようのないことで、私やまりあちゃんにしても確信はない
だけど、ふと思う時もある
私達は、そのことには、なるべく触れぬようにしながら彼と過ごし続けた。
西野秘書官は言う「赤坂さん、貴女が太陽なら、彼は月のようね」
蒼天に煌めく太陽と傷だらけの月
「だけど、私は太陽のように誰かの光りになれているでしょうか?」
「なってるじゃない?」
「え?」
「彼、水澤君の太陽に。だから、彼は哀しみにも苦しみにも耐えて生きて来た
例え、傷を負ったとしても、誰を責めるわけでもなく
自身が弱いから...そんな風に思ったのよ」
「...だけど..私は..」
「以前も言ったでしょう?貴女のことを応援し続けているって、その応援の仕方が変わっただけよ
こんな時勢だから、水澤君は、それに併せるしかなかったのかも知れないわね」
誰かが誰かを想う時、それは強さに変わることもある
その逆もあるけれど、彼は自身の弱さを責めるながら、強くあろうとしている
榊さんは言う
怖くなって尻尾巻いて逃げるぐらいなら、初めから関わるなって感じっすよ
けど、水澤さんは逃げなかったっすよね?
でめぇの何倍もある大男相手に闘ったんすから、あれは負けじゃないっすよ
川中さんも同じように思っていた
彼ら彼女らは、そんな水澤さんの姿を、きっと応援しているのだと私は思いました。
今はまだ自信はないけれど、いつか私は彼の太陽になれたならなんて思ったりしたのです。
 ̄【sadness】_
その日、私達は初めて敵と遭遇した。
迫撃砲という爆弾のようなモノが炸裂し、あたりが轟音と土煙に包まれる
誰かが呼ぶ声や怒号に悲鳴
私は水澤さんに手を引かれ炊飯場のブロックの後ろへと連れられる
まりあちゃんは新しいシーツを貰う為にバンガローを離れていた
水澤さんは、此処を離れないように私に言い
近くを通りがかった榊さんに何かを頼んだ後
まりあちゃんを探して駆けて行く
私の居る場所に、川中さんや榊さんが他の民間人の方を連れ避難させている
ただでさえ狭い炊飯場は人が溢れてそうな状況になり初める
すると、榊さんはバンガロー自体に何かしら仕掛け
爆破して、その瓦礫の後ろへと誘導し避難させ続ける
そんな最中に、榊さんを呼ぶ声がする
その声の主は水澤さんだった
まりあちゃんを抱き抱えて、こちらへと走ってくる
榊さんと合流したと思ったら、水澤さんは再び走り出して行った
涙目になりながら、まりあちゃんが川中さんに何かを訴えている
そんな、まりあちゃんを川中さんはなだめながら私の元へと連れくる
まりあちゃんの姿を見た時、私は絶句した
まりあちゃんの身体に大量の血が付着していたから
まりあちゃんと川中さんのやり取りが私の耳に聞こえてくる
付着している血は、まりあちゃんのではなく
水澤さんのらしい...
私はまりあちゃんを自身の傍へと寄せ
話を聞いた瞬間に...駆け出していた
その私を榊さんが強く引っ張って引き留める
榊さん自身も川中さんとまりあちゃんのやり取りを聞いていたし、水澤さんがまりあちゃんを榊さんに預けた時に水澤さんから大量の血の痕を見ていた
私に代わって川中さんが水澤さんを探して走って行く
榊さんは、私達民間人から敵を遠ざけようと離れた場所で戦っている
私とまりあちゃんは互いに抱きしめ合い
この悪夢のような状態が終わることと、なんとか川中さんが水澤さんを見つけて連れて来てくれることを祈り続けた。
どれ程の時間が経ったのだろう...
銃声が少しずつ数を減らし遠退いて行く
そして、辺りに静寂が訪れる
私達の元に榊さんが戻って来て無事を確認した後
水澤さんの姿がまだないことに気付き
不自由ながらも片足をひきづりながら
川中さんが向かった方へ行く
少しずつ周りも平穏を取り戻しつつある頃
私達も水澤さんを探して歩き出す
私達の姿を見つけた西野秘書官に引き留められ
まりあちゃんは自体に付いた血を見て涙声で訴え続ける
私達に任せておきなさいと西野秘書官は言って近くにいる兵士に捜索を命令し、自分自身も水澤さんを探しに行った。
 ̄【離ればなれ。】_
もうすぐ日暮れが近づく
だけれど、水澤さんは一向に見つからない
子供たちの相手をしながらも
私は居ても立ってもいられずに落ち着かない
まりあちゃんは血が付着したまま膝を抱え顔を上げずに泣いてる
"お願い神様.."
そんな風に願ってた
榊さんや川中さん達が戻って来る
皆、一様に顔を伏せている
日暮れになり捜索が困難と判断されて言葉にならない怒りや哀しみが彼らから感じられた
それは、私だって同じだった
だからこそ、何度も懇願した
だけど、その願いは..聞き入れてもらえなかった....
何故、こんなことにならないといけないのよ...
軍人と民間人との間で言い争いが始まって
人として大切な何かが壊れ初めて行く
そんな最中に、空へと一発の銃声が鳴り響く
もう一度、銃声がなる
片腕を天に向かって上げた手に拳銃を握ったシルエットが見える
2発の銃声に、何事かと
菅野大尉と稲葉軍医、三崎軍医 そして西野詩音秘書官も外に出てくる
銃を持ち上げていた腕をゆっくり下に下ろし
自身の左肩あたりを押さえながら、ゆっくりと歩いくる
人影の正体は水澤さんだった。
全身に近いと言っても過言じゃないぐらいに血にまみれた姿
痛々しい程の姿になって彼は戻って来た。
私達が近寄ろうとしたら「血で汚れるから近寄るな」と言い
三崎軍医の目の前に近い場所に来た所で彼は倒れた
担架に乗せられ運ばれて行く
私達はついて行こうとしたら「ここから先は入ってくるな」と止められ
医療用のバンガロー入り口にあるベンチで待ってた
辺りが暗闇にのまれてゆく
人々は争い
その言い争いは、私達のというより医療用バンガローの中まで及んだ
西野秘書官に同行し続けて来た菅野大尉は争いに割って入り
非情とも言える決断を下し
それを西野秘書官は裁下を下し
此処からの離脱を決定した。
 ̄【Snow drop】_
私達は離れることを拒否したけれど
最終的に...水澤さんの言葉に..いいえ、きっと私達は
"自分たちが生きる為に"逃げる決断したのかも知れません。
水澤さんは言う「せっかく拾った命だから、大切にして生きて欲しい」と
「自分は、どのみち病で死んでいたかも知れない命だから惜しくもない」のだと
人は誰かの為にと言いながら、自分の為だけに生きて..そして...死ぬ。
何が正しいとか間違いだとか、そんなんじゃ計れないことや、割りきれないことがある
そんな時は、たぶん " 自分の中の最適解 "を選ぶしかないのかも知れません。
あの日、あの場所を離れ貴方を置いて行くことが正しいことだったのか?
今の私には、まだわかりません
何度も何度も貴方のいる方向を振り返りながら涙ながらに離れなければならなかったこと
ぼろぼろになりながらも、私達を守り通してくれた貴方に私は何が出来たのでしょうか?
背中が方角、貴方が居る方角から.....
ガウーン!
一発の銃声が聞こえた時
私も、まりあちゃんも...その場に泣き崩れしか出来ませんでした。
哀しみを包むかのように、真っ白な雪が舞い堕ち
人として大切な何かを白雪が積もり重なり消してゆく
ごめんなさい。
震える声で小さく言い
白い息となり消えていきました。
THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story
第七話 Tragic Heroes へ
 ̄つづく_
※この物語はフィクションです。登場する人物、団体は実際の人物、団体とは何ら関係ありません。
時鳥 血爾奈く声盤有明能 月与り他爾知る人ぞ那起
ほととぎす ちになくこえは ありあけの つきよりほかに しるひとぞなき
【意味】私の志と、その想いは夜明けに輝く月のほかに知る人はいない
THE LAST STORY
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