THE LAST STORY>Four-leaf clover< ⑥前編
生きる為に『殺して』来たのか、自分が撃たれて死ぬ為に『生きて』いるのか
答えなど、わからない。
いや、むしろ『自身の存在』が
本当に『此処に在る』のかすら
今は・・・わからない。
ただ、酷く汚れた音色で
『その時、何かが壊れる音がしたんだ。
同じ人間であっても、相容れない存在
いや、同じ人間だからこそ
そのようになってしまうのかも知れない
人それぞれと言ってしまえば、それまでだが
人であるからこそ、わかりあえることもあるはずだ
ただ黙って、何処へ行き着くのか
わからないまま、歩みを進める
ふと、空を見上げた
風に流された、ちぎれ雲が
行くあてもなく流れてゆく
そう『ただ流されて行くのだろう』
THE LAST STORY>Four-leaf clover<
第六話 Blood snow
此処は周囲を山々に囲まれ、キャンプ場の中心を川が横切り
川の上流付近に、ダムのような施設が、微かに木々の向こうに見える
一番大きな建物が管理棟のようになっていて
そこを臨時の救護所がわりにし
その他の宿泊者用のバンガローには民間人を中心に割りあてられている
河岸から近いバンガローに
赤坂と森下は陣取って
そして、水澤は、赤坂と森下のバンガローに、とりあえず腰を落ち着けた。
河岸では、子供達がワイワイガヤガヤと遊んでいる
水澤達のバンガローに居る
赤坂と森下を見つけて
一瞬に遊ぼうと名前を呼びながら手招きする
「ご指名みたいだよ、行ってやんな」
「水澤さんも、一瞬どうですか?」
「俺は子供が苦手なんだよ、だからパスする」
「子供、可愛いのに。」
なんだかなあ~といった感じで水澤の顔を見て赤坂と森下は立ち上がり
「気が向いたら来てくださいね」
赤坂はそう言って、二人は子供達の輪の中に加わりに行く
二人の背中を見送ってバンガローの中へと入る
『だいたい遊びじゃねぇんだよな・・・
まったく、どうかしてやがる』
と水澤は思った。
河岸で遊ぶ子供達と、赤坂や森下達の声が戦争中とは思えない平和なひとときを演出していた。
どんな状況であっても笑顔で居ようと、赤坂は思っていた
自分の存在が純粋無垢な子供達の笑顔に繋がるなら
いつか、本当の笑顔で・・・この戦争の終わりを迎えられるなら・・・。
川遊びをするには、少し寒い季節だった。
翌朝、まだ気がついていなかった
危険が、すぐそこまで迫っていたことを。
ーー切り裂かれた静寂ーー
おはようございます。
安莉ちゃん、まりあちゃん おはよう!
あちこちから、挨拶する声が聞こえる
いつの間にか、二人は大人気になっていた
まあ、それもそのはずだ
二人は、分け隔てなく人々と接していた
それに比べて水澤はと言えば
周りからしてみれば、何を考えているのかわからない
異形の存在として見られていた
昼を迎える頃、まりあは、子供達とともに談笑しながら、水澤達がいるバンガローの向こう側に居た
その様子を遠目から見ていた水澤は、まりあが子供達から離れて、何処かへ行こうとしているのを目で追いながら
山に居る不気味な人影を目撃した
「チッ!」
水澤の舌打ちに怪訝そうな表情で水澤の顔を赤坂は向ける
水澤のその顔にただならぬ何かを感じ
どうしたの?と聞こうとする前に
水澤は叫んだ
「伏せろー!」
ヒューッという空気を切り裂く音に続いて
ドカーン!と雷でも落ちたような炸裂音と土煙りが上がる
空気音と着弾音から推察するに迫撃砲による攻撃だと
水澤は判断した
「榊!民間人どもを反対側の斜面に避難させろ!」
その声に呼応して、すぐさま榊は走り出す
ヒューッ!ヒューッ!ヒューッ!とまた音がして
ドカン!ドカン!と炸裂音が鳴り響く
ガラガラと土煙りを上げ
キャンプ場内は阿鼻叫喚のるつぼと化して
泣き叫ぶ声、誰かに助けを求める声が上がる
クソ!と言って
「菅野教官!反対の斜面もダメだ!
何処か安全な場所に避難させろ!」
轟音の中では、榊の声が菅野に伝わらない
すぐさま榊は菅野に駆け寄り
反対側の斜面にも敵がいて
この分だと包囲されている可能性が高いので
別の場所に避難させろと伝えるが
状況的に見て、安全な場所を探す方が難しい状態だった。
「無茶言うな危険だ!」
「危険だろうがなんだろうが、やるしかねぇだろ!
つべこべ言わずに言われた通りにしろ!」
「チッ!けどな?保証は出来ねぇぞ!それでも良いか?」
「お前なら出来るさ 榊、頼んだぞ!!」
そう言って水澤は走り出す
榊は「まったく面倒ごと押し付けやがって、仕方ねぇなあ・・・やるだけやってやるよ」
そう言って榊は水澤とは別の方角へ走る
水川は民間人を避難させる全てを榊達に託した
管理棟に辿り着いた榊は
手榴弾を分けるように兵士に言う
だが、訓練兵に手榴弾を渡せないと兵士は突っぱねる
「民間人の命がかかってんだよ!グタグダ言ってねぇ~で、さっさとよこせ!」
半ば強引に手榴弾が詰まった箱を2、3個抱え
外へ飛び出す
迫撃砲の集中していない
自分達が居たバンガローの裏手に回り
箱を開けて手榴弾を取り出し箱の上に紐でくくりつけ
手榴弾の安全ピンにも紐を結んだあと
離れた位置から、紐を引っ張り安全ピンを抜き起爆させる
轟音とともに土煙を上げ
バンガローの後部が吹き飛び地面に穴をあける
バンガローの残骸を弾除け代わりにし
もうひとつ別のバンガローに向かい中に人が居ないのを確認して
同じ要領で爆発する
簡易の塹壕が出来上がり
その場所に出来るだけ多くの人間を避難させようと榊は奔走する
一方、水澤は榊らに避難を任せたあと
まりあを探していた
1発目の迫撃砲弾の着弾位置が、まりあの近くだったことを心配してのことだ
着弾したあたりには、まりあとは別の誰かの亡骸が無惨にも転がっていた
それを横目に、轟音が轟く渦中に、まだ
まりあが、取り残されていることを考えて
早く見つけてあげなければ危ないと思った
周囲から、絶え間なく迫撃砲による攻撃が続く
ある程度、撃ったら次は敵兵が侵入してくるだろう
その前に、なんとしても、まりあを見つけ
安全な場所に連れていかないとならないが
まりあの姿が見当たらない
正直、水澤は焦っていた
周囲を包囲しているなら
少なくとも100名前後の敵がいる計算になる
もし、キャンプ場内に侵入されたらと考えていた時
迫撃砲の攻撃が止んだ
ヤバいと水澤は思った
水澤自身が想定する最悪の状況が迫って来ていたからだ
ワーッという叫び声とともに敵兵士が姿をあらわした
『チッ!この忙しい時に、まりあは何処にいるんだよ!
勝手にくたばりやがったら許さねぇぞ!』
バンガロー陰からバンガロー陰へと移動しながら必死に探す
ガウン!ガウン!ガウン!ガウン!と自動小銃の音が鳴る
ピシッと水澤の近くの壁に銃弾が当たる
このままじゃ・・・やべぇ!
バンガローの陰から顔を覗かせると
必死に走り逃げている
まりあを見つけて叫ぶ
「まりあちゃん!」
水澤の声がした方に、まりあは走る
水澤も、まりあの方へ走る
ぐっと、まりあの腕を引き寄せ、バンガローの陰へと
まりあを移動させる
「大丈夫か?怪我してないか?」
まりあは小さく頷き
「大丈夫です」
震える声で、そう答える
まりあの小柄な身体が震えている
よほど怖かったに違いない
1人で心細かっただろう
「すぐに、こんな所から脱出させてやる!
だから、絶対に俺から離れんじゃねぇぞ!」
まりあは、小さく頷き
水澤の腕を強く握った
水澤はバンガローの陰から顔を出して周囲の状況を確認する
まだこちらに気づいて無い様子だった
バンガローの裏手から、表側に慎重に移動する
まりあを自分の後ろにし
庇いながら
周囲の様子をうかがいつつ
榊達の居る場所へ向かおうとした時
ガウン!ガウン!ガウン!
敵兵に見つかってしまった。
まりあをバンガローの中に押し込み
水澤は敵兵士に、突進して
ラグビーのタックルのように相手にぶつかり
馬乗りになって、敵兵を何発も殴りつけ
抵抗がなくなったところで、銃を奪いとり
まりあに、バンガローから出てくるように言う
恐る恐る、まりあは外に出て
倒れている敵兵を見ながら
水澤の側に駆け寄る
まりあの肩をしっかりと抱き寄せて走り出す
いくつかのバンガローの側を通り抜け、河岸が見える位置まで辿り着く
あと少しだと思った刹那
背中に鈍い痛みが走る
振り返ると敵兵士が、続け様に発砲してくる
悪いと思ったが、まりあを突き飛ばしながら
敵兵の方へ身体を向け発砲する
左肩にも鈍い痛みが走る
続けて腹部にも
至近距離での撃ち合いとなった為
思った以上に銃撃を受けたが
身体に当たった数は少なくとも最初の一撃を含めて、3~4発程度だった
水澤が放った銃弾は敵兵の胸部と頭部に命中して敵兵士は絶命していた。
銃を支えにしながら、まりあの方へ歩き
手を、まりあに差し出して
立たせようとした瞬間のことだった
ガウン!ガウン!
更に2発の銃弾が水澤に命中する
後ろによろけながら、銃弾の飛んで来た方角を見る
敵兵が、着剣したライフルで水澤に向かって走ってくる姿が見えた
とっさに
1度、立たせたかけた、まりあの手を離し
銃床で まりあを後ろに突き飛ばす
まりあは、尻餅をつく格好で倒れこむのと、ほぼ同時に
水澤の腹部に着剣されたライフルが突き刺さった!
敵兵に押されるまま、バンガローの壁に背中から激突して、更に深くライフルの先のナイフが水澤の腹部に突き刺さる
壁側へ強く押し付けながら
敵兵は突き刺さしたライフルの先をグリグリと捻り
力ごなしに上へ持ち上げようとする
水澤は、そうはさせまいと抵抗するが、深く刺さったことにより
なかなか力が入らず
敵兵の顔に手を伸ばして
引き離そうと試みても、どうにもならない
このままでは、いけないと考えた水澤は
敢えてライフルを自身の方へ引き寄せ
敵兵が少し近づいた所で
敵兵の膝あたりに蹴りを入れる
だが、1度じゃ離れなかったので、2発、3発と蹴りつけ
なんとか、引き離すことに成功した
蹴りによって敵が離れたことにより腹部からライフルの先が抜け
大量の出血を引き起こしてしまった。
敵兵は膝を蹴られた痛みに怯み離れたが
とどめを刺すつもりで再度、また向かってくる
よろけながらも敵兵を何とかかわして
敵兵のヘルメットに手をかけ
後ろに引っ張って、ヘルメットの顎紐が首に食い込み
敵兵は苦しみもがく
その動きが止まるまで、手を離さずに、抵抗がなくなって
手が下にダランとなったのを確認してから
敵兵の背中を蹴ったと同時に手を離し
自分も後ろに倒れた。
「み、水澤さん!」
まりあは、水澤の元に駆け寄る
「大丈夫だ!心配するな!行くぞ!」
と言い立ち上がろうとするが、なかなか立ち上がれない
まりあは、水澤の腕を自分の首の後ろに回して
何とか助けようとするが、女性の力では立たせることが出来ない
水澤は、榊や赤坂達が居るであろう場所を指差し
「まりあちゃん!俺にかまうな!行け!」
まりあは大きく首を横に振り
「嫌です!一緒に行きましょう!」
再度、両足に力を入れ
何とか水澤を立たせようとする
「俺なんか置いて行け!行くんだ!」
水澤の言葉を無視して、精一杯の力で立たせようと頑張っている
「行けって言ってんだろうが!」
「絶対に嫌です!水澤さんを見捨ててなんて行けない・・・」
「大丈夫だから、先に行って待ってろ、這いつくばってでも必ず行くから」
まりあは目に涙をためて水澤の言葉を無視し
もう一度力を込めて立ち上がらせる
少しよろよろとなりながらも、水澤を立たせ
「さあ、行きましょう。」
と言い歩き始める
〝こんな時に、何を考えてやがる
ろくに歩けもしない怪我人の俺なんかを、危険を犯してまで、助ける必要なんかないだろうに・・・〟
ズルズル、ズルズルと足をひきながら、水澤を支え懸命に歩く
まりあの、小さな体のどこに、そんな力があるのか
わからないが立ち止まることなく歩き続ける
情けない限りだ、こんな所を見られたら笑われちまう・・・
「そうだよ・・・こんな状態じゃ良い笑われもんだ!情けなねぇ!」
まりあは首をブンブンと横に振り「情けなくなんかないです!」
水澤は、まりあの手を振りほどき自力で立ち
まりあをお姫様抱っこをして走り出す!
一瞬、何が起きたのか、わからなかったが
「水澤さん!自分で走れるから下ろしてください!
怪我してるのに、無茶しないで!」
「女の子に助けられたなんてな、恥ずかし過ぎ笑えるだろ?
四の五の言わずに、しっかり掴まってろ」
普通なら有り得ない話だ
大量に出血し立つのもままならない筈なのに
だが、
水澤は自身の力で立ち上がったうえに、走りもした
何が水澤をそうさせるのか?わからないが
極限状態に陥った時、人は計り知れないパワーを発揮するのだろう
ーー戦いの果てーー
あちこちで、まだ戦闘が続けられている
榊達は周りに敵兵が来ていないか見張りながら
水澤の戻りを待っている
硝煙の匂い、誰かはわからないが叫び声が聞こえる
泣き叫ぶ声や判別不能な声
土煙と怒号と銃撃音
周りを見渡せば、怯えきった人々の顔
地獄に落とされたような顔をして震えている
誰かが自分の名前を呼んでいることに気づいて
声が聞こえる方向に顔を向ける
まりあを抱えた水澤が走ってくる
「榊!榊は居るか!」
手を大きく振りながら榊は自分はここにいると叫ぶ
榊の姿を見つけた水川は、まりあを地面な下ろし
榊に向かって叫ぶ!
「榊!まりあちゃんを頼む!絶対に守ってやってくれ!
そこには赤坂さん達も居るだろ!しっかり守ってやってくれ!
頼んだぞ!!榊!いいな!わかったな!!」
そう言って水澤はUターンして、来た方角に戻って行く
「水澤さん!行ったらダメー!」
すぐに後を追おうとしたが、榊に腕を掴まれ動けない
「離して!離してよ!」
「森下さん大丈夫だから心配すんなって
さあ、こちらに来てください」
「水澤さんは、怪我してるんです!」
キッと榊を睨み付け
「たくさん撃たれて、お腹にも酷い傷を負ってるんです!!
そんな身体で闘えるわけないじゃない・・・・」
「そんなに酷いなら、あんな風に走っ・・・・」
まりあの足元に広がる大量の血のあとを見て押し黙る
『まさか、本当にヤバい怪我を負ってんじゃねぇだろうな・・・』
「榊さん!お願いします!水澤さんを助けてください!
あのままじゃ、本当に死んじゃう・・・」
点々と続く血のあとを見つめて、榊は静かに語りかける
「菅野教官達が戦ってくれてる大丈夫さ心配ねぇよ」
それでもまりあは泣きながら榊に水澤を連れ戻すように訴えるが、榊は心配するな大丈夫だとしか言えなかった。
榊自身は脊振山陣地での戦闘により負傷を負い自力歩行することぐらいしか出来ない状況だった
榊の言葉を無視するかの、自分が助けに行くと
まりあは言い張り
榊の言うことを聞かない
傍で話を聞いていた川中は自分が行くから、此処で待っていろと言って
水澤の血の跡をたどりながら走るが
途中から消えてしまい、わからなくなってしまった
だからといって、このまま戻ったとしても、まりあから話を聞いた赤坂が水澤を探しに行こうとするだろうことは容易に想像できた
四方から銃撃音がするが、その銃撃音は、だんだんと数を減らしながら
赤坂達が避難している場所から
遠ざかって行っているように聞こえる
周囲を見渡しても、敵兵士の姿は見当たらない
菅野(大尉)率いる連中も、西野秘書官の率いる戦闘部隊も闘ってはいる
そして、森下の話を聞く限り重症クラスの負傷を負ってまで水澤も闘い続けている様子だった
銃声は徐々に数を減らしながら遠ざかってゆき
遂には聞こえなくなった
聞こえないほど遠くに行ったわけではないだろうと榊達は思った
「終わったか・・・」
そう確信していた。
ーー捜索ーー
徐々に見覚えのある顔が戻ってくる
銃を肩に担ぎ戻ってくる兵士
仲間の兵士に背負われて戻ってくる兵士
談笑しながら戻ってくる兵士
榊達の姿を見つけて手を振り笑顔を見せる兵士
菅野大尉も、ゆっくりと戻ってくる
しかし、水澤の姿が見当たらない
兵士達の笑い声が微かに聞こえ、赤坂と森下は塹壕から飛び出して、水澤の姿を探す
川辺に立ち尽くす川中の姿を見つけて二人は走り寄る
「川中さん!水澤さんは?」
川中は振り返ることもせず答える
「途中で血の跡が消えてて見つけられなかった」
そう言うと、その場にしゃがみこんだ
赤坂は川中の横をすり抜け
「まりあちゃん!水澤さんを探しに行こう!」
その声が聞こえたのか、兵士のひとりが歩み寄り
川中に話かけるが、川中は首を振り、わからないというような表情をしている
その兵士は川中の側を離れ、菅野大尉のいる管理棟へ走る
赤塚はまりあの側に行くと、まりあの肩に手を置き
互い見つめあいうなずいた後
水澤に助けられた河辺の向こうへ向かおうとする
それを見咎めた西野詩音は二人呼び戻そうとする
赤坂も森下も首を横に振り、自分達が探しに行くと言って
言うことを聞かない
まだ敵が山に隠れているかも知れないから危険だと説明したら
そんな危険な状況に水澤さんひとりを残せないと言って、やはり聞かない
二人のやり取りを聞いていた菅野は、赤塚と森下さんには子供たちの世話をしてほしいと頼み
自分達が必ずを見つけて連れくると約束し
赤坂も森下も、「必ずお願いします、でも見つけられなかったら自分達が探しに行く」と言うと渋々子供たちの世話をしに向かった。
菅野大尉と西野詩音達は手分けをして水澤の行方を探すが
見つからない
見つけるものといったら、敵の亡骸ばかりだ
だんだんと、薄暗くなって捜索が困難と判断した
菅野大尉達は、一旦引き上げて翌朝また捜索することに決めた
キャンプ場に戻ってくる菅野達の姿の中に水澤の姿が見当たらないことに気づいた赤坂達は、菅野達の方へ駆け寄る
「水澤さんは?水澤さんは見つからなかったの?ねぇ菅野さん!西野さん!」
すまない。そう言って菅野は管理棟へ入っていく
西野詩音は、二人の方を向き深々と頭を下げ
「明日必ず見つけるから」許して欲しいと言う
二人は、山の方角へ走り出す
後ろから榊達がひき止める「必ず見つけるから、約束するから待ってて欲しい」
「きっと何処かで、怪我をして動けないに決まってる
絶対に私達が見つけるから離して!離してよ!」
「水澤さんは・・・必ず生きている・・・きっと生きて戻ってくるからさ・・・待ってやろうぜ・・」
「たくさん撃たれて、いっぱい血が出てたんです!早く見つけてあげないと死んじゃうよ・・・
早くしないと・・・水澤さん、死んじゃう・・・」
その場に泣き崩れる 二人に
何と言葉かければ良いのか適切な言葉が見つからない榊達は
静かに山を見つめて、必ず生きて戻って来い、必ず戻ってくるんだ水澤さん・・ ・と祈った。
だんだんと日が傾き、辺りを暗闇が包みはじめる
ーー血にまみれてーー
「もう沢山だ!こんな思いはしたくない!」
「どうせ、俺達全員死ぬんだ!」
「敵に殺されて、全員死ぬんだよ!」
誰かが叫ぶ、悲観的な声
兵隊と民間人の間でまた揉めている
遠巻きに様子を見つめる
二人には、止める気力も起きない
二人は泣き続けたまま
顔をあげようともしない
怒号と罵声が空に吸い込まれる
不毛な言い争いが続く
ガウン!
一発の銃声がなり響いた。
銃声のした方角に誰かが居るが薄暗くて見えない
その人影は、少しふらつきながらも言い争いをしていた連中の方へ向かって近づいてゆく
何者だ!兵士のひとりが叫び銃を構える
ガウン!
もう一度、銃声がなる
片腕を天に向かって上げた手に拳銃を握ったシルエットが見える
2発の銃声に、何事かと
菅野大尉と稲葉軍医、三崎軍医 そして西野詩音秘書官も外に出てくる
銃を持ち上げていた腕をゆっくり下に下ろし
自身の左肩あたりを押さえながら、ゆっくりと歩いてゆく
言い争いをしていた連中の視界にはっきりと見える位置に来た時
赤坂と森下が走り出す
二人は声の限りに叫んだ「水澤さん!」
その声と同時に歓声があがる
水澤の身体を支えてあげようと
二人が近づいて行くと
「近寄るな!血で汚れる」
そう言う、水澤の姿を見て、二人は絶句した。
力がはいらないのか、左手はダランとぶらさがり
胸部から腹部にかけて多量の出血をし、顔まで血に染まっていた。
「軍医さん!お願いします!早く手当てを」
三崎軍医と稲葉軍医が水澤に駆け寄り
傷の状態を確かめる
微かに眉間に皺をよせ、タンカを持ってくるように指示する
「水澤さん!大丈夫?」
赤坂の問に、水澤は微かに頷き
タンカに乗せられ、管理棟へ運ばれて行く
水澤の後を追い、二人も管理棟の中へ入って行った
管理棟の中には、多数の怪我人が横たわっている
薄いカーテンで仕切られた向こう側に水澤は運ばれて行く
二人も付いて行こうとしたが、三崎軍医に入ってくるなと言われて
管理棟の入り口にあるベンチに腰かけて水澤の傷だらけで痛々しい姿を思い涙がこぼれる
『自分を探しに来なければ
榊さんの所に着いた時、再び闘いに行かせなければ
あんな風に傷つくこともなかっただろう』と思うと
まりあは とりとめなく、涙が溢れて
ただ、泣くことしか出来なかった。
水澤が運ばれて、どれくらい時間がたっただろう
もう随分と長く待っているように感じられる
まりあの肩に誰かが手を置く、一瞬びくっとして振り返る
三崎軍医「終わったぞ、顔を見に来るか?」
「水澤さんは、大丈夫なのですか?」
赤坂のその問いに三崎軍医は、少し目を細めて無言のまま、うんうんと、二度小さく頷き
二人を水川が寝ている場所へ案内する
そこには、小さなランタンが幾つか吊るされていた
数人の怪我人が横たわっている
その中に
上半身を包帯で巻かれ、点滴をして、寝かされている水澤が居た
二人は、水澤の寝ている側まで行き
スーッスーッと寝息の立てている水澤の呼吸を聞いて
少し安堵の表情を見せる
「軍医さん、水澤さんを助けていただき、ありがとうございます」
三崎軍医「まだ、予断を許さない状態だ・・・一夜を越せれば良いんだが・・・」
「・・・・。」
水澤の顔に、赤坂はそっと手を伸ばして
右頬あたりに触れ、水澤の体温を手のひらに感じながら
赤坂は『この温もりが、失われないように』と祈った
まりあは「・・・きっと、一夜を越してくれると思います。」
そう言う、まりあの顔を見つめて三崎軍医は無言のままで何も言わない
ポタッポタッと涙がこぼれ
水澤が寝ている床を濡らす
少し涙声になりながら、何で何も言わないのか
大丈夫、助かると言ってくれないのかと三崎軍医に二人は詰め寄り言う
三崎軍医は、それでもなお無言のまま目線を反らし
下唇を噛み、静に震えるている
三崎軍医は涙を堪えようと必死なのかもしれない
「死なないで・・・・水澤さん、お願いだから・・・死なないで・・・」
二人は涙を流して声をかける
三崎軍医は、二人の後ろに回り、ただひとこと「すまない。」と言って強く抱きしめた
その言葉を聞いて、二人は、大きく首を横に振り
「嫌です!そんなの嫌です!」震える小さな声で言って
後ろから抱きしめている、三崎軍医の手の甲の上に手を乗せグッと強く握る
手の甲に、二人の爪が食い込む痛みを感じながら
三崎軍医は、ただただ「すまない。」と言う言葉を繰り返すだけだった。
薄暗い部屋の中に、二人の泣く声と
多数の怪我人の誰かが発する呻き声
そして、水澤の微かな寝息だけが聞こえ
光りが漏れないように、閉めているカーテンに少し隙間があるのか
外から月明かりが入って来ていた。
第六話 Blood snow
その2へ 続く
________
THE LAST STORY
>Paper Airplane<
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
いつかの言葉でも貴女が救われるのなら、それでもいい
時間はいつも残酷に過ぎ去って
戻らぬ過去も伝わらない想いも
貴女にはもう..わかりはしない
高く澄んだ蒼い空に橙色の紙飛行機を投げました
相反する色だからこそ
互いを引き立て合い 美しい
幻想に溶けて行った大切な言葉
知らないままなら知らない方が良かった
何時だって同じ結果でも
それさえ"諦めという名の言い訳"で見て見ぬふりをしてしまう
会えないことが寂しいのではなく
貴女の中から僕という存在がなくなってしまっていること
それが寂しくもあり悲しくもあるのかも知れない
高く澄んだ蒼い空に橙色の紙飛行機を投げました
きっと、この手のひらに
戻ってくる日を信じて...
THE LAST STORY
いいね、ブクマ、感想、評価等
お待ちしております。