THE LAST STORY 異聞録>Burst< 蒼天の詩 ②
俺達は巣に戻る蟻だ。
蒼天から来て...いつかはやがて...蒼天へと還る
どこまでも広がる空の下で憎しみの連鎖の終わりを求める者達の物語
それぞれの明日へ向かって。
THE LAST STORY 異聞録>Burst< 蒼天の詩 ②
敵は後ろから撃たれ膝から崩れるように倒れ地面が敵の血で染まる
『" 水澤 "!大丈夫か?』
聞き覚えのある声だ
俺は声の主の方に視線を向ける
『衛生兵!!衛生兵!!』
ちっ...だせぇなぁ...
『また逝き損ないましたか?』
『うるせぇ~インテリ眼鏡』
『人の生き死には天の許すところです。まだまだ生きろと言うことですよ。』
『生きるも死ぬも、てめぇじゃ選べねぇのかよ..面倒くせえなぁ』
『それだけ減らず口をたたけるなら安心したぞ』
『タバコ。』
『いつぞやみたいに不服そうな顔すんなよ』
『この際、吸えりゃ文句いわねぇよ』
タバコを口元に運びながら辺りを見回す
"佐脇隊"の到着で形勢は逆転し敵は撤退
尊い犠牲を払いなんとか敵を追い払らうことに成功した。
だからといって全て終わったわけじゃない
まだ終わりを求めて俺は俺達は今後どれ程の犠牲を払い続けるのだろうか
それも天のみぞが知るところなのかもしれない。
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この場での戦闘からさかのぼること2週間前....
俺はミイラの親戚かのように頭や首から腰、そして太ももを包帯で巻かれ医務室のベッドに横たわっていた
何故そうなったかを話せば長くなるが端的に話すなら
この場にたどり着く前に三度の戦闘に巻き込まれ戦い
そして二度目と三度目に負った傷が深く
半ミイラ状態で今ここにいる
正規軍の統制を行う機関の二重指揮が混乱を引き起こし、その2つ機関が対立を強める中で
俺は参謀部の第一秘書官と参謀次官補、そして..この戦争で頭角を現し精強にして屈強な第1師団(旧4師団)第1連隊第1大隊所属第15中隊の指揮所兼宿舎に怪我人のまま運ばれて来ていた。
軍、民が混在する場で第1秘書官"西野詩音"は参謀部の下部組織の作戦部の"岡村田"の恫喝というより挑発に幾度となくNOを突き付け
事態の終息に苦辛しながら
軍事顧問的な存在でもあり、第15中隊副長"西野忠道"と隊長の"梶原雄太"、隊長補佐"佐脇和馬"、副長補佐"藤原一弥"そして参謀次官の"月島零"と幾度か協議するも決断には至らず
それとなく噂を聞き付けた訓練兵の"榊淳也"から水澤は話を聞き
あの戦闘へと連なる導線が出来上がって行くのだが
それはもう少し後のことになる
水澤がようやく床を抜け動き出した頃
大宰府訓練学校唯一の秀才と学校長に評され、西野秘書官にも才能を見込まれ
訓練兵から即日、実働部隊の15中隊へ配属となった男
"伊藤勇二"とその伊藤の推薦で同じように15中隊配属となった"北見大地" 両二名を月島は会議の場に呼び
意見を求めた
伊藤も北見も互いに顔を見合せた後、伊藤はしばらくお時間をと言って西野秘書官を連れ部屋を出て
水澤の元を訪れる
伊藤は水澤に事の経緯を話すと
『要するに向こうの戦力が足りないから、ここの15中隊を送り、ここの防衛は民間人にやらせるって言う認識で良いか。』
『ええ、その認識で宜しいかと思います。』
『現状を考えたなら、やむを得ないことだと自分は考えますが...やむを得ないとは言え、それを実行したら参謀部は作戦部の下だと言うことを認めたも同然かと..』
『どっちが上とか下とかどうでもいいことだ。』
『ですが、従ってしまったら...』
『やむを得ずから始まりやむを得ず負けるのか?』
『負けるという表現はいささか不適切では?』
『俺が言う"やむを得ず負ける"は、この戦争のことだ!』
『これまで、何人死んで来た!そして、この先、何人死んだら終わる!!
どうせ死ぬなら、上も下もあるかよ!
本当、くだらねぇんだよな..軍人(お前)らの糞つまらん意地の張り合いは』
『意地ではなく意識の持ち方、有り様こそが大切だと思います』
『意識の持ち方、有り様方が"死への持ち方、死に様になるのかよ?』
『僕らが言ってることは、そういうことではなく...』
『だから、とことんくだらねぇんだよ!本当、くそつまんねぇなぁ~お前らは』
『仮にも我々は軍人!それを愚弄することは許せませんよ!』
北見はホルダーから拳銃を抜き水澤に向けると水澤は北見を睨み付け
『殺りたきゃ殺れ!!』
これまで黙って見ていた西野秘書官が口を開き
『やめなさい!北見君!!あと、ただ見てないで止めたらどうなの?伊藤君。』
『大丈夫ですよ、どうせ殺しても死にそうにありませんからソレ』
『笑ってんじゃねぇ~よ!ば~か!』
『まあ、相変わらず減らず口の立つかただと感心してるだけですよ!』
『笑ってんだろうが!このインテリ眼鏡が』
『北見!さっさと殺れ!!殺れるもんならな!!』
『よしなさい!命令よ!!』
『軍人が命を賭けて戦ってる時に、ふざけたことを言うからだ!その頭に鉛弾ぶちこんだら少しはマシ...』
『殺れそうか?』
『水澤君もやめなさい!!』
そう止めに入る西野秘書に向かい水澤は
『断ずる時に断ざれば、かえって混乱を招く!そんなこともわからん軍人なら、軍人なんぞ辞めちまえだ!』
水澤に言葉を受け伊藤は
『意は決されたと考えますが、如何でしょうか?秘書官殿』
『毎回、損な役割っすわ。』
『そう言うなよ、迫真の演技だったぞ!そのエアガン以外は』
『こっちに帰還中に拾ったんすよね w』
『臨時の徴収か...そう言えば何でもありだな w』
少し間をおいて『演技?』と西野秘書官は水澤と北見を見て言い
『そう演技、それっぽく演じときゃ良くね?ってこと。』
『演技で戦争が終わるなら、楽な仕事ね。。。良いでしょう、その演技という茶番劇の一員に私もなりましょう。』
『1を聞いて10を100にも1000にもそれ以上にも..さすがは参謀部随一の秘書官殿だな』
『おだてても何も出ません。』
『出さなくて結構と言いたいが、、、』
『言いいけど何かしら?言ってごらんなさい。』
『その腰のやつ欲しい。』
『官給品の拳銃なら、他にもあるから良いけど。』
『そこのそれそれ』
『この刀は前任の参謀総長閣下の形見だから...』
『そうか、、、なら諦めて
この前、ぼろぼろになった鉄芯仕込みの木刀を再度作るしかないか..面倒くせぇ..』
『あの木刀なら、あまりにも損壊が激しくて..."三崎軍医"が..どこかに...』
『あの不良軍医が..』
『とにかく、午後からもう一度会議を開きます。伊藤、北見両名は同席するように。』
『は!』
『嫌ですよ、面倒くさいw』
『水澤君の真似しない!』
『伊藤、そういう時は面倒くせぇの前に激をつけとけ w』
『激面倒くさいなぁ...。』
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同日、午後の会議にて
民間人の臨時の応集を決定
翌日、西野秘書官は応集対象者を集め応集の理由とあくまでも臨時であり、臨時期間が終われば元の民間人に戻れることを約束すると断言するが
多少どころじゃない不満が其処らかしこで上がると
水澤は壇上に上がり詩音の隣に立つ
「祖国の為、我々は軍、国民共々に最後の一人になろうとも戦い続けるのが責務である!生きて故郷の地を踏むことなきものと覚悟せよ!
男に生まれながら、いざと言う時に尻込みし、果ては他責の感情しか持てないとは情けない
今、戦争中だぞ!誰か何だと罵りあってどうする!
もし、恨むのなら自身を恨め!それが出来ないのなら今という時代に生まれたことを恨め!決して誰かのせいでもない!
もちろん、西野詩音さんのせいでもない!
お前ら自身のせいだろ?国から逃げ遅れた自身のせいだ!それが、今この時に繋がっている
そんなこともわからねぇのか!」
大きく響いた声に気圧されてボソボソと文句を言う者も居る
水澤の言葉に
例えそれでも納得できない者も自身に関係のないと言う者も居ても時の流れは彼らを否応なしに兵士の道へと押し流して行った。
THE LAST STORY 異聞録>Burst< 蒼天の詩 ③ へ つづく。
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