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星の導く未来を探して  作者: akiura
2/2

002 ☆ 《聖剣ヘキサ》

本日2本公開の2本目です。

東の空で星の落ちた夜。


僅かばかり東の空が陰り西の空が瞬いた。


時を同じくして《ステラ大陸》南の地、《カンケル王国》では《終わりの地》へ向かい旅立った少年がいた。


《カンケル王国》第一王子アクベンス。


王国切っての護衛隊を30人程連れ添っての移動で、それなりの大所帯となる。


これから向かう《終わりの地》は来るものを拒む瘴気を充満する危険地帯だが、聖剣に選ばれたものはその効果を受けない。


そのため、《終わりの地》についてからは必然、単独での行動になる。



ーーーーーー



「いやーあれじゃ手が出せないっすねぇ。しょうがないから帰りますか!」


「お前、なんでそんなに嬉しそうなんだよ。帰っても任務失敗でどやされるぞ」


「そこはほら、隊長の管理責任ということで」


「お前なあ……」


12の国の北に位置する《カプリコルヌス王国》からはるばる南の地までやってきた俺たちの任務は《カンケル王国》第一王子アクベンスの抹殺、もしくは拉致、あるいは聖剣の奪取。

まあ、正直どれも不可能に近い。

特に聖剣は持ち主の運命に導かれていると言われており、持ち主が死ねば消えるし持ち逃げしてもいつの間にか持ち主のところに戻っていることもあるという。


そもそも、聖剣の持ち主を聖剣に選ばれていない者が害するのは極めて難しい。

聖剣の持ち主は一定以上の能力を持っている者が選ばれるのが常であり、勘もよく剣術や魔術といった戦闘能力は高い、と言われている。

とはいえ、今より昔に聖剣の持ち主が現れたのは今から約120年前。

聖剣の持ち主の特性などは王国内の祠や神殿に残されたわずかな記述から推測しているに過ぎない。


120年前というと書籍や書類にいくらでも当時のことが書かれたものが残されていてもいいはずなのだが、何故か聖剣についての記述はほとんどが失われている。

なぜ聖剣が突然現れて子どもたちを導くのか。

分からないことだらけの中で、分かっていることが1つだけある。


星に導かれるのはたった一人だということ。

なぜ何人もが聖剣に選ばれるにも関わらず、星に導かれるのは一人だけなのか。


「分からないことだらけだよなあ。この世の中ってやつは」


「もー無駄に壮大風な馬鹿な事言ってないで、しっかり見張ってくださいよー」


「はいはい」



といってもなあ。


相手は王子とはいえ14、15歳くらいの子供。

子供を殺すだの拉致するだのっていうのは、気分よくやるような仕事じゃねえよなあ。


「はぁ……」


「まーた溜息はいてますねえ」


「そりゃため息もはきたくなるだろ。そもそも不可能に近い命令内容。可能だとしても気分が悪い人殺し。俺たちこんな仕事ばっかりだよなあ」


「ですねえ」



そうこう言っている内に3日、狭間の塔へと着いてしまった。


狭間の塔とは、《ステラ大陸》の外周を囲む12の国々から大陸中心部の《終わりの地》に向かう途中にある監視塔だ。

狭間の塔は《終わりの地》を囲むように多数設置されており、《終わりの地》から魔物などが国に向かって来ないように各国が監視している。

そして、狭間の塔は目印のような役割もしている。

狭間の塔よりも《終わりの地》側は魔物や瘴気、不規則な天候など様々な要素で危険地帯と指定されているため、狭間の塔よりも大陸中心部に向かうような奴は基本的にいない。



そう、それこそ星に導かれたりしない限りは。



「ここから先はもう追えないな。帰るか」


「やったー!早く王国に帰って美味しいものいっぱい食べたいなー」


「お前なあ……」



ドゴオオオオオオオッッッッ


「!?なんだ!?」

目を凝らして見ると、先ほどアクベンス王子の入っていった狭間の塔が倒壊している。

うち以外の国からの刺客か?


ドンッ

キキンッ


ここは狭間の塔があった場所からはそれなりに離れているはずだが、金属同士がぶつかりあったような音や大岩を砕くような音があたりに響き渡っている。


「あれは、聖剣に選ばれた者同士の戦いか?とんでもないぞ。とても割って入れるようなものではないな」


「きゃあああっ」


こいつ、こんなかわいい声も出せるんだな。


「こいつ、こんなかわいい声も出せるんだな、みたいな顔で見ていないでもう少し離れましょうよ!巻き込まれますよこれ!」



「それもそうか」


そう言いながら少し離れた小高い丘まで移動する。


「あれ、どっちが勝つんでしょうか」


「分からん。というか何が起きているのかもよく分からん」


聖剣は剣が独自に持つ星の力を使える、という情報をこの任務を受けるときにアルゲディ王子から直接聞いた。

聖剣の能力についての情報は同じ聖剣を持つ者同士の戦いでは勝敗を左右するくらいに重要らしい。

だからこそ、この任務の本当の目的は「他国の聖剣の能力を探ること」だった。

同じ隊の横にいるこの猫みたいな気分やの相方であるキャミィにはそのことは伝えていない。

聖剣の能力は極秘であり、実際に俺も星に導かれたアルゲディ王子の聖剣の能力は知らない。

聖剣の能力がそれぞれ独自の能力らしいことと星の力の量で能力が左右される(最も星の力が何なのかは知らないのだが)という情報までは与えられたがそれすらも極秘情報らしく、この任務の本当の目的は俺だけが知っていればいい、と念を押されたのが。


「はあ」


「また溜息出てますよ」


ここからじゃ遠いな。

全く面倒ではあるが任務を果たすとするか。



「キャミィ、お前はここで待っていろ。俺はもう少し近くで見てくる」


「え!?隊長危ないですよ!?」


「どうせなら手土産くらい持って帰らないとだろ。絶好の機会だからもう少し目に焼き付けて帰ることにする」


「えーまあ私はここで待ってていいならいいですけど。絶対に帰ってきてくださいよ!?帰りの道よくわかっていないんですから!」


「お前なあ」


こんな時に馬鹿言っている相方は放っておいて、危険だがもう少し近くで聖剣の能力とやらを拝みに行きますか。


(隠蔽の魔術)


俺がこんな任務を任されている一番の理由はこの魔術だ。

完全に消えるわけではないが、気配を極限まで少なくし、人に認識されにくくなる魔術。

地味だがとても役に立つ。

元より服は薄茶色に木々の緑を織り交ぜた柄。

目立つ肌色部分は土色に塗って遠目では風景と一体化するような恰好をしている。

これならかなり近づいても気付かれないという自負がある。


キンッキンッっとおそらく聖剣同士がぶつかりあう音が近づく。

この辺りは平坦な場所だけではなく丘のような稜線になっている箇所が多々あるためうまく物陰に隠れて近づいていた。

音のなる方にそっと顔を出す。


「なん……だ、こりゃ……」


あたりには《カンケル王国》の隊と思われる死体の山。

完全に崩壊して見る影もない狭間の塔。

地面はそこかしこにえぐれており、砂埃が舞っている。


こんなの人間業で可能なのか?


ドゴオオオン


一瞬光が煌めいたかと思った瞬間、アクベンス王子に向かって無数の光の矢のようなものが降り注いだ。

直撃するであろう軌道の矢をアクベンス王子はきれいに捌ききり一転反撃に転じる。


「聖剣ヘキサよ、瞬きを見せよ」


アクベンス王子は何やら言葉をつぶやくとともに聖剣を下段から振り上げた。

すると光る大きい腕のようなものが先ほど矢のようなものを放った相手に向かって伸びていく。


(というかアクベンス王子と戦っている相手は空を飛んでいるのか?そんなのありかよ)


そう、アクベンス王子と戦っている相手は空中を動き回りながら腕を指揮者のように振っている。


(聖剣を持っていないと思ったら剣も浮いているのか)


踊るように空中を動き回り、時々腕を前に突き出すとそこから光の矢が無数に飛んでいく。


(矢のように見えていたがあれは小さな光の剣か?直線的な動きだけでなく腕の動きに合わせて軌道をずらせるのか)


アクベンス王子の聖剣は光る腕のようなものを自在に操り、攻防自在な戦い方ができる一方で腕を出し続けることはできないように見える。


(時間としては20秒出して10秒程度待機時間があるのか?もちろん相手をだますおとりかもしれないが)


一方で浮いている方についてはこちらも同様に20秒程度浮いたあと一瞬地面に足をついている。

これは浮遊というより大きな跳躍と自由自在な滑空ができるというイメージだろうか。


(とはいえ浮いている最中もかなりの速さで移動できるようだからほぼ浮遊しているのと同じだな。)


見ている事実とそこからくる予想を急いで手元の羊皮紙に書き込む。

こんな場所ではインクを広げられないため魔道具の筆で細かく書き込んでいく。


無数の光の剣の待機時間はまちまちに見えるのでおそらく同時に出せる最大本数を調節して光の剣を全く出せない時間をなくしているのではないかと考えた。


そこから何度か同じようなやり取りを繰り返していると、突然アクベンス王子は手をとめて話始めた。


「貴殿、《サギッタリウス王国》のルクバト王子と見た。間違いないか」


「ご推察の通りです、アクベンス王子。代わりにこちらからも質問をよろしですか?」


「よかろう。申せ」


「では、アクベンス王子は《アクアリウス王国》と《レオ王国》、どちらの考え方ですか?」


「……」


(なんだ?どういう質問の意味なのかも分からないがアクベンス王子は理解している様子だ。この沈黙は何かを決めあぐねているのか、相手の出方を伺っているのか。)


「《アクアリウス王国》に近い、と思っていたが《サギッタリウス王国》の出方を見るとそうは言っていられないようだな。」


「まあ、僕は今日のところは様子見のつもりだったんだけどね。こちらとしてもそうは言っていられなくなってしまいましてね」


「ほう。その理由は興味があるな」


二人の打ち合いが一旦止まり、今ので会話もひと段落したのだろうか。

僅かばかりの静けさがあたりを支配している。


(どちらかが動きだす。これは、どちらかが死ぬまでやりあうことを決めた静けさだ)


これでも死線は幾度となくくぐってきた。

その勘が言っている。

これは死闘になると。


「聖剣ヘキサよ、星に願う、圧倒的な瞬きを!」


(先に仕掛けたのはアクベンス王子!聖剣が今までとは違う輝きを放っている!)


「聖剣ハンディカよ、星に願う、無数の輝きを!」


(まずい!巻き込まれる!にげろおおおお)


ルクバト王子と呼ばれていた浮いていた方の光の剣は今までとは比べ物にならないほど大きな剣を無数に飛ばして、まるで光の豪雨をあたり一面にまき散らしている。



ドドドドドドドドドドドドドッッッッッッッッッ



すさまじい衝撃を体で浴びながら必死で距離をとる。


(あれに巻き込まれたら一瞬で塵になるぞ!聖剣やばすぎるだろ!?)


逃げながら何とか振り返り様子を見てみると光の巨大な腕が2本。


一本はアクベンス王子を囲み守るように。

もう一本は浮いて逃げ回るルクバト王子を叩き落そうとしている。


光の豪雨が少し止みはじめたところを見計らってアクベンス王子は2本の光の腕をどちらも攻撃に転じる。


「その消えかけのほうき星を叩き落せ!聖剣ヘキサよ!」


フッ


まだアクベンス王子の光の腕は届いていないはずだが、突然ルクバト王子の纏っていた光が消えて自由落下を始める。


(なんだ?星の導きとやらが切れたのか?)


「木を隠すなら森の中、星を隠すなら星そのものの中、なんてね」


ドスッ


「がはっ!」


アクベンス王子の目の前の足元には剣一本分が通ったであろう穴があき、そこから突き出たであろう聖剣がアクベンス王子を貫いていた。


「聖剣本体は、ここまで自由自在とは、気付けなかった私の負けか・・・」


すたっと地面直前に再び光を纏いゆっくりと着地するルクバト王子。


「アクベンス王子は僕の”星屑の剣”が目に見える範囲しか操れないことを看過していることに途中で気が付いたからね。その思い込みを利用させてもらったのさ。まあ星屑の剣の範囲は事実なんだけど、聖剣本体は一定距離までなら見えなくても操れるからね」


(最後、途中で浮遊が出来なくなったのはおそらく聖剣との距離か聖剣自体が見えなくなったことで聖剣の力を受けられなくなったか。どちらにしても聖剣自体を操って攻撃するのはかなりのリスクがあるように見える。これは必ず報告だな)


「それと、こそこそ盗み見しているネズミがいるみたいだけど」


(!?)


まずい、隠蔽の魔術を看過しているのか!?

あの聖剣の能力を見た後だと、どう考えても逃げ切るのは不可能。

捕まれば必ず殺される。どうする!?


「あちゃーばれてましたか。まずったまずったー」


(!???あいつ何やってる!?)


「あなたは。大方《カプリコルヌス王国》か《リブラ王国》あたりの偵察ですか」


(大正解!って何やってんだあのバカ!殺されるぞ!どうする?見捨てるか!?)


「んーそれは話せないんですが、代わりのものを差し出せますよ?」


「代わりのもの?あなたを今ここで殺す以上に価値のあるものがあるとは思えませんが」

(そりゃそうだろ!聖剣の情報は機密中の機密だ。知っている人間を生かして逃がすわけがない。どうするつもりだ)


「今頃《サギッタリウス王国》の王都は火の海かもしれませんよ?」


「何を世迷いごとを。たとえそうだとしてもあなたを殺して駆けつけるのとさほど差がないと思いますが」


「これが証明ですよ」


にこっと笑ったキャミィがルクバト王子に何かを投げ渡した。


「これは……!」


(なんだ?ただの手紙のように見えるが)


「なるほど。これは脅しというわけですか。まあいいでしょう。遅かれ早かれ知られることですし」


(ルクバト王子が引き下がっただと?キャミィのやつなにしやがった?)


「あーでも、そちらは逃がしたくありませんね?」


「な!?がはっ」


気が付いた時には光の剣が俺の体を貫いていた。


「あは、その死体もらってもいいですか?」


「まあ、いいでしょう。分かっていると思いますが生かさないで下さいよ」


「大丈夫ですよー」


そういって飛び去っていくルクバト王子を消えかかっている意識の中、目の端で追っていた。


「あーベンヌ隊長?もう意識ないですかー?」


「キャ……ミィ……お前……」


「もう気が付いていると思いますが、私《カプリコルヌス王国》の人間じゃないんですよ。騙しててごめんなさい」


(分かってると思いますけどってお前、明らかに普段の様子とさっきは違う様子だったから何かあるとは思ってたけど、密偵か何かだったのか。そんなの分かんね……)


「そうだ、必死に書いていた羊皮紙、もらいますね。私記録とるの苦手なんですよねー」


(……)


「それでは、今まで色々ありがとうございました。ゆっくり休んでくださいね」


そうして俺の意識は溶けていった。





「あーあ、隊長面白くて好きだったんだけどなあ。まあ、この任務が終わったらどの道殺す予定だったしいっか。自分の手で殺すとなると、ちょっとだけ遊んじゃうしね」


キャミィと呼ばれていた女性はそういうと、陽気に北西に歩き出す。


「《ピスケス王国》に帰ったら何食べようかなー。」



ーーーーーー



オフューカス歴119年



《カンケル王国》第一王子アクベンスと親衛隊30名は《サギッタリウス王国》のルクバト王子に敗れた。


この事実は何故か各国へは素早く知れ渡り、また、各国の星に導かれた者達も警戒を強めた。


そして今宵も、北北西の空が僅かに瞬いた。


是非私にも星の導きを↓↓↓

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