残り火へのごめんね
「蝋燭と蛾」のつづきにあたります。
灯っているあいだは
そのぬくもりに身を寄せておいて
その炎に身を焦がしておいて
消えてしまいそうになったら
その最期を看取ってあげもせずに
つぎの光へと飛び去ってしまう
背中の薄っぺらい翅よりもなお 薄情な蛾のぼくは
ごめんね
恨んでくれてもいいよ
それがきみが 今際のきわに
くゆらせた煙のひとすじに
こめた想いだっていうのなら それでいい
まだ消えないでいてくれるのなら
ほんとうは もうちょっとだけでいいから
きみのぬくもりに身を寄せていたかった
きみの炎で身を焦がしていたかった
そんなこと
どの口で言うんだって
どうせ これまで甘い蜜を吸うしかしてこなかった
その口で言うかって
もし なじってくれるのなら
それがきみが 最期の断末魔に
たちのぼらせた煙のひとすじに
こめた想いだっていうのなら それでいい
だけど
背中の薄っぺらい翅よりもなお 薄情な蛾のぼくは
きみがその最期をだれかに
もしかしてぼくに
看取ってもらいたかったのかなって気もするし
きみがその最期をだれにも
もしかしてぼくにも
見られたくないのかもって気もするんだ
ぼくには そのどっちが正しいのかなんてわからないし
きっと きみにたずねる勇気もないから
ごめんね
きみが消えてしまいそうになったら
その最後を看取ってあげもせずに
つぎの光へ飛び去ってしまうことを選ぶ
ごめんね
まだ消えないでいてくれるのなら
ほんとうは もうちょっとだけでいいから
きみのぬくもりに身を寄せていたかったけど
きみの炎で身を焦がしていたかったけど