17-7 次のプラン
自室に戻ってくると、ネクが元の姿に戻り、私の服の裾を引っ張る。
「ソフィアちゃん、だいじょうぶ? くるしい? なでたら、なおる?」
私は椅子に座り込むと、近づいてくるネクの頭を撫でてあげた。ネクは心配そうに眉をひそめ、あわあわとしながら、どうすればいいかわからないでいるみたいだ。
「大丈夫よ、突然の事に戸惑っただけ……」
そう言うと、ネクは「えっと、えっとね」と声を出し、なんだかせわしない様子だ。こんなネクは初めて見たかもしれない。
「どうしたの、ネク?」
「あ、のね。あのね!」
ネクは本気で私を心配してくれている。私の両手を握り、今にも泣きだしそうな顔で私の瞳を見ていた。ネクのまんまるな光のない目が、うるんで私の顔を映している。こんなネクの表情は……今までに見た事が無い。どうしたんだというのか。
「ソフィアちゃんのなかにいる、くろいやつがね……ソフィアちゃんをたべようとしてるの。わたし、こわくて……ソフィアちゃんがいなくなっちゃいそうで……こわいの!」
ネクがそういうと、私の胸に飛び掛かってくる。首に腕を回してしがみつき、わんわんと大粒の涙を流しながら、大泣きを始めた。
「ソフィアちゃん、もうおこらないで! もうかなしまないで! でないと、ソフィアちゃん……きえちゃうよ!」
ネクの尋常じゃない様子に、私もかなり危機感を覚えた。
さっきまでの私の中に、何かがいたような感覚……あれは、7年前に一度見た事がある……。アレンのあの姿。さっきのあれと全く同じモノだったから、すぐに思い出せた。あれの半分が私の中にもいる。だから、あれと同じように身体を奪われそうになった。ってわけか。
「大丈夫。私の身体は私のもの。誰にも奪わせないわ」
ネクの頭を優しく撫でながらそう微笑むと、ネクは安心したように笑みを返してくれた。私の言葉に安心してくれたみたいね。よかった……。
――ああ。部屋の扉が少し開いている。私はしっかり閉める性分だから、少し開いている事なんかあり得ない。私はネクに視線を向けるふりをして、扉の外の存在を探る。
……アストリアの従者か。気配を隠さずコソコソと。鬱陶しい。
「あの女に何を命令されて、コソコソネズミみたいに探るなんて、本当にドブネズミみたいではありませんか」
私は扉の向こうに向かってそう言い放ってやると、扉の外の存在はすぐに姿を消した。逃げるくらいなら、最初から来なければいいのに。本当に……本当に鬱陶しい。ま、いいか。奴はとりあえず泳がすと決めた。どう動こうと、頃合いになるまでは監視をつけるだけにしよう。
頃合いになった時……その時に、奴の息の根を止めてやる。その瞬間が楽しみだわ。
私が考え事をしながら、窓の外を見る。先日までの大雨が嘘のように、今日は晴れ晴れとしている。本日は快晴なりってね。アスラとあのドブネズミのせいで気分は最悪だけど……ま、いいわ。私の様子を見ていたネクが、また服の裾を引っ張ってきた。
「ソフィアちゃん、だいじょうぶだよ。わたしはソフィアちゃんのみかただから。あんしんしてね」
そう言いながら、私に満面の笑みを見せる。
この子は……きっと何があっても私の味方でいてくれるだろう。――逆を言えば、この子まで私を裏切るようなことがあれば、きっと私は本当にひとりぼっちになってしまう。そんな時がいつかくるかもしれない。そんな時がきたら……
ネク……あなただけは、私の味方でいて。この先も、何があっても、例え……
「ソフィアちゃん?」
「ごめんなさい、ぼーっとしてた。さ、次の行動に移りましょうか」
「なにするの?」
私が立ち上がりながら歩み出すと、ネクが首を傾げながら、私を顔で追う。
「もちろん、あのお姫様に会いに行くの。そして捕まえて、王子様をおびき出す。魔王に捕まったお姫様を救うのも、王子様の役目でしょう?」
「んー、よくわかんない!」
「ふふっ、まあ見ていればわかるわ」
エイリス……私の為に、奴をおびき寄せる餌となりなさい。親友からの"お願い"よ。
更新はここまでです。次回の更新をお楽しみに!




