13-4 反撃開始!
クラテル視点です
チッ――
こんな弱い奴の子守りをしなきゃなんねえんだ。あの時、俺は変な女と黒い鎧の野郎共の拘束術を受けて、倒された。……魔物は人間に狩られる運命。それだけならまだしも、奴らは俺の身体を二つに分けて、存在全てを使って双剣を作り、赤子の身体に組み込みやがった。
今思い出すだけでも奴らをぶっ殺したくてしょうがねえ。俺は俺を玩具みてえにしやがった人間共を絶対許さねえ、全員皆殺しにしてやる。……と、思ってたんだが。だけど、ラケルが死んでからかな。俺もなんだか心変わりしたかもしれない。アレンの失った物に対して、悲しいと感じるし。アレンが触れてきた物に対して、愛おしいと感じ始めた。……だからか。アレンに拒絶されたことがとても悲しくて仕方なかった。こんな弱い奴に拒絶されたところで、何も感じなかったはずなのに。
……ああ、もう、アレンの野郎がいつまでも弱いから、俺が守ってやんねえといけねえじゃねえか! あんな奴、どうだっていいはずなのに! だが、今ここで死ぬのはもっと嫌だ。だから、特別だ。特別に手を貸すだけ。利害の一致。ラケルの野郎の思い通り動くのは癪だが、仕方ねえ。
目を開ける。ザリガニ野郎が俺を何度も蹴っている最中だった。俺は手を伸ばし、奴の足首を握りしめた。
「――あ?」
「調子に乗んなよ、ザリガニ野郎」
俺が睨んでやると、奴は一層口角を吊り上げて笑う。俺に会いたいとか言ってたなこいつ。きめえ。お望み通り、俺が遊んでやるよ。クソッタレが。俺は掴んだ足首を強く握りしめ、奴を振り回し、地面に叩きつけた。つっても階段の角に叩きつけてやったから、多少のダメージは――ねえな。期待してたんだが。
「ヒャハッ! お前がグラディウスかよ!」
「俺は……アレンだ。二度と間違えんな」
俺はアレンを名乗る。「クラテル」って名前は、あいつらとの間での名前にしておこう。俺はもう「グラディウス」なんて名前じゃない。
そういや、ヤマタノオロチを食ったおかげで、8つの力が使えるようになったんだった。アレンは振り回されてたみたいだが、しゃーねえ。俺がお手本を見せてやるか。
俺は倒れている奴に向かって、剣を振り下ろす。素早く下ろしたはずなのに、奴はゴキブリ並の瞬発力で剣を避けた。無言で俺は追撃する。火炎を纏わせた剣を振り、奴に向かって火炎の斬撃を飛ばしてやる。炎の刃が奴を襲うが、奴はアレンに斬られた胸の傷口から、血の結晶を射出させて斬撃を消し貫く。
ああ、こいつの力。血を結晶化、射出、操作ができるみたいだ。しかも、自分の血だけじゃない。多分他人の血液も。力の名前は「ブラッドスパイク」。……血トゲ野郎って呼ぶか。
「ハハハッ、なんだよそりゃあ。面白えじゃん!」
「お前は気色悪いな。さっさと斬られて死ね」
俺は顔をしかめながらそう吐き捨てると、血トゲ野郎はさらに笑う。狂ってるみてえに笑うなこいつ。
「もっと見せろよ、例えば、魔王陛下をやった時のヤツとかさァ!」
奴が笑っている顔がムカついたから、俺は奴を黙らせる為に掌で奴の顔をつかむと、そのまま地面に叩きつけた。流石にこれなら痛がって悶え苦しむはず――これもダメだ。奴はヒャハハと笑い続けて、後頭部からの流血を利用して、俺の身体に血の槍を打ち込んでくる。咄嗟に交わしたが、右肩と右の横っ腹を貫いたようだ。……左肩だったら腕が使い物にならなくなってたな。
「俺を斬ったって、出血する限り無駄だぜ。俺は血を武器にできる」
「そうみたいだな。だがお前が人間である限り、それも有限だ」
「無駄だって。俺は痛覚がぶっこ抜かれてんだからさあ!」
血トゲ野郎がそう言い終わる前に、俺に向かって指を鳴らす。ジャキンという鋭い音と共に、右肩と横っ腹から血の槍が射出し、貫いた。結構いてえな。こりゃアレンも激痛で立てなくなるか。……ま、こんなのは俺の力でなんとでもなる。俺は血の槍を引っこ抜くと、引っこ抜いたところから多量の血が噴き出した。
「返すぜ」
俺はそう奴に向かって血の槍を投げつけた。奴の頭を狙ったが、奴は怯むこともなく、それを頭を逸らして軽々と避ける。その隙を逃さず、俺は剣を構えて奴に向かって突撃した。まあ、隙なんてなかったわけだけど。血トゲ野郎は涼しい顔で両手の剣で剣の軌道を逸らす。俺はすかさず、自分の足元に意識を集中させ、影から数匹の影蛇を伸ばした。蛇たちが顎を開いて奴の四肢に噛みつく。
噛みつかれても尚、奴は笑みを崩さない。……こいつのムカつくニタニタ顔を、どうやったら歪められんのか。そう考えるくらいには腹が立つ。痛覚がないからこいつは怯むことも動じる事も、怯える事もない。痛覚が無いのは便利だ、死に恐怖する事もない。
「無駄だって。俺は魔女のせいで痛覚がねえ。だから、こんなのどうって事ねえんだよ」
「じゃあ、血を全部抜き取ればお前は確実に死ぬな」
俺がそう言うと、噛みついていた蛇達を勢いよくひっこめた。蛇達が奴の腕を食いちぎる勢いで引っ込んでいき、食いちぎられた奴の腕からは大量の出血。……やっぱり奴の笑みは崩れない。
「できるもんならな!」
血トゲ野郎がそう言い放つと、右腕を振り上げた。血が水滴のように舞い散り、トゲだらけの結晶の柱が立ち上る。俺は避けたはずだったが、足元まで血液が広がっていたのか、足が結晶に飲み込まれて動きが封じられる。その間にも、血がどんどん結晶化していき、俺の周囲を固めて俺の身体を拘束した。まるで血の格子に捕らわれたようだ。抜け出そうとしていると、正面から奴が双剣を構えて迫ってくる。けど、俺は躊躇なく奴の双剣を右腕で受け止めた。右腕は双剣に貫かれ、血液がブシュリと噴き出す。普通の人間なら、これだけで何らかのショックで気を失うか、最悪死んでしまいかねない。だが、それは生身の人間だったらの話だ。俺の腕は、この程度の刺し傷でどうにかなるような代物じゃない。
足元の影に意識を集中させる。影から「アジ・ダハーカ」を射出させ、血トゲ野郎の心臓に向けて剣を突き刺した。流石の奴も驚いて目を見開いていた。奴の胸に剣が刺さると、そのまま地面に縫い付けた。
アジ・ダハーカも俺の一部だ。影に解け込ませて自由に操る事だってできる。アレン、せいぜい俺の戦い方を参考に、死なない事だ。俺に身体を奪われたくないなら、猶更な。
<……お前の戦い方、センスがあるのは認める。結構荒業だけどな>
アレンの声が頭に響く。ちゃんと見てたんだな。意外に素直な奴。
さて、目の前に縫い付けられている血トゲ野郎は、先ほどの驚愕の表情から一変、ニタニタ顔で笑っていた。心臓を狙ったつもりだったが、こいつ、急所を逸らしたようだな。ただの狂犬かと思ってたが、認識を改めた方がいい。
「オイオイ、これで勝ったつもりかよ」
「いや、まだ首を潰してない」
俺は右腕を変形させる。双剣が突き刺さったままだったので、とりあえず抜いた。抜いた瞬間、血液が噴水のように飛び出るが、大した傷じゃない。首を潰すって言ってるのに、こいつはやはりニタニタ笑ってる。……こいつ、死を恐れていないみたいだ。
「お前、俺ばっかに構ってて大丈夫か?」
奴はニタニタ笑いながらそう言うと、後ろの方を指さす。つられて振り返ると、山の麓の方が見えた。……交戦中なのか、ざわざわと声が。怒号や悲鳴、様々な負の感情が伝わってくる。
<おい、皆が――>
アレンの声が聞こえるが、今はこいつを野放しには――そう思っていると、背後から鋭利なモノが俺の身体を貫いた。両肩、両足を縫い付けるそれは、血の槍。
「敵に背後を見せるなんざ、殺してくださいと言ってるようなもんだぞォ?」
……ああ、こいつクソウゼエ。こいつから殺してやらねえと。
「ああ、そうだな。まずお前からなぶり殺しにしてやる」
俺はそう言い、右腕で槍をへし折って奴を影から伸びた蛇で奴を拘束しようとする。だけど、ニタニタ笑いながら奴は、地面の血だまりから風車のような刃を射出し、回転しながら俺の右肩を切り裂いた。幸い、斬り落とされる程深い傷ではなかったが、右腕から感覚がなくなり、右腕が元に戻る。こいつ、縫い付けられてもまだ動けるのか。思わず俺は膝をつく。
「ヒャハッ、俺の隠し玉の味はどーよ!?」
「……」
俺は無言でその場に崩れ落ちた。……くそっ、身体が動かない。指先から冷えてくる感覚がする。失血がひどいのかもな。アレンにお手本を見せるとか言って、このザマか。こいつの底が見えない。……どうすりゃこいつは――。
俺は意識を保とうと、必死に目を閉じないようにしていると、奴の笑い声が弱弱しくなってきていた。……奴も限界に近いみたいだな。相打ちか……こいつもだいぶ失血したんだ。
そう思っていると、びゅわぁという音と共に、風魔法の気配を感じた。俺は顔を上げ、気配のする方を見る。青い髪の女。青い帽子と両腕が黒くて、左目が竜のように鋭い。ピンクのマントを羽織り、デカい帽子を被ってる。……誰だこいつ?
「……ご苦労様、目的は達成されたわ、狂犬」
腕を組みながら女は俺達を見下ろし、血トゲ野郎に向かって言い放つ。
「あ……ああ……。魔女か……」
弱弱しく呟く血トゲ野郎は、意識が朦朧しているようだ。
「……「アジ・ダハーカ」、持ち帰りたいのは山々だけど、グラディウス。あなたに返すわ」
魔女がそう言うと、アジ・ダハーカに近づいて奴の胸から抜き去ると、俺の目の前に投げ捨てた。そして、奴らの足元が光輝いて、魔女は腕を組みながら俺を見下ろす。
「それじゃあ、これで死んだと思うけど。生きていたらまた会いましょう、アレン・ミーティア。それとグラディウス」
そう言い残し、奴らは光に包まれて空高く飛び去ってしまった。転移魔法か。……奴は万能魔法の使い手だって聞いたな。目的は達成された……ってどういう事だろうか。ま、いいか。
<クラテル>
アレンの声が聞こえる。
<このままじゃ死んじまうぞ。情けないな>
「うるせえな……」
俺はまともに反論もできなくなっていた。
<……ごめん>
アレンの突然の謝罪。俺は反論しようにも、呼吸するだけでも精いっぱい。声がやっと出たと思ったら、掠れていた。
「なん……」
<ごめん……>
2度目の謝罪。よくわかんねえけど、こいつ。また泣いてるのか。しょうがねえ野郎だ。お前はエレノアとルゥの兄ちゃんだろうが。泣いてばっかで情けないのはお前の方だな。そう笑いたいと思いつつ、身体は冷えていく。……そろそろ終わりか。ラケルとアシュレイに協力してもらったってのに、情けねえ話だ……。
俺は最後になんて思ったんだろうな。わからない。……静かに眠るように。瞼を閉じた。
今回の更新はここまで、次回をお楽しみに!




