0-6 一緒に買い物をしにきたわけで
俺と団長とバロン、そしてエルは村へと出てきていた。村と言っても活気はあるし、人もいる。俺も修道院にいたころはたまにだけど、ちょっと……いや、だいぶかな? まあそこそこ歩いた先に街があった。そこもかなり人がいたけど、比べると少ない。
村には広い田畑があった。農具を使うオジサンやオバサンが、汗を流しながら忙しそうに畑を耕している様子が見える。……シスターやエレノア、ルゥと一緒に畑で野菜を作ってた時を思い出すな。今年も野菜を育てる予定だったんだけどな。俺がそう暗い顔をしていると、エルが俺の顔を覗き込んでくる。
「どうした、アレン。浮かない顔だな」
「え? いや、俺も畑で野菜を作ってたんだけどさ」
「野菜……何を作っていた?」
「え、トマトとかトウモロコシとか、あとナスとかパプリカやピーマンとかも――って聞いてねえ」
俺が話している途中で、エルは畑の方を見ていた。聞いてるのか聞いてないのかわからないが、そっちに興味を持ってかれたみたいだ。
「聞いていた。とにかく野菜を育て、それで自給自足していたのだろう」
「もちろん、それだけじゃ足りねえから、近くの街まで麦とか肉とか買いに来てたよ。なんて街かは忘れたけど」
「ちゃんと食べていたのか、お前」
「食べてたよ」
エルは俺の身体を見るや、首を振る。
「年頃の子供にしては痩せている。これから戦う力を得ようというのだ。もっと体を鍛え、筋肉をつけろ。でなければ、弟妹を取り戻そうなど、夢のまた夢物語という奴だ」
「う、っせーな。わかってるよ言われなくても」
俺達がそんなやり取りをしていると、俺とエルの間に団長が声をかけてくる。
「エルの言う通りだな、アレン。食事は身体を作る為に必要な事だ。今夜は豪勢にしてやるから、食べて飲んで寝て、明日から訓練を重ねりゃいい!」
「そりゃわかってるけどよ……隣にいるバロンも俺と同じくらい細いだろ」
「ん、僕……?」
バロンを指さすと、彼はびくっと体を震わせ俺を見る。
「バロンは俺達みたいな戦士じゃないからいいんだよ、適材適所だ」
「ちぇっ、俺もぎんゆーしじんになりたいぜ」
俺が冗談交じりに言うと、エルは表情と声音を変えずに俺に突っ込んでくる。
「お前の頭では無理だな」
「なっ……お前、俺がバカだって――」
「違うのか?」
「くっ……確かに座学は苦手だけどよ……」
「座学も子供の内にやるべきだ、我も付き合うぞ」
エルの言葉に何も言い返さず、そっぽを向くと、団長が立ち止まる。
「行きつけの店だ。ちょっと待ってな」
団長がそう言うと、店の中へと入っていった。
残された俺とエルとバロン。バロンは困ったように「ま、待ってよ?」と一言。俺も頷いて、その場で待つことにした。だけど、なんか待ってるのにも飽きてきたし、バロンと会話することにした。バロンの事をもっと知りたいしな。
「バロン、お前はいつから傭兵団に?」
「ぼ、僕……その、ちょっと前からかな……」
「なんでこの傭兵団に入ってきたんだよ」
「え、っとぉ……僕の街が帝国軍に襲われて、それでっ、それで団長に助けられてって感じ、かな……」
「俺と同じ感じか。……じゃあさ、赤い髪の男、知らないか? 変な赤い剣を持ってるやつ」
「えっと、わかんない。僕、隠れてたから……」
なんだ、街が襲われたからてっきりアイツもバロンを……とも思ったんだけどな。
「アレン、「赤い奴」とは?」
エルが俺の方を見て赤い奴について聞いてくる。
「俺の腕と目を持って行った奴だよ。すげえ怖い奴で、俺の姿を見て笑ってたんだ……」
「腕と目を……?」
バロンは俺の話を聞いて、ぎょっとしたように縮こまる。
「その、なんだか嫌な感じのする腕……エルちゃんのだって言ってたよね」
「ああ、そうだ」
俺の代わりにエルが答える。
「エルちゃんは何者なの?」
「知らぬ」
エルは即答した。まあ、俺にも知らんとか言ってたしな。
「でも、この黒い腕……きっと良くないものだよ。なんだか、怖い」
バロンが俯きながらそう言うと、エルもそれに頷く。
「我もそう思う。今は腕の形をしているが、いつどうなるかはわからん」
「……この腕、一体――」
俺が腕を見ていると、突然村の入り口の方で悲鳴が聞こえた。それに、何か血の臭い……血の臭い!?
「まさか!」
俺はバロンが引き止める声が耳に入る前に、悲鳴の聞こえる場所へと駆け出した。急いで、なるべく急いで!