0-5 傭兵団に拾われたわけで
外に出ると、団長、その隣の赤い髪の姉ちゃん、それに服装や人種や性別年齢はてんでバラバラの人達がいた。部屋から出る俺はそんな人たちの注目を浴びる。
「起きたか」
団長がそう言うと、姉ちゃんと一緒に俺に近づく。近づいてくると、団長程ではないけど背が俺より一回りも二回りもデカい。俺を見下ろしてくるもんだから、デカさがより際立ってるのか? 赤い長い髪と瞳が蛇っぽいし耳がとんがってるし長い。そういや本で読んだことある。「竜人」か? それより、なんか酒臭いな、この姉ちゃん……。
「お前が「アレン」か。なんか右腕と右目が変な事になってんな」
姉ちゃんは俺の全身を見てからそう言う。俺、そんなに変な見た目なのか?
「俺は「フィリドラ・ソレイズ」。このエクエス傭兵団の副団長みたいなもんさ。ま、事務的な仕事は"レベッカ"に任せっきりだけどな」
カッカッカと笑い飛ばすフィリドラのねーちゃん。名前を呼ばれたからか、黒くて長い髪の牛の姉ちゃんがこっちに歩み寄ってくる。フィリドラ姉ちゃんよりは背は低いし、身軽そうな見た目だ。額から2本の角が生えてる。それに穏やかそうな見た目だなぁ。垂れ目がそんな風に見える。
「うふっ、まあそれもまた仲間の務めって奴じゃないかしら。ああ、私は「レベッカ・リジア」。ヨロシクね、アレン君♪」
レベッカの姉ちゃんは笑みを浮かべて、俺に手を差し伸べる。握手を求めてるようだ。俺は頷きながらその手を握った。
「右手……なんだか、嫌なカンジね」
レベッカ姉ちゃんはぼそっとつぶやく。俺もそう思うからいいんだけど。
フィリドラ姉ちゃんが俺に自己紹介をした事を皮切りに、傭兵団のみんなが次々に名前を名乗り出し、レベッカ姉ちゃんみたいに握手を求めてくる。俺もそれにこたえるが、エルはというと、首を振りながら握手に応じない。……いや、応じられないんだ。
「我の右手は今、アレンの物だ」
「あら、そうなの?」
エルの答えに、レベッカ姉ちゃんは「ふぅん」と興味深そうに彼女を見つめている。だが、すぐに俺の方を向いて、にっこりと笑った。
「あ、アレン君。これからヨロシクね」
大体みんなの顔と名前を憶えてきたころ、最後に黒髪の男の子が俺に声をかける。帽子と服装からして、所謂吟遊詩人と言った感じだな。声も綺麗だけどなんか消え入りそうな感じだ。
「ああ、よろしく。……えーっと」
「ば、「バロン・ブラギアス」。えーっと、吟遊詩人だよ」
「ぎん……? あ、バロン、よろしくな」
バロンは「えへへ」と言った後、皆と同じように俺と握手を交わした。その様子を見ていた団長が俺に近づいてくる。
「バロンは14歳。傭兵団では一番お前と年が近いはずさ。仲良くしてやってくれな」
へえ、俺の5歳上なんだ。そう聞くと、なんだかバロンに親近感みたいなのが湧いてくる。
「あと、剣はレベッカから教えてもらえ。いいな、レベッカ」
「了解ちゃん。任せてちょうだいな」
レベッカ姉ちゃんが俺に剣を教えてくれるのか。……言っちゃ悪いけど、姉ちゃんみたいに細っこい人が剣を振れるのか? 俺がそんな心配そうな目で姉ちゃんを見上げていると、それを察したかのように、姉ちゃんは俺の目を見てふふんと笑う。
「アレン君、そんな目で私を見てるけど、これでも私はこの傭兵団の中では一番の腕利きよ。未経験のアレン君でも、きっと私並……いいえ、私以上の剣士になれるわ。あなた次第だけどね」
姉ちゃんの言葉に、俺は「本当か?」と疑問を抱いた。
でも……まあ、何もしないより、教えてもらって自分のモノにできりゃ……早くエレノアとルゥを取り戻せるかもしれねえ。
「姉ちゃん、俺――」
「師匠と呼びなさいな。今からは私の弟子になるんだから」
「え、あ、し、師匠!」
師匠と呼ぶと、姉ちゃんは満足げに笑う。……なんだかこそばゆいな。
「よし、傭兵団の紹介も終わった事だし、ちょっと村でも散策するか。アレン、ついてこい」
団長が俺を手招きすると、フィリドラ姉ちゃんの方に向かって手を振った。
「てことでフィリドラ、少し出てくる。その間なんかあったら対応してくれ」
「あいよ」
姉ちゃんは二つ返事で答える。
そのすぐ後、バロンは「ぼ、僕もついてく!」と団長に走り寄ってきた。団長は笑い飛ばす。
「いいぞバロン。ついでに買い物でもするか、荷物持ち頼むぞ」
「う、うん。僕、頑張る」
バロンは両腕を振り上げる。なんというか、バロンは頑張り屋なのか? なんとなく、気弱なところがルゥに似ている気がした。