7-4 仲直り? その後は
俺達は宿屋へと戻ると、宿屋の前で俺は立ち止った。心の準備ができてない。
「……師匠、やっぱ俺外で寝るから」
「もう、大丈夫よ。あの二人は些細な事で怒るような人じゃないって、知ってるでしょ? あなたもいつも通りにしていれば、誰も何も言わないって」
「そ、そうなんだけど……」
やっぱり足が止まって動かない。別に怒ってるとか思ってるわけじゃねえけど……さ。でも、やっぱり苦手なんだよ。苦手な人を好きになれとか、結構難しい事なんだぜ。
喧嘩した後って本当に気まずい。仲直りとか絶対に無理だぜ。
「まあ、苦手な人を好きになるのは、私もできないけどね。できない事をやれとは言わないし、言うつもりもないけれど。でも、これから円滑な関係になる為には、自分から折れるのもいいんじゃないかなって思うわ」
師匠が俺の頭をぽんぽんと軽く叩きながら、微笑む。
昔、俺が意地を張って修道院に戻れずにうじうじしていると、シスターもこうやって頭を叩いて、微笑んでいた。シスターもその時に……
――仲直りしなくてもいいけれど、元の関係に戻る為には、自分から折れるのもいいんじゃないかな。
と、そんな事を言ってたと思う。俺はその時にはこう返事をした。
「……わかった。とりあえず、やれることはやってみる」
師匠は俺の言葉を聞いて満足げに頷いた。
「おっけ。ま、砕けたらその時は私がフォローするわ」
俺はその言葉を聞いて宿屋の前の扉を開く。中に入ると、ジェニー姉ちゃん、それにディルク兄ちゃん。あと、モーゼス兄ちゃんもいた。二人の顔を見ると、俺は顔をしかめたかもしれない。ちょっと気まずそうな空気が流れる中、モーゼス兄ちゃんが間に割って入って、俺に声をかけてくれた。
「あら、おかえりアレン君」
「た、ただいま」
俺がそれだけ言うと、俺はジェニー姉ちゃんとディルク兄ちゃんに頭を下げた。もう勢いだ、どうにでもなれ!
「ごめん、ディルク兄ちゃん、それにジェニー姉ちゃん。俺、イライラしてたからって、二人にあたり散らすような真似して。俺、どうかしてた。本当にごめん」
俺の行動に驚いたのか、戸惑うような声が聞こえる。きっと、怒るだろうな。怒られて殴られたりするかもしれない。だって、それだけの事をやらかしたんだからな。俺は、そう考えながら、気を張った。
だけど、帰ってくる反応は俺の予想していたものではなかった。
「……いや、俺も大分偉そうに説教しちまってごめんよ。お前が怒って当然だと思う」
「私も、気が立ってたからって、あんたを傷つけたわ」
俺が頭を上げると、二人とも、申し訳なさそうな顔で俺を見下ろしている。俺は予想外の反応に驚いて、何を言えばいいかわからず、その場で固まってしまった。
別に謝ってほしかったわけでも、そういう反応を求めていたわけでもなかったから。……どうしよう。気まずい。
しばしの時間が流れ、間にいたモーゼス兄ちゃんが顎を撫でた後、「よし」と声を出して――
「そうね。今日は喧嘩両成敗って事で」
と言って、俺達3人の頭に拳骨を食らわせた。ゴンッと小気味のいい音が鳴り響き、衝撃と激痛に俺達はその場に崩れ落ちる。
「いってえ、何しやがる!」
ディルク兄ちゃんが当然の反応でモーゼス兄ちゃんを睨むが、兄ちゃんは涼しい顔で微笑んでいた。
「俺、喧嘩する人は基本的にどっちも悪いと思ってるからね。これでチャラって事で。いいでしょ?」
兄ちゃんの満面の笑みに、俺達は反論とか言う事できなかった。笑顔の威圧って奴かもしれねえ。
でもその後、ジェニー姉ちゃんが吹き出し、それに釣られて、俺もディルク兄ちゃんも心の底から大笑いした。笑い声が反響して、伝染して、いつの間にかモーゼス兄ちゃんも師匠も笑っていた。エルはまあ相変わらずの無表情だったけど。心なしか、口元が緩んでいたかもしれない。
「そうだ。ディルク兄ちゃん、ジェニー姉ちゃん。俺さ……あんたらの事は苦手だ。多分、これからもずっと」
俺の発言に二人とも顔色を全く変えない。面と向かって「苦手だ」なんて言ったら誰でも嫌がるはずなのに、二人とも顔を見合わせながら笑い続けていた。
「そりゃ残念だわ。私は嫌いじゃないけどね。ああ、でもすぐ突っかかってはっきりと意見するところは確かに苦手かも」
ジェニー姉ちゃんは俺の頭をポンポン叩きながらそう笑い飛ばしている。
「俺も、大人の言う事を聞かないマセガキ程度に思ってて苦手さ。あ、でも嫌いじゃない。そういう子供もいていい。ヒトの思考というのは自由なんだからさ」
ディルク兄ちゃんがそう言った後、「なんで俺達の事が苦手なんだ?」と俺に聞いてくる。俺はもちろん、今までの考えていたことを、拙いなりに二人にぶつける。なんだか今なら、自分の思いを包み隠さず言える気がした。「大人」だの「子供」だの、見た目や年齢だけで判断して、決めつけるのが嫌で仕方ないってところ。でも、それは子供の俺を思って言ってることはわかっている事。それはわかっているとは理解してる。でも、子供の意見も聞いてほしい。という事を、二人の顔……いや、目を見て。そうはっきりと伝えた。
ジェニー姉ちゃんは俯いて、「ごめん」と一言。ディルク兄ちゃんはと言うと、
「それは本当にすまないと思ってる。だが、お前達子供だって、俺達に守られる立場だってことは理解してほしい。……いや、こういう考えは今日からやめにしようか。大人子供は関係なく、お前を一人の男として扱う事にするよ。それで、今までのいざこざをなんとか、無かった事にはできなくとも、新しく一歩を踏み出せないか?」
と俺に頭を下げてくれた。……俺は「ごめん、ありがとう」と言おうとしたが、うまく言葉にできないので、俺も同じく頭を下げた。――が、思いっきりディルク兄ちゃんの頭にぶつけてしまい、ゴインという鈍い音と共に痛みで二人とも頭を抱えて悶えた。
その様子に、またもやみんなの笑い声が宿屋を包む。……痛いし恥ずかしい。
――でも、悪くない。
「ああ、そうだ。アレン」
ジェニー姉ちゃんがひとしきり笑った後、口を開いた。
「あんたんとこの団長と話し込んだけど、同行の件は残念だけどお断りするわ」
「ああ、残念だけど。俺もね」
ディルク兄ちゃんは頭を抱えつつも、俺を見て姉ちゃんに同意してた。
二人ともやっぱり傭兵団に同行してくれないのか。とそこは俺の予想通りの返しに、俺は首を振った。
「別にいいよ。二人ともぼっちそうだし」
「孤狼と言え」
「でもぼっちだろ?」
ディルク兄ちゃんの訂正に俺が突っ込むと、なんかしょぼくれたように顔を伏せる。でも、俺も似たようなもんだなそういや。
だけど以外にもジェニー姉ちゃんは腕を組んでうんうん頷いていた。
「まあ、それもあるけど」
あるのかよ。
「この男と顔を合わせるのが嫌ってのもあるわね」
「なんで?」
俺が尋ねると、ジェニー姉ちゃんが肩をすくめる。
「理由は……まあ、アレンが私とこいつが苦手な理由と同じ。……いえ、似たようなところかしらね」
「……じゃあいいか」
俺は納得して頷いた。
まあ、結果として言ってしまうと。
ジェニー姉ちゃんとディルク兄ちゃんはその日の内に俺たちと別れた。二人とも普段どこで何をしているかは知らねえけど、元気でやってくれていたらそれでいいと思う。
まあ、二人の関係は今まで通りでいいと団長も言ってたし、それでいいか。
で、その団長が夕食後に召集をかけ、宿の一室に団員全員が集まる。イルミナル領主「ラケル・イルミナル」は同盟を結んでくれると同意したが、条件があった。その条件が、俺とエルの話を聞いて、「一目会ってみたい」と言っていたらしい。つまりはそれが条件なんだと。
「なんで?」
俺は当然聞いた。
団長は腕を組んで顎を撫でている。難しい顔してるな。
「わからん。だが、お前達の話を聞いた瞬間に顔色を変えてな……」
「俺、有名なつもりないんだけど。一般人だぞ?」
「……お前の姉は、魔王その人だろ? 悪い意味でもいい意味でも有名人だろうが」
それはそうだ。だけど、俺の存在は闇に葬られたって話だろ。だったら、俺の事を知っている人間なんか――
「まあ、話だけでも聞きに行くぞ。明朝にな」
「……そいつ、何を知ってるんだ?」
俺がそう尋ねると、団長は首を振る。
「俺からは何とも言えん。だが、明日とりあえず会ってみろ。そしたら、わかるはずだ」
「面倒だなぁ」
「団長命令だ、それなら文句ないだろ」
「……」
ま、いいか。会ってみればわかるって言ってるし。
だけど、どんな人なんだろう……そんな期待と不安が渦巻いていた。
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