表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CODE:IMPERIALRebellion-叛逆の燈火-  作者: すぴか@
プロローグ 胎動する燈火
3/139

0-3 思いがけない出会いをしたわけで

 次に目を覚ましたのは、どこかの小屋のベッドの上だった。

 あんなに痛かった腕や目は、まるで何もなかったかのように綺麗さっぱりなくなっている。俺は体を起こしてみる。どこかの小屋……かと思ったけど、個室のようだ。ベッドとテーブルとイス、それに窓から差してくる陽の光以外は何もない、殺風景な部屋だ。

 いや、ベッドの傍らで椅子に座っている赤い髪の女の子以外は、ごく普通の部屋って言えるだろう。

 この女の子、変なフリフリの服に、青い竜のツノが頭から生えてるな。それに顔……どことなく、ルゥに似てるような。でもなんとなくエレノアっぽい? なんて考えてると、女の子もこっちを見ている。起き上がった俺に向かって


「気分はどうだ?」


 と尋ねてくる。

 その声はしわがれていて、まるで老人だ。見た目は女の子なのに。


「あ、ああ。そこそこかな」


 俺はそう答えた後、思考を巡らせていた。

 修道院が焼け落ち、シスターが殺され、エレノアとルゥはさらわれた。……全部夢だったんじゃないか。なんて思いもしたが、俺の右腕をふと見てみる。光を吸い込むような漆黒に、まるで赤い雷が走ったような模様が浮き出ていて、気持ち悪い見た目の腕だ。……見ていて不安になる。


「なん、だよ……これ」

「我の腕を移植した。それに、お前の右目も」

「右目も?」


 俺は右目に手を当てる。確かに右目がある。鏡が見たいな……そう思いながら俺はキョロキョロと周りを見回した。


「何をしている?」

「鏡がどっかにねえかなと思ってな」

「顔は問題ない。違和感のないようにしたからな」

「どういう意味だよ」


 女の子の答えに俺は尋ねる。違和感のないようにって、どういう事だろう?


「どういう意味も、そのままの意味だ」


 ダメだ、答えになってない。


「わけわかんねえ。わかるように言えよ」

「……ふぅ」


 露骨にため息ついてやがる。

 俺がどうしたもんかと頭を抱えていると、部屋のドアが開いた。ドアの向こうから姿を現したのは、黒い服を来たオッサンだった。絵本で見たユニコーンみたいな太いツノと、紫色の長い髪が特徴的だ。……獣人か。背が高くて天井まで届きそうだ。大男じゃん。


「起きたか、坊主」


 オッサンは太い声で俺に尋ねる。安堵したような表情だ。


「……ああ。ってか、オッサン誰だよ」


 俺はぶっきらぼうに尋ねる。オッサンは困ったように笑い、俺に近づいてきた。


「俺はアルテア。「アルテア・エクエス」。エクエス傭兵団の団長をやってる。お前さんは?」

「……アレン。「アレン・ミーティア」」


 俺がそう答えると、オッサンは目を細めた。


「そうか、アレン。お前が無事でよかったよ」


 オッサンの答えに、俺ははっと気が付いた。シスター達の事を確認しねえと! あれは悪い夢だったのかもしれない。夢だったに違いない! そう思った。


「そ、それより! 俺はなんでここにいるんだ? シスターとか、エレノアは、ルゥは!? オッサン、なんか知ってんだろ!?」


 俺が急に畳みかけるように質問するもんだから、流石のオッサンもたじろいでいた。俺の問いには、赤髪の女の子が答える。


「現実逃避をするな。修道院は燃え尽き、シスターとやらは首を落とされ、エレノアとルゥとやらは帝国軍に連れ去られた。目にした事実は、真実であり、決して幻想などではない。前を向け、受け入れろ」


 彼女が諭すようにそう言うと、俺もその現実を受け入れる他ないようだった。……夢だったら。俺も死んでいれば。なんて後ろ向きな考えが脳裏を巡る。そして俺はその場で項垂れて顔をベッドに突っ伏した。


「……修道院にもう少し早くたどり着いていれば、シスターの命を救えたかもしれないし、お前さんの大切な者を守れたやもしれん。すまない……」


 今更謝られても俺だって困る……これからどうすればいいのか。道を示してくれていたシスターはもういないし、エレノアとルゥは帝国の連中に連れ去られた。

 そういや、なんで帝国軍の連中があんな辺鄙な場所に来てたんだろうな。


「……なんで帝国の連中は修道院を襲ったんだ?」


 俺は顔を上げてオッサンに尋ねる。オッサンはというと、苦虫を噛み潰したような顔で答えた。


「「子供狩り」ってのは知ってるか?」

「は?」


 俺は首をかしげる。


「帝国に所属する「魔女ゴーテル」は、孤児の子供を各地から集めて、非人道的な人体実験を行っているらしい。……なんでも、子供を二人以上合成させて、強力なキマイラを作るため。だとかな」

「……なんだよそれ。そんなことの為に、エレノアとルゥが連れ去られたってのか?」

「ああ。帝国の皇帝が「ソフィア」って悪魔に代わって以来、手下の魔女ゴーテルは、この大陸の人間を恐怖で縛り付ける為に、様々なモノを作っている。それは、非人道的な人体兵器にまで至っているんだ」


 ……なんだよそれ。なんなんだよ!


「そんなことして、なんで誰も止めねえんだよ!」

「止められる人間は皆死んだよ。ソフィアが悪魔を召喚してから、あいつを止められる人間は誰一人いなくなった」


 悪魔が何だってんだよ。そいつを止めなきゃ、俺みたいな人間が増えていく一方じゃないか。そいつのせいで、今もどこかで悲しんでいる人間がたくさんいるし、増えてるってことじゃないか!


「オッサン、今すぐ帝国に乗り込んで、そいつを止めないと! でなきゃ、まだ殺される人間が増えるって事だろ!」

「無理だ、帝国の勢力はこの大陸一だぞ。それに、各国も帝国に屈服している。今はまだ動く時ではない」

「はあ? そんなこと言ってらんねえだろうが! だったら俺一人で行くよ! エレノアとルゥを取り戻さないと――」

「落ち着け」


 オッサンと俺の間に割って入ったのは、女の子だった。先ほどから黙って聞いていたと思ってたら、突然大声で俺達を黙らせる。


「アレン。お前は冷静になれ。感情を昂らせ、冷静にモノを考えられなくなっている」

「俺は冷静だ」


 俺が苛立ちを抑えながらそう口にすると、彼女は首を横に振る。 


「アレン……お前の気持ちはわかる。大切な者の安否が気になるのは人間だれしもそうだ。だが、お前のような小僧に何ができよう? 一人で行けば、必ず死ぬ。そうなれば、シスターとやらも、エレノアとルゥとやらも、悲しむだろうし、何よりそれは犬死だ。それでも行くのなら、我は止めぬよ。面倒だからな」


 彼女の言い分に、俺は少し頭が冷えた。確かに、俺一人じゃどうしようもない。でも、このまま指をくわえて見ているだけなんて……


「アレン。お前の気持ちは痛い程わかるよ。俺も大切な家族を帝国の連中に殺されたからな。……だからこそだ。まずは俺達と行動しよう。独りで行動するよりはマシだ」

「つーか、傭兵団みたいな小さい連中で何ができんだよ」


 俺はなんだか素直に慣れなくて皮肉めいた事を言ってみる。オッサンは笑い飛ばすと、俺の頭をわしゃわしゃとかきまぜた。


「今は小さいが、同士が集まればなんとかなるはずだ。先ほど言ったろう。今はまだ動く時じゃない。だがいずれは、革命を起こそうと思う。その為には、お前の力も必要だ」

「俺、戦闘経験ねえんだけど」


 俺は今まで戦った事はない。ずっと、シスターが守ってくれたから……。


「そんな事、今から戦えるようになりゃいいだけじゃないか」


 オッサンはそう笑うと、俺の背中を叩く。いてえ……力強すぎだっつーの。


「ま、今日はゆっくり休むといいさ。明日からまた移動するからな。寝てるもいいし、出てきて外の空気吸うのもいいもんだぞ。引きこもってると、気が滅入っちまうからな」


 オッサンがそう言い終えると、すくっと立ち上がり、部屋を出ようとする。


「オッサン……」

「オッサンはやめろ、今から団長と呼べ。でねえと、鼻の穴から指ツッコんで奥歯ガタガタ言わせてやるからな」

「……こえぇ」


 俺が何も言えなくなると、オッサ……団長は部屋を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ