24-3 そうでもしなきゃ、お前らは止まらないんだろ
最初に仕掛けたのは俺だ。奴の懐目掛け、剣を突き出す。ガンッと音が鳴り響き、奴の持っていた盾で防がれた。俺は咄嗟に剣を持ち直し、横に振る。それも盾で防がれる。
スペルビアは俺の隙をついて、盾を構えたまま突進してきた。思わず俺は「うわっ」と声を出して、仰け反る。何とか足を踏ん張って立っていられたけど、そこからはスペルビアのペースに持っていかれた。仰け反った俺に向かって剣を突き出し、俺の動きに合わせて確実に剣が動く。避けても避けても、剣が追いかけてくるようだった。
「くそっ!」
俺は自分の力が封じられている感覚が、すごく気持ち悪くて、腹が立ってきた。いつも使えるモノが使えない。もどかしくて苛立ってくる。こういう時こそ冷静にならなきゃ。……師匠だってそう言うはずだ!
<アレン>
クラテルの声が聞こえる。完全にペースを持っていかれて、反撃もままならず、身体が傷だらけになっていくのに、クラテルも苛立っているんだろう。……でも、これは俺の戦いだ。
「クラテル、悪い、俺の戦いだ。今回は見守っててくれ」
<……チッ、マジイラつくぜ>
「――独り言を喋る暇があるのか!?」
スペルビアがそう叫びながら、盾で俺を突き飛ばす。すごい衝撃だ。俺は綺麗に吹っ飛び、宙を飛ぶ。だが、俺は身体を翻して回転し、そのまま着地する。と、同時に、スペルビアがこちらに向かって突進してきた。
≪――剣だけが武器じゃないわ、アレン≫
ふと、師匠の声が脳内に響く。俺の妄想か、空耳か? そんなことはどうだっていい。俺は地面を咄嗟に握り締め、手に握られた砂や土を、突進してくるスペルビアの顔に向かって投げつけた。砂や土の塊は顔にクリーンヒット。爆発するように飛び散り、スペルビアの動きが止まった。目に砂が入ったり、口に土が入ったり。まあ理由はどうであれ、もがき苦しんでいるようだ。
好機とばかりに俺は剣を握り、スペルビアに向かって駆け出し、懐に入って剣を振った。
迸る血液。スペルビアの身体を裂いた。けどいや、でも浅い! 奴が機転を利かせて、致命傷を受けないように剣を使って弾いたんだ。
「くっ……まさか、砂を使って目くらましとは……!」
目元をこすり、やっと目が見えるようになったようで、スペルビアは剣を構え直す。こいつは手強いな……! エルが俺の方を見る。
『アレン、思い出せ。レベッカとの訓練を……奴は力に頼らぬ戦い方を教えてくれただろう』
「……ああ、まだ全然、未熟なんだけどな」
ただ、オーラがないせいで身体が若干重い。まるで、錘を何十個も付けて戦っているみたいだ。さっきから思ったような動きができない。……言い訳なんだけどさ!
「はぁっ!」
奴は盾を構えたまま、今度は顔を隠しながら突進してくる。俺は足元を斬ろうと剣を振った。だが、それを読まれて盾で弾かれる。俺の右肩に奴の剣が深く突き刺さった。痛みはない。ないけど……右手が動かねえ!
「次は左だ!」
スペルビアがそう宣言し、右肩から剣を抜く。
俺は後ろに倒れるが、とっさに左手を地面に突き出して、身体を支える。そして、足を振り上げて、スペルビアの顔目掛けて蹴りを入れてやった。綺麗に入り、スペルビアを蹴飛ばす。俺はそのままくるりと宙返りし、着地。と、同時に、スペルビアに向かって突進しながら剣を振った。
またガンッと音が鳴り、攻撃が防がれる。盾で防がれたんだ!
「今の動きは良かった。……だが」
スペルビアは剣を構え、足を踏みしめて。俺の首を目掛けて剣を突き出す。俺は思わず首を引っ込た。だけど、俺の動きを読むように、奴は肘を思いっきり俺の胸に打ち付けてきた。痛みと同時に「ご、ぇ……!」という声、そして腹の中のモノが口にこみあげて、口から吐き出された。
「ゲホッ、ゲホッ!」
俺は盛大に咳き込むも、目の前に意識を向けて、奴を睨みながら剣を強く握りしめる。なんか頭がぐらぐらする。気持ち悪い……!
「まだ未熟だな。私程度に苦戦しているようでは」
奴はそう言いながら、また斬りかかってきた。
「私の背後にはまだ、狂犬も死霊術師も、そしてまだ私よりも強者。さらには魔女も控えている。今のお前では、奴らに勝つことすらできぬぞ! アレン・ミーティア!」
奴が俺に斬りかかりながらそう叫ぶ。……心なしか、奴が俺の事を気にしているようにも聞こえる。
「私を倒せ、でなければ……ここで死ぬがいい!」
……ああ、そのつもりだよ。お前だけじゃない。帝国の連中は全員俺が殺す。そうでもしなきゃ、お前らは止まらないんだろ!?
≪アレン、意思を見なさい。意志の、奥の奥。心を≫
師匠の声がまた聞こえる。
≪剣の奥に宿る意志。剣は振るだけじゃダメ。あなたの剣は、敵の意志を斬る剣。……意志を見なさい!≫
……意味わかんないし、今でもよくわからん。だけど……!
「奥の奥を見ろ……意志を斬る……」
俺はそうつぶやきながら、剣を握り直して構えた。
その刹那――。
周囲の空気が変わった。風の音が消え、奴が真っ直ぐ迫ってくるのが、すごくゆっくりに感じる。俺を確実に殺すという意志で、俺に向かって突進してくる! 俺は、スペルビアの動きが手に取るようにわかり、振り上げられた剣を身体を翻して避ける。突然俺の動きが変わった事に、奴は驚いているようだった。
「奥の奥、意志を貫く……!」
強く握りしめた剣を振って、俺は風を切るような速さで駆け抜ける。突如動きが変わり、奴は目を見開いた。奴は盾を構え、俺の剣を受けようとしている。俺は構わず、左腕に握りしめた剣を突き出し、スペルビアの腹部を貫いた。奴の盾ごと!
その一瞬を貫くように、奴との距離を詰め、俺は力の限り、握り締めるままに突き刺さった剣。赤く染まっていく。
盾が砕け散り、鎧を貫く。それと同時に赤い液体がどぼりと吹き出して零れ落ちていった。誰が見ても致命傷。スペルビアは立つ事もままならず、その場に崩れ落ちた。
「ご、っば……っ」
呻き声と喉に引っかかる血液で、濁ったような音が奴の口から放り出る。それと同時に、俺の身体が軽くなった。多分、奴の力の効果が消えたんだ。俺は奴を見下ろしながらも、身体の力が抜けて、その場に崩れ落ちた。
奴に向かって、自然に声が出る。
「……なんか、言い残した事あるか?」
「……」
スペルビアは俺の方を見ている。ゼイゼイと音が口から出ていた。
「アレン殿……敵であるあなたに、このような事を頼むのはお門違いだろうが……頼む。私の部下を匿ってほしい……」
奴は、必死に俺に手を伸ばし、自分の血で真っ赤に染まった手で、俺を握り締めて、強い意志を感じる瞳で見据え、懇願してきた。
「私は、もう……あの方を救えない……皇帝陛下は、もう……自分を見失い、あの方ではないあの方に身を委ねて、この世界から逃げ込んでしまったのだ……!」
一瞬何のことかと思ったが、すぐに分かった。奴の中の神竜が目を覚まして、ソフィアの身体を乗っ取ったんだ。俺みたいに抵抗もせず、奴を受け入れたんだと、理解できた。俺も、経験があるから。
――っていや、それよりも、こいつ……目に見えてヤバい! これ以上喋ったら死んじまうよ! そう思ったら自然と口が開いた。
「あんた、もう喋るな! 死んじまうぞ!」
俺は血の混じった咳をするスペルビアに向かって、無意識に叫ぶ。我ながら、お人好しだ……。でも、今ならまだ助けられる。そう思ったら、俺は何とか止血しようと、影を伸ばし、スペルビアの腹を覆う。応急処置程度だが、止血はできた。……あとは、どうすれば。俺はそう考えながら、周りを見る。当然、森のど真ん中にそんな便利な物はない。どんどん顔色が悪くなり、苦悶の表情が濃くなっていく。時間がねえ……!
だったら――
俺はスペルビアの身体を背負った。
「……お人好しめ!」
<お人好しが!>
エルとクラテルが同時に言うもんだから、俺は「うるせえ!」と叫び、皆がいる場所まで駆け出す。いや、我ながら本当にお人好しだと思ったよ! でも、目の前で「部下を頼む」とか言われたり、こいつの本心を聞いたら、なんか……見殺しにはできなくなったんだよ! それで十分だろうが!




