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CODE:IMPERIALRebellion-叛逆の燈火-  作者: すぴか@
第9章 二人三脚
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22-5 優雅なティータイム

 それから、その日の夜。様々な事を考えつつも、眠気には敵わない。いつの間にか眠っていたようで。――俺は夢を見た。

 またあの部屋に来ていたんだ。もううんざりするくらい見た顔がずらっとテーブルを囲んで、優雅なティータイムと言った感じにカップを手に取っていたり、テーブルに並べてあるお菓子を口に運んだり。……いや、全然優雅じゃねえなこれ。絵本にあった、気狂いティーパーティーだ。


「やあ、アレン。だいぶスッキリした顔だねぇ」


 ラケルはニコニコしながら俺にお茶を振舞ってくれた。エイトがいなくなり、エイトのいた席にクラテルが座り、その隣は母さんがいた。


「いやはや、僕が君の中にいてよかったね。でなきゃ、君もチサトちゃんも、あぼーんになってたよ」

「なんだよ、あぼーんって……」

「んふっ、気にしなーい!」


 ラケルは相変わらず楽しそうに笑う。


「それにしても、いよいよ帝国との全面戦争ってカンジ? ……ドキドキするね」

「ラケル、遊びに行くわけじゃねえんだぞ」


 俺の代わりにクラテルが突っ込む。ラケルは「てひひ」と笑い、舌をペロッと出した。


「ラケルは次の日に予定があると、眠れない性質(たち)なのよ」

「うん、だから今日はアレンをこの部屋に呼んだってワケ!」

「お前……自分は死人だから部屋に来ない方がいいって――」

「それはぁ、君からこの部屋に来るって意味! 僕が呼んだから無問題(もーまんたい)! おっけー?」


 ラケルは目の前にあるイチゴのケーキを、フォークで切り分けて刺して、それで俺を指し示す。行儀悪いなぁと思いつつ、俺は俯く。


「屁理屈じゃねえか」

「それはさておき」

「さておくなよ!」

「まあまあ、眉間に皺が寄ってるよ? リラーックス♪」


 相変わらずこいつは本当に、思考が読めない……なんか疲れる。そんな俺を尻目に改まって、ラケルは話を進めた。


「いよいよ数日後には、帝国と全面戦争なわけですが。こっからの戦いは本気で辛いよ。なんせ、厄介な力を持つ奴とかさ、独自の兵器を持ってる奴とかさ。いろいろ。いっぱい。たくさん。有象無象!」

「あ、うん……」


 俺は何とも言えず、反応できなかった。

 ラケルはそんな俺を見ながら、カップを口にする。


「まあ、これからは、死人も多く出ると思うよ。間違いなくね。その中には、君が大切に思っていた人もいる。だからさ――」


 ラケルがカップをテーブルに置くと、カタンと音が響き渡った。その目は、今までで見せた事のない、鋭い瞳だ。


「弟妹を失った程度で引き籠るようじゃ、君はこの戦争で負けるだろうさ」

「……っ!」


 弟妹を失った程度で……か。いや、実際そうだ。俺は師匠を失って、立ち直ったと思い込んでたけど、エレノアとルゥを自分の手で殺した。その事実を受け止め切れなかったんだ。

 ――きっと、こんなんじゃこの先、団長や副長、モーゼス兄ちゃん、スカイ兄ちゃん、ヘクト。そして……チサト。彼らを失った時にまた、こんな事が起きるかもしれない。大丈夫と自分に言い聞かせるように言ってたけど、まだ少し揺らいでる。

 ラケルに指摘されて、こうして悩んでるのが証拠だ。


「全く、そんなんじゃ先が思いやられるな」


 クラテルが足を組んで、鼻で笑う。


「……ああ、そうだな」

「ったく、反論しろよな……」


 クラテルはつまらなさそうにため息をついた。その後すぐに、意地悪気な顔でニヤニヤ笑う。


「俺が代わってやろうか?」

「……それじゃ意味ないだろ」

「じゃあ、どうするんだ?」

「うーん……」

「調子狂うなぁ」


 クラテルが呆れ始めて、肩をすくめた。

 それを見ていた母さんが、にこりと笑う。


「クラテルってば、「あいつの事は俺がよく知ってる」なんて啖呵を切って、アレンを守ってた割には――」

「お、おい!」

「あ、やっば。これ秘密だったわね」


 母さんが何かを言いかけて、クラテルは慌てて立ち上がるが、母さんははっとしたように口元をおさえながら、目を見開いていた。

 ……っていうか、えっ。

 どういう事なんだろう。俺はクラテルの方を見る。


「なんだそれ、お前、今までどこにいたんだ?」

「なんでもねえ――」

「アレンの心が砕けた時に、アレンがなんで過去の記憶の中にいたと思う? ほら、前にさ、クラテルってアレンの心を砕くために嫌な記憶を見せてたじゃん。あれと同じ事をしたんだよ」


 ラケルの丁寧なそれを聞いて、俺は驚いて「マジかよ!?」と思わず立ち上がった。


「……まさかあの記憶を自分自身で砕くなんて思わなかったけど」

「あとまだあるよぉ」


 ラケルがふひひひひと声を出して笑っていた。ニヤニヤといやらしい笑み。クラテルが項垂れている。


「アレン、エレノアちゃんとルゥ君を倒す時に、一瞬真っ白にならなかった?」

「……えっと?」

「ああ、覚えてないか。まあ、あの時、一瞬だけクラテルが君に成り代わってたんだよ」


 ……そうか、だから。


「お前が代わりになってくれたのか」

「もう、別に言わなくてもいい事をべらべらと。お前の口を縫い合わせてもいいか?」

「うひゃう、こわぁい」


 ラケルは尚もケラケラ笑っていた。


「いいじゃん、クラテル。君、何もしてないとか思われちゃうよ?」

「別にいいよ、そんなんで」

「かっこつけ? だっせぇな」


 ラケルがぷぷぷと、口元を押さえて笑っていると、クラテルはラケルを睨む。


「ま、クラテルもアレンのきょうだいみたいなものだし、何かと気にかけてるのよ」

「……手のかかるきょうだいだけどな!」

「素直じゃないんだから」


 母さんも笑いながらカップの中身を口にする。


「クラテルのいじっぱり~ツンデレ~」


 ラケルが追撃と言わんばかりに、からかっていると、クラテルはテーブルの上にあったスコーンを手に取って、ラケルの口に向かって投げつける。ラケルはそのスコーンを口でキャッチして、もぐもぐと口に入れて飲み込んでしまった。

 ……器用な奴。

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