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異世界の悪役令嬢に転生した俺は日本に戻って…  作者: はぴぴ
1章 悪役令嬢の学園生活
4/21

4 王子を射止める作戦

 三人とも寮暮らしだが、今日は金曜日。王都邸のある者はだいたい、週末は王都邸に帰る。

 でも、オリエンテーションが終わって教室を出たというのに、足取りが重くなかなか馬車乗り場まで辿り着かない…。


「セディール様、ご存じでしたか?あのような候補がいたなど…」

「わたくしも聞いてませんわ」


 んー、セルシーちゃんに睨まれたショックが大きくてどんよりしていたが、俺としては王子を射止めてくれるのは誰でもいいワケで、むしろ歓迎じゃないか!

 と思ったけど、さっきこの二人に応援するって言ってしまった…。まさかこんなことになるとは…。

 まあいいや、ライバルは多ければ多いほどいい。この二人とセルシーちゃんが頑張れば、俺が婚約者になることはあり得ない。


「ライバルが増えてしまいましたが、わたくしはあなた方のどちらかが殿下と結婚できるように努めますわ!」

「セディール様…。なんて頼もしい…」

「ありがとうございます!セディール様!」

「でも、今日は王都邸に帰る日ですわ。馬車を待たせるのも悪いですし、わたくしはひとまず帰って作戦を練ります」

「セディール様が他人のことを気遣うなんて…」

「うう、セディール様、お優しい…」


「それではごきげんよう」

「「ごきげんよう」」


 各自、自分の王都邸から迎えに来ていた馬車に乗り解散した。



 馬車に揺られながら考えた。トラゾド殿下はすでにセルシーちゃんにぞっこんなのではないかと。

 セルシーちゃんは…、なんでちゃん付けしてるんだ…。いや、一人だけ子供みたいだし…。胸も膨らみが見られないし、背が低いからスカートは長く見えるし、色気は皆無。それでも王子はセルシーちゃんのことが好き。つまり、王子はロリコン。いや、十歳同士でロリコンもクソもないが、だって、王子ってすでにほとんど大人じゃんよ。セルシーちゃんと並ぶと大人と子供なんだよ。

 はぁ、本当に放っておけば勝手に結婚してくれたものを、余計なことを言ってしまったばかりに…。二人の恋路を成就させる方法を考えねば…。


 王子の好みはセルシーちゃん。可愛い系だ。お色気で攻めても意味がなさそうだ。むしろ逆効果かもしれない。ならば、二人には露出をやめさせるか。逆に俺は露出度をアップするか?いや現状維持でいいか…。さすがに水着みたいな格好で学園に行くのは…。そういうのは一人で楽しもう…。

 でもなあ、どうすればいいんだ。子供が大人の色気を手に入れることよりも、大人が子供の可愛さを手に入れるのが難しい。可愛い衣装を着せるか?学園は制服以外禁止だしなあ。学園以外で会うにはお茶会でも開くか…。そこで、二人にかわいい系のドレスを着せるか。

 うーん、可愛く見せようとした大人が、本物の子供の可愛さにかなうわけないよな…。


 そうだ!色気に興味がないのなら、色気に興味を持たせればいい!可愛いのが好きなら、可愛いのを嫌いにしてしまえばいい!俺は真闇の髪を持つ、闇魔法使い!闇魔法には人の好みを変化させる、嗜好操作という魔法がある。闇魔法は犯罪に使えるような魔法ばかりなのに、なぜ犯罪が起こらないのか不思議だ。

 なんだ、簡単なことじゃないか。もし俺がセディールの身体に乗り移らないで、セディールがセディールの心のままであったなら、セディールも自分に振り向かせるためにそうしたんだろう。

 よし、王子に会ったときは嗜好操作してやろう。王子は女の過度な露出が好き、それか大人っぽい女性が好き、もしくは貧乳が嫌い、子供っぽい女性が嫌い。どれがいいかな。

 闇魔法は相手の魔法抵抗を受ける分、魔力消費が高めだ。闇属性適性が最強の俺でも、おそらく三十分ももてばいいところだな。

 王子はどうやら、いつもセルシーちゃんといちゃいちゃしてそうだし、その全部の時間でセルシーちゃんを嫌うような魔法の使い方はできない。そして大人っぽい子は他にもいるから、コレミナとエリスだけをターゲットにするには、露出しかないな。よし、二人の露出度をパワーアップして、王子に話しかける作戦で行こう!



「お嬢様、お帰りなさいませ」

「ただいま、ミスリー」

「どうしたのですか、なんだか嬉しそうですね」

「えっ、えーっと…」


 ミスリーは、俺が王子を狙うのが当然だと思っている。だから、ご令嬢二人の前途多難な恋路を成就させる方法を考えているとは言いづらい…。


「トラゾド王子殿下と良いことがありましたか?」

「えっ?まあね」

「何がありましたか?」

「えーっと、殿下を振り向かせる作戦を考えたのよ」

「それは興味ありますね」


 セディールなら当然、自分の恋を成就させるために闇魔法を使うだろう。ミスリーにも俺が王子を狙うための作戦だと伝えてしまっていいだろうか。いや、それだと、俺が露出過多に改造されてしまう…。そういうのは一人で楽しめばいいのだ。やっぱり、ミスリーには作戦を教えられないな。


「それは秘密よ」

「えー…、お手伝いさせてくださいよ」


 うー、俺は自分を着せ替えしたり、女の子とお話したりするだけの、のんびりとした異世界ライフを送りたいのに、なんだかうまくいかないな…。でもめげないぞ。


「ダメよ。一人でやるって決めたんだから」

「そうですか…。私にお手伝いできることがあったらいつでも言ってくださいね」

「ええ」


 ごめんね、ミスリー。



 翌、月曜日。


「行ってくるわ」

「行ってらっしゃいませ…。うう、お嬢様を五日間もお世話できないなんて…」

「週末はたっぷりと私を堪能すればいいわ」

「はい。そうさせていただきます」


 王都邸から学園までは三十分かかるため、少し早めに馬車に乗った。


「ごきげんよう、コレミナ様、エリス様」

「「ごきげんよう、セディール様!」」


 教室への道すがら、二人に作戦を話した。


「えっ…、セディール様は、闇魔法使いなのですね」

「それはすごい魔法ですね…」


 俺が闇魔法使いなのは、俺の髪を見れば火を見るより明らかなのに、やっぱり誰も気が付かないのか。まあ、それなら都合がいい。嗜好操作は惚れ薬みたいなもんだ。犯罪臭しかしない。それなのに、そういうのを取り締まるような法律はないんだよな。なぜ犯罪が起こらないんだ。


「今スカートを調整するのは無理だから、作戦決行時はボタンをもう一つ外したらいかがでしょう」

「「はい!そうさせていただきます!」」



 今日は馬車で来たから時間的に余裕がなくて、朝に王子と話す機会は得られなかった。

 さて、学園の授業だ…。極めて退屈。貴族たるもの、学園でやるような授業は、入学前に家庭教師を付けてほとんど終わらしてるもの。とくにセディールは公爵令嬢。将来宰相となる第二王子を支えるため、英才教育を受けている。そのあたりはセディールの知識が豊富で助かるよ。

 おまけに、この学園は十歳で入学するというのに、一年生の授業は日本の小学一年生レベルなのだ。俺は大学に受かったばっかだったんだ。国語や社会はともかく、理系の知識なんてこの世界の誰よりも豊富といっても過言ではないはず。たぶん。


 まあ、現代日本の知識は抜きにしても、貴族というのは学園に何をしに来るのかというと、結婚相手を探しに来たり、コネを作りに来ているのである。だから、俺が今必死になってやろうとしていることは正しいことなのだ。…とセディールの記憶が言っている。

 だから、シャツのボタンを外したり、スカートを短くしているのは、何もコレミナとエリスの二人だけじゃない。みんなやってることだ。



 やっと昼休みだ。


「コレミナ様、エリス様、殿下をお食事にお誘いなさって」

「「はい!」」


「嗜好操作!」


 俺は周りに聞こえないように呪文を唱えた。魔力がどんどん奪われていく。やはり三十分が限度。


「「トラゾド殿下!一緒にお食事いかがですか!」」


 二人とも、息ぴったりだね。身分が下の者から話しかけてはならないとか言っていたら、一生機会はやって来なさそうだから、先手を打った。


「殿下!私、殿下のためにお弁当を作ってきました!」


 はぁ?声の主はセルシーちゃん。仮にも男爵令嬢が弁当?嘘だ。メイドに作らせたに違いない。

 王子はキョロキョロと目を動かしている。視線の先は…、俺の胸は見なくていいよ…。そうじゃなくて、もっと過激な子がいるだろ。たしかに俺の胸は他の二人より大きいんだけど、今のおまえは露出が好きなはず!おまえのためにシャツのボタンを五つ外している女の子のことを見てあげて!

 …王子の視線がコレミナの胸元に移った!やった作戦成功!王子はコレミナの胸元をデレデレと見ている…と思いきや、王子の視線は次の場所、セルシーちゃんの弁当へ…。マジか…。闇属性最強の俺の魔法が、弁当に破れただと…。


「ねえ、みんなで学食に行こうか。僕はセルシーちゃんのお弁当をいただくとするよ」


 くっ、なんとか引き分けか…。



 この学園の食堂はビュッフェ形式。料金は学費に含まれる。平民はほとんど奨学生で学費自体が無料。

 この学園に通っているのは貴族が半分平民が半分。平民は魔法の適性があったり、優秀な学力を持つ平民が奨学生として通っている。もちろん、優秀じゃなくても、大商人の後継者などは学費を払えば通える。

 だから、基本みんな同じものを食べる。ところがそこに異分子が!弁当って何?

 俺たち三人はビュッフェで料理を調達してきた。でも王子とセルシーちゃんは…、すでに席について弁当を広げていた。


「いただきます」

「これはなんだい?」

「お肉とジャガイモを、自作のソースで煮詰めたものです」

「初めて食べる味だ!とても美味しいよ!」

「ありがとうございます!」

「料理ができるなんてすごいね」

「私は元平民なので」


 王子とセルシーちゃんは、すでに仲睦まじい恋人のようだ。胃袋わしづかみ作戦なんて、貴族のセディールにも男の俺にも思いつかない…。

 俺が敗北感を顔に表していると…、セルシーちゃんの口元に、ニヤリという笑みが浮かんだ。何?すでに敵視されている?そうだよな、婚約者候補のライバルだもんな。


 そして、そろそろ魔力がヤバい。魔力切れを起こすと気絶して、しかもしばらく二日酔いのような症状が続くと、家庭教師に教わった。セディールは未成年だし、俺は生前十八だったので、二日酔いを起こすほど酒を飲んだことなんてないから、どんな症状なのかは知らない。だから、二日酔いなんて表現で子供に教えるのはどうかと思うよ、家庭教師さん。

 とりあえず、嗜好操作の呪文を解いた。王子は露出と弁当で揺れていたはずだから、途端に露出に興味をなくして、俺たちは追い払われるだろうか。と思ったけど、何の変化もない。最初からどうでもよかったようだ。おかしいなぁ。たしかに魔法は効いて、俺やコレミナの胸元をデレっと見たはずなのに…。



 昼食が終わり、午後の授業。もちろん何も頭に入ってない。入らなくても問題ないが。それよりも、なぜ魔法が効かなかったのかとか、次の作戦のことで頭がいっぱいだ。そう、貴族は学園での時間を、恋路に使うのである。いや、俺は自分が恋路などにハマらないように、他人の恋路を成就させようとしているだけだが…。


 さらに、午後の授業が終わって夕食の時間。貴族の寮生や平民は、基本的に学食で夕食を食べてから帰宅する。俺たち三人も同様。王子とセルシーちゃんはいない。というか、誘っても昼の二の舞だ。そもそも魔力が回復しきってなくて、数分しか嗜好操作できない。だから、三人で反省会だ。


「セディール様…」

「ごめんなさい…。たしかに魔法は発動したはずで、王子の視線はあなた方の胸元に行きました」

「はい。私は見ていただけました」

「私はあまり長い時間、目に留まっていませんでした…」


 たしかに、コレミナよりもエリスの方が短かったかも…。


「まさかお弁当を作って持ってくるなんて…。向こうの方が何枚も上手でした…。大見得切ったのにこの体たらく…。本当にごめんなさい」

「セディール様、お顔をお上げください。本来私たちそれぞれが自分の力で勝ち取らなければならないものなのです」

「そう言っていただけると助かります」

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