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異世界の悪役令嬢に転生した俺は日本に戻って…  作者: はぴぴ
1章 悪役令嬢の学園生活
3/21

3 学園生活の始まり

 三月になった。四月に学園に入学するのに備えて、ミスリーがいろいろ準備を進めてくれている。


「お嬢様、学園の制服が届きましたよ」

「まあ、さっそく袖を通しておきましょうかね」

「それでは、ドレスを脱ぎましょうね」

「もう、いつも言ってるけど、そんなに勢いよく脱がさないでも、それくらい自分でできるわ」

「一ヶ月前までは、そのようなことは一切おっしゃらなかったのに…」

「もう、昔のことは忘れてよ」

「はい。忘れましょう」


 セディールは身の回りのことは一切やらず、メイドに任せっぱなしだった。まあ公爵令嬢というのはそういうものなのかもしれない。

 ワインレッドと黒のチェック柄でプリーツがたくさんあるスカート。フリルの付いた白のシャツとリボン。紺のブレザー。ここまでは日本の女子高生の制服に似てるな。あとは、紐で閉めるタイプのロングブーツ。

 それから女子高生っぽくないものが一つ。魔法使いっぽいローブ。春はまだ肌寒いから、通学時はこれを羽織っていればいいかな。

 でも…、


「ねえミスリー…、ちょっと小さすぎるわ…」

「そうですねえ。お嬢様は発育が大変よろしいですから」

「スカートが短くてパンツが見えてしまうし、胸元のボタンもが閉まらなくて谷間が丸見えね」

「それでいいのではありませんか?私が通っていたときも、上位貴族はみなそのような着こなしでしたし」


 そう言われてみれば、セディールの常識からもそれでよいと判断できる。たしかに、見られて恥ずかしい気はしない。むしろ、見られたい衝動に駆られる。

 でも男の目線で見ると、目のやり場に困るというか…、日本だったらアウトだと思うし…。

 でも、セディールが持っているドレスは全部胸元が大きく開いているし、ロングスカートだけどシースルーで脚のシルエットが丸わかりなのも多い。自分が乗り移ってから作らせたドレスもセクシーなものが多い。

 ここは異世界なんだ。日本の常識なんて捨ててしまえばいい。


「それもそうね」

「それに、旦那様からのご命令を遂行するためには、もしかしたら足りないくらいかもしれませんよ」

「命令…」


 旦那様とは父親、つまりタンドスピロン公爵のことだ。自分がセディールであるという自覚すらないのに、タンドスピロン公爵のことを親であるという認識があるわけない。

 そして、今言われて思い出した。父親から言い渡された命令のこと。トラゾド・サイカトリー第二王子の婚約者候補としてセディールが挙がっている。学園で王子の心を射止め、必ずや婚約、そして結婚を成し遂げろと。そしてタンドスピロン公爵家の王国内での影響力を高めるのだと。

 俺と交代するまでセディールは王子を落とす気満々だったみたいだ。それなのに、今ミスリーに言われるまで忘れていた。こういう事柄は、何かきっかけがあったときに初めて思い出すようになっているのか…。


「そうね…。トラゾド殿下の目に止まるには、足りないかもしれないわ…」


 俺が王子を射止める…。王子と結婚…。考えられない。俺は、セディールの記憶と身体を持っているだけの香なのだ。俺の心は男のままなんだよ。男と結婚できるワケないだろ!


「では、スカートをもっと短く調整しましょうかね」

「えっ、やっぱりこれでいいわ。胸ももっと押し込めば……。うう、苦しい…」

「どうなさいましたか?お嬢様らしくもない…」


 胸のボタンはなんとかしまった。でもパツパツ過ぎて苦しい…。そしてなんだか寂しい。自分がセディールであるのは間違いないのに、もっと女体を見たいという男の欲望に狩られてしまう…。


「やっぱり胸のボタンは開けるしかないわね…」


 ボタンを三つ開けると、窮屈そうにしていた胸が開放された。そして再び胸元が目に入ると安心感を覚えた。


「では、学園に通い始めたら、周りのご令嬢の様子を伺って、適宜開放していくということにしましょう」

「そうするわ…」


 今、制服の露出度合いを決めていて気がついた。俺はセディールの好みを知っていても、それは他人の好みであって、自分の好みではないと思っていた。でも、どうやらセディールの好みを一部受け継いでいたようだ。

 セディールは身体を見られるのが好きなようだ。俺は自分の身体を見せたいなんて趣味はない。いやそれは男だったからであって、女の身体を持っていたらどうなのかよく分からないな。

 だが、俺はセディールの身体を男目線で他人としている見ている節があって、男の本能がもっと露出を見たいと言っている。

 さらに、俺は日本人としての常識や理性も持ち合わせているので、十五歳並みに発育している女子が十歳の制服を着て、いろんなところをはみ出させるのはまずいだろうと、客観的に見ることもある。

 つまり、自分の身体を見られたいセディールの好みと、露出を見たい俺の本能と、露出過多でまずいと感じている理性の三つでせめぎ合った結果、多数決によりこれでよいと決定したのだ。こうして日本ではアウトになりそうな露出度の制服を着て俺の学園生活はスタートした。



 タンドスピロン領はサイカトリー王都の隣に位置する。だからといって、領の屋敷から王都にある学園までは馬車で一時間の道のり。王都にあるタンドスピロンの王都邸からも三十分はかかる。だから学園に併設の寮に入ることになった。でも今日は初登校なので、王都邸から馬車で行くことになっている。


「お嬢様…、私はお供することができません…。お一人で大丈夫でしょうか」

「私が身の回りのことを一人でできることは知ってるでしょ」

「最初は何もできない我が儘お嬢様だと思っていたので、なかなか信じられません」

「あなたホントに言うようになったわよね。でもあなたは、お風呂で私の身体をあなたが洗えないことを心配しているのでしょう」

「はっ、なぜそれを…」

「いつもお風呂での嬉しそうな顔を見れば丸わかりよ」

「そんな…、嬉しそうだなんて…」

「まあ、毎週土日には王都邸に帰るわよ。あなたはこの王都邸で待っていてね」

「一週間に二日しかお嬢様をお世話できないなんて…」

「さあ、もう行くわね。入学式に遅れてしまうわ」

「うう、お嬢様ぁ…」

「今日は金曜日だから、ここに帰ってくるわよ」

「はい…」

「それじゃあね」

「お気を付けて…」


 馬車に揺られて三十分。サイカトリー王立学園に到着。入学式なんてどの世界でも退屈だった。

 あ、あれは、お茶会でご一緒したコレミナ・フラタゾラム公爵令嬢と、エリス・フルジアゼバム侯爵令嬢。


「ごきげんよう、コレミナ様、エリス様」

「はっ、ごきげんよう…、セディール様」

「ご、ごごご、ごきげんよう、せ、せせせ、セディール様…」


 ああ、今思い出したけど、二人はセディールの友達じゃなくて傀儡(かいらい)だった…。コレミナはセディールと同じく公爵令嬢だけど、もともとタンドスピロンの方が影響力が高いせいで、コレミナはセディールのいいなりだった。もちろん公爵家より身分の低い侯爵家のエリスも。


 コレミナは赤めの髪。エリスは黄色の髪。二人とも腰あたりまで髪を伸ばしている。上位貴族といえば、だいたい最低でもこれくらいの長さが標準ってところか。


 そして、もう一つ思い出したことが…。この二人が俺以外のトラゾド王子の婚約者候補だ。


 二人とも、身長一五〇センチ、胸はBカップ、やはり、十歳にしてはかなり発育の良い体型をしている。そして、胸のボタンを四つ開けて、俺よりもスカートを短くしている!これはスカートじゃない。パレオ、もしくはシャンプーハットだ。そうか!王子を誘惑するために露出度を上げているのか!

 くそー、負けた…。ミスリーに言われたとおり、もっとスカートを短くしてくればよかった…。でもここまでする勇気はなかったなぁ…。

 ん?待てよ?俺は王子を射止めたいワケじゃない。親の命令があるけど無理なものは無理…。でも、この二人に頑張ってもらえば、俺なんて早々と婚約者候補から外れられるんじゃないか?


「あ、あの…、せ、せせせセディール様…。申し訳ございません。セディール様を差し置いて…」

「わ、私、来週からスカートを元に戻してきます。ボタンは今閉めます…」

「えっ?」


 ああ、俺が神妙な顔をして、ご令嬢たちの胸元とスカートを睨んでいたからか。この二人はセディールに逆らわないのか。最初から婚約者候補脱落じゃないか。でもそれじゃ困るんだ。


「気にしなくて構いませんわ。わたくしは、あなた方のことを応援してますのよ」

「「へっ?」」


 しまった。また突然人が変わったようなことを言ってしまった…。


「わたくし、トラゾド殿下に興味なくなりましたわ。だから、あなた方のどちらかが婚約者になれるように、これから応援しますわ!」

「「……」」


 ああ、固まってしまった。


「わたくし、心を入れ替えましたのよ!今まで不快な思いをさせてしまってごめんなさい。あなたたちのどちらかがトラゾド殿下とご結婚できるようにサポートしますから、許してくださいまし…」


 うう、何を言ってるんだ…。


「セディール様…。私、一生付いて参ります!」

「私もです!セディール様とお友達になれて良かったです!」


 あれ?傀儡度がアップした?まあいいや…。分かってくれたみたいだし…。



 三人で教室に向かっていると、あれは…、トラゾド・サイカトリー第二王子…。二人はうっとりして目を奪われている。王子はたしかにイケメンだ。どんなにイケメンでも俺が目を奪われたりはしない。

 よし、ここは俺の手引きで、二人を前に推しだそう。あ、身分の低い者から高い者に話しかけるのはダメなんだっけ…。でも学園は身分を超えた交流の場だから、身分は気にしなくていいとか言ってたような…。ああ、どうしよう…。

 と思ったら、王子の影に小動物…ではなくて小さな女の子。王子は十歳なのに一六〇センチはある。それに対して、女の子は一三〇センチしかない。平均的な十歳の平民よりも小さいと思う。

 女の子は金髪。とても可愛らしい。王子と楽しそうに話している。

 王子は俺たちのことに気が付いて寄ってきた。


「やあ、セディール嬢、コレミナ嬢、エリス嬢」

「「「ごきげんよう、トラゾド殿下」」」

「紹介するよ。こちら、セルシー・ジアゼパム男爵令嬢。僕の婚約者候補だ」

「「「はっ?」」」


 三人揃って変な声を上げてしまった。


「セルシー・ジアゼパムと申します。よろしくお願いします」


 セルシーちゃんは、その可愛い顔とは裏腹、俺を睨みつけてきた…。ええっ?俺、キミのこと知らないよ。セディールの記憶にもないよ。


「三人とも、可愛がってあげてね」

「「はっ、はい…」」


 二人は返事をしたが、俺は声を出すこともできなかった…。


 その後、教室でオリエンテーションがあったと思うけど、さっきのセルシーちゃんに睨まれた印象が強すぎて、先生に何を話されたのか全く覚えてない…。

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