21 悪役令嬢のお店
俺は旅館の仕事で学費を返して、さっさと旅館をやめて、衣装店に転職しようと思っていたのに、料理の腕を買われて、恵子さんに料理長に任命されてしまった。私の調理師免許は偽造なんだけど…。公爵家の料理は洋風なんだけど…。
やめる機会を失って、そのまま料理長を続けていたら、みんなの信頼を得て女将になってしまった。
俺と茜だけ旅館勤めをしていたら、コレミナとエリスとミスリーが寂しがってしまい、なんとか旅館で働けないかと考えた。そこでコレミナたちのためにエンチャントアイテムを作った。コレミナたちを見た人は、髪の色から他のことを連想できないように認識阻害がかけられるようにした。つまり、異世界人に課せられた呪いと同じだ。これで、客はコレミナたちの髪がカラフルだからと言って異世界人とかメリディアンじゃないかという考えに至らない。
また、旅館の建物とその周辺で、カメラに対して認識阻害がかかるようにした。コレミナたちを写真に収められて、後から見返されると認識阻害が効かない。だから写真を撮れないようになっている。まあ、従業員の盗撮を防止するだけでなく、客同士の写真の端に写ったりすることも起こりえない。
こうして、赤い髪のコレミナと、黄色い髪のエリスと、水色の髪のミスリーは、俺と茜と一緒に旅館働けるようになった。でもまあ、旅館の外には出ないように言ってある。
ファンタジーな髪色の人が旅館で働けるようになると、他にも旅館で働きたいという人が殺到。この旅館は巨乳の従業員を拝める旅館として人気で連日満員なので、この際に規模を大きくすることに。あいかさんに頼んで、旅館を広くしてもらった。農園の教会と同じ方法だ…。
六階建ての高さにたいして、中は九階建てになっている。外からは高さ二メートルおきに窓が並んでいるのに、部屋の天井は三メートルの高さがあるのだ。これで高さ方向には一五〇パーセント拡張だ。
横方向も、外から見たら六畳の幅ごとに窓が並んでいるのに、部屋に中は十畳分の横幅がある。風呂や洗面所、収納のスペースなどの窓の必要ない部分は、完全にストレージ。これで横方向には二倍くらい拡張してある。
念のため、旅館の広さに関して認識阻害がかかるようにした。
まあ、俺が引き継いだからには、やりたいようにやらせてもらうさ。
そんなこんなで、旅館で働く日々を過ごしていたら、俺もいつの間にか四十五歳。外見変化の魔法や魔法の化粧水でシワ一つない。二十歳の時と何も変わっていない。
異世界では十八歳で学園を卒業するとすぐに結婚して子供を作るから、すでに孫がいるのだ。
そんな平和な日々は、ずっと続くと思っていたんだ。でも、それはやってきた。
突然、携帯端末の緊急地震速報が鳴り響いた。俺の端末は震度四で通知するように設定してある。まあ四くらいなら…、と思ったら、画面には震度六強以上と表示されている!マジか!
従業員とお客さんに動揺が走る。この旅館の建物や家具はミスリルコンクリートやミスリル木でできている。さくらさんに教えてもらったミスリル化だ。強度が千倍になるし、耐火温度や融点も千倍になる。家具も壁とくっつけてあって倒れることはない。食器もミスリル陶器やミスリルガラスでできている。
そもそも、この旅館の空間は大部分が異次元のストレージになっていて、地球の振動とは無関係に固定されている。仮に地面が倒壊しても、建物はストレージにぶら下がる形となる。
しかし、通知からいっこうに地震が来ないな…。誤報だったんだな…、と緊張を緩めた途端に、ごおおおという音が鳴り響いた。ストレージとつながっているこの建物が少しだが揺れ始めた。長い!こんな長い地震は初めてだ!この建物がこれだけ揺れているということは…。窓の外は、この建物とは比べものにならない程揺れている。俺は震度六強なんて経験したことない。
十分ほど揺れただろうか…。テレビで速報が伝えられる。震度七。岩手だけでなく、青森と宮城と福島で震度七。その他にも震度六強が多数。でも、ここ数十年に建った建物は、震度七まで耐えるように設計されている。大丈夫だ。もう恐れることはない。
でもテレビは無情にも次に訪れようとしている災難を告げる。津波だ。大きな地震の後には津波。一二〇年ほど前、東日本大震災というのが起こった。建物や橋が壊れただけではない。沿岸部の大部分が津波に呑まれ、多くの人が命を失った。聖天は内陸だから津波は来ない。
だけど…。俺は魔法を使える。この二十五年で魔力を鍛えて、百トンのものを扱えるようになった。何か力になれるはずだ。津波って十万リットル…じゃ済まないか…。でも何回も分けてやれば!
俺は三陸海岸の上空に瞬間移動した。百キロ以内だから一回で行ける。津波はまだ来てない。でも何か無数の…、鳥?じゃない。カラフルな…、長い髪とミニスカートを靡かせて、パンツが見える…。あれは、メリディアンだ!っていうか、何十人いるんだ!メリディアンは七人じゃなかったのか?
メリディアンはここ二十年なりを潜めている。もう地球には貧困に苦しむ国などないからだ。でも、この地震の危機に駆けつけてくれたのか…。
メリディアンの中にはあいかさんが含まれていることを知っている。でもこんなにいたとは驚きだ。農園の女性全員…でも足りないな。それに農園の女性全員がメリディアンなら、俺も招集してくれよ。これでも高校時代にメリディアンをやったことがあるんだ。コスプレだけど。
あっ!あのときもらった衣装はまだ残ってる。よし、着替えてこよう。久しぶりにパンチラできるチャンスだ。……じゃなかった。未曾有の危機なのに露出することを考えてしまう、このセディールの脳みそ…、どうにかならないかな…。
そんなバカなことを考えていたら、津波がやってきた。メリディアンは津波に呑まれるような高さに浮いている。まさか…。手を前に伸ばして…、津波を手のひらで止めた!いや、手のひらの面積関係ないよな。あれは念動だ。念動で津波を止めている。俺がやろうとしたのと同じだ。あれだけ人数がいれば…。見えるだけで何十人もいるけど、どうやら青森と福島の方までメリディアンの大群は続いていそうだ。岩手だけにこれだけの人数を割いているワケないよな。カラフルなミニスカートとパンチラの大群。素晴らしい。見ているだけでもいいけど、俺も混ざりたい。ここ何年も、胸元の開いた服やパンチラできるスカートを着てないんだ。ムラムラが限界だ。
気がつくとメリディアンは海上だけでなく、町中にもたくさんいた。地震で怪我をした人の救助活動をしているようだ。
「あいかに申請するといいですよ」
「えっ?」
気がつくと、そばにメリディアンが一人いた。
「参加したいのでしょう。あいかに言えば許可してくれますよ」
「やっぱりメリディアンは農園の誰かなんですね」
「それもあいかに聞いてください」
「わかりました」
「あと、あなたも一般人なら避難しないとダメですよ」
「そうですね」
「ここは任せてください」
「はい。じゃあよろしくお願いします」
「はい」
俺はメリディアンの衣装を着ることで頭がいっぱいになっていて、地震のことをすっかり忘れつつ、旅館に瞬間移動した。ルンルン気分でいたら、真剣な顔をした従業員や客に睨まれてしまった…。居づらくなって従業員控え室に引っ込んだ。
あいかさんの部屋に赴いた。でもいなかった。ああ、メリディアンとして活動してるんだった。地震騒ぎが収まるのを待って、あいかさんの部屋再び。
「あいかさん、お疲れ様です」
「ええ。…って、何がよ」
「だって今まで救助活動…」
「はぁ?」
「ひぃ…。だってメリディアン…」
「忘れなさいって言ったわよね」
神を怒らせたら消される…。そんな雰囲気だ…。だが、俺は天災にも負けないセディールの精神を備えている。
「私もメリディアンになりたいんです!」
「ちょっ…、大きな声で何言ってるの…」
「私もぱんち…じゃなかった、人々を救うヒロインになりたいんです!」
「あなた、言いかけた目的の方がメインなんじゃない」
ダメだ。神は何でもお見通しだ…。
「だって…、旅館勤務では…」
「もうあなたの旅館なんだから、制服とか好きにすればいいじゃない」
「恵子さんから引き継いだ伝統に泥を塗るわけには…」
「恵子さんがとっくに泥だらけにしてるわよ。今の客はGカップ従業員目当てなんだから」
「でも、日本でそんな目立つ服装は…」
「どうせ今でも認識阻害だらけでしょ。少し条件を追加すれば、胸でも尻でも好きなだけ出せるでしょ」
「それもそうですね…。というか、メリディアンには参加させてくれないんですか…」
「あなたがやり始めたら、あなたの奥さん全員付いてくるでしょう。あなたはともかく、他の子は役に立たないわ。いいから、自分の店に帰りなさい」
「今日はお姉ちゃん、神出鬼没だね」
「セディール様、どちらに行っていらしたのですか?」
「従業員の制服を変えるわよ!」
「「「「えぇっ?」」」」
恵子さんは俺に氷上旅館を引き継がせて亡くなった。残りの氷上家の人は六十歳の夫婦だけで、すでに引退している。子供はいない。氷上旅館の従業員は、いつの間にか全てが異世界の転生者か召喚者。みんなヒスターニアではLカップからTカップの胸をたっっぷんたっっぷん見せつけながら暮らしているのだ。仕事のときは胸を見せられないで悶々としているに違いない。
氷上旅館は和風の旅館なので、従業員の制服は和風なのだ。突然ミニスカメイドとかにするのはマズい…。ならばミニスカ着物だ!
トップスは前がぎりぎろ閉められないくらいが丁度いい。長さは丁度パンツが見えるくらい。それに隠れるくらいの長さのスカート。むしろスカートは履かなくてもいい。
これに伴って、仕事のときの制約を緩和。ちゃんと仕事ができる人は、最大でIカップまで大きくしてよいことにする!
残念ながら、俺の妻四人の中には、仕事のできない子がいる…。茜…。というか、俺が経営者なんだし、俺たちはもう肉体労働する必要はないよなあ。だから茜にはマスコットガールになってもらおう。なんかデジャブだ。それに、ガールなんていってるけど、茜は俺と同じで四十五歳なんだよな。まあ、外見は二十歳のときから変わってないけどな。
他の従業員も実際のところ何歳なのか分からないなぁ。まあ、中身がおばあちゃんだろうと、人のことを言えた義理ではない。なんせ、俺の中身は女ですらないんだから。
こうして氷上旅館は、完全にそういう系統のお店になってしまった…。本当にこれでよかったのか…。いや、客層も変わってないし、サービス向上としか思われてないみたいだ…。




