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異世界の悪役令嬢に転生した俺は日本に戻って…  作者: はぴぴ
2章 悪役令嬢は日本へ
17/21

17 偽りの物語

「ちっ。本物が来たわね。戦いの場を移すわよ」

「えっ?あいかさん?」


 王子人形を倒したのは、本物のトラゾド王子だ…。これじゃ茶番劇が台無しだ。それを回避するためか、俺たちはいつの間にか真っ黒な空間に瞬間移動させられていた。人形三体は、その場に残してきたようだ。

 ここは、最初にあいかさんと話をした空間。そして、あいかさんに教えてもらった魔法、ストレージで作り出せる空間だ。俺は荷物を運ぶことはないから、結局使ってないが。


「「「はっ?」」」


 瞬間移動させられて驚くコレミナ、エリス、ミスリー。相変わらずいびきをかいて目を瞑ったまま刀を構えて立っている茜。


「なんだ?この場所は?闇の魔女、セディール。このような奇怪な魔法を使って我を陥れようとは」


 トラゾド王子は俺が瞬間移動を使ったと思っているらしい。


「うわ!殿下!なんですか!真っ暗です!」


 そして、王子の側近は慌てている。


「きゃー、殿下!セディールをやっつけてくださいまし!」


 そしてセルシーちゃん…。なぜ俺を執拗に狙うのだ…。


「セルシー…、例え、闇の魔女と差し違えてでも、キミを守る…」

「殿下…」


 王子はいきなり俺を睨んで……消えた?

 ガイーン!俺の目の前で王子の剣を受けている茜。ダメだ。さっきの人形の比じゃない。速すぎて何が起こっているのか分からない。


「そいつ、スペック高いわね…。これが本来の聖女の魔法の使われ方か…」


 聖女の魔法って?


 パキンっ!茜の刀が折れた!


「はっ?ミスリルチタンの刀よ?なるほど…、じゃあこっちも…」


 ミスリルのチタン?ミスリルに種類があるのか?

 いつの間にか茜の手には、別の剣が握られていた。装飾の多い剣。曲刀ではない。王子の剣と似てる。王家の宝剣みたいなものか…。

 あいかさんも茜と同じ剣を持って、茜と二人で王子を攻撃し始めた。


「闇の魔女セディールの配下め!それは他国に伝わる伝説の剣ではないか!そうか!他国を乗っ取って、宝剣を奪ってきたというのか!」


 しかし、王子は俺のことを黒幕だと思ってるのか?とんだ濡れ衣だ。


「セディール様!」


 突然、コレミナが俺を突き飛ばした!そして、コレミナの背中を突いた剣…。


「コレミナ!」


 王子の方に気を取られて、自分の守りが疎かになっていた。王子の側近が俺に近づいているのに気が付かなかった…。

 コレミナ…、俺をかばって…。ここまで来たのに、助けられなかった…。


「セディール様に当たったらどうするんですかぁぁ!」


 コレミナは後ろを振り向いて、側近の顔に怒りの平手打ち。側近は遙か彼方に飛んでいった。

 あれ…、コレミナは無事なのか?


「セディール様、お怪我はありませんか?」

「私はなんともないけど、あなたは大丈夫なの?剣が背中に刺さったような…」

「いえ、制服も貫通していませんよ?」

「えぇっ?」


「セディール様!」


 突然、エリスが俺の前に立ち塞がって、エリスの背中に魔法の矢が命中。後ろには、聖なる弓を構えているセルシーちゃん。


「痛いだろが、ごるぁああああ!」


 エリスは声を上げて…、消えた?いつの間にかセルシーちゃんの側にいて、セルシーちゃんの腹に拳をめり込ませている。セルシーちゃんは、遙か上空の星となった。


「セディール様、大丈夫ですか?」

「私より、あなたは聖なる矢を喰らって大丈夫なの?」

「セディール様のためなら、なんのその!」


 二人とも…、どうなっているのやら…。


 でも…、コレミナの平手打ちで側近の首はあらぬ方向に曲がっていたような…。エリスの腹パンチでセルシーちゃんの背中は盛り上がっていたような…。側近もセルシーちゃんも姿が見えない…。


「二人とも死んじゃったね…」


 突然現れて、まるで今までずっといたかのように会話に入ってくるさくらさん。ケモ耳のような髪型に見えるケモ耳のさくらさん。えっ?今、何て言った?


「だから、ほらっ」


 さくらさんの足下には、二人の亡骸…。


「セディール様に仇をなそうとする輩は、こうなって当然です!」

「セディール様に嫌がらせをした罰です!」


 ああ、コレミナとエリスは、セディール至上主義だった…。やはり、俺の命令を聞いたり俺を守ったりするように仕組まれているんだ…。それで、殺してしまっても平気でいられるのか…。


「そう、その通りなんだけど、もう一人命令を聞くようにできてるやつがいるんだよ」

「あの…、人の心の声に相づち打つの、やめてもらえませんか…」


 この人はいつも読心を使っているのか?


「あの王子も、命令を遂行するようにできた人形なんだよ」


 スルーかよ。


「えっ?それって、セルシーちゃんの命令?」

「そうだよ。あれは、セルシーの命令で動くマシーンだ。もともと人間の百倍程度の身体能力がある」

「そんなに強いなんて…」

「それに、この国では聖女という呼び方はしないのかもしれないけど、聖魔法使いには愛し合った者を強化する、聖女の魔法というものが備わっているんだよ。王子がセルシーを愛するのは仕組まれたことみたいだけど、セルシーも王子を愛することで、王子の能力はさらに何百倍にもなっているようだね」

「そんな仕組みがあったなんて…」

「ミスリルってのは千倍の強度を持った金属だ。それを折るってのは千倍以上の力があるってことだよ」

「そんな化け物…、いったいどうすれば…」

「首をはねるのは簡単だけど、穏便に終わらせるなら、戦いをやめるようセルシーに命令させるしかないね」

「でも、セルシーちゃんはもう…」

「生き返せばいい。死者再生!」

「えっ?」

「おや、あいかに教わってない?首が折れたり臓器がなくなったくらいなら、生き返せる闇魔法だよ」

「マジですか…」


 セルシーちゃんのドレスの腹には穴が開いていた。あっ…、


「コレミナとエリスも王子と同じ、人を吹っ飛ばせるような力の持ち主なんですか?」

「キミもお守りの指輪をもらったでしょう。あいかは三人に、制服と一緒に指輪もはめたみたいだよ。その指輪には、うちの農園にいる聖魔法使いがエンチャントした、力強化千倍と、速さ強化千倍と、防護強化千倍がかかってるよ。キミも力が欲しいと強く念じれば、強化魔法が発動するよ」

「千倍…。あ、じゃあ、剣や矢で無傷だったのは、防護強化のおかげ?」

「それもあるんだけど、あいかの出した制服。それはミスリルだよ。なまくらの剣じゃ切れないよ」

「何度か聞いたけど、ミスリルって金属なのでは…」

「ミスリル化合物みたいに思っておけばいいよ。ミスリルがくっついた分子は千倍頑丈になるんだよ」

「化合するんだ…」

「あと、強い衝撃を吸収するイナーシャルキャンセラーの魔法もエンチャントしてあるよ。無重力ブラジャーの魔法の応用だよ」

「なるほど…。それは本当にすごいわね…」


「ほら、セルシーが目を覚ましたよ」

「んー…。なんかおなかが涼しい…」

「なんか言ってやんなよ」


「そうね…。セルシーちゃん…。私、あなたに何か迷惑をかけたかしら?」

「うわっ、悪役令嬢セディール!」

「だから、なんで私が悪役なのよ…」

「だって、乙女ゲーム、プレシャス・デプレッションでセディールといったら、闇魔法を使って主人公のセルシーの邪魔ばっかしてくる悪いやつじゃん」

「でぷ…?何それ…」

「私の大好きだった乙女ゲームよ!」

「でも私はゲームのキャラじゃないのよ。あなたも転生者なんでしょうけど、私も転生者なのよ」

「知ってるよ。セディールがお弁当を作ってくるなんてあり得ないし、おにぎりなんて作ってくるから、すぐ気が付いたよ。そのあとも、ずっと弁当で嫌がらせしてくるし…」

「嫌がらせじゃなくて、真っ向勝負だったでしょ?それに、勝負をしかけていたのは私じゃなくてコレミナとエリスだけだったでしょ」

「えっと…、色仕掛けも酷かったし…」

「それも、コレミナとエリスだけだったでしょ」

「私、八年間もずっとセディールの嫌がらせを受けて、それでもトラゾド殿下と助け合ってやってきたのに…」

「だから、私は何もやってないし、コレミナとエリスの色仕掛けもお弁当も一年ちょっとでやめたでしょ?あなたが言ってるセディールって、ゲームのセディールであって、八年間ってのもゲームでのお話なんでしょう!」

「そうよ!なんであんたはゲームどおり動かないのさ!」

「だから、私はゲームのキャラじゃないって言ったでしょ!」

「……」


「その、プレシャス・デプレッションっていうゲームなんだけど、そんな名前のゲームないよ」

「えっ?私が小学生のときから何年もやっている、大好きなゲームなんだよ!」

「だから、今からキミが六歳だった六十四年前に遡っても、さらにそれ以前に遡っても、そんな名前のゲームもアニメも漫画も小説もないよ」


 つまり七十歳で…。そりゃ、お袋の味が出せるわけだ…。


「ウソよ!」

「その記憶、植え付けられたんじゃないの?私だって、セディールの趣味を一部受け継いでるんだから…」


「そうだね。香は、見せたがりの見られたがりになっちゃったみたいだしね」

「内容まで言わなくていいのよ…」

「はははは」


「もう、最近では何が香の記憶で何がセディールの記憶だか、区別付かなくなってきてるわ…。あなたも、何が自分の記憶で何がセルシーの記憶か分からないんでしょう」

「そんな…」

「そのゲームが大好きだったって記憶も、セルシーにあらかじめ植え付けてあったものを、あなたが自分の記憶と思い込むような形にしてあっただけなのよ、きっと…」

「セルシーが自分の登場するゲームを好きだった記憶を持っていたなんて…」


「そうだね、この世界の神様はキミたちをこの世界に転生させてもてあそんでるんだよ」

「そうよ。私も遊ばれてるのよ…」

「そんなバカな…」


 ガイーン!突然、剣と剣のぶつかり合う音。あいかさんと茜を相手にしていた王子は、俺たちとセルシーちゃんのやりとりに気が付いて、俺に斬りかかってきたようだ。それをさくらさんが剣で止めてくれた。その宝剣、何本あるんだ?


「卑怯な!僕のセルシーに手を出すな!」

「トラゾド殿下!」


「ねえ、もうやめさせて!彼は、あなたの言うことなら何でも聞くでしょ!」

「そうだけど…」

「あなたの勝手な妄想で私を悪者にしないで!」

「セディール…」


「セルシー!今助ける!」

「セルシー!彼に戦いをやめるよう言って!でないと…」

「ううう…。トラゾド王子!もうやめて!セディールは反省したよ!」

「わかった。セルシーがそう言うなら剣を収めよう」


 王子はあっさり戦いをやめた…。ほんとうに操り人形なのか…。


「反省……」

「やっぱりね。セルシーの口や表情から魔素が王子に流れていってるね。命令魔法の対象限定版ってところか」

「命令魔法?」

「いくつかの国の転生者に与えられる特典みたいなものさ、かくいうキミの顔からもコレミナとエリスに魔素が流れていってるよ」

「やっぱりそうなのね…。王子にはセルシーちゃんの言うことは何でも魔法の言葉になるってことね…。そして私の言うことはコレミナとエリスに…」

「そんな…、王子の心は私が魔法で操っていたってことなの?」

「そうみたいよ」

「でも…、私、トラゾド王子のこと好きだよ!」


「いいんじゃない?それで。私もコレミナとエリスのこと、好きよ!」

「「セディール様!」」


「王子があなたのことを好きになるように仕組まれていたとしても、あなたは王子のことを好き。それでいいじゃない」

「そう…かも…」


「よし、じゃあ、キミは、今まで王子に吹き込んできた、あることないこを全て訂正してね」

「は、はい…。セディールが私に嫌がらせをしてきたというのは間違いでした…」

「それは誠か!セディール嬢…、今までキミのことを責め立ててしまって申し訳ない…」

「………」


 こんな軽いやりとりで冤罪にされたり無罪にされたり…。


「さて、キミの妄想を訂正し終わったところで、これ以上、キミの思い通り王子を操れないように、キミの命令魔法を封じさせてもらうよ」

「えっ?何これ、綺麗!」


 いつの間にかセルシーちゃんの首に、金属の輪っかが。


「これは、キミの言葉や表情から発せられる魔素を回収して、命令効果を抑制するものだよ。まあ、王子はキミにすでにぞっこんだから、そんなものはなくてもいろいろ聞いてくれるとは思うけどね、根拠のないことはもう聞いてもらえないと思いな」

「は、はい…」

「じゃあ、キミと王子はサイカトリーに帰って四人の冤罪を訂正してきてね」

「はい…」

「わかった」


「ねえ、それって、私にも効果がある?」

「うん」

「じゃあ、その不可視された指輪にエンチャントしてあげよう」

「ありがとう。これで、二人は私のために人を殺めたりはしなくなるのね」

「さあね。王子と同じで今までの蓄積があるから」


「そう…。ねえ、コレミナ、エリス、あなたたちはもう自由よ。わたくしの言うことを聞かなくてもいいのよ」

「今までの話からすると、私はセディール様の言葉に操られていたということですか?」

「そうなるわ…」

「分かりました。それでは、これから私はセディール様の命に背き、セディール様に一生付いて参りたいと思います」

「私もそうしまーす!」

「コレミナ、エリス…。もうえん罪は晴らしてもらったのよ」

「えん罪をかけられるより悲しかったことは、セディール様が私たちに何も告げずに去ったことです」

「ホント、セディール様ったら私たちを置いて酷い…。責任取ってください」

「本当にごめんなさい…」


 結局、二人はセディールの操り人形あることは変わりなかったが、俺は二人のことが忘れられなかった。今も離れたくない…。


「んー、ふゎぁぁー。お姉ちゃん、おはよ」

「茜…おはよう…」


 茜は目を覚まし、いつもの寝ぼけモードだ。立ったまま。


「そういえば、あいかさんが茜を操作していたんじゃじゃないんですか?」

「動かしていたのはAIよ」

「それは…、魔法ではないんですか?」

「魔道コンピュータよ」

「魔道回路で作ったコンピュータってところですか?」

「そうよ。地球のコンピュータも併用してるけど」

「なるほど…」

「あなたの指輪にも付いている機能よ。気を失って危険さらされたときは、身体を操作して危険を排除するようになっているわ。どうしても回避できないときは、ストレージに避難するようになっているけど」

「そんな機能まで…」


「あれ?ここどこ?真っ暗!そして知らない人がいっぱい!あ、わかった!お姉ちゃんの彼女でしょ!あなたも、あなたも、あなたも!…あなたも?」


 茜はコレミナとエリスとミスリーとセルシーちゃんを順に指さして、そう言った。

 茜の喋っている言葉は俺には日本語に聞こえるが、翻訳魔法をかけてあるから、四人にはサイカトリー語に聞こえるのか?


「そうですよ」

「その通りです!」

「わ、私は…、セディール様付きのメイドですので…」

「私は違うよ」


「お姉ちゃんったら、彼女が三人もいるなんて、隅に置けないなぁ」

「いえ、だから…、あの…、私は…」


「そういうわけなので、セディール様…、また、お側にいさせてください」

「私もセディール様のお側に一生います」

「私はもとよりセディール様に一生仕えると誓った身です」

「あなたたち…」



「ところで…」


 コレミナが申し訳なさそうに話し始めた。


「私が平手打ちしてしまったこの方は…」


 そうだ…。首があらぬ方向へ曲がっている…。


「おっと忘れてた。首が折れただけだから、たぶん治るよ。死者再生!」

「んー…、何かすごい衝撃が…」


 側近は目を覚ました。闇魔法だっけか。俺にも使えるのかな…。

 側近には王子とセルシーちゃんから事情を説明させた。


 セルシーちゃんの言葉によりあっさり味方になった王子は、周囲の誤解を解いて回った。魔法で操られた王子と違って、周囲の人々は操られたりしないので、説明が大変だったらしい。

 王子とセルシーちゃんと側近のクローン人形を悪魔の遣いということにして、全面的に罪を被ってもらった。それでなんとか納得してもらった。俺は何もやっていないのだから、今まで悪事を働いていたのは姿を変えられる悪魔だというのは都合がいい。

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