14 悪役令嬢はクラスメイトと仲良くする
翌日も熱い視線を浴びながら登校。でもよく考えたら、いくら美人だからって、そんなにじろじろ眺めてくるのはどうなのか。俺は芸能人ではないんだぞ。
まあいいや。視線を浴びるのは心地よい。これはセディールから受け継いだ数少ない好みなのか。おかげで、視線を浴びるのを防ごうという気が起こらない。
でも、茜がいやらしい目で見られるのは嫌だなあ。俺が盾になってやらないと…。
「こら、男子ども!女の子は見せ物じゃないよ!さっさと行った!」
盾を手に入れた。
「おはよう、春香ちゃん…」
「おはよう、飯田さん…」
「おはよう、茜、かおり」
もう呼び捨てにされている。
「言い寄ってくる男子がいたら、あたしがぶん殴ってやるわ」
「わーい、ありがとう!」
「とても頼もしいわね…」
願ったり叶ったりだな。
「茜とかおりに用のあるやつは、あたしを通して!」
マネージャー?春香が怖い顔で目を光らせているおかげで、男子はもちろん女子も俺たちに話しかけてこない。俺の後ろの男子に至っては、何かあったら後ろの春香に刺されるのではないかと怯えている。姉御肌の春香。スケバンな春香。用心棒としても最適かもしれない…。
おや、昨日よりスカートが短くなってる。化粧もしている。ああ、もしかして、初日からスカート短くしてくるなんて、チャレンジャーだったか?そういう女子の感覚を俺は持ち合わせてないのだけど、茜も気が付かなかったのか。
授業は退屈だ…。と思ったら、茜が後ろを向いてきて、困った顔をしている。
『どうしたのかしら?』
(やっと通じた!『分からないところが…』)
ああ、発話と読心を待っていたのか。そうだ、授業中はずっとオンにしておこう。
退屈なんて嘘だ。茜に分からないところを教えたり、雑談したりすればいい。
今日は体育の授業がある。以前、制服と一緒に体側服も送られてきていた。トップスはシャツと同様に、胸が苦しくないようにしたものを作ってもらった。
でもボトムスは短パンだ…。俺がズボンを履かなきゃならないなんて屈辱だ…。百年くらい前は、ビキニ水着のようなブルマというものを履いて体育の授業を受けていたらしい。水着のように改造した制服を着せたコレミナとエリスのことを思い出す…。でも、今の日本では短パンなんて…。いや…、ボンキュっボンの俺の少し大きめのお尻には、この短パンは小さい。パツパツ感があって、まるでホットパンツのよう。お尻の形がはっきり出る。うん、これはなかなか良い。許可しよう。
というわけで、トップスは胸の部分を拡張したもの、ボトムスは短パンそのままとなった。相変わらず女子更衣室に入るのは罪悪感がある。そして、シャツを脱いでいると、女子の注目を浴びているのだが、これがまた快感だ。
「はいはい、見せ物じゃないよー」
用心棒の春香。
「いいのよ、女子同士だし…」
「ダメ、茜とかおりはあたしんだから」
「えっ…」
「ダメだよ、私がお姉ちゃんと婚約してるんだから」
「ちょっ、それは…」
「しょうがないなぁ。二人まとめて結婚してやんよ」
ここにも女と結婚するというやつが…。
「わーい、三人で結婚しよーっ」
「ちょっとぉ、茜ぇ…」
「でも、何それ…、紐なしブラ?」
「うん」
「そんなに大きな胸なのに、紐なしでよく外れないね」
「サイズが合うのがなくて…」
魔法のブラだとは言えない。
「その重量感…。どうやったらそんなに成長するの…」
「それはね、認識阻害!」
「あー…」
よし、帰ったらこれをエンチャントにしよう。俺たちを視認した者に、胸が大きい理由、美しい理由を対象に認識阻害をかけるエンチャントを、お守りの指輪に付与だ。
「そのウェスト…、脚より細いじゃない…。どうやったらそんなスタイルに…」
「それはね、認識阻害!」
「あー…」
「肌、綺麗…。どう…」
「認識阻害!」
「…」
これも追加だ。褒められるのは嬉しいが、どうやってと聞かれても困る。茜はともかく、俺は元々こういう体型なんだよ。あ、顔と胸は少し盛ってあるが。
まあ、Gカップなんて日本の女子高生じゃ到達できないだろうから羨ましいのは分かる。でも、春香はCカップあるじゃないか。俺たちを除けばクラスで一番じゃないか。
体育の授業は百メートル走。出席番号順にスタート。先頭は茜。
茜…。胸をたっぷんたっぷんと揺らしながら、がんばって走っている姿は微笑ましい。でも、遅い…。あ、転んだ…。泣いてしまった…。ああ、でもそれがまた男子にはウケている。女子は若干白い目で見ている。巨乳でドジっ娘で泣き虫なんてあからさますぎるか?でも茜のあれはわざとじゃないんだ。
デレデレと見ている男子と、白い目で見ている女子のことを、春香が睨み返す。すると、男子も女子もビビって目を背ける。うむ。素晴らしい用心棒じゃないか。
「うえーん、お姉ちゃん…、転んじゃった…」
「痛かったね…。最後までがんばって走ったね…」
茜の膝は汚れてはいるが、傷はなさそうだ。
続いて俺の番。学園で運動の授業なんてなかったし、セディールは生まれてこの方、走ったことなんてないはずなんだが、なぜか快走できた。公爵令嬢セディール…、ハイスペックだ…。貴族というのは別に見目の良さだけで伴侶を選んでいるわけではない。有能なことも条件の一つだ。セディールには有能な血が流れているのだろう。
ちなみに、走っても胸の揺れが歩いているときとさほど変わらないように、無重力ブラジャーの魔法が制御してくれる。足が着くのと全く無関係な周期で胸がたっぷんたっぷんと振動するのは、多少なりとも走りにくいが、そのハンディキャップをものともせずに走り抜けた俺。ああ、俺も男子の注目を浴びてしまった。才色兼備な俺。モテないはずがないのだが、用心棒が付いていてくれるので安心だ。
「あんたたち、顔もスタイルも同じだけど、中身は正反対だね」
「そ、そうね」
そうだな。中身は正反対だな。とくに性別は正反対のはずなんだ。
俺のあとに一人の男子を挟んで、その次に走った春香。なかなか良い運動神経をしている。春香もなかなかやるじゃないか。俺と茜がいなかったら、クラスで一番モテたんじゃなかろうか。いや、こんなスケバンモテないか。
季節は過ぎ、暑くなってきた。衣替えだ。夏服だ。もちろん、聖子さんに夏服も用意してもらった。暑いから胸はのボタンは開けたいな…。スカートも短くしたいな…。でも我慢するか…。
と思ったら、とても涼しい。無重力ブラジャーの効果だ。まず、布が肌と密着しないように、隙間を空けて固定されている。それだけだと空気の層ができて熱がこもってしまうはずだが、風魔法を使って換気するようになっている。また、胸の位置が、胴の肌と密着しないような位置に収束するように重力が制御されているし、胸と胴の間も風魔法で換気されるようになっている。
さらに、換気だけでは暑さに対応できないと判断された場合、水魔法の冷却機能が発動し、換気で少し冷たい風が流れるようになっている。やはりこれは最強のチートアイテムだ…。
それにもかかわらず、この無重力ブラジャーを外さなければならないときがやってきた。水泳の授業だ。水着だ。スクール水着だ。何もかもが体型に合っていない。もちろん服に関する駆け込み寺。聖子さんのところへダッシュ。
まず最初に胸が苦しい。胸の部分は拡張してもらった。
それから胴の長さ。俺は身長一五五センチに小さくしてあるものの、胴と脚の長さの比率は、日本人とは全く違う。一六五センチの大人の下半身に一四五センチの子供の上半身がくっついているようなアンバランスさ。でも、白人とか黒人とか、だいたいそんなもんじゃないか?セディールは元々白人系なんだよ。まあ、この身体はそれよりも上を行っているが。そういうわけで、胴の長さに合うように長さを調整。
あとは、お尻。このお尻は日本人からすれば、一六五センチの大人のお尻なので、スクール水着特有のタイトスカートのような部分がずり上がってしまうし、ちょっと歩いたりするとすぐにパンツ部分がお尻に食い込んで、お尻がはみ出てしまう。これは…、なかなか良い。改造せずに露出できるなら利用すべきだ。食い込んだパンツを直している茜はとても可愛い…。あ、茜はお尻が大きくなって困っているのか?と思ったら、茜もパンツが食い込んでしまうこととそれを度々直さなきゃいけないことが嬉しいらしい。茜も見られたがりなのか。まあ、せっかくスタイルが良くなったんだから、見られたいよな。
最後に水中専用の無重力ブラジャーの魔法をかけてもらった。水中で無重力にしてしまうと、胸が浮き袋のようになってしまい、身体が沈まなくて泳げないとか。そこで、過度な揺れは防ぐけど、重力制御をしない仕様となっているそうだ。胸の重さで皮膚が引っ張られて痛い。水着専用なのだから、魔法の呪文は無重力ブラジャーではないとおもうのだが、水中用無重力ブラジャーという呪文だった。相変わらず恥ずかしい呪文だ。
これで水着の改造は完了。まあ改造というか、聖子さんはどの服でも一から糸を紡いで作ってくれる。購入した制服や水着は、聖子さんが参考にするためのサンプルでしかない。
もちろん、茜も俺と同じ体型に大改造してあるので、同じものを作ってもらった。
こうして迎えた水泳の授業の日。
「相変わらずボンキュっボンだね」
「ふふふ」
俺と茜を見た者は、美顔、美肌、巨乳、スタイルである理由・原理についての認識阻害がかけられるようにエンチャントした。理由を尋ねられる心配はもうない。眺めているだけの他の生徒にも、そういう疑問は沸かない。
相変わらず出席番号順にスタート。初日だからどの泳ぎ方でもいいとのこと。茜の泳ぎ方は…謎泳ぎ。
「うわーん、お姉ちゃん助けてー」
溺れていた。足は付くはずなんだが…。
「今行くわっ」
前世は平泳ぎが得意だったんだが…。水を掻いたあと胴の中央で手の平を合わせて前に戻さなければならないのに、大きな二つの球体に阻まれて手の平を合わせられない。
しかたがない、クロールか。クロールも胴の幅よりも大きい胸が邪魔で、腕を回しにくい。それに、胸が抵抗になってなかなか進まない。
胸が大きいとスポーツはほんとうにやりにくい…。なんて素晴らしいことだ…。
いや、茜の元に早く行かねば。もっと早く!そう念じると、なぜか早く泳げた。
「茜、大丈夫?」
「うん…」
「水を飲んだ?」
「鼻に水が入って痛いよう…。うわーん」
「よしよし。おぶっていってあげる」
「うん、ありがと…」
背中に柔らかい感触が…。
鼻に水が入っただけで泣いてしまうなんて、茜は十歳のときと変わってないなあ。普通は十歳でも泣かないと思うが。でも、それが男どもの庇護欲をくすぐったみたいだ。
あと、俺と茜のパンツはとっくに食い込んでしまっている。ああ、そっちが見所なのか。自分の食い込みを直しつつ茜の食い込みも直してやった。それがまた注目を浴びる原因になった。
そしてデレッとしている男子に対して、女子が不快な目を向ける。それを春香が睨んで制止させる。いつもこの流れ。
その後も毎日熱い視線を浴びながらも、春香のおかげで比較的平穏な日々をすごしていた。でもある日の下校時、
「ねえ、お姉ちゃん。春香ちゃんいないよ」
「おかしいわね」
いつも途中まで一緒に帰っている春香が見当たらない。心配になって学校の敷地内を探してみる。何か嫌な予感がする。こういうときは体育館裏だ。
そして、予感は的中した。
「お前、何様のつもりなんだよ!」
「いつもいつも綾瀬さんにベタベタして、何なの?」
春香は壁を背にして、三人の男子と三人の女子に囲まれている。三ヶ月経って、男子も女子もグループみたいなものができていた。
「あの子たちは、人に群がられるのが嫌いなのよ」
そんなことを言った覚えはないが、その通りだ。助かってる。
「保護者ヅラか?綾瀬ちゃんを独占してないでみんなに解放しろよ。独占禁止法だ。人民解放運動だ」
「うるさいわね!あんたらがいつもデレッとした目で見てるから守らないわけにはいかないでしょ」
俺もできることなら胸のボタンを開放したい。でもここでは無理なんだ…。
ではなくて、いつも盾になってくれている春香が、俺たち姉妹を独占していると。そのあとの二つの単語は意味が分からない。
春香は厚かましいやつだが、春香のおかげで平穏に暮らせてきたのはたしかだ。感謝しなければならない。
でも、どういう結果に持って行こうか…。今までクラスのみんなは春香に制圧されていたが、反旗を翻した。もう春香に制圧させるのは無理だ。
じゃあ、俺が制圧するか?俺のキャラじゃないな…。いや、セディールはそういうキャラかもしれないが…。俺がみんなと交流する意志がないことを表明すると…、茜にも被害が及ぶな。今度は茜がいじめの対象だ。
じゃあ、要求どおり、俺たちとの交流を開放するか…。
「ねえ、お姉ちゃん、春香ちゃん、助けようよ」
「茜、よく考えて。私たちがクラスのみんなと交流するかどうかを決めなきゃいけないのよ」
「そんなこと、あとでいいよ。春香ちゃん、いじめられてるよ」
「そうね。まずは行きましょうか…」
茜は優しいな。単に自分への被害を予想できないだけかもしれないが…。
「春香ちゃーん」
「どうしたのかしら」
白々しい登場。
「ばっ、茜、かおり。なんで来た」
なんで来ちゃったかなぁ…。まあ俺らのせいで責められてるなら、かばわないわけにはいかないからな…。
相変わらず名前を間違えられているが、性別が間違っていることに比べるとどうでもよい。
さて、茜が急かすから出てきたのはいいが、二つの選択だ。春香の保護を外してみんなと仲良くするか。それとも、春香だけと付き合うことにして、みんなとは交流する意志がないことを示すか。
「綾瀬さん!綾瀬さんは、飯田に縛られたままでいいの?」
「私は別に縛られてないよ」
「じゃあ、俺らとも話してくれるのか?」
「うん、いいよ。今も話してるじゃん。そういえば、今まで他の子に話しかけられなかったや。なんでだろ?」
茜…、春香がガードしてくれてたのに気がつかなかったか…。
「やった!」
「茜ぇ…」
しかし、茜は女子に嫌われてたのではなかったのか。もしかして、顔や胸に関して疑問に思うことができなくなったのが効いてるか?
「じゃあ、これから私たちが綾瀬さんたちに話しかけるのを、飯田さんは邪魔しないでね」
「ちぇっ、わかったよ!」
男子はまあ、美人の俺たちとお近づきになりたいのは分かる。でも女子はなんだ?春香みたいに美貌の秘訣を知りたいのか?
「私、金田あかり。よろしくね、茜ちゃん、かおりちゃん」
「俺、江藤陽介。よろしく!えっと、髪が短い方が茜ちゃんで、長い方がかおりちゃんでいいんだよな」
「あのね、私は茜だけど、お姉ちゃんはかおりじゃなくてかおるなの!」
「えっ…、今までずっとかおりちゃんだとばかり…。ごめん…」
「私も知らなかった…」
「あたしも…。ずっと間違えててごめん…。だって、かお…りが全然訂正しないから…」
「私は間違えられるのは慣れっこだし、訂正するのも疲れてるから、別に気にしないでいいのよ」
名前が間違えられやすいから改名するというのはできるらしい。でも、性別が間違えられやすいからといって性転換してしまった人はいないだろう。意図してやったわけではないが、今は間違えられる事柄が一つ減って、肩の荷が下りた気もする。
こうして、俺と茜は、春香以外のクラスメイトとも付き合うこととなった。
それにあたっては、認識阻害項目の見直しだ。一番面倒なのは根掘り葉掘り聞かれること。俺たちに関することに疑問が沸かないようにしてしまえばいい。
美貌や体型の秘訣。住んでいるところ。氷上温泉のこと。親のこと。出身地。
髪が真っ黒な理由。茜と髪の色が違う理由。
あとは、俺と茜を恋人や結婚相手とか、自分の所有物として考えることができない。芸能界のスカウトも来ないし、才能を見込んで採用しようという気も起きない。
他に何かあれば、適宜追加しよう。
それにしても、この指輪は、いくらエンチャントしても壊れる気配がない。ただのダイヤじゃないのだろうか。




