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異世界の悪役令嬢に転生した俺は日本に戻って…  作者: はぴぴ
2章 悪役令嬢は日本へ
12/21

12 妹の魔法

「お姉ちゃん、合格通知来たよ!」

「当たり前でしょ」


 携帯端末にメールが来た。

 ところで、ここは異世界のヒスターニアであるにもかかわらず、日本のインターネットの電波が届くようになってる。茜が端末を持っているのを見て、俺も買いに行こうとしたら、あいかさんが千倍の性能の端末をくれた…。あいかさんは神の使者かと思っていたが、未来の使者もやっているんだろうか。


「入学式を待つだけだぁ」

「そういえば卒業式は?」

「遠い高校に行く人は、もう学校に行かなくていいんだよ…」

「へー、変わったのね」

「うん…」


 なんか言いづらそうだ。でも読心で覗くのはやめておこう…。


「でも、試験が終わってから学校始まるまでは、旅館で仕事って言われてたの覚えてるかしら?特に私は学費を出してもらうんだから、早く返せるようにしないと」

「そうだった…」


 というわけで、今日から旅館勤務だ。


「合格おめでとう」

「「ありがとうございます」」

「あなたたち、ちょっと見ないうちに変わったわね。どっちが香ちゃんで、とっちが茜ちゃんだっけ」

「髪の長い方が香です」

「私が茜です」

「そう。覚えたわ」


 やはり恵子さんはボケているんだろうか。でも八十四歳にしては元気だな。


 旅館の仕事は、部屋や廊下の掃除。風呂の掃除。布団シーツやタオルなどの洗濯。布団干し。料理の配膳。まあ、予想どおりだ。ここは和風の旅館なので、ベッドではなくて布団だ。

 あと、このままここで本格的に働く気があるのなら、調理師を目指してもいいと。そこで、少し調理を手伝わせてもらったら、恵子さんと調理師の人は目をむいていた。


「お姉ちゃん、料理、うまくなってる…」

「ふふふっ」


 俺は長年、自分と茜の料理を作ってきた。そして、学園でも王子のための弁当を作ってきた。そのために、公爵家のシェフにも料理を習った。女子力のレベルを超えた調理の手際。


「あなた、これなら調理師免許と食品衛生管理者取ってくれれば、将来ここの厨房を任せてもいいわ」

「考えておきます」


 残念ながら、茜に料理のスキルはない。俺は茜と一緒に仕事できるように、調理の仕事は控えめにした。


 しかし…、

 ガッシャーン!


「茜ちゃん…。またやったのね…」

「ご、ごめんなさーい」


 これで料理の皿を落として割るのは三回目だ。お盆を厨房のテーブルからカートまでのたった数十センチを移動させるだけの仕事なのだが。胸が大きすぎてお盆をうまく持てないせいでドジをやってしまう妹は、非常に可愛らしいので俺は許せるのだけど…。

 ここの従業員はみんなGカップにしているし、身長や体型もそんなに変わらない。でも、みんな失敗はしないようだ。


「茜ちゃん…、料理の配膳はもういいわ…」

「はい、ごめんなさい…」


「お姉ちゃん…、私、ドジでダメだなぁ」


 茜は昔からドジで泣き虫だった。俺が守ってやらなきゃならないと思っていたのに、俺は死んでしまったんだ…。


「大丈夫、お姉ちゃんが助けてあげるから」

「ありがとう…、お姉ちゃん…」


 今度こそ、茜を守ってやらねば。



 旅館での仕事を終えて、部屋に戻った。


「はぁー、疲れたぁ」

「初仕事、疲れたわね」

「私もお姉ちゃんみたいに魔法が使えればなあ。重い物も簡単に持ち運べるのに」

「お客さんの前だから、私も魔法は使ってないわよ」

「ここにいる人って、みんな魔法使いなんでしょ。いいなぁ」


 たしかに、ここにいる人間で、魔法が使えないのは茜だけなのではないだろうか。


「あいかさんにどうにかならないか聞いてみようか」

「うん!」


 あいかさんの部屋へ。


「そういえば、転生者でも召喚者でもない人間がここで暮らすのは初めてだから、気がつかなかったわ。適性を調べてみましょうかね」

「はい」


 あいかさんはどこからともなく石版を出現させた。八つの宝石が付いた石版。王家だけが持っているという、魔法の適性を調べるための魔道機械だ。手をかざすと、適性のある属性の宝石が光るようになっている。


「何も光らない…」

「残念ね…」

「がーん…。私、魔法の才能ゼロ…。つまんないよぉ…」


「んー。これは他の転生者や召喚者にはやってあげてないんだけど、あなただけ特別よ」

「えっ?」

「ママにお願いするわ」

「ママ?」


 地下通路を通って、まだ行ったことのない場所へ。扉を開けるとそこは…、遊園地?古い屋敷?森?森の向こうから潮風の匂いもする…。なんだか統一感のない場所…。

 その謎のラインナップの中で、向かっているのは古い屋敷の方。

 あいかさんが屋敷の一室のドアをノック。


「マ()ぁ、入るわよ」


 二文字目のマにアクセントのある、独特のイントネーション…。


「あいかか。どうしたの?」


 部屋の主は、何メートルもあるピンク色の髪を床に垂らしている。この場所には絶世の美女しかいないが、この人も漏れなく絶世の美女だ。

 ただ、他の人と違って、身長が一四〇センチくらいしかない。でも子供なのではなくて、大人を小さくしたような…。ああ、俺と同じじゃないか。今の俺は身長一七五センチだったセディールを一五五センチに小さくしている。だから、この人は大人を一四〇センチに小さくしたんだろう。体型も俺と似たような感じだ。

 でもこの人の胸はLカップはある。俺よりも小さな身体に俺よりも大きな胸。まあ、ここの女性は最低でもLカップないといけないみたいだからしょうがない。


「紹介するわ。綾瀬香ちゃんと綾瀬茜ちゃんよ。こっちは私のママ。美奈子よ。メリディとも呼ばれているわ」

「よろしくお願いします」


 日本の名前があるってことは、転生者なのか。あいかさんの母親が転生したってことか。

 ピンク髪は初めて見たな。光沢もすごい。十四世紀中世のレトロなドレスを着ている。建物もそうだけど、ここだけまた別の世界みたいだ。


「双子なのに、茜ちゃんは日本人?香ちゃんは日本人顔だけど、ヒスターニアン?」

「そう。ヒスターニアじゃないけど、サイカトリー王国ってところから連れてきたの」

「この世界に日系人の国があったんだ…」

「何言ってんのよ、魔法で魔改造したに決まってるでしょ」

「なんだ。それで日本人顔異世界人がどうしたの?」

「香ちゃんじゃなくて、茜ちゃんが用があるの」

「生粋の日本人なら召喚者?」

「それがね、召喚者じゃないの。香ちゃんが日本から連れてきちゃったのよ」

「最近は旅館といい交流が盛んだね…」


 可愛らしい外見とは裏腹、ぶっきらぼうな口調だ。詐欺だ!ここにいるのは詐欺師ばかりだ!ふはははは。


「それでね、茜ちゃんは召喚者でも何でもないから魔法の適性がないのよ。それで、この子にマナをまとわせてあげられないかしら」

「自動MP回復にしたって、やっぱり魔力が一キロしかなきゃ、たいしたことはできないよ」


 魔力が一キロ?


「そこでお願いが…」

「嫌だよ…。自分で絞りなよ…」

「そうよね…。私も魔力が上がってるから、なんとかなるかしら…」

「じゃあ、マナをまとわせるだけね」

「ええ、お願い」

「はい。できたよ。あとはよそでやってね」

「ありがとう、ママ。またね」

「えっ、もう終わり?ありがとうございます?」


 古い屋敷を出て、謎の扉をくぐると、的?射撃訓練場?


「ここは魔法の訓練場よ。私たちは、香ちゃんが使ってるのとは違う世界の魔法を持っているの」

「「ええっ?」」


 どうりで。何でも物が出てくるなんておかしいと思った。


「茜ちゃん、あなたの周りにマナというものまとわせてもらったわ。あなたの願いを叶えてくれる精霊さんが周りにいると思って」

「おお!精霊さん!」

「はい、ここに一キロの鉄の塊を出したわ。これを空中に浮かせるイメージを浮かべてみて。あなたの周りにいる精霊さんがやってくれるのよ」

「精霊さん、お願い!」


 すると、鉄の塊が宙に浮いた。


「やった!」


 ぼて。鉄は地面に落ちた。


「あらら」

「イメージを途切れさせちゃダメよ」

「はい!」


 マナとは、魔素と同じようなものか。魔法は周囲に魔素があって初めて使えるようになる。あいかさんの世界の魔法は周囲にマナというものが必要なのだろう。

 魔素をまとう魔法も反則だが、マナをまとうというのも反則なのではなかろうか。


「じゃあ次は二キロね。辛いと思ったらすぐにやめるのよ」

「はい。精霊さん、お願い!…うううぅぅ…」

「ほらストップ!早く!」

「うわぁぁん。怖かったよぅ…」


 二キロの塊が宙に浮くことはなかった。代わりに茜の顔がみるみるうちに青ざめて、ついに泣き出してしまった。


「茜はどうしたんですか!」

「ヒスターニアの魔法と同じように魔力切れがあるんだけど、疲れて気絶するんじゃないのよ。負の感情がこみ上げてくるのよ」

「それは怖いですね…」


「ママにマナをまとわせてもらったから、使った魔力はすぐに回復するけど、一度に限界を超えた魔力を使おうとすると、今みたいになるから気をつけてね」

「は、はい…、くすん…」

「あなたにはまだ、一キロのものを持ち上げる魔力しかないわ。そこで、これを授けるわ。魔力が上がる薬よ」

「こうなる前にくださいよ…」

「すぐに効果は出ないから、先に飲んでも同じなのよ。この薬を魔力が十キロくらいになるまで毎日渡すわ。作るのは大変だから、そこまで。あとはね、ここの農園で生産したものを食べたり、自分で何度も限界近くまで魔力を使っていると魔力は上がるから、がんばってね」

「あいかさんでも、作るのが大変なものがあるんですね」

「これだけは私の創造魔法でも作れないのよ…。本当は他人に渡すものではないんだけど、特別よ」

「ありがとうございます」


 茜は魔力の上がる薬を飲んだ。白い液体だ。


「美味しくない…。微妙な甘さ…。でもなんだか懐かしいような…」


「あの、私もあいかさんの世界の魔法に興味があるんですけど」

「私は日本人よ。オプテイシアという世界に飛ばされて、魔法を会得してきただけ。そのオプテイシアの魔法は、基本、ものを動かすだけ。教えたでしょ、闇魔法の念動と瞬間移動。その二つでだいたい全部できるわよ」

「なるほど」

「あなたはこれから高校生だっけ。…あ、生前、物理化学は学んだ?」

「はい」

「分子の原子を剥がしたりくっつけたりすることで、いろんな物質を作れることは話したわよね」

「はい」

「じゃあ、あとは自分で何でもできるわ。酸素とか水蒸気とか見えない物質でも、そこにあると信じていれば移動させられるから」

「なるほど」

「妹さんはこれから高校で物理化学を勉強するのよね。あなたが教えてあげるといいわ」

「分かりました」


「それじゃあ、がんばってね」

「「ありがとうございました」」


 部屋に戻った。


「茜、大丈夫?」

「うん、もう大丈夫」

「一キロの物をずっと浮かせてる分には魔力は尽きないの?」

「そうみたい」

「じゃあ、一キロの物をずっと浮かせて、特訓ね」

「そうだね」


 私はコップを用意した。そこに、空気中の水蒸気を念動で集めた。


「お姉ちゃん!コップに水が!」

「茜もできるはずよ。空気中の水蒸気をコップに集めてみて」

「よーし!精霊さん!…ふぅ」

「どうしたの?」


 水は出てきたが、茜は額に汗を浮かべた。


「いっぺんに出し過ぎると、魔力切れになりそうになる」

「なるほど。気をつけないとね」

「うん。とりあえず、コップの水をずっと浮かせておくかぁ」

「そうね」


 ばしゃーん。茜が浮かせていたコップが浮力を失ってひっくり返った。


「ぎゃー、ごめんなさいー」

「茜、地面にある水をコップに移動させてみて」

「あ、そうか!えい!」

「できたじゃない!」

「なるほどー。でもこれ汚い水?」

「水だけ移動させたなら純水なんじゃないかしら」

「泥水とかでもいいのかぁ。すごいね」

「他に何ができるか、二人で色々試していきましょ」

「うん!」


 魔法初心者の茜は、一キログラムの物を持ち上げたり、一秒につき一リットル水を出したりできるようだ。一秒につき、一キログラム、もしくは一リットルというのを守っていれば魔力は尽きないらしい。

 そうだ、


「茜、ストレージって作れるかな」

「何それ」

「異次元の箱よ。一リットルなら…一辺が十センチの立方体の異次元の箱を思い浮かべて」

「よーし!」


 茜の目の前に、十センチ四方の異次元への扉ができた。


「おおー、何これ!」

「異次元の収納だって。そこに小物を入れておけるわね」

「便利だね!お姉ちゃんもできるの?」

「ほらっ」


 俺は一辺一メートルの立方体状の異次元空間を作成して、扉を開いた。


「でっか…。お姉ちゃんの魔力って…」

「私の魔力は、リットル換算すると一万らしいわ」

「いいなー」

「茜も鍛えていれば魔力が強くなるわよ」

「うん、がんばる!」


 一リットルが一万リットルになるのはいつだろう。

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