ただいま
パチッ、と音がしそうな大きな目をオフェーリアが開いた。
ゆっくりとベッドから起き上がり、辺りをキョロキョロと見渡す。良かった、自分の部屋だ。
オフェーリアは周りに誰も居ないのを確認すると一目散に机に向かった。
椅子に腰掛け机の引き出しを開けると新品のノートを1冊出した。何となく真紀子の事を書き留めて置きたかったのだ。
目をつぶり心の中で真紀子に問いかけた。
「覚えて置きたい事はない?」と
(私の名前、真紀子って言うの。覚えておいて。)と頭に響いた。
「・・・変な名前。」と呟くと
(ほっといてよ!)と返された。
「真紀ちゃん、残して置きたい事は無い?」と再び聞いた。
そうすると、手が勝手にペンを掴みサラサラサラーとレシピを書き出した。
書かれているのは日本語なので見られても心配はない。
膨大なレシピだった。たぶん1時間近く書いていたのではないか?
一見してオフェーリアにはわからない所だらけだったが分量まで書いてある所を見たら正確に書いてるのだろう。
ある程度のところまで来たら手の動きがピタッと止まった。
ほぼノートが1冊書き尽くされていた。
「真紀ちゃんすごいねぇ。」と感動しながらレシピノートを眺めているとドアをノックする音が聞こえた。
「はい。」と返事をすると母親が入って来た。急いでノートを引き出しへとしまった。
そしてオフェーリアの顔を見るなり
「オフェーリア、良かった。起きられたのね!!今お父さんも呼んでくるわ。」と慌ただしく出ていった。
しばらくするとお父さんも入ってきて2人に泣かれた。「本当に無事でよかった~。」
しばらく2人に抱かれていると胸の中がポカポカして来た。もちろんオフェーリアは嬉しかったのだが、何となく真紀ちゃんが黙って喜んでいる気がした。
しばらくすると念のためと医者を呼ばれて診察された。
初老の好々爺だった。
ふんふんと鼻歌を歌いながらオフェーリアの後頭部を見て診察を済ませると
「打った所は大丈夫ですよ。ただ2日間ほど寝込んだので、あと1日は食事は消化の良い物を食べて、なるべく静かに過ごす様に。まぁ何か有ったら呼んで下さい。」と診断して帰っていった。
両親は診察結果を聞きホッとした表情を見せた。
オフェーリアに「今日、明日は無理しちゃダメよ。」と言い聞かせ部屋から出ていった。
両親が出たのを確認してから再びレシピノートを取り出した。
パラパラと眺めていたのだが、何かを思い付いたのか、もう一冊新しいノートを出しながら「真紀ちゃん、さっきのレシピの絵を描ける?」と聞いてみた。
そうすると先ほどと同じようにスラスラと右手が動き出し今度は繊細なイラストを書き出した。
なんとなく色鉛筆をご所望だと思ったので、側に色鉛筆も出してあげた。
すぐにその色鉛筆に手が伸び今度は色彩豊かな彩りが添えられた。
きちんと一皿ずつ完成し盛り付けられている絵だ。
1冊目のノートはパンのレシピばかりだったが、こちらは料理らしい。大きくわかりやすいイラストの下にそのイラストのレシピも書かれていた。
2冊目のノートもほぼ一杯になった。
「真紀ちゃん、もっとノートいる?」と聞いたが返事はなかったのでもう良いらしい。
結局2冊のノートを作るのに何となく体力を使った気がする。
机から立ち上がりベッドへダイブすると次の朝までぐっすり眠った。
◇◇◇
翌朝はスッキリと目覚められた。「真紀ちゃんおはよう!」と呟いて見せたが返事はなかった。真紀ちゃんは寝てるのかも。
部屋から出て食堂に降りる。パンの焼ける良い匂いがして来た。
(良い小麦粉やね。)と頭に響いた。
あっ、真紀ちゃん起きたんだ。
テーブルには両親が既に座っていて「オフェーリア、おはよう。もう歩いて大丈夫なの?」と聞いて来た。
心配そうな2人な顔を見てたら何だか気の毒に思え「うん!大丈夫だよ。」と元気よく答えた。
お父さんがオフェーリアが席に着くのを確認すると、「では、頂こうか?」と声を掛けるのを合図に食べ始めた。
(思った通りの薄味、だけど素材が良いのね。美味しいわ。)と頭に響いた。
口に出さずに心の中で「真紀ちゃん美味しい?」と聞いてみたが無視された。
食事は進み、両親は食後のコーヒーを楽しんでいる。オフェーリアは飲めないのに何だか飲みたい様な気持ちになった。
(あっ、真紀ちゃん飲みたいんだ。)と思ったのでお母さんに「お母さん、コーヒー私も飲んでみて良いですか?」と聞いてみた。
ちょっと考えた後、「薄めのなら良いわよ。」と執事に頼んでくれた。
しばらくすると目の前にコーヒーが置かれた。「熱いから気をつけて飲むのよ。」とお母さんに言われたので、ゆっくりと口をつけてみた。
(あぁ、良い香り。いい豆使こてるわ。)
と頭に響いた。良かった真紀ちゃん喜んでる。
「オフェーリア、初めてのコーヒーはどう?」とお父さんに聞かれたので「思っていたよりずっと飲みやすかった。」と無難に答えておいた。
オフェーリア達がコーヒーを愉しんでいると、お父さんが話し出した。
「次の日休みに、ランスロットが帰ってくるよ。」
(ランスロットって誰)と聞かれたので(私のお兄ちゃん、凄くカッコいいんだよ)と答えたらまた無視された。
お兄ちゃんは王都がある所で学校に通って居る。今年から入学したので初めての帰郷だ。
「2~3日は家で過ごせるらしいよ。オフェーリア、良かったな。」
「はい、嬉しいです。お兄ちゃん変わったかしら?」




