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夢への扉



留学から帰国してから2年の月日が経った。


アトラス殿下の事は噂に聞くとまだ結婚どころか婚約者も居ないらしい。


レオン殿下の肝煎りの王都で開店したレストラン「ラ・ボエム」は大評判となり、本店規模では無いが大都市へ2店舗ほど出店も決まった。


それだけでなく他国へも出店が決まっていた。


オフェーリアは料理長として商品開発や仕入れや新人研修などで多忙を極めている。


それこそ寝る間も惜しんで働いていた。


いつの間にか「ラ・ボエム」は王室御用達と呼ばれるほどになっていた。


レオン殿下やアトラス殿下を始めエマたちクラスメイトともたまに会って食事を楽しむ。


お互いの土地のお酒や料理を持ち寄って試食するのだ。このひと時はオフェーリアにとって大切な至福の時であった。


そして最近なぜかアトラス殿下が厨房を手伝いに来るようになっていた。

どうにも食べているうちに、色々とアイデアが湧き自分自身の手で作ってみたくなったらしい。


最近では任せられる仕事も増え、コース料理がひと通り出来るようなった。

何て集中力。恐ろしい男と言うか執務は無いのか?


まあ、あれだけ勉強が出来るならこの成果は当たり前か。


海外での食の知識にも長けていたので、時には買い付けにも同行してもらうようになった。やはり外国の料理の事はよく知っているのだ。香辛料やフルーツ、etc




オフェーリアは料理長として、お客様に飽きさせない工夫をするのが至上主義だ。その為にもアトラスの知識は重宝した。




顧客管理は当たり前で、必ずお得意様の誕生日にはバースデーカードと気の利いたプレゼントは欠かせない。

そしてカードには新しい料理の話しをちょっとだけ入れておくのだ。

(例えば〇〇地方のフレッシュな野菜が入荷中です。当店では焼くだけでなく違う料理でお楽しみ頂いております。)など。

グルメを唸らせる殺し文句を日夜研究し続けている。


オフェーリアのどの店もそうだが、目玉商品は「スモークサーモン」だ。絶妙な塩気とスモーク香が堪らないと評判だ。


いつのまにかアトラス殿下はオフェーリアの店のNo.2シェフになっていた。


店に泊まり込んで一緒に新しいメニューの開発をしたり、評判の店の情報が入ると2人で食べに行ったりした。



もう、大人になったオフェーリアは自覚してしまった。


いつの間にかアトラス殿下を大人の男性として見てしまっている事を。物理的に離れなければ。と思った時には手遅れだった。


ある貴族の婚約パーティを「ラ・ボエム」本店で貸切で行ったその夜。


気がつくとアトラス殿下と2人きりで後片付けをしていた。


大掛かりなパーティだったので、店のスタッフも疲労困憊だったのだ。

ある程度まで片付けが終わった時に、「今日はこの辺にしましょう。残りは朝の仕込みと並行で片付けていきましょう。」とスタッフを解散させた。


どうせ気も昂っているし、残って1人反省会をしながらゆっくりと片付けようと思っていたのだ。


地下のワインセラーからお気に入りの1本を出して来た。


ゆっくりと開封しグラスへ注いでいく。

実はオフェーリアはこのグラスへ注ぐひと時が好きなのだ。一定のリズムでトクッ、トクッと言う重厚なあの音が耳に心地良い。


「俺にも1杯くれないか。」すっとどこからかアトラス殿下が現れグラスを差し出した。


「あっ、アトラス様。もう帰られたのでは?」

と言いつつもグラスへ注いでやる。


「お前1人置いて帰れるかよ。手伝うよ。」そう話すとお互いに目配せしながらグラスを掲げた。



「お疲れ様でした。」と一口飲むとお互いを労う。その後は黙々と手分けして片付けをする。


オフェーリアはカウンターでグラスを拭きながら「アトラス様、成長されましたね。私はもう追い越されてますよ。」と何となく笑いながら話した。


疲れもあったし程よく酔っていたのだと思う。


「何言ってるんだよ。お前は大した女だよ。」と彼が呟いた。


「所でアトラス様、結婚はされないのですか?」とこんな事は素面では話さない。


「そういうお前は?」って質問返しか。


何となくアトラス殿下の顔が見られず、俯いて「そうですね。私、よく分からないんです。ただ婚約を申し込みは何人かあって、でも。。。」と話した気がする。


もうこの辺は酔いが半分だ。ふわふわして気持ちいい。


そんな時に厨房に通る声が響いた。


「・・・オフェーリア、よく聞いてくれ。俺は今でもお前が好きだ。その気持ちはずっと変わらない。教えてくれ。俺の事はどう思ってる?」


気がつくとアトラス殿下がオフェーリアの真正面に立ち、オフェーリアをギラギラとした目で熱く見つめていた。

もうあの時とは違う。目線で目の前の女が欲しいと叫ぶ一人前の男だ。



「えっ。」という言葉が出たものの恥ずかしくてアトラス殿下の顔が見られない。


「あの、わっ、私は、、、、」急に酔いが。頭がクラクラする。


「よっ、よく分からなくて。。。。

でもアトラス様、貴方と一緒にいると安心するしドキドキするし楽しいんです。今はこれしか言えませんがこれでも良いですか?」


とチラッと上目遣いでアトラス殿下を見た。


アトラス殿下はカミナリに打たれたような驚いた表情をしていた。


ゆっくりとオフェーリアに近づくと手を伸ばし、そうっと壊れ物を扱うようにオフェーリアを抱きしめた。


カタンとオフェーリアが持っていたグラスがカウンターに置かれた。



オフェーリアの耳元で「それでいい。今はそれで充分だ。」と言うとオフェーリアの両頬に手を寄せゆっくりと口付けを落とした。


「愛してる。オフェーリア。」


「私もかも知れません。」


(オフェーリアちゃん、そこは私もやろ、かもはいらんねん、かもは)と頭の中で真紀ちゃんが何やらぶつぶつ言ってる声がする。


アトラス殿下の熱い手がもう一度オフェーリアを抱きしめる。その手は先ほどの抱擁よりもっと強い。


おずおずとオフェーリアも手を回し抱きしめ返す。


「あぁ、最高だ。」とアトラス殿下の呟く声がほろ酔いのオフェーリアの耳にこだました。







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