港は別れがお似合いだがしかし
一体、何時間乗っていただろう?
うとうと微睡んでいると、ギィーと馬車が止まった。「お嬢さん着きましたよ。忘れ物が無いようにね。」と御者に促され馬車から降りると磯の香りがした。
オフェーリアは初めてだが真紀ちゃんは
(あぁ、久しぶりやなぁ、潮風や)と満更でもない様子だ。
潮風に吹かれながら、うーんと一つ伸びをした。
これが海か。オフェーリアは川と湖しか見た事が無かった。大きいなぁ。こんなに有る水は一体どこから来るのかしら?
馬車から降りた所から防波堤をゆっくり見渡すと大きな船が停船していた。
船の側まで歩いて行くとレオン殿下やお兄様が手を振っているのが見えた。
ゆっくりと歩いて側まで行くと、「レオン様、今回の件お世話になります。」と挨拶した。
レオン様はオフェーリアを見てにこっと笑いながら
「無事にここまで来れて良かった。ちょっと長距離だったからね。」と安心した表情をした。
「オフェーリア嬢、これからこの船に乗船して貰うのだが、船を降りてあちらに着くと案内の者が待っている。カトルという男だ。その男の指示に従ってくれ。」と説明した。
「わかりました。カトル様ですね。」
「そうだ、間違えないように気をつけてくれ。それとあいつを頼むよ。」と話された。あいつ?
そのうち乗船時刻になったので乗船する。
「オフェーリア、体には気をつけるんだよ。」とお兄様が叫んでいた。
甲板でレオン様達に手を振る。
汽笛がなり離岸し始めた時、
後ろから「オフェーリア嬢、宜しく頼むよ!」と聞き慣れた声が。
さっと振り向くと
ニヤリと笑うアトラス殿下がいた。
「えっ、どうして?」
「俺も行くんだよ。何か文句ある?」
「でっでも、理由が。アトラス殿下がこの留学に参加する理由がわかりません。」
「外国の料理に興味あるのは何もオフェーリアだけじゃないぜ?」と笑って言った。
「レオン殿下も一言ぐらい言ってくれても良かったのに~~。」
「俺が伏せとくように頼んだんだ。その驚く顔が見たくて。」
「悪趣味~~。信じられない。」
でもアトラス殿下のお陰で乗船中は退屈せずに済んだし、これからお世話になるエピネル国の事も教えて貰った。
アトラス殿下は私のお目付役も兼ねているらしい。
船を下船するとさっさとアトラス殿下がカトル様を見つけ「宜しく頼むよ。」と挨拶していた。
港から待たせてあった馬車に乗り、エピネルの王都へ入った。
エピネル国はさすがに大国だけあって、料理人を育成する学校があり、何も料理だけでなく一般的な勉強も教えて貰えるのだ。
なので生徒はオフェーリア達だけではなく、他国の人間も何名か一緒だった。
最初の1年は、料理全般を歴史や成り立ちから学ぶ。
2年目にいよいよ調理がメインになって行く。魚や肉を捌く、野菜を育てるなどの基本からやって行く。
ここまではアトラス殿下と一緒だった。
アトラス殿下はここからエピネルの王子達と交流を深めたり、国の政治を学んだりするとの事だった。
後の1年はエピネル王宮のシェフに付く。これが1番大変だった。
1人では無いとは言え仕込み全般をやるので何せハードだった。当たり前だがそこに男も女もない。
エピネルほどの大国の
王宮の調理場を預かる料理長やシェフの知識たるや神様の領域かと思えるほどだ。
この熱量を肌で感じる事が出来るのは僥倖だ。
他の生徒さん達とも交流を深めながら充実した3年間を過ごした。この3年間はオフェーリアにとって見識が広がる宝物のような時間だった。
修行が残り最後の3ヶ月に迫った時、料理長より「ここへ残ってエピネルの正式な料理人にならないか?」とオファーを受けたがオフェーリアには夢が有るという考えを伝え丁寧に辞退した。
最後の日はアトラス殿下と一緒に王宮へ呼ばれた。
何と王様と謁見だ。
朝から王宮に呼ばれスタッフの皆さんに磨き上げられた。
終わる頃にはヘトヘトだったが、控室にいるアトラス殿下に引き合わされると、
「オフェーリア綺麗だ。今すぐ誰にも合わずに帰ろう。」と言い出したのには困った。
王宮の案内により謁見の間へと通された。
「我が国で学ばれて3年が経った。何か得た物はあったのか?」と質問を受けた。
まずお礼を。
「国王様におかれましては過分なる待遇ありがとうございました。」
「こちらの料理を学ぶと言うシステムにおいては技術を取得するだけでなく、人間が食して人生を送るという事を改めて考えさせられる場所だと思いました。」
「また学舎で友人達と技術を競い合うという事も大変刺激になりました。」
「最後の実習は料理を学ぶ者なら、もう天にも登る1年でございました。重ねて御礼申し上げます。」と答えた。
「満足されたならそれで良い。これから帰国されるのであろう。気をつけて帰られよ。」とお言葉を頂いた。
何気なく隣のアトラス殿下を見ると、真剣な顔で目の前の王様を見ていた。




