皇后の薔薇
まさかこんなに手に入るとは思わなんだ。さすが王宮やな。上等なダマスクローズやん。大切に扱わないとなあ。まぁ時間との勝負やけど。
花びらを外す。
レモン汁を絞り砂糖を計る。
そう、ダマスクローズのジャムだ。ほかの薔薇より香りが強い。
ジャムは1時間ほどで出来上がった。
(オフェーリアちゃん、もうええで。ジャム、今日の王子様にでもあげいなぁ!)
チェンジして体が戻って来ると分かる凄い薔薇の香り!!うわぁ~良い香り、部屋中香るのね。
ジャムは2瓶か。うーん、一瞬アトラス殿下の顔がよぎったがちょっとお兄様を使うか、、、、
◇◇◇
次の日、学校へ行くといきなり「王宮に来たんなら言ってくれてもいいのに。」とアトラス殿下に詰められた。
「お兄様に呼ばれたんですよ。それよりお願いがあるのですが、聞いてもらえます?」と話すと「いいよ。何?」と二つ返事だったので
「殿下が学校から王宮へ戻られたら、たぶんまだ兄が仕事をしていると思います。
すいませんが兄にこれを渡してもらえませんか?」と薔薇ジャムとお兄様に宛てた手紙を入れた紙袋を渡した。
ちらっと紙袋を見たかと思ったら「いいよ。」と引き受けて貰えた。
あの袋の中の手紙は実はレオン殿下への手紙も入っている。
表書きはお兄様の名前の封筒だが、中身はレオン殿下宛てだ。
重ねて先日のお礼を伝えてあるのと、あの時の薔薇でジャムを作ったこと。
そして、この薔薇のジャムを1瓶をもし可能なら初代皇后様のお墓にお供えして貰い、すぐにお下がりとして皆さんで戴いて欲しい事。を綴った。
◇◇◇
とある王宮の1室
今日の公務は中々疲れたな。と首をグルグルと回し・・フゥッ・・とため息をついた。
この部屋はレオン王子の執務室だ。静けさが支配していた中、ガタっとイスからランスが立ち上がった。
何だ?と思ってたらこちらへ歩いて来た。手に何か持っている。
「殿下、妹のオフェーリアから先日のお礼の手紙が届いていますがどうされますか?ここで読まれますか?」と聞いて来た。
なぜだろう、ランスの目が怖い。
「はは、ランスたぶんそんな変な手紙じゃ無いよ。とりあえずそちらの袋はなに?」と聞くと「ジャム、、、だそうです。」
「ジャム?どうして?」「おそらく手紙を見るとわかると思います。」
「わかった。とりあえず自分の部屋で時間のある時に見るよ。」とランスに伝えておいた。
暫くして執務を終え、自室へ戻り早速手紙を読んでみた。
頭が良いのがよくわかる、わかりやすい文章だ。薔薇の花びらのジャムか。
よく作ったな。瓶の蓋を開けて鼻を近づけてみた。
すぐに立ち昇る高貴なる香り。
あぁ、食してみたい。
もう外は暗かったがさっと瓶の蓋を閉め、部屋から出る。
明かりの灯る王宮の中庭を過ぎると、王家の墓がある。墓が立ち並ぶ中、目指して歩く1番奥。
初代の王と皇后の墓がある。皇后の墓にジャムを添えて日々の感謝と国の繁栄をお祈りした。
すぐにジャムを下げ、来た道を戻り自分の部屋の途中で出会ったメイドに声をかけて、部屋へお茶を持って来るように伝えた。
部屋の中へ入るとすぐにノックの音がして、お茶のワゴンを押したメイドが入って来た。
メイドがお茶を入れ終わると「下がって良い。」と伝えた。
メイドが退室して、辺りがすっかり静かになると、オフェーリアのジャムを出し、蓋を開け再び香りを楽しむとジャムをティースプーンにひと掬いし紅茶に入れた。
熱い紅茶からとたんに立ち昇る薔薇の豊かな香り。
あぁ、癒される。体の隅々まで香りが行き渡るようだ。
残りの1瓶は母に提供した。
珍しさからだろうが飛び上がって喜んでいた。
そして香りが気に入ったのだろう。
しつこく、とてもしつこくジャムの出所を追求されたが、シラを切り通したら珍しいので次のお茶会に出す。と言っていた。
オフェーリア、
またどこかへ一緒に行ってみたいな。
君と居るととても癒されるんだ。




