2話 いつの間にか魔王の息子になってました
メラ様がマジックポケットから小さな魔石を取り出し囁くように声をかける。
「おいでユーリ」
すると魔石が緑に光始め、そこから人の倍ほどの大きさはある翼竜が現れる。
グリーンドラゴン、現行種では最も古い竜種の一種で、メラ様が旅の途中で討伐した盗賊が持っていた卵が運搬中に孵化してしまい、それ以来メラ様が母親のような存在になってしまったらしい。
『母上、それにニクスよ久しいな』
「おはようユーリ、今日は急ぎでお願いしたいことがあるの、ユーラスタニアに私たちを連れて行って」
『ユーラスタニアか、母上の願いであればお安い御用だ』
そういうとユーリは足を折り頭を下げて自分の背中に人がのりやすい体制を取る。
ユーリの背はゴツゴツしているが鞍をつけているためとても乗り心地が良い。
「ありがとうユーリ、よろしく頼むよ」
『あぁ、では行くぞ!』
勢いよく飛び立つユーリに掴まりながら俺たちは急ぎユーラスタニアへ向かった。
そこからユーリは休むことなく4時間ほど飛び続けてくれ、遂にユーラスタニアに着いた。その頃にはあたりはうっすら暗くなってきていたが、それでも馬車などで移動しても2日はかかるところを半日ほどで到着したことにユーリには感謝しかない。
「さて、完全に暗くなる前に街の中に入りましょう、その際に街の様子を確認しながら再度どうするか考えましょうか?ニクス君もご家族が心配でしょう?」
「はい、街に入れたら先に母と妹の安否の確認だけでもさせていただいてもいいでしょうか?」
俺がそう告げるとメラ様は当たり前だと言ってくれた後に「お母様に挨拶が…」と何故か興奮気味に呟いていた気がするが俺は早く家族の安全を確認したい気持ちでいっぱいだったためあまり頭には入ってこなかった。
レノさんからの話では街の中は特に変わった様子もなく、行商や冒険者は普通に出入りをしていると言っていたため2人は冒険者ということで街に入ることにしていた、結果あれほど悩んでいたのが馬鹿らしいほどにあっけなく街に入ることができた。
「魔王に落とされたと言っていたけど本当に何もなかったかのようにみんな生活しているわね、なんか逆に不気味ね」
街の中はメラ様が言うように修行に出る前の雰囲気とあまり変わらなくみんな生活している、それが不気味で母さんたちのことが一層心配になる。
「メラ様ウチはこっちです」
見慣れた故郷の街を案内しながら遂に実家の前に足が止まる。
電気がついていない、誰もいない?妙な胸騒ぎを覚えながら扉に手をかけようとした時「あれ?ニー君かい?」と聞き慣れた声に振り返る。
声の正体はお隣のユアおばさんと幼馴染のリオンがいた、おばさんは昔と変わらない恰幅のいい体と豪快な笑顔で出迎えてくれた、一方リオンは複雑な顔でおばさんの後ろに隠れるようにして何故かモジモジしていた。
「いつ帰ってきたんだい?それにえらいベッピンさんを連れて、少し見ない間にやるじゃないかい」
そう言いながら豪快に笑うおばさんと何故かジト目で見てくるリオンに街の様子と母さんたちのことを聞こうとするとリオンは何も言わずに家に入ってしまう。
「ユアおばさんお久しぶりです、お変わりないようで何よりです、少し街の噂を聞いたので急いで帰ってきたんですがその、母さんたちは今どこに?」
「そりゃあんなこと噂にくらいなるよね、うちの人もあれくらい度胸があるといいんだが、お母さんたちなら街の奥にあるあの建物にあると思うよ」
そう言って指を差した先には修行に出る前にはなかった立派なお屋敷があった。
あそこに母さんたちが?不思議に思いながらも詳しい話は本人から聞いたほうがいいというユアおばさんの言葉に急ぎお屋敷へと向かう。
母さんたちが無事なことは聞けたが、肝心のことは何故かはぐらかされてしまい安堵と不安が入り混じる気持ちでいっぱいだった。
メラ様もその気持ちを察してか何も言わずについてきてくれる。
「ここが…」
想像以上に立派なお屋敷に唖然と立ち尽くしていると1人の老人が声をかけてきた。
「失礼ながらニクス様とメラ様とお見受けいたしますが」
「は、はい。そうです」
「お話はメーテラ様より伺っておりますのでどうぞお入りください」
老人から母さんの名前が出たことで心臓の音が一気に高鳴る、本当にここに母さんたちが、何故?無事なのか?不安に駆られながらも老人の後についてお屋敷に入る、そんな中でもメラ様は警戒を解かずにかつ自然体でついてきてくれている。
「こちらでございます、どうぞお入りください」
そう告げられ恐る恐る扉に手をかけ中に入ると。
「いゃ、そんなところダメですグレイ様恥ずかしいです」
「ふふふ、そう申すな良いではないか」
ベットの中がモゾモゾと動きながら聞き覚えのある声が聞き覚えのない甘い声を出していることに固まる俺。
「母さん?」
半信半疑で呟いた俺の声に慌てた様子でベットから顔を出したのはやはり母さんだった。
「え?ニー君いつからそこに!いや、これは違うのちゃんと話してからにしようかと思ってたのだけどなんていうか」
慌てた母さんの横から顔を出したのは人間とは思えないほどのイケメン、いやツノとか生えてるし実際に人間ではないのだろうけど、そんなイケメンに声をかけられる。
「うむ、そなたがニクスか。余は魔王グレイ・ハルト・ディレイである、気軽に父さんと呼んでくれ」
にこやかな顔の半裸の魔王と慌てる母さん、真っ赤な顔を手で覆いながらも指の間からチラチラとその様子を見るメラ様に額に手を当て首を振る老人、そして何が起きたのか分からず固まる俺というカオスな空間の中衝撃的な言葉に何も考えられなくなった。
「へ?魔王が俺の父さん?」
こうして俺はいつの間にか魔王の息子になっていた。