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第六話:プレゼント・フォー・マイフレンド!

 僕、奏多礼音いつも通り、白昼さんと琴音と食卓を囲み、電車に揺られてやってきた一学期最後の日のこと。

 土曜というのに学校に駆り出された僕は、少し憂鬱(ゆううつ)だった。

 が、それ以前に気になるのが、僕の忠告も忘れたのか、何故かベタベタと寄ってくる豊岡さん。

 男子の視線が怖い。そのうち体育館裏に来いとか言われそうだ!


「あのさ、周りにも人いるんだから、その人たちと話してくれない?」


「いや、あんたとしか話したことないの」


「誰だって最初はそうでしょ」


 突き放そうとするも、怪我でもさせたら余計に立場が危うくなる。悪口を言って嫌われようとしてもきっと周りから袋叩きだ。

 そんな時、ある声が廊下から聞こえた。


奏多(かなた)先輩、ちょっといいかな?」


「何、魚住さん?」


「二人で話がしたいんだけど…」


 そう言いながら、目を僕の左方向に泳がせる。

 これまた何故だろうか。豊岡さんはムッとして僕の袖を強く握った。


「あの、そろそろ離れて欲しいんだけど…」


 ブンブンと首を横に振る。

 どうしたんだろ、この子は…?


「せ、先輩、放課後でいい?二人きりで、話がしたいんだ。駅前で待ってるから」


「う、うん」


 てくてくと歩いて、魚住さんは去って行った。

 相も変わらず、豊岡さんはぎゅっと、袖を掴んだままだ。


「なんで離れてくれないのさ」


「あまり人と喋りたくないのよ」


「アイドルなのに?」


 見え見えの嘘だ。

 すると、いつぞやの如く「ば、馬鹿!」と吐き捨てて自分の席に着いた。


 うーん、今僕の中にある謎は二つ。

『なんで豊岡さんがベタベタしてくるか』と、『魚住さんが僕と二人きりで話したい内容とは何なのか』だな。

 二人きりで話したいこと…。


 告白?

 何考えてるんだ僕は!自意識高すぎだろ!


「わかんないなぁ…」


 僕は机に突っ伏して、そう呟いた。




 豊岡さんはダンスのレッスンがあるそうで急いで帰った。

 なんだか名残惜しそうに「ば、バイバイ…」とかと言いながら一分ほど僕の隣に立っていた。

 さて、僕は駅前にやってきて、魚住さんを探し始める。

 すると、後ろから声が聞こえた。


「あ、先輩…」


「魚住さん、何か用があるんでしょ?」


「うん…」


 何やら、俯いてモジモジとしている。

 これは、ひょっとしてひょっとするかも!?


「実はね…」


 ごくりっと唾を飲む。

 もしかしなくても…ほんとに…?


「琴音ちゃんの誕生日を教えて欲しいんだ!」


「へ?」


 思わず間の抜けた声を出してしまう。

 それと同時に、張り詰めていた緊張の糸がぷつんっと音を立てて切れた。


「なんだぁ、そんな事か…」


「何だか、友達の誕生日って一人で知りたくて、私」


「それで二人きりで話したい、か」


「先輩、なにか期待してた?」


 じっと、魚住さんが真っ直ぐな目でこちらを見つめる。

 やばい、変な妄想してたなんて言えない!

 防衛本能からか、冷や汗が吹き出る。


「べ、別に?」


「ふーん、私は先輩とでも、別にいいけどな…?」


「ほ、ホント!?そ、それって、つつつつつ、付き合ってくれるって意味!?」


 それを聞いた瞬間、僕は後悔をした。

 そう、この子は何も言っていなかったのだ。

 僕と、『何をしても』別にいいのか、を。


「先輩、愛に飢えすぎだよ。フフフ!」


「わ、笑わないでよ!」


「そうそう、それは置いておいて、琴音ちゃんの誕生日、いつ?」


 あー、そう言えば、そんな名目だったな。

 すっかり脱線してしまっていた。

 僕のせいじゃないけどね。


「んー、来週の月曜だな、七月の二十一日」


「来週の月曜!?明後日じゃん!」


 あー、そう言えばそうだな。

 そろそろプレゼントを買って置かないと…。

 すると、何やら魚住さんは僕の手を取って、懇願してきた!


「先輩!明日!明日一緒に買いに行こう、プレゼント!私あまり琴音ちゃんの趣味わからないし…!」


「あ、うん、別にいいけど、僕もじつは買い忘れてて…」


「そうなの!?じゃ、明日土山駅まで行くから!十二時集合、昼ご飯は一緒に食べよう!」


「う、うん!」


 まだ話せると言うのに、何故か魚住さんはダー!と、勢いに任せて叫んだ。

 にしても、この子…。


「よく喋るようになったね、魚住さん」


「んー、琴音ちゃんのおかげかな?」


「周りの友達に影響されやすいのかもね」


「それ、卯月ちゃんへの嫌味?」


 琴音は普通に仲良くなった人とは話せるみたいだしな。それに影響されて、魚住さんも明るくなった…のかな?

 少し暗めの白澤さんの影響で今まで大人しかった…。

 あー、なんか有り得そう。


「別にそうじゃないんだけどね」


「ほんとー?ならいいんだけど」


 魚住さんはやってきた電車の方を見つめる。

 その横顔を、潮風が優しく撫でた。髪とスカートが風圧で揺れる。

 僕は、何故かその希望に満ちた嬉しそうな横顔から、目を離せないでいた。




「ねぇ、それってデート?」


「デートじゃない」


 琴音が寝静まった午後九時。

 まだゴールデンタイムの余韻が残るこの時間に、琴音は眠りにつく。


 音量を気にして、テレビをつける。

 そこでは、ラブストーリーのドラマがやっていた。

 何やら、デート会のようだ。


「ただ、琴音のプレゼントを買いに行くだけだって」


「女の子と二人、街中を練り歩く。デートみたいなものじゃない?」


「そーなのかな…?」


 僕らは会話半分、目の前のテンプレが多用された寒い恋愛劇を眺めていた。


「とりあえず、気分だけでも楽しんできたら?」


「そーだね、そうするよ…」


 気分だけでも…か。

 傍から見れば、カップルと見間違われるのかな?

 僕はともかく、魚住さんがどう思うか…。

 向こうから誘ってきたんだから、あまり深く考えないでおくか。




「お兄ちゃん、どこへ行くんですか?今日から夏休みですよね?」


 翌日、外着を着てドアノブに手をかけると、琴音が走り寄ってきた。


「そうだけど、ちょっと夕方くらいまで用事でね」


「琴音ちゃん、礼音(れのん)お兄ちゃんはデートなのよ」


「そ、そんなぁ!シフトはないんですかぁ!?」


「今日は空いてる」


 そう言うと、どうやら琴音は諦めたようで、「行ってらっしゃいです…」と言った。

 安心して、きっと素晴らしいプレゼントを見つけてくるから。

 僕は心の中でそう唱えると、家をあとにした。

 あと、平然と家に居る白昼さんをみて違和感が無くなっていく自分が怖い。


「あ、せんぱーい。こっちこっち!」


 ぴょんぴょんと跳ねて自己を主張する魚住さん。

 まるで、遊園地のアトラクションの前で親を呼ぶ子供のようだ。

 前は地味目の黒の服だったけど、今日は淡いピンク色の服装だ。

 膝丈くらいの白いスカートからは、健康的なふくらはぎが覗いている。


「先輩、ジロジロ見すぎ…」


「服が似合ってるなって」


「それは…私の勝負服だもん!」


「なんで友達のプレゼント買いに行くのに勝負服なのさ?」


「ーっ、なんでも全力なの!」


 あの、なんでも全力なのはいいんだけど、それじゃ勝負服じゃなくて普段着なんじゃ…。


 それに、前は違う服だったし。


 僕達は、駅のセブイレで弁当を買った。プレミアムなやつだ。


「さて、どこに買いに行く?」


「三ノ宮…辺り?」


「そこまで遠く?神戸でいいじゃん」


「神戸も三ノ宮も同じようなもんでしょ」


「まぁ、いいけどさ…」


 にしても、交通費が馬鹿にならないなぁ…。

 まぁ、チャージしておくか。

 僕は改札のすぐ内側にある機械にカードを差し込み、千円札を二枚飲み込ませた。

 時々上手く入らなくてイライラするけれど、今回はすんなり一回で入ったな。


「お待たせ」


「特に待ってないよ」


「そっか」


「うん。あ、先輩、もう来たよ」


 電光掲示板には、電車の到着を予告する黄色い文字が。

 うるさいセミの音をかき消して、電車がホームにやってくる。

 僕らは、電車の中に入った。


「…ねぇ」


「ん?」


「琴音ちゃん、何が好きなの?」


「ペンギンとお家くらいだね」


「ペンギン…か」


 それから、魚住さんはスマホを弄り始めた。

 沈黙が続く。その沈黙をかき消したのは、車内のアナウンスだった。




「…着いたみたい」


「そうだね」


 多いな、人。

 快速、新快速、普通電車。

 これらから降りた人達でごった返した三ノ宮駅。

 蒸し返すような気温とそれを強調するかのような人の群れ。


「あっちぃ…」


「先輩、早く!」


 魚住さんが前に出て、僕を催促する。

 よくもこんな暑いのにあんなテンションで居られるものだ。


「ところで、どんなプレゼントにする?」


「服…かな?」


「服…?」


 あのペンギンパジャマもまだサイズが余るのに、服を買うのか…。

 魚住さんは僕に向かってスマホを見せた。

 そこには、ペンギンのマークがあしらわれた茶色のカーディガンと、デニムを着た女性が。


 カタログの一部だろうか?

 値段を見ると、ふたつあわせて五千円ほど。


「高いね、割り勘する?」


「てことは、これは先輩と私からのプレゼントって訳だ」


「まぁ、そうなるね」


 ふふっと魚住さんは笑った。

 琴音の喜ぶ顔でも想像しているのだろうか。


 僕らは駅前の洋服店にやってきた。

 さすがにチェーン店とかと違って大きいな。

 立ち並ぶ洋服の中から、あのカーディガンを探す。

 まぁ、『デニムは見分けつけづらいからなんでもいいよ』との事。


「半袖のシャツも買った方が良くない?」


「そういうのあんまり持ってないの?琴音ちゃん」


「普段着があれだからね…」


「そっか、じゃあ買い物リストに追加してっと」


 ん、買い物リスト?

 三点を買うだけなのに、リストなんて必要かな…?

 …なんか不穏な空気が…。


「ねぇ、そのリスト、見せてもらえる?」


「いいよ、ほい」


 僕はスマホのメモアプリを見せられた。

 そのには…。


『ペンギンのカーディガン、デニム、髪留め、腕時計、帽子、黒シャツ』


「こんなに買うの!?」


「いや、、だからコレ見てよ」


 僕は、再びそのカタログの一部を見せられた。

 その人は、髪留めと帽子、腕時計を付けていた。


「いや、何も小物まで買うことはないでしょ、出費馬鹿にならないよ!?」


「だから割り勘。五千円くらいなら一人で出すよ」


「…いくら持ってきたの?」


「大目に見て、二万円」


 僕は財布の中身を確認する。

 諭吉が二枚、野口が六枚か…。

 これはシフトを多く入れる必要がありそうだな。


「三点で六千二百十七円になります」


 僕らは互いに三千百八円を出し合い、残りの一円は僕が出す。

 さて、ここからだ…。

 湯水の如くお金が消えていく地獄は!


 わざわざ高そうなファッション店に足を踏み入れる。

 あの店では売り切れで、まだここに在庫があると聞いたからやってきたものの…。


「帽子一個一万円!?」


「ブランドがついてたみたいだね」


「ちょ、ちょっと違うやつにしよ…?」


 そう言いかけた瞬間、どす黒いオーラが魚住さんから漂う。

 なにこれ怖い!


「琴音ちゃんのために似合う帽子を買うんだよ、そのためのお金なら惜しまないよね?」


「そ、それは…」


「惜しまないよね?」


「うぅぅ…分かったよ、割り勘なら傷はまだ浅いよ!」


 もう一押しすれば致命傷になるくらいの所まで来てるけど…!

 もうすぐ給料日だから、それが救いだけど…。


 髪留めは普通に安かった。

 だいたい二百円くらいか。

 神の救いだ!

 そう思っていたが、一気に地獄へ突き落とされるのだった。


「に、に、にに、二万八千円!?」


 こんなに高いのか、腕時計って!?

 しかもなんか期間限定とか売り文句で書いてあるし!

 さ、さすがにこんな安い手には乗らないよね…?


「予想外に高かったけど、期間限定ならしょうがないな…琴音ちゃんも喜びそう」


 安い手に乗っちゃってるー!?

 た、確かに、腕時計にペンギンが配ってあるけど、さすがに財布が…。


「あ、すいませんこれ買います」


「ちょ、ちょちょちょっと待って!」


「何?先輩」


「もう僕の財布すっからかんだよ!?もやし生活始まっちゃうよ!?」


「給料日近いでしょ。それなら何とかなるよ」


 な、そこまで把握されていたのか!?

 魚住さん、恐ろしい人だ!


 綺麗に包装された服やら何やらを袋に入れて、僕らは三ノ宮駅に向かう。


「これで、琴音ちゃん喜んでくれるかな?」


「出費がとんでもないけどね」


「良いものの方が喜ぶでしょ!」


 そんなものかな?

 それ以前に、これを着ている琴音の姿があまり想像できない。

 明日、着てもらうか。

 これを着て外に出ることはないかもだけど。


「今更だけど、なんで服にしたの?」


「私…琴音ちゃんと、もっと遊びたいんだ。ほら、カラオケ行ったり、ショッピングしたり、映画見に行ったり…。それで、まずは服からって思って…。あっ、このことは琴音ちゃんには内緒にしてね、プレッシャー感じちゃうと思うから。それに、あのままじゃいけない。いつか、この服を着て外に出て欲しいなって、そう思う」


「分かったよ」


 ふと僕は、カーディガンが秋物だったことに気がついた。

 これは、魚住さんの琴音への優しさの表れ…なのかもしれない。




「おかえりなさいです!お兄ちゃん!」


 いつもに増して琴音が擦り寄ってくる。

 ちなみに、プレゼントの方は僕が魚住さんの家まで行って置いてきた。

 あれだけの量だ。直ぐに気が付かれてしまう。


「ただいま…」


「あれ?何だかげんなりムードです!琴音成分を補給します!お兄ちゃんは琴音から一定時間離れるとげんなりしてしまいますから!」


 なんだそのイタイ設定。

 その声も出ず、琴音がむぎゅむぎゅと抱きついてくる。

 あー、買いたかった小説もあったのに…。

 父さんからの仕送りもまだなのに…。

 一気に息苦しくなった気がした、そんな一日の出来事だった。




 ケーキを先に前払いで予約出来ていたのは不幸中の幸いだ。

 下手したらケーキがない悲しい誕生日になってしまう所だったから。


「じゃ、電気消すよー」


 パチンっと、照明を落とす。

 すると、ロウソクのあたたかい光が、部屋を照らした。


『ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーパースデーディア琴音ちゃんハッピーバースデートゥーユー!』


「おめでとー、琴音ちゃん!」


「わーい、お兄ちゃん、白昼さん、魚住さん、豊岡さん、ありがとうございます!」


「琴音、火を消して。フーって」


「はい!」


 フーっと息を吹きかけて、琴音は六本のロウソクの火を消した。

 大きいのが一本、小さいのが五本。十五歳を表す。

 全部を吹き終えた後、ぱちぱちと拍手が巻き起こる。


「ところで、魚住さん。家には言ってあるの?」


「うん、OKしてくれたよ」


「まぁ、私は一人暮らしだから問題ないけどね」


 アイドルで一人暮らしって、やはりちょっと嫌な予感がするんだけど…。

 以前、親をなんとか説得してこっちまでやってきたと言っていた。


「さて、お待ちかねのプレゼントタイムね」


「楽しみです!」


「まずは私から。はい、琴音ちゃん」


 白昼さんから差し出されたのは、小さな小包だ。

 中に入っていたのは小洒落たマグカップ。


「わー!これでミルクが美味しく飲めます!」


「あっためても大丈夫よ」


「ホットミルク、美味しいです!」


 にぱーっと、琴音は笑みを浮かべた。

 それに釣られてなのか、白昼さんも笑みを浮かべる。


「次は私!これ、喜んでくれるかわからないけど…」


 豊岡さんが差し出したのは、何やら封筒のようなもの。

 その中には、色紙が四枚、そしてブルーレイディスクが。


「こ、これって!カラフル・パレットのサインですか!?」


「うん、みんなにお願いしたの!あとこれは、まだ市場に出回ってないライブブルーレイディスクよ!」


「す、凄いです!ありがとうございます!」


 未発売のライブブルーレイ?

 こんなの、ファンからしたらプレミアものだぞ!?


 オークションに賭けたらとんでもないことになりそうだ。

 賭けないけど。


 にしても、サインも全員コンプか。

 大ファンの名に恥じないな。


「さて、最後は僕達だね」


「二人で買ってきたの!」


「あ、日曜日のあれはそういうことですか!てっきりほんとにデートしてたのかと」


 やはりというかなんというか、琴音は白昼さんの言葉を鵜呑(うの)みにしていたらしい。

 少しは人を疑うと言うことを覚えて欲しいものだ。

 疑心暗鬼に陥ったら困るけど。


「わー、服ですか!?」


「うん、服だよ」


「あ、あの、早速で悪いんですけど、着てみてもいいですか?」


「いいよ、これはもう琴音のものだから」


「じゃあ着替えてきます!」


 軽い足取りで、琴音はプレゼントを持って脱衣所に向かった。

 一分後、ガラリとドアが開き、琴音が出てくる。


「おー、似合ってるね」


「ほんとですか!?」


 すると、何やら魚住さんと豊岡さんがスマホを構え始めた!


「ポーズ!ポーズちょうだい!」


「え、えっと…こうですか?」


 琴音は頬のあたりでダブルピースをした。


「あー!あざと可愛い!」


「こっちに!こっちに目線!」


 なんだろう、これ。

 撮影会じゃないんだけど、まぁ本人が乗り気だし良しとするか。

 僕は、コロコロとポーズを変える琴音を見て、満足気な気分になるのだった。

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